電通過労自殺・高橋まつりさんの母と電通が合意「娘は帰ってこない。今働いて、苦しんでいる人、逃げて欲しい」

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記者会見で涙をこらえる高橋まつりさんの母、幸美さん | Yuriko Izutani / Huffington Post Japan
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電通の新入社員だった、高橋まつりさん(当時24歳)が2015年に過労自殺したことに関して、1月20日、母、幸美さん(54)と電通の間で謝罪や再発防止策などについて合意した文書が調印された。都内で開かれた記者会見で、幸美さんは合意書を交わした現在の心境について、涙をこらえながら「娘に報告ができたらいいのに、どこかで見ててくれたらいいのにという、それだけです」と語った。

合意書は、まつりさんの死が労災として認定される以前、2016年2月から交渉が進められてきたという。電通側はこの合意書で、まつりさんの死の原因が過労であると認めて正式に謝罪した。また、18項目の再発防止策を約束し、慰謝料や支払われていなかった分の残業代などの支払いをすることが定められた。

幸美さんは、記者会見でゆっくりと、口を開いた。

長い...といっても1年ですが、事細かく会社側に要求してきて今日の合意に至りました。娘に報告ができたらいいのに、どこかで見ててくれたらいいのにという、それだけです。

(まつりさんが電通で働く事を誇りに思うと語っていたことについて)入社した当初はそうでした。今は...一言では言えませんが。「あの時こうすればよかった」と思うことはたくさんあります。娘も(忙しい仕事に)耐えられると思って入社しました。仕事をしている数カ月の中でもがんばってきました。どうしてこういう選択をしてしまったのか、本当の心境は本人しか分かりませんが、原因は会社が今まで改善しないで放置したことにあると思っています。このことについては、誇りに思わないです、今は。悔しいと思います。

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記者会見場に飾られた生前の高橋まつりさんの写真

合意に盛り込まれた18の再発防止策のうち、「実労働時間と異なる時間が就業時間として記録されないように」「(会社側が労働時間を少なく見せるために利用していた)私事による在館を原則認めないように」「ゲート通過時刻と残業申告時間との差がある場合には調査をする」「新卒社員には過剰な残業をさせない」などについては、幸美さん側から積極的に要望したと明かした。

また、再発防止策の実施状況について、電通は毎年12月1日、幸美さんに報告することも盛り込まれた。

■今、過労で苦しんでいる人々へ

幸美さんは今、過労で苦しんでいる人に対するメッセージとして、以下のようにも語った。

働いている若い人、就職活動中の学生さんたち、まつりのようにがんばってきた世代だと思います。デジタル社会で生きていかないといけない世代。まつりは「ゆとり世代」と言われていますが、ゆとりなんてなかった。本当に努力してきた世代です。

成果を求められて、答えようとしてがんばっていると思うんですが。無念です。

頑張りすぎないでどこかにSOSを出して欲しいし、逃げて欲しいと思います。どこか戻るところがあれば戻って欲しい。

「いくらでも私たちの人生はやり直しできる」。娘は高校生の時に(入学式の生徒代表として読み上げた文章で)書いていました。本当にそうだと思います。

働いて苦しんでいる人には、周りが手を差し伸べて欲しいし、自分からも逃げて欲しい。

病院に行く、お休みする。本当にお休みして欲しいと思います。

■母、幸美さんが公開した2つの文章

幸美さんは記者会見に寄せて2つの文章を公開した。

1つは調印の場で謝罪した電通の石井直社長に語った内容、もう1つは合意に至った心境を明かしたものだ。2つの文章を紹介する。

石井社長に話した内容

本日、合意しましたが、娘は二度と生きて帰ってこないし、抱きしめることはできません。

娘が死ぬほど辛かった、死の原因となった連続の深夜残業・休日出勤。

これらの業務が私的情報収集・自己啓発などの名目で業務として認められていなかったこと。

このことが原因で、娘の残業申告時間は月70時間に収まっていました。

そのため、娘は産業医との面談も受診もしていませんでした。

これらが業務として認められていたら、残業時間を正確に申告することが許されていたら、娘はどこかで誰かに救われていたかもしれません。娘は死なずにすんだかもしれません。

「ハラスメントや長時間勤務に関する相談が本人からなかった。」といわれていますが、彼女のメールにはくり返し「会社にいくのが恐い。」「上司が恐い」「先輩が恐い」「相談したことがわかったら恐い」とありました。電通における社風「体育会系レベルではない異常な上下関係」「年次の壁は 海より深い」と娘が言っていた社風であるのに、新入社員が相談できる相手は年のごく近い先輩だけしかいなかったのです。人事に相談しても有効ではなかった。

12月には特別条項まで出されていました。

11月に勇気を出して、人事や上司に相談していたのに、誰も娘を助けてくれなかったのです。

娘が生きていたら、誰かが娘を助けてくれていたら、娘は今でも電通のために働いていたでしょう。

娘の希望どおりに英語や中国語を活かして仕事をしていたかもしれません。

そして、娘の描いていた夢のとおり、将来は母と弟を招いてハワイで結婚式を挙げ、子どもを産み、母を東京に呼んで一緒に住んでいたかもしれません。私は、娘と一緒に孫を育てていたでしょう。

日本の発展に貢献するために教育を受けてきた娘は、それを実現することができたでしょう。

私は今でも娘を抱きしめることができたでしょう。

みなさんはこのことをしっかりと心に刻んでください。

彼女の配属希望では、デジタル部門は7部門中一番希望しない7番目でしたが、娘は電通の仲間として迎えられたことを誇りに思っていました。

世間では、彼女は電通に入社しなければよかったのにと言われています。

こう言われていることを返上できるよう、ひとり残らずすべての社員が幸せにいられる会社に変えてください。

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記者会見中に握りしめていたマスコットを見せる幸美さん。まつりさんがいつも携帯電話につけていたものだという。

会社と合意書調印にあたって

本日、会社(電通)との合意書調印に踏み切りました。
調印を決意した理由は、
娘が業務により亡くなったことについて、会社が責任を認め、謝罪したこと、
電通の社風・過重労働の象徴であった鬼十則を、会社が社員手帳から削除したこと、
娘が死ぬほど辛かった、死の原因となった深夜残業・休日出勤について、会社側はこれまで私的情報収集・自己啓発などと扱い業務として認めていなかったが、会社はこれを改め、サービス残業をなくすことを約束したこと、
会社が、深夜残業の原則禁止など、改革をすでに始めていること、
会社が、パワハラ防止のために全力を尽くすことを約束したこと、
会社が、業務の改善と改革の実施状況の報告を、今後、遺族側に定期的に行うことを約束したこと、
業務の改善と改革に向けて、役員・管理職が研修会を行い、遺族側の話を直接聞く場を設けることを約束したこと、
などです。

石井社長が昨年末(2016年末)に辞任の発表をされましたが、社長交代・役員交代が行われたとしても、二度と同じ悲劇を繰り返さないように、改革に向かってほしいと思います。

以上、会社との合意には至りましたが、会社側がどんなに謝罪を述べたとしても、再発防止を約束したとしても、娘は二度と生きて帰ってくることはありません。

しかし、まつりが今でも東京のどこかで元気に暮らしているような気がしてなりません。

テレビに映る娘の姿を見る度に「ああ、本当にまつりは死んでしまったんだなあ。。。」と茫然とします。
まつりに会いたい。
まつりを抱きしめたい。
でも二度と叶うことはないのです。
娘を失った悲しみが癒えることは決してありません。

しかし、娘の尊厳を守るためにした労災認定の発表で、娘は労働問題のシンボルになり、日本中の働く人に大きな波紋を投げかけることになりました。

娘や、これまで過労で亡くなった多くの人たちの死を無駄にしないためにも、日本に影響力のある電通が改革を実現してほしいと思います。
深夜残業禁止令を出しても、業務量や人員の調整・コントロールをしないと、時間規制は実現できません。業務量などの現状を改革していくことに対しては、企業の中に反対する人もいるでしょうが、強い決意をもって改革を実行していただきたいと思います。

政府には「働き方改革」についての真剣な議論によって、36協定延長時間の上限規制、サービス残業に対する罰則も含む規制の強化、サービス残業を助長するような固定残業制の禁止、勤務間インターバル制度の導入など、働く人を守るために法律改正をしてほしいと強く希望します。

最後になりましたが、私どもを励まし、支援して下さったすべての方々に心より感謝いたします。

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