「子供はイコール国の未来」と考えるフランス、家族省に取り組みを聞いてきました

少子化を克服したフランスは、国全体で保育環境の改善を考えていた。
Mother with her sons watching tablet in bed
Caiaimage/Paul Bradbury via Getty Images
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保育園は「子供のため」と同時に、「親のため」のものでもある、とするフランス。ワーキングマザーとしてフランスの保育園に子供を通わせ『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮新書)を上梓した筆者にとって、その保育園のあり方はとても心強く、救われることが何度もあった。

そのフランスでは来年、保育政策に関して、大規模な方針改善が予定されている。2016年11月15日に発表された改善のための「行動計画」には、この国の保育行政の考え方がはっきりと現れており、とても興味深いものだった。

少子化克服国フランスの保育事情は今、どうなっており、何を改善しようとしているのか。そのために、どんな方法をとっているのか。保育行政を考えるヒントとして、レポートしたい。

12月13日の政府主催「国際女性会議WAW!」で安倍首相が初めて「男性の産休」に言及するなど、ついに変化の兆しが見え始めた日本の少子化問題に詳しい、ジャーナリストの白河桃子さんにも取材した。

フランスの家族・児童・女性の権利省

■ 長所を消さず、問題を改善する

フランスでは3歳から全入の公教育制度があるので、保育園に行くのは、0−2歳までと限られる。その0−2歳保育にも選択肢が豊富で、保育園の他に2つのメジャーな方法がある。

一つが日本の「保育ママ」に近い「母親アシスタント」。これは地方自治体で研修を受け認可をもらった成人(多くは子育て経験者)が、自宅で最大4人までの子供を預かる小規模保育を指す。

もう一つが個人ベビーシッターで、保護者の留守中、その家で子供を保育する。どちらも正社員と同等の扱いで保護者と契約する、公式な職業だ。「母親アシスタント」は保育園よりも数が多く、3歳未満児の人口に対するカバー率は33%。保育園は約17%なので、フランスを支える最大の保育手段はこの「母親アシスタント」であると言える(データ出典:CNAF、数字は2013年度)。

保育園以外の選択肢が確立している反面、保育内容がそれぞれによって異なっている、という現実もある。保育園では国家資格を持った人材が働いているのに対し、母親アシスタントには全国統一の保育方針がなく、個人の経験や考え方に従って、世話の仕方が変わる。

そこを問題視したのが、2014年4月より家族政策の担当大臣となった女性政治家ローランス・ロシニョル(2016年2月より「家族・児童・女性の権利省(以下、家族省)」大臣)。どの保育手段を選んでも、子供たちは「科学的に裏付けのある、確かな保育」を受けられるべき、そのために「3歳未満児の保育に関する統一見解」を国として掲げる、と決めたのだ。

ローランス・ロシニョル大臣

保育園も母親アシスタントもベビーシッターも、すべての保育関係者が共通で依って立てる「保育の枠組み」を、国が示す。保育の選択肢はそのままに、内容を底上げ改善することを狙っているのだ。これはフランス史上でも、初めての試みだという。

■ まず調査、そして現場の声を拾う

その「保育の枠組み」を作るために、何をしたか。フランス家族省に尋ねると、答えは明確だった。

「まずは、子供たちに最適の「保育」とは何か、を知らねばなりません。その第一歩として2015年6月、児童心理学の権威であるシルヴィアーノ・ジャンピノ氏に、最新の学術研究に基づく<3歳未満児の発達について>の報告書作成を依頼しました」

面白いのは、その報告書の作成方法。児童心理学者、脳科学者などの研究者と同列で、保育業界に関わるあらゆる職種の代表者にヒアリングを行ったのだ。保育士や保育園経営者はもちろん、地方自治体の長やその保育担当官、私立保育園事業者、代議士、保育系国家資格の担当者など、ヒアリング対象者は実に、120人を超えた。

「保育業界全体を動かす今回のような決定では、業界内のすべての職種に触れ、広く意見を聞いた、という事実が重要です。何を改善するかを判断するには、現場をできるだけ近くで見て、全体像を把握する必要がありますから」

報告書は3歳未満児の発達の特徴から始まり、その子達はどのように周囲の人々と環境を認知するのか、そのために適した保育環境は何か、そこで働く人材はどう育成するべきか…を順番に論じながら、220ページにも及んでいる。

ジャンピノ報告書の表紙

「現場の意見を聞くことは、物事の改善には欠かせません。現状を把握すること以外にも、優れたアイデアや運用のコツは、現場にこそあるのです」

いかに現場から、問題と改善策を同時に吸い上げられるか。それが、フランスの保育行政担当者の腕の見せ所なのだ。加えて、最新研究の科学的な裏付けを材料に、検討していく。合理性の国フランスでは、保育行政の考え方もやはり、合理的だ。

■ 保育問題を「政治マター」にしない

報告書は2016年5月、大臣に提出されると同時に一般公開された。報告書が社会にシェアされる間に、家族省の担当官が精査し、必要性と実現可能性の高い課題を「行動計画」という政策リストに練り上げる。そこには前述の「3歳未満児の保育に関する統一見解」の他、全保育業界関係者が集う「保育の日」の開催、保育関係資格の教育課程の変更などが盛り込まれた。「行動計画」はあらゆる保育関係者から満場一致の賛同を受け、2017年1月から、施行が予定されている。

ところがフランスでは来年、大統領選挙がある。大統領が変われば予算組みや省庁編成も大きく変わるこの国で、前政権の決定した「行動計画」が実行されるのだろうか?それに対する家族省の回答もまた、羨ましいくらい明快だった。

「保育問題は『政治マターにしない』という、党派を超えた暗黙の了解があります。子供はイコール、国の未来。子供がいない人にも嫌いな人にもおしなべて、関わる問題です」

加えてこの「行動計画」はすでに、業界の総意を得た、という既成事実がある。政権担当政党が変わっても、業界からの突き上げで実行せざるを得ないのだ。調査段階から業界全体を巻き込む、計算尽くでしたたかなやり方に、保育行政に関わる人々の本気が見て取れる。

「フランスには自由・平等・友愛の理念があります。その理念を掲げるなら、女性も男性も同じように、仕事でも家庭でも幸せでいられる環境を整えなくてはなりません。保育行政は女男平等に、つまりフランス共和国の理念に直結しているのです。残念ながら現実では、平等はまだ叶っていません。毎日毎日、少しでもそこに近づくために戦い続けるのが、政策担当者の使命です」

■ 安倍首相が初めて「男性の産休」に言及

日本で男女平等参画会議に参加し、少子化問題に詳しいジャーナリスト・白河桃子さんは、フランスの保育行政を見てこう語る。

「まず、スピード感に驚きました。2016年5月に報告書作成が終了と同時に公開、そして同年11月には政策リストを作成し、2017年1月にはもう施行。政府の少子化対策に関わり、多少政策が実行されるまでの中のことを見聞きしていますが、日本ではなぜこれが実現しないのかとため息をつきたい気分です。

そして保育の方針を決めるときに「現場の声を徹底的に拾う」こと。これはオランダ等、ヨーロッパが教育改革をした時のやり方と同じです。現場の先生たちの声が一番大きい。科学的なエビデンスと現場の声に基づいた政策だからこそ、実行すれば効果も大きい。もし運用して何か不具合があれば、改善も素早くできるのでしょう。日本の少子化対策にほしいのはこの現状把握から政策、実行までのスピード感だと思いました。

また、「子供だけでなく親のための保育」という概念は日本にも浸透してほしい。日本の親が大変すぎるのは、有志以降初めての「ワンオペ育児」をまわしているからです。今日本では「ワンオペ育児」という言葉が流行っていますが、これは文字通り父親の協力もなく、母親が一人で育児を担うこと。保育園を探すことからはじまり、持ち物に名前をつけ、毎日忘れ物がないかチェックし、持って帰って洗濯する。専業主婦のお母さんだってワンオペなので、下手をすると美容院にも行けない。「明日、両親がきてくれて、やっと美容院に行けるんです」と薄く笑った友人の、長い長い髪は忘れられません。その髪にはワンオペ育児の怨念がこもっているのでは……。

本来人間は「共同繁殖」する生き物だと動物学者は言っていました。どんな人でもたった一人で子供を育てるなんて無理……。そろそろ日本もその考え方に転換してほしい。そして、お母さんの一番のパートナーである父親。彼が参加してくれないことには、社会と母親のみの子育てになって、父親の影はドンドン薄れます。

12月13日の政府主催の「国際女性会議WAW!」で安倍総理大臣が初めて「男性の産休」に言及しました。フランスも男性育休取得率が低く、産休取得に舵を切ったら7割の父親が取得するようになった。私も「男は自然には父親になれないので、強制キャンプが必要」という話を、今、男女共同参画会議などでバンバン発言しています。日本も冷静な現状把握とスピード感ある政策実現が必要です」

※前編「フランスの保育園は「親支援」も重視。負担を減らしてくれるノウハウとは......」はこちら

(取材・文 高崎順子

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