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「日本の貧困対策は、食への危機感が欠けている」 日本初のフードバンク設立者が訴える

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マクジルトン・チャールズさん | Kei yoshikawa
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まだ十分食べられるにも関わらず廃棄される「食品ロス」が深刻だ。日本の食品ロスは、年間に約632万トンもある一方で、「相対的貧困率」は2012年に16.1%となり、6人に1人(約2000万人)が貧困状態とされる。

まだ食べられるのに処分される食品を集めて、食べ物に困っている人々に届ける社会福祉活動、それが「フードバンク」だ。2002年設立のNPO法人「セカンドハーベスト・ジャパン(2HJ)」は、日本におけるフードバンクの先駆けだ。

創設者のマクジルトン・チャールズ(Charles McJilton)さんは1991年、アメリカから留学生として来日。東京・山谷で日雇い労働者などへのボランティア活動に携わって以来、貧困層の自立支援に取り組んでいる。2HJでは、誰もが食べ物に困らない制度の構築を目指す一方、活動について「恵まれない人を助けるという目的だけではない」と語る。その真意を聞いた。


■「フードバンクの存在を貧困当事者に教えてくれたら…」

「食品ロス」のうち、包装のミスやラベルの印字ミスなどが原因で捨てられているものは300〜400万トンにのぼる。2HJでは企業から食品ロスの寄付を受け付け、社会福祉団体などと連携しながら生活困窮者などに提供している。

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セカンドハーベスト・ジャパンの仕組み

2015年4月から生活困窮者自立支援法に基づき、暮らしに困っている人の自立を助ける「支援制度」が始まった。自治体には貧困の相談窓口ができ、「働きたくても働けない」「住む所がない」という人たちが訪れるようになった。ただ制度上、ホームレスの緊急対応を除けば、食べ物を届けるインフラはない。こうした状況をマクジルトンさんは「衣・食・住のうち、食のインフラが欠けている」と指摘する。

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「日本は医療が充実し、国民皆保険です。子供の医療費助成もある。自分の子供が事故や病気にあってもカバーできる素晴らしいセーフティーネットがある。公共サービスも充実している。たとえば図書館。毎日は利用しないが、必要な時に本や新聞に無料でアクセスできる。あとは交番。日本にはどこにでも交番があるし、犯罪率も少ない。自分自身は毎日使わなくても、存在するだけ安心して暮らせる」

「食に関しても同じようなセーフティーネットが必要だと思います。子どもたちが毎日お腹いっぱい食べられ、集中して勉強できる。高齢者の一人暮らしでも、毎日安心して食事ができる。そういう社会になればいいなと思います。まだまだ数は少ないですが、日本においてフードバンクが、図書館や交番のような公共サービスになったら良いなと思います」

「理想的には、行政の貧困対策の窓口で、私たちの存在を伝えてもらえると良いのですが…。『食べ物に困っていたら、セカンドハーベストに行ってみてください。無償ですよ』と伝え、活用するかどうかは当事者の自己判断で良いと思います。私たちはそれで構わない。実際に食べ物に困っている人がいる。無償でサービスが受けられるという案内をしてくれるだけで良い。せめて、私たちの存在を貧困当事者に伝えてくれたらと思います」


■「フードバンクは必要ない」と言われることも…

マクジルトンさんは「すべての人に食べ物を」をスローガンに、食べ物に困ったとき誰でも利用できる「食のセーフティーネット」の整備を目指しているが、支援を求める人々の中には、子どもに食べさせるため自らの食事を犠牲にする親が珍しくないという。行政や社会福祉協議会などと協力しつつ活動しているが、一方で「フードバンクは必要ない」と言われることもあるという。

「最近『子ども食堂』という言葉がよく聞かれますが、数年前に都内のある地域で、登校前の小学生に朝食を提供するというプログラムを自治体と一緒に考えたことがあります。学校行く前にご飯が食べられたら午前中の勉強に集中できますよね。そこで、自治体の担当者に『週に何回やりますか』って聞いたのですが、担当者はこう答えたんです。『年10回にしましょう』って。想定していた回数が少なく、びっくりしました。その地域は3分の1が困窮家庭の子でした。援助が必要だとわかっていても、自治体側は『これ以上は難しい』という。月1回〜2回では『食堂』とは言えないのでは…と思いました」

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「『食事は私たちが提供します』『企業に支援をお願いすることもできますよ』と提案しましたが、担当者は『難しい』と。それならばと、生徒や学校の先生、教育委員会など『すべての関係者といっしょに、もっと良い計画をつくりませんか』と提案しましたが、それもダメでした。食事は無条件で、無償で私たちが提供できる。税金をつかったり、学校に負担をかけるわけではなく、寄付金で運営できる。食べ物に困っている人がいるのに、緊急の案件だと考えていなかったのです」

「わずか月1〜2回の『こども食堂』は、一体誰のためのものなのか。『貧困対策をやっています』という姿勢だけになってしまうのでは。『できることをなぜやらないのか。まだ試してもいないじゃないか』と、とてもフラストレーションが溜まりました」


■日本のNPOには「ビジネス視点に欠けているところがある」

2HJの設立当初、食品を提供してくれる食品企業や団体はわずか1ケタだったが、2015年度には789にのぼった。一方でマクジルトンさんは、「募金や寄付を募る営業は一切しません」と語る。それは、「対等の関係を作れないから」だという。

「もし私たちが企業にお願いをすれば、企業が上の立場になり、私たちや食べ物をもらう人々が下の立場になってしまう。私たちは『余っているものを、希望する人々に渡せば有効に使えます。お互い助かりますよ』というスタンスでやっています。私たちは非営利のNPO法人ですが、普通のビジネスのように運営したい。企業側に報酬はありません。しかし企業は、社会に貢献したという満足感を得られる。私たちも、恵まれない人を助けるという目的だけではなく『フードバンクという、活動そのものが面白い』と思いながら、楽しんで活動しています」

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大きな募金活動はしていないが、2015年度には約9000万円の寄附金が集まった。うち70%は外資系企業、15%は財団・宗教法人・学校、残り10%程度が個人からだという。「実績の積み重ねもありますが、おそらくフードバンク活動への姿勢が評価されているのでは」と語る。その上でマクジルトンさんは、「日本のNPOの中には、ビジネスの視点に欠けているところがある」と指摘する。

「中には『お金も、人も足りない。だからみんな私たちに寄付するべきだ』といったメッセージを出す人もいます。『私たちは、社会貢献のためにやっています。自分たちを犠牲にしています』とアピールする人もいますが、なぜ自分たちを犠牲者のように言うのでしょうか。気持ちの面ばかりを訴えるNPOは未熟だし、持続しないと思います」

「数年前、日比谷公園で社会援助団体が集まるイベントがあった時のことです。国連や赤十字などプロフェッショナルな団体が活動を紹介していた一方、小さな援助法人やNPOは『これ買ってください!お願いします!』『買って応援してください!お願いします!』という声ばかりでした。お願いするだけのやり方は、社会にどんな問題があり、どんな課題があるのかを見えにくくしてしまう。こういうやり方では、NPOはなかなか成長しないと思います」

活動に歯がゆさを感じることはある。だが、マクジルトンさんは未来を悲観していないという。インタビューの最後、こう語った。

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「私たちが力を合わせれば、もっと良い社会が作れます。目の前にもできることがあります。無理せず、できる範囲でやってみてください。これはフードバンクだけではなく、他のことにもつながることだと思います。自分がどんなコミュニティで暮らしたいか、今一度考えてみませんか。みんなが一緒に頑張れば、もっと良い社会を作れると思うのです」

マクジルトン・チャールズ 1963年生まれ。1982〜86年アメリカ海軍勤務。84年に横須賀基地に赴任。91年、上智大学で修道士を目指す勉強のため再来日。この頃から山谷で炊き出しに従事。大学卒業後、山谷の路上生活者のための自助センター設立を目指し活動。99年から日本初のフードバンクを作ろうと活動を始める。2002年NPO法人・フードボート(現セカンドハーベスト・ジャパン)理事長に就任。日本におけるフードバンキングの促進、奉仕活動のコーディネーターとして活動している。

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