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「本気の妊活」を始めたきっかけって? マンガ家・小林裕美子さんが40歳、体外受精で子供を授かるまで

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この世に生息する「子ども」の存在を忘れようとしていた。

マンガ家・イラストレーターの小林裕美子さんは、『それでも、産みたい 40歳目前、体外受精を選びました』(新潮社)で不妊治療という現実から目を背けていた自分の気持ちをそう描いている。「体外受精」にひるんで治療から遠ざかった時期について語った前編に続き、40歳目前で再び本気の「妊活」に挑んだ経緯について聞いた。 

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小林裕美子さん

■「子どもは宝」という強い言葉に背中を押されて

――小林さんが再び「本気の妊活」に取り組むきっかけとなったのは、仕事上でやり取りしていた知人女性の一言だったそうですね。

妊娠ってデリケートなテーマなので、ズバッと無遠慮なことを言う人って今はそんなにいないじゃないですか。でも相手が年上のママさんで、プライベートな話を聞いてくれそうな雰囲気のある人だったから、「お子さんは?」と聞かれたときに「子どもがなかなかできない。できるとしたら治療しなくちゃダメみたいで」とポロッと言ってしまったんですね。そうしたら、「少しでもほしいと思うなら何をおいても産んだほうがいい」「子どもは宝だよ」とはっきり彼女に言われたんです。

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少し前に同じ言葉を聞いたら、余計なお世話だと思ったかもしれない。でもそのときの私はその言葉にスッと背中を押してもらえました。子どものことを無理して忘れようとしていたけど、心の奥底では「まだ諦めたくない」という気持ちが残っていた自分に気づけたんです。そのおかげで「もう一回、始めてみよう」と思い立って、翌日には高度生殖医療(体外受精などを行う)の不妊治療クリニックに電話をかけました。

――高度生殖医療の治療にはお金がかかります。夫婦でお金や期間のリミットについては相談しましたか。

夫の友人が治療に400万円くらいかかって一人授かった、という話を聞いていたので、「それくらいはかかるのかな」という覚悟はしつつも、「でもそこまでは出せそうにない」っていう気持ちもあって……。だから特に具体的なリミットは決めていませんでしたね。 

そこの病院はすごく機械的に、ベルトコンベア式ですべてが進んでいくところだったので、一度「やる」と決めてしまえば、あとはもうどんどん勝手に治療が進んでいくんですよ。メンタルなケアはまったくなくて、先生も淡々と最低限のことしか言わないので、自分なりに調べていかないと説明についていけなくて。悩んでいる暇はなかったですね。「時間との戦いなんだろうな」と思いながら、波に流されていく感じでした。お金の感覚も麻痺してしまう。20万、30万とどんどん口座から引き出されていくけど、もう「そういうものだろう」という風に思えてくるんです。

■体外受精をしたからこそ知った卵の神秘

――治療自体のつらさはありましたか。

採卵は手術台に乗ってされるんですけど、消毒のときに少し痛みが少しあって、針を刺すときもズンズンした痛みがありました。人によってはもっとすごく痛みを感じる人もいるそうですが。ただ、私にとっては初めての手術台だったので、すごく緊張して震えてしまったことは覚えています。

でも無事に採卵できた卵子を見たら、すごくまんまるできれいだったんですね。「この卵から命が始まるんだ!」って考えたら、すごくワクワクしてきて。体外受精をやったからこそ、あのきれいな卵を見ることができた。それはすごくいい体験だったと思っています。

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――受精卵を子宮に戻す2度めの「移植」でようやく念願だった妊娠という結果に。どんな気持ちでしたか。

本当にもう「まさか!?」という感じでしたね。4回、5回は体外受精をやるつもりでいたので、40歳という年齢を考えると本当にラッキーだったと思います。看護師さんにも「この年齢で2回めの採卵で妊娠できる人はそうそういないですよ」と言われて。だから不妊について向き合う時間は長かったんですけど、本当の意味での不妊治療のつらさ、何度も挑戦してそれでも授からないつらさは、私は味わっていないのかもしれません。

結局、2回の採卵と移植で済んだので、トータルの治療費は100万円かかっていないと思います。あとは体外受精1回につき15万円の助成金もおりましたから、助かりましたね。

■お腹の子に障害があったら諦めることはできる?

――念願だった妊娠を果たすも、お腹の赤ちゃんが小さいことから羊水検査を受けることに。検査に向かう前に、「もしお腹の赤ちゃんに障害があったら諦めよう」と夫婦で結論を出していたそうですね。

お互いに子どもを産んだことも育てたこともないから、本当に不安だったんですね。ちゃんと健康に生まれるのかな、やっぱり高齢出産だから何かリスクがあるんじゃないかな、って。だから産む前にわかることがあるなら全部知っておきたい、という気持ちで羊水検査を受けました。

ただ、いざ面と向かって「もしお腹の赤ちゃんに障害があったら“どう”しますか?」と問われると、言葉が出てこなくて。もう胎動があってグニョグニョ動き出していたし、エコーで見ると人間の形をしている。その子を中絶してしまうという選択はどうなんだろう、という怖さがありました。

説明してくれたお医者さんも、「どんな形でも生まれてくる力がある赤ちゃんならそれは迎え入れてあげたほうがいい。ダウン症の赤ちゃんでも、ちゃんとケアできる体制がこの病院にあります」と言ってくれたんですが、それでも「じゃあ絶対に大丈夫だね」とまでは信じきることもできなくて。

検査結果がわかる前日、「どうする?」と私が聞いても何も言わず黙り込んでしまった夫がちょっとイヤでしたね。「どんな障害があっても産もう!」と力強く言ってくれたら、私だって自信を持って産むのに、という気持ちがあって……。でもそんな風に思いながらも、私だって自信を持って迎え入れる心の準備まではできなかった。それでも私の体に宿っている命である以上、最終的な結論は私がすることになるんだろうな、という気持ちでした。

ただ、私の母からは「そこまでお腹の中で育った子なら、障害があっても産んだほうがいい。ずっと欲しかったんでしょう? それなら産んだほうが絶対にいい」とは言われましたね。結局、検査結果は染色体異常なしで、無事に男児を出産することができました。今、息子は2歳になりましたが、「授かったからラッキー」「産んだらハッピー」だけじゃないのが妊娠・出産だということはこの作品で描きたかったですね。

■不妊治療、女と男の温度差は埋まらない?

――不妊治療を乗り越えたことで、パートナーである夫との関係性などに変化はありましたか。

この本を作るときに、「あのとき(不妊治療の最中)どう思っていたの?」って夫にヒアリングしたんですよ。そしたら「そんなに深く考えてなかった」「ダメならダメでいいんじゃないの、と思ってた」という答えで、「それくらいにしか思ってなかったの!?」とこっちが驚くくらい、私と温度差があったんですね。当事者意識がないというか、ちょっと唖然としちゃいました。

私はわりと真剣だったので、その都度、夫も同じように悩んでくれているんだ、と思っていたんです。だけど、彼はその瞬間だけ「うんうん」って話を聞いて一応的確な返事はするものの、それが終わるともう治療については何も考えていなかったんですよ。だから病院の付き添いも「この日に行ってほしいんだよね」というと「わかった」と会社を休んで行ってはくれるんだけど、形だけだったのかな、と今になって思ったりしています。できれば病院側からもっと強制的に「カウンセリングは夫婦で来なさい」とか言ってほしいですね。そうしたら妻としても誘いやすくなるので。

でも子どもが生まれてからは、夫は子どものかわいさを知り、これからももっと子育てに関わりたいと思っているようです。やっぱり関われば愛着もわくし、楽しさも、それにともなう苦労も分かってくる。だから妊娠~出産を通して、夫婦間の共通体験というのは必要だなと思います。そういう意味でも、不妊治療には夫婦でのぞんでほしいし、そうなっていくべきだと思います。

――安倍首相の国家公務員は「男の産休」を取得してもらいたいという発言が先日報道されましたが、どう感じましたか。

それはぜひぜひ進めてほしいですね。不妊治療も、子育ても、男性側としても「協力したい」「関わっていきたい」という気持ちはあるはずなんです。職場の環境が変われば、男性側もどんどん不妊治療や子育てに積極的に参加する人は増えていくと思っています。

――産後、フリーランスゆえの仕事の変化はありましたか?

マンガでも描きましたが、こっちとしては産後もずっと続けるつもりでいたレギュラーの仕事を「妊娠してるの? じゃああと3年くらいは仕事無理でしょう!」といって男性の担当者に切られてしまったことがあって。そういう目に遭うのがイヤなので、身近な方以外には自分から小さい子どもがいることは言わないようにしています。

私は産後の回復が早かったので、子どもを産んで退院したらすぐに仕事を再開できたんですね。幸い、息子がすぐに保育園に入れたので、無理をしない程度にずっと途切れずに仕事を続けられています。私の場合は、産後も仕事を普通に続けられたからこそ、産後うつにもならなかった面があるのかもしれません。それまでやっていた仕事を全部ストップして、いきなり子育て100%になったら、そのほうが心のバランスが崩れて不安定になっていた気がします。

ただ、さっき言ったこととは逆になりますけど、反対に「子どもがいます」と言ってしまったほうがいい場面もあると思います。妊娠や育児関連の仕事が回ってくることもありますし、同じ働くママ相手だったら理解を得られやすいので調整が楽になる場合もありますから。

――本の最後では「子どもを授からなかったかもしれないもう一人の私」の人生について思いを馳せています。

もし子どもを授からなかったとしても悲観する人生ではないんだ、ということは絶対に描きたかった。私自身、40代になってからホルモンバランスがガタガタに崩れてきているし、「産める体」としてのリミットはどうしてもあると思います。でももし子どもができなかったとしても、もう一人の私はきっとその出来事を乗り越えて、今の私以上に幸せに生きているはずだと思っています。

(取材・文 阿部花恵

※前編「40歳目前で体外受精を選んだけれど...。マンガ家・小林裕美子さんが語る、不妊治療のジレンマとは」はこちら

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