小池知事ブレーンの間でも割れている「豊洲移転」 都民は誰に投票すればいいのか

千代田区長選の告示日、石川区長の第一声を聞き終えた音喜多都議に疑問をぶつけてみたが…。
横田一

【フリージャーナリスト・横田一のレポート】

2月5日、千代田区神保町の石川雅巳区長の選挙事務所。20時ちょうどに当確が出た瞬間、支持者からは歓声が沸き起こり、万歳をした後に石川区長と小池百合子知事が挨拶、代表取材にも応じた。

二人が立ち去った後は、「都民ファーストの会(“小池新党”)」幹事長の音喜多駿都議がメディア対応、勝因分析や都議選への影響などについて語っていった。囲み取材が一区切りついたところで豊洲市場移転問題について質問をすると、それまでの雄弁さは消え失せ、顔を背けて事務所内に駆け込んでいく。追いかけていくと、こちらを振り向き、「事務所は立ち入り禁止です」と警告。一歩引いて「(小池知事のブレーンで、都政改革本部特別顧問の)上山信一さんは豊洲移転派ですか」と私が聞いたが、何も答えない。

「都民の台所」とされる築地市場の「豊洲移転問題」。千代田区長選の出口調査では、築地市場の豊洲移転について「断念すべき」が50.0%、「移転を実現すべき」が35.2%で、賛否が分かれている。

さらにこの問題をややこしくしているのは、小池知事のブレーンの間でも、「築地」と「豊洲」のどちらに市場があるべきか、意見が割れているという点だ。たとえば、音喜多氏は「豊洲移転やむなし」という立場。早期豊洲移転を主張する橋下徹・前大阪市長(「日本維新の会」法律政策顧問)に賛同もしていた。「小池知事は築地存続派」だと都民が思って、小池チルドレンに投票したら、音喜多都議のような「豊洲移転派」が大量当選する可能性もあり、選挙後の都政が混乱しかねない。

■ 週刊朝日「小池知事ブレーンが分裂 豊洲移転派VS.築地残留派」のきっかけとなった音喜多都議発言

私は1月24日発売の週刊朝日で、「小池知事ブレーンが分裂 豊洲移転派VS.築地残留派」という記事を書いた。執筆は、1月14日の音喜多都議発言が発端だった。この日、専門家会議が基準値の79倍のベンゼンなどの検出結果を発表したが、同じ頃、小池知事は池袋駅近くの大学で開かれた第四回希望の塾(政治塾)で挨拶、地下水モニタリング結果にも触れていた。

直後の囲み取材では当然、豊洲移転問題に質問が集中。これに対し小池知事は「都議選の争点になっていくことは避けられないのではないか」という見通しを口にしたのだ。

もともと小池知事は築地存続派だった。2008年出版の共著『東京WOMEN大作戦』では、「(築地市場の)現在の場所で建物だけを立て直すのがいちばん妥当と思われる」と主張する一方、豊洲新市場については「食との関係の薄い分野で活用すればよい」と提案していたからだ。

小池知事が現在も存続派かどうかはうかがい知れないが、都議選で「豊洲移転イエスかノーか」の“築地選挙”を仕掛け、「豊洲移転派 VS.築地存続派」という構図にする可能性は十分にある。05年に小泉純一郎元首相が郵政民営化の是非を問うた“郵政選挙”の再来になるのではないかと思ったのだ。

1月14日の小池知事の囲み取材直後、同じフロアで立話をしていた音喜多氏に知事発言の受止めを聞いてみた。

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――都議選で豊洲問題が争点になるということですか。

なったら嫌ですね。

――(都議選の争点が)分かりやすくなるのではないのですか。「豊洲移転イエスかノーか」(を問う都議選になる)と。

僕は正直なところイエスだからな。「ノー」とはなかなか言えないですよ。

――築地再整備(で存続)という可能性はないのですか。

無理だと思います。僕は100%、無理だと思っています。

――小池知事が国会議員時代の本の中で「食の安全を考えたら豊洲移転は不適切、築地存続を考えるべき」と言っていますが。

2009年だったら出来たのです。今は無理です。TPOなのです。時を逃したということで、もう難しいですね。(今回の数字が出たのを受けて)追加対策でどうにかするということが一番妥当でしょうね。

――今回の結果が出て築地存続の声が強まるのではないですか。

強まるでしょうね。沖縄基地問題のようになると思いますよ。民意を受けてもどうにも出来ないことは世の中にはあるので。小池知事がどういう判断を下すかですよ。僕は築地存続に関しては無理だと思います。可能性はゼロだと思っています。豊洲に移転をするべきだと思っています。

――市場問題担当の小島敏郎顧問(青山学院大学国際政治経済学部教授・弁護士)は築地存続可能と言っているようですが。

そうですね。小島さんはそういう立場ですよね。(同じく都政改革本部特別顧問の)上山(信一)さんは「出来てしまったから当然豊洲移転でしょう」という立場です。(小池知事のブレーンの中でも)意見が割れているのです。

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小池知事が都議選で争点にする可能性がある豊洲移転問題で、ブレーンの意見が割れている中、“小池チルドレン候補”はどちらの立場を取るのかが分からない。前述したように、小池知事は過去に「築地存続」とみられる発言をしたこともあり、前述したように、小池知事は過去に「築地存続」とみられる発言をしたこともあり、小池氏に近い音喜多都議が「築地存続派」と思って投票したら豊洲移転派だった 、ということもありうる。なお両ブレーンは共に「都議選選考委員会」のメンバーで、翌15日の第一回委員会に出席していた。

そこで、両ブレーンに取材申込をして「都議選で候補者がどのような立場(豊洲移転止むなし、築地再整備存続も選択肢など)を取るのか」と聞いたが、小島氏は「築地市場問題について個別の取材には応じていません」と回答。一方の上山氏も「特に豊洲移転問題を専門として担当しているわけではないので特にコメントする立場にはない」と秘書を通じて回答してきた。

■ 上山信一氏をブレーンに抜擢した橋下徹氏も早期豊洲移転派

ただし維新法律政策顧問の橋下徹氏の大阪府知事時代と市長時代にブレーンをしていた上山氏は、専門の担当でないが各種媒体で意見を述べていた。2016年8月30日の時点では「築地の移転。いきなり白紙撤回ではない。数ヶ月の延期で終わる可能性が高い」という見通しを語り、「五輪と豊洲にケリをつけて本丸に迫る 小池知事VS伏魔殿の内幕」と銘打った『文藝春秋』12月号の対談でも「豊洲と五輪に時間を取られてしまっている現状は、小池さんとしても歯がゆい」と語っていた。

「数カ月延期で豊洲移転にケリをつける」という上山氏の立場が滲み出ているようなタイトルと発言であり、音喜多氏の発言とも符合する。

同氏をブレーンに抜擢した橋下氏も、移転延期を発表した8月31日のTwitterで「どうせ移転ということになる築地問題にこれから小池さんが莫大な労力をかけなければならないのはもったいな過ぎる」(原文ママ)と築地存続の可能性を排除していた。

また衝撃的な地下水モニタリング結果が出た1月14日のTwitterでも、基準見直しで早期豊洲移転をすべきと小池知事に進言していた。

また、こんな小池知事批判もしていた。

橋下氏は「地下水モニタリングの結果など関係ない!」とばかりに、小池知事にこんな提案もしていた。

橋下氏の基本的な立場は「地下水モニタリング結果に左右されることなく、早期に豊洲移転するしかない」といえる。驚いたのは「移転までの期間、補償費が膨大になるので小池さんは早く移転したい」(1月13日のTwitter)と綴り、「小池知事は早期豊洲移転派」と断言していたことだ。これが本当であれば、橋下氏は小池知事と太いパイプがあり、本音を知り得る特別な関係にあることを示唆するものだ。「小池知事との間に入っているのが、橋下氏のブレーンだった上山氏ではないか」と思ったのはこのためである。

■ 築地存続を選択肢として残す小島敏郎顧問(環境省OB)

これに対し環境省出身の小島氏は、小池知事が環境大臣を務めた時の部下で、クールビズ普及にも尽力した“辣腕官僚”。小池知事(候補)が7月22日に築地での街宣で「一歩立ち止まって考える」と宣言、8月31日に移転延期を発表した際にも、市場関係者から聞き取り調査をするなどの貢献をした。そして現在は市場問題PTの座長として、豊洲移転の経営面での問題などを検証する役割を担っている。

小島氏は2月4日、第五回希望の塾で「政治家を志す方へ 政治家と官僚との関係から豊洲市場問題を考える」と題して講義。報道陣に公開されたのは冒頭だけだったが、プレゼン資料を見ると、橋下氏や上山氏や音喜多氏ら豊洲移転派との立場の違いがより鮮明になる。

小島氏は「政治家・官僚に共通の資質 考えるということ」と題して「〇自分で考えて判断する ●『シカタガナイ症候群』に陥らない」と強調、次のように思考停止を戒めていた。

「〇思考停止のメカニズム 既成事実の積み重ねーー>『(考えても)シカタガナイ』 ※豊洲市場は約6000億円もかけて作ってしまったのだから、移転するしかない。考えてもシカタガナイ」

そして「築地に残る選択肢はあるのか “いかなる選択肢も存在する”」「官僚は複数の選択肢を示し、政治家は判断する」とも明記していた。「築地存続の選択肢は残っている」としか読み取れないフレーズを並べていたのだ。

これは、豊洲移転の結論を出している橋下氏や音喜多氏や上山氏への反論にもなっている。このプレゼン資料を見て、「ブレーンで意見が割れている」という音喜多都議の発言は正しいと思ったのは言うまでもない。

■ 週刊朝日発売後に音喜多都議の対応が一変(捏造記事と批判)

しかし前述した1月24日発売の週刊朝日で、「小池知事ブレーンが分裂 豊洲移転派VS.築地残留派」の記事が出た途端、音喜多都議の対応は一変した。上山氏と共に「週刊朝日の取材を受けていない」と1月25日のTwitterで主張、捏造だと言い出したのだ。

私はきちんとその発言をテープでも録音している。週刊朝日編集部と私が訂正を求めると、音喜多氏は1月26日に週刊朝日には謝罪した。

しかし署名記事を書いた私の取材に対しては、遺憾の意を表明した。

週刊朝日で紹介した音喜多都議のコメントは以下の通りで、先に紹介したやりとりを短くはしたが、発言内容の主旨やニュアンスも出来るだけ忠実に反映させたつもりだ。

<週刊朝日掲載のコメント>

(前略)知事直系の音喜多駿都議でさえ、都議選の争点にするべきではないという立場なのだ。

「都議選で豊洲移転問題が争点になったら嫌ですね。僕は正直なところ、『豊洲イエス』だから『ノー』とはなかなか言えない。築地存続は09年だったらできたが、今は無理です。(オリンピック施設問題などでブレーンだった)上山信一特別顧問(慶應大学教授)も『できてしまったから当然豊洲移転でしょう』という立場です。今回の結果が出て築地存続の声が強まるでしょうが、小池知事がどういう判断を下すかです」

このコメントのどの部分を問題視しているのか全く分からないので、千代田区長選の告示日(1月29日)、石川区長の第一声を聞き終えた音喜多都議に疑問をぶつけてみたが、冒頭の対応と同様、無言のまま質問に答えようとしなかった。

選挙後の事務所は人が入れ替わり立ち替わりで混乱しており、質問に答える時間はなかったかもしれない。複雑な問題なので、小池知事のブレーンや支持する議員の中でも意見が割れるのは当然だ。しかし、都民の関心も高く、豊洲移転問題の賛否は投票の大きな基準の一つとなるはずだ。2017年7月2日投開票の都議会選挙に向けて、小池知事をはじめ側近の議員たちも、自らの立場をきちんとした場で説明することが求められるのではないだろうか。

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