トランプ大統領、納税申告書の開示せず「国民は気にしていない」

「納税申告書を見たがるのは記者だけだ」

アメリカのドナルド・トランプ大統領が大統領選から批判を浴びている自らの納税申告書の非開示問題について、ケリーアン・コンウェイ大統領顧問は1月22日、ABCの番組で「国民が気にしていないから開示することはない」、と語った。

確定申告のために収入や納税額を記した納税報告書は、大統領選で候補者が慣例的に公開することになっている。トランプ大統領は一貫して「監査中だから公開しない、監査が終われば喜んで公開する」と述べて公開を拒否し続けていた。

「大統領が納税申告書を開示することはありません。選挙期間中ずっと我々はこの件に関して対応しましたが、国民は気にしていませんでした」と、コンウェイ大統領顧問はABCの番組で語った。

コンウェイ大統領顧問の発言は、トランプ大統領が11日の会見で「納税申告書を見たがるのは記者だけだ」と主張した内容に沿ったものである上に、さらに踏み込んで申告書を開示する意志は一切ないことを示したものだ。

コンウェイ氏は23日朝Twitter上で自らの発言を撤回し、「#nonews(お知らせすることはありません)」というハッシュタグの付いた投稿で、納税申告書はまだ監査を受けている段階だと主張した。

コンウェイ氏の発言は、ホワイトハウスのホームページ上の請願サイトで、トランプ大統領に納税申告書の公開を求める署名は20万を超え、ホワイトハウスが回答を出す義務が生じたことに対して答えたものだ。12日〜15日にABCが行った世論調査では、74%がトランプ大統領に納税申告書の開示を求めた。

選挙運動期間中、トランプ大統領は繰り返し納税申告書については、2009年以来定期的に受けているアメリカ国税庁(IRS)の監査を受けている最中で、監査が終わるまでは公開できないと語っていた。さらには監査が終了すれば、申告書を開示するという約束までしていた。

「公開するのは構わない」と、トランプ大統領は2016年9月26日、民主党の大統領候補だったヒラリー・クリントン氏との最初のテレビ討論会で発言している。「定期的な監査を受けているところだ。監査が終わり次第、開示する」

IRSはすでに、監査の最中であってもトランプ大統領が申告書を公開するのは問題ないと発表している。現在はトランプ大統領の指揮下にあるIRSは、2009年より前の申告書は監査の対象にすらなっていないとまで指摘した。トランプ大統領は選挙戦で、顧問弁護団が申告書の公開を控えるよう要請していると主張していた。

トランプ氏は、IRSの監査中だった時点でペンシルバニアとニュージャージーの2つの州当局に自らの納税申告書を提出していた。カジノの営業許可を申請するのに必要な法的手続きの一環だった。

コンウェイ氏が、トランプ氏には大統領に当選したから透明性を確保する必要がないと主張したのは、大統領の長男ドナルド・トランプ・ジュニア氏が選挙中に発言した内容と重なる。トランプ・ジュニア氏は、「政治的にプラスにならないので、納税申告書を公開すべきでない」と語っていた

「納税申告書は1万2千ページにもなりますので、アメリカ国民の中から独自に財務監査をする人がおそらく3百万人出てくることになり、疑問点を問いただすことになると、父の大事なメッセージが伝わりにくくなります」とドナルド・ジュニア氏は語った。

フォード大統領を除き、ニクソン大統領以来すべての大統領が選挙期間中もしくは就任直後に納税申告書を公開している(フォード大統領は1976年の立候補時点で概要を公表した)。ニクソン大統領は「ウォーターゲート事件」で疑惑の渦中にあった時に、IRSの監査中だったにも関わらず、申告書の公開に踏み切った

「トランプ大統領が納税申告書の開示を拒否しているのは、自分に投票してくれた有権者への侮辱行為であり、さらには公に対する説明責任の基本すら果たせないということになる」と、政治の透明性を求めて活動するNPO「サンライト財団」の事務局長ジョン・ワンダーリック氏は語った。

約束に反して納税申告書の非公開を決めたことで、内部告発サイト「ウィキリークス」内部のトランプ支持者もすでに怒りをあらわにしている。

トランプ大統領が納税申告書を開示するという約束を破ったのは、ヒラリーがゴールドマン・サックスに対する非公開演説会の台本を隠ぺいしたことより、はるかにたちが悪い。

トランプ大統領が申告書を公開すれば、様々な疑問点を解消できるだろう。納税額がいくらなのか国民はほとんど知らない。さらに、ビジネス上のつながりや借入金がどうなっているかについても、いまのところ不透明なままだ。

ニューヨークタイムズによると、選挙前のトランプ氏の主張では、1995年に9億1600万ドル(約1034億円)の損失を出したという。税の控除を受けるために公表したこの損失額を利用すれば、トランプ氏は18年間税金を納めていなかった可能性がある。

現時点では、アメリカ国民は自国の大統領が、国内、ましてや外国の銀行からも、どれだけの借金をしているのかまったく情報がないに等しい。

政治倫理法が義務付ける個人財務情報開示義務では、トランプ大統領が経営する企業の抱える借入金を知るには不十分だ。情報公開法では個人の借入金のみを開示するよう義務づけており、自らが受益者となっている企業の借入金の開示義務はないからだ。トランプ大統領の資産の大半は、複雑に絡み合う個人所有の複数の合同会社が管理する形になっており、その多くが多額の、非公開の負債を抱えている。

さらに、トランプ大統領がビジネスとどのように関わっているのかについての情報が少ない。納税申告書を公開すれば、大統領が最近どの外国でビジネス展開をしたかがわかる。本人は財務情報として公開義務はないと主張するが、透明性の低い資産がどの程度のものか、詳細が明らかになるだろう。

トランプ大統領は数多くの「利益相反」について語るのを避け、自らの巨大ビジネスから退くのを拒否している。それどころか、成人した息子たち、ドナルド・ジュニア氏とエリック氏の2人にトランプ財団の管理を任せる一方で、会社の経営権限を与えるための書類は渡していない。大統領執務室に座っている間も、2人の息子たちが動くたびに、金銭的な利益を得ることになる。

ドナルド・ジュニア氏とエリック氏は2人とも、父親の大統領政権移行チームの執行委員会メンバーを務めていた。

ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。

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