「SOSを出せない人にも手が届くように」私が介護現場から町へ飛び出した理由

2017年01月22日 23時00分 JST | 更新 2017年01月23日 00時04分 JST

手作りの温かい食事と、その食事を囲んで話に花を咲かせる人たち。どこにでもありそうな楽しいランチの風景だが、この「元気かあさんのミマモリ食堂」には、ちょっとだけユニークな点がある。調理も接客も、高齢者が行っているのだ。

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この食堂を手がけているのは、東京都大田区の「おおた高齢者見守りネットワーク(通称:みま~も)」。地域が1つになって、高齢者の生活を支援する「地域包括ケア」のパイオニアとして、全国から注目を集めている。

今回、「地域を見守る」社会貢献活動を行っている明治安田生命の協力のもと、「みま〜も」の発起人で、大田区地域包括支援センター入新井センター長を務める澤登久雄氏に、これまでの取り組みや、高齢化社会のあり方について話を聞いた。

「みま〜も」とは?

2008年発足。東京都大田区にて、福祉や医療の専門職員、民間企業、行政が連携し、地域で高齢者が健やかに暮らし続けるため、以下の活動を行っている。

「みま〜も」の活動の柱

1. 健康などをテーマとした「地域づくりセミナー」の開催

2. 緊急時に連絡先や病歴を照会できる「高齢者見守りキーホルダー」の普及

3. 高齢者たちが気軽に立ち寄り、主体的に活動できる「みま〜もステーション」の運営

■相談窓口にたどり着けない人のため、僕らが地域に飛び出す

——まず、「みま〜も」の活動を始めたきっかけを教えてください。

私は、30歳でデイサービス(通所介護)の職員となり、その後介護相談や高齢者支援の窓口となる地域包括支援センターの活動に携わってきました。地域包括支援センターの仕事は、個別にサポートが必要な高齢者の相談に乗るというものです。大田区だけで、月に約1万件の相談があります。

だけど、地域には、介護など様々なサービスを必要としているのに、存在を知らなかったり、知っていても頼ってくれなかったり、相談窓口にたどり着けない人たちがたくさんいるんです。これまで通りの対応だけをしていたら、僕たちはそういう人たちにずっと関われない。支援もできない。これでいいのかなっていう思いがあって……。

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「みま~も」発起人の澤登久雄氏

まずは、毎月これだけの人が相談に来ている、相談に来られない人もまだまだたくさんいることを地域の人たちに伝えて、地域で面的に支える仕組みを作らないと、と思いました。そして、気付いたら町に飛び出して、「みま〜も」発足に奔走していました。

■地域の人たちが、お客さんとしてではなく、主体的に取り組める体制作りを

——その後2008年に「みま〜も」を発足されるわけですが、どんな活動を始めたのですか?

発足当初は、地元百貨店の介護用品売り場で、健康などをテーマにセミナーをやるだけでした。だんだん参加者が増え、4年かけて毎月100名規模のセミナーに成長しました。でも、その頃、物足りなさを感じていたんですよ。

地域の人たちが来てくれているのに、結局主催者とお客さんの関係性しか作れなかった。この人たちが、地域のため、主体的に何かに取り組めるような事業に取り組みたいと思いました。

■高齢者たちが生まれ変わらせた公園に、子どもたちが集まってきた

——高齢者が主体的に何かに取り組む事業と言っても、いきなり始めるのは簡単ではないですよね?

まずはサポーター制度を作り、一緒に活動してくれるメンバーを募りました。そして始めたのが、商店街の裏にある新井宿第一児童公園の整備です。大田区には、区立公園の運営を地域の団体に委託する事業があるんです。この事業に手を挙げて、危険で汚かった公園を高齢者たちと一緒に変えていこうと。

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人が立ち寄らなかった公園を生まれ変わらせるべく、ペンキ塗りをする「みま〜も」のサポーター。

サポーターの高齢者たちと、フェンスに色を塗ったり、花壇の整備をしたりしました。やはり高齢者が常にいると、安心できるようになるんですよね。だんだん子連れのお母さんが来たり、保育園の散歩コースになったり、人が集まるようになって、自然と高齢者とのコミュニケーションも生まれました。公園の変化を見て、商店街も喜んでくれ、区も全面改修を決めてくれたんです。リハビリができる遊具と、みんなで野菜を作れる畑を作ってもらい、畑では大根やニンジンを育てています。

■お金を払いつつ汗もかいてもらう。企業の新しい関わり方

——活動を継続するため、民間企業などのサポートも受けているのですか?

そうですね。まず、企業や団体向けに、協賛という仕組みを作りました。当初は、パンフレットの広告掲載などを、協賛するメリットとして考えていたんです。でも、それだけだと、結局「みま〜も」の活動を知るきっかけがないまま、翌年には協賛をやめてしまう。

協賛企業がただ広告費を払うだけでは、意味がない。お金を払いつつ一緒に汗もかいてもらって、その人たちも巻き込んでいこうと考えたんです。現在は、協賛企業も自分たちの得意分野で、活動に貢献してもらっています。

例えば、「元気かあさんのミマモリ食堂」では、協賛してくれている薬局の管理栄養士さんが、カロリーや塩分を考慮したメニュー案を作ってくれて。それをもとに、サポーターたちが自ら工夫しながら運営をしています。

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「元気かあさんのミマモリ食堂」で、毎週金曜日に提供される500円ランチ。やさしい味わいを求めて地域住民が店舗を訪れ、取材中も談笑する姿があった。

大きなことを言うと、僕たちは、直接的な利益を求めるだけじゃない企業を、育てているのかなっていう気がします。今やっていることが、これからの社会のためには必要で、この活動は間違っていないはずだと思ってくれている企業が残っているんですよね。それが、この大田区内だけで90以上あるんです。

■高齢者が「売れっ子講師」として輝き始めた

他にも、協賛企業には、年間約350回開催される講座の協力をしてもらっています。さらに最近では、手話ダンスや手芸部など、サポーターたち自らが講師をする機会も増えてきました。中には、「うちの施設でもレクリエーションとしてやってください」と、引っ張りだこになっているグループもあって。最近、ちょっと小生意気になってきて、「私たちのスケジュール管理は、職員さんたちに任せてますので、そちらを通してください」なんて言っているんです(笑)。関わっている人たちが、ますます生き生きしてきています。

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■「生まれたときから人との関わりを拒否している人なんていない」見守りの秘訣は、元気なうちからつながること

——孤立させず、自分を待っててくれる人がいる、役割がある、という環境づくりが大切なんですね。

そうですね。例えば、定年退職したときのことを考えると、孤立したり、人との関わりを拒否したりするのって、特別なことじゃないとも思うんですよ。でも、生まれたときから人との関わりを拒否している人なんていない。だから、元気な頃から、地域とのつながりを保つこと、緊急時に備えておくことが必要だと思います。元気な頃を知っていれば、異変が起きたときにすぐ気づいてサポートできる。日常的に見守り合えることほど、心強いことはない。様々な団体や行政、民間企業、地域の人などが一体となって、サポートをしていけたらと思います。

(撮影:西田香織)

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明治安田生命は、子ども・高齢者等をはじめとした地域に暮らす人々を営業職員が見守る「『地域を見守る』社会貢献活動」を行っています。また、契約者以外の連絡先を登録し、大規模災害等が発生し、契約者との連絡がとれない場合等に、その連絡先を通じて契約者の最新の連絡先を確認し、スムーズな手続きができるようにする「MY安心ファミリー登録制度」を設けています。