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日本の農林水産物ビジネスは「オールジャパン」に勝機あり?新たなブランド戦略に見る輸出の未来

日本の農林水産物は、海外市場で現在どのように受け入れられているのだろうか。
USA, New Jersey, Jersey City, Portrait of girls (6-9) eating fruits
USA, New Jersey, Jersey City, Portrait of girls (6-9) eating fruits
Tetra Images via Getty Images

消費人口の減少、就農者の高齢化など、最近様々な問題が指摘されている日本の農林水産業。しかし、悲観的な話題ばかりではないようだ。

農林水産省によれば、2015年の農林水産物・食品の輸出額は、前年比で21.8%増加し、7,451億円に達した。特に、経済発展の著しいアジア諸国が顕著な伸びを見せており、政府は2019年までに輸出額1兆円規模への拡大を目指している。

図1:農林水産物・食品の輸出額の推移

資料:財務省「貿易統計」を基に農林水産省作成

図2:輸出先国・地域別輸出額(2015年)

資料:財務省「貿易統計」を基に農林水産省作成

今後日本の農林水産業は、どのように輸出拡大を図れるのか。海外市場を長年分析し続ける、Aglien代表の坂井紳一郎氏に聞いた。

坂井紳一郎(さかい しんいちろう)

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1975年にホクレン農業協同組合連合会に入会後、同東京支店食品課長、貿易推進室調査役を経て、ホクレン通商常務取締役などを歴任。福岡農産物通商(現:九州農産物通商)代表取締役社長を務めた後、現在は貿易コンサルティング企業であるAglien代表、北海道総合研究調査会の特別研究員。農林水産物輸出や海外での販促活動のサポート、国内の青果物販売などに携わる。

「『日本産』というブランド力は健在です」

まず、日本の農林水産物は、海外市場で現在どのように受け入れられているのだろうか。輸出が伸びている理由の1つに、「日本産」への評価の高さがある。

「人気のポイントは、まず味の良さと、品質の安定性です。糖度センサーなどによる品質検査がしっかりなされているため、当たり外れがなく、どれを食べてもおいしい。それから、規格選別の素晴らしさ。日本では、例えばMサイズのミカンの場合、5キロの箱に何個入っているかおよそ予測がつきます。しかし、外国産にはサイズにばらつきがある。日本産は、小売店だけでなく、現地の消費者にとっても扱いやすく、喜ばれています。それから、安全性。『日本産』というブランド力は健在です。昨今は、アジアでも食の安全に対する関心が高まっています」

このように、海外で高い評価を受ける「日本産」の農林水産物だが、輸出を伸び悩ませてきた原因はなんだろうか。

これまで日本は、産地が独自に海外で売り込みを行っていた。しかし、それでは日本の産地同士で価格競争が起きてしまう。また、取引先の反応がよかったとしても、供給期間や量が足りず、ニーズが満せないという問題が起きていた。

その解決策はあるのだろうか。坂井氏は、商品を「日本産」として輸出する「オールジャパン」戦略を提唱する。

「海外の消費者が望んでいる農林水産物は、産地ごとではなく、国ごと、季節ごとに供給される優れた商品です。地域の活性化や地域ブランドという考え方は、もちろん大切ですが、そのためにはまず全体の売り上げや認知度を増やさなくてはいけないのではないでしょうか」

「オールジャパン」は日本の農林水産業を強くする

実際、坂井氏が代表取締役社長を務めた福岡農産物通商(現:九州農産物通商)では、2011年から「オールジャパン」戦略に切り替えたことで、顧客数が増加。白菜、大根、ホウレン草、リンゴ、梨、ミカンなど60種類以上の農林水産物を「日本産」として、香港、台湾、シンガポールなどアジア圏を中心におよそ15か国に輸出している。輸出額は、2011年の約3,000万円から、昨年は5億円弱に成長。結果的に、産地ごとの取扱高も増えた。

坂井氏は日本全国で講演を行う中で、多くの就農者などに輸出戦略についての考えを伝えている。

「20〜30代の若い世代から長年現場で働いている人まで、新たな農林水産業を模索する人々が、今『輸出』に関心を寄せています。実は、国内だけで供給と消費のバランスが釣り合っている品目もたくさんあります。しかし、20年先のこと、自分たちの子どもや孫の代までを見れば、確実にそのバランスは変わっていく。そこを見据えて、今から海外市場をとらえていくことが大切だと思います。そして、生産規模を維持拡大すれば、日本の農林水産業をより強くしていけるのではないでしょうか」

主な輸出先となっているアジアの人口は増え続けており、2050年には50億人を超えると予想されている。日本国内での消費縮小分をカバーする以上の、魅力的な市場がすぐそこにあるのだ。先人が培った高品質かつ安全な「日本産」ブランドを受け継ぎながら、世界へ「オールジャパン」の農林水産物を届けていく価値は、今後も増していくことだろう。

(執筆:長谷川賢人)

政府広報オンライン特集ページ「農林水産物の輸出力強化

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