難民問題「バリア作らず、各国が貢献を」 難民の島描いた映画『海は燃えている』ジャンフランコ監督に聞く

イタリア最南端のランペドゥーザ」島を舞台に、島民とアフリカや中東から欧州へと渡る難民の姿を描いたドキュメンタリー映画「海が燃えている」のジャンフランコ・ロージ監督が、ハフィントンポストなどのインタビューに答えた。

「難民の島」として注目が集まるイタリア最南端の小さな島「ランペドゥーサ」を描き、2016年のベルリン国際映画祭金熊賞を受賞したドキュメンタリー映画「海は燃えている」が、日本でも2月11日から順次上映が始まる。

ランペドゥーサ島は、地中海に浮かぶリゾートでありながら、アフリカや中東から海を渡って難民が大量に押し寄せる。わずか5500人ほどの島民に対し、5万人を超える難民が島にやって来るとされる。作品は、難民問題の象徴として取り上げられるランペドゥーサ島を、そこに暮らす人々の姿も交えて描いている。ジャンフランコ監督自身が1年半島に移り住み、「難民の島」で暮らす人々のありのままを生活を捉えている。

島民と難民は、同じ場所にいながら決して交わることなく、作中では2つの異なる世界が交互に描かれる。12才のサムエレ少年が友達とパチンコで遊ぶ場面は、島民のどこにでもある平和な日常を描き出し、「難民の島の生活」というイメージを覆す。入れ替わって、難民たちの実情が淡々と描かれる。海で溺れた難民を救うため、レスキュー隊が24時間体制で救助活動に当たり、島に到着した数百人の難民が乗った船からは、途中で命を落とした人たちが次々と運び出される。両方の世界をつなぐのはバルデロ医師。サムエレ少年を診療する傍ら、島で唯一、難民の検診や死に立ち会う。「どれだけ死体見聞したか分からないよ」とため息をつきながら「こうした人々を救うのは人間の務めだ」と語る。

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ジャンフランコ・ロージ監督(52)は日本での公開を前に来日し、ハフィントンポストなどとのインタビューに応じた。難民問題について「各国が責任を感じ、ともに力を合わせて方法を模索しないといけません。物理的やメンタル面でバリアを作ってはなりません」と、世界が自分の国を優先して、移民・難民に不寛容になっている現状を批判した。

■難民問題、世界各国が貢献を

−−エリトリアからイタリアに避難した自身の経験を踏まえて、難民問題は今後どうなっていくと考えますか

アメリカのオバマ前大統領が語ったように、世界各国で何とかしなければなりません。ランペドゥーサ島の問題は、イタリア一国で解決できる問題ではありません。地球温暖化問題では、各国が顔を揃えて解決案を模索することができました。難民問題でも同様に、各国の貢献が必要です。日本も難民の受け入れが少ないのを、変えていかないといけないと思います。

何千人もの人が、戦争などの悲劇から逃れて自由を求めている中、みんなが責任感を持って解決案を見つけなければなりません。報道では数字が注目されますが、その裏にいる人たちにまで思いが及ばなければ、人間の魂の敗北です。オバマ氏が言った通り、バリアを作ることは自分の国を自分で監獄に押しやる行為です。一国ではなく、各国が集まって共に考え、解決案を見つけていかなければなりません。

−−トランプ大統領の誕生やイギリスのEU離脱(ブレクジット)など、世界が移民・難民に批判的で内向きになっている傾向にはどう対処するべきでしょうか

やはり世界がともに力を合わせ、方法を模索しないといけません。物理的にもメンタルの面でも壁やバリアを作ってはいけないと思います。問題は、各国それぞれの政情や政治課題から、恐怖心を煽る政治がどんどん台頭していることです。

難民が300万人と言ったらすごい数に見えますが、例えばヨーロッパ全体で7億人という人口の中で、各国が受け入れることができれば、可能な数字だと思います。それができていないのはヨーロッパの悲劇です。

−−移民によって生活が脅かされている人たちが、反対の声をあげている現状があります

残念ながら、政治の不在をとても感じます。映画を作り始めた時は、政治が弱視の状態でした。これから視力を回復して、変わってくれるのではと希望がありましたが、今は政治が失明した状態です。将来の展望は暗いものです。映画が歴史の流れを変えられるとは思いませんが、この作品を見たのをきっかけに、自分は何ができるかと考えてもらえたら嬉しいです。

−−アメリカ国籍を持つ身として、アメリカの移民抑制政策をどう考えますか

トランプ氏が言うメキシコの壁などは全く反対の立場です。バリアや壁を作ることは、自分の手で自分の監獄を作ることだと思います。作品では地中海を渡る難民を描いていますが、メキシコから砂漠を超えてアメリカに来る人々も同じです。1年前はあまり知らなかった話が、今は国を超えて語られています。

それに煽られた恐怖の結果の1つが、ブレクジット(Brexit)です。「テロリストが船に乗ってやってくる」というのは真実ではなく、テロリズムは自分たちの国で育まれています。例えばフランスやベルギーで起きたテロリズムは、それぞれの国でうまく統合が進まなかった結果です。移民としてやってきた次の世代の人たちが、社会にうまく溶け込めずに起きた悲劇と考えられます。

−−移民・難民問題について、メディアの報道姿勢はどうあるべきだと考えますか

ジャーナリストはニュースを報じる役目があり、ある特定の出来事や悲劇、移民の死が取り上げられます。ランぺドゥーサ島に関する悲劇的なニュースは、そこに人々が暮らしていることを忘れさせてしまいます。私にとって重要だったのは、視点を変えることで、島の暮らしが先にあり、その背景に移民がいるという映画を撮りたかった。私はそういった島民の物語を作る必要性を感じました。

ランペドゥーサ島の人は、ニュースの中で移民問題のシンボルとして扱われていて、私は彼らのアイデンティティーを知りたかったのです。正しいとか間違っているということではなく、アプローチの違いです。私は1年半、この島に住んで映画を作りましたが、メディアの場合は時間が限られているので、ある特定の瞬間を伝えることに精一杯になってしまうのでしょう。

インタビューに答えるジャンフランコ・ロージ監督、東京・九段下

■医師の人間性に胸打たれ、作品づくりへ

−−バルトロ医師との出会いは、映画作りにどのような影響を与えましたか

まず、バルトロ医師の人間性にものすごく心を打たれました。彼は20年以上、ランペドゥーサ島にやって来る難民を受け入れるため、前線にたち続けています。ものすごい情熱と責任感を持って取り組んでいて、鮮烈に胸を打たれました。

元々の出会いは、映画を作るために島に滞在した時、気管支炎を診てもらったのがきっかけです。私の作品を見たことがあり、「ランペドゥーサ島について絶対に映画を作るべきだ」と言ってくれました。作れるか分からないと伝えると、USBメモリーをもらい「これを見たらきっと島に帰ってくる」と言われました。ランペドゥーサ島についてみんなが知らないことがたくさんあることが分かり、その後、彼の言葉通り島に戻って映画を作ろうと決意しました。

−−他の登場人物とは異なり、バルトロ医師だけが唯一カメラに向かって話していたのがすごく印象的でした。

ベルリン国際映画祭への出品が決まった段階で、まだ足りないものがあると感じたのが、バルトロ医師でした。「これを見たら帰ってくる」と私に言った時の気持ちを観客にも伝えて欲しいと彼に頼み、撮影しました。最後に撮影したシーンですが、作品の中で一番重要だと思っています。このシーンがなければ、全く違う映画になっていました。常に変化し続けるのがドキュメンタリーです。

−−主人公のサムエレ少年とはどう出会ったのでしょうか

実は最初から子どもを主人公にしようと考えていました。大人であれは移民問題に対して何らかの考えがあるので、あまり考えるきっかけのない子どもを登場させたいと思っていました。島で彼を何度か見掛け、自己紹介の時に「海や漁が嫌いだ」と言っていたのが、漁師の島なのにすごく矛盾していて面白いと思いました。

作品は2月11日から、東京都渋谷区のBunkamura ル・シネマなどで順次上映が始まる。

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