【韓国大統領選】安煕正氏の支持率が急上昇「トランプ氏と対話できる」(インタビュー)

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ahn heejung

2017年の韓国大統領選に立候補を表明している、野党第一党「共に民主党」で中西部・忠清南道の知事、安煕正(アン・ヒジョン)氏の支持率が急上昇している。

2月10日に発表された民間調査機関「韓国ギャラップ」の調査では、前週より9ポイント上昇して19%となり、トップで「共に民主党」元代表の文在寅(ムン・ジェイン)氏(29%)を猛追している

その安氏は「年中食べても飽きないご飯」と自分をたとえて言ったことがある。ご飯。つまり白い米の飯について安氏はこう説明した。

「私たち皆の信頼と正義という資産を守るべき、空気のような役割を果たすべきということが、私の政治に対する考えです。豪華メニューを食べるのもいいですが、もしご飯に飽きてしまったら、私たちはどうやって生きていけばいいんですか」。

2016年末に朴槿恵大統領の退陣を求めた「ろうそくデモ」が盛り上がったが、同じ「共に民主党」の大統領候補、李在明・城南市長が既得権層を痛快にぶった切る演説で、支持率を一気に10%引きあげた時、安氏は支持率5%あたりをうろうろしていた。存在感は薄かった。それが1カ月半ほど前のことだった。

李市長からは「旧来の保守勢力」と批判され、福祉は「沈没するタイタニック号からの救命艇のように、老人、子供、障害者、女性といった順序をつけて救っていく」作業とたとえたことも批判されたが、支持率はむしろ上昇した。安氏は支持率2位の有力候補に躍り出た。メディアの注目度も高まった。

ハフィントンポスト韓国版は1月31日、安熙正氏に単独インタビューした。安氏は大学生に授業料の半額を支給すると2012年の大統領選で公約した朴槿恵氏を「本当に理解できない」と言い、「政治が過剰になっている」と主張した。「税金で仕事をいくつか作ることの、何がそんなにすごいのか」とも言った。

胸のすくような答えや甘い約束はほとんどなかった。その代わり愚直に、対話と調整について語った。「『私を選べばすべて解決します』とは言えない」と言った。代わりに「進歩(革新)・保守の陣営対立」から抜け出した民主主義を強調した。

安氏の「中道・左右統合」戦略には可能性と危険がともなう。「進歩」や「保守」の枠組みで闘う競争相手にはない拡張性を持つが、「お前の正体は何だ」という疑いを進歩と保守の両側から向けられる。幅広い支持が求められる大統領選挙の本戦では有利かも知れないが、「共に民主党」内の予備選では不利かもしれない。安氏は自ら「伝統的な与野党の支持基盤から見放されるかもしれないという恐怖の道」と表現した。

聞き手:ハフィントンポスト韓国版編集主幹・孫美娜(ソン・ミナ)

安熙正(アン・ヒジョン) 1965年、韓国・忠清南道論山(ノンサン)生まれ。1980年代に通った高麗大学で学生運動の組織統合に関わる。政治家秘書や出版社勤務などを経て、盧武鉉氏と行動をともにするようになり、2002年の大統領選挙では選対幹部を務め、盧武鉉氏の当選に尽力したが、2003年にサムスンから不正選挙資金を受領した容疑で逮捕され実刑判決を受ける。2010年に野党・統合民主党から忠清南道知事に当選。現在2期目。

目次

■政治
■経済
■財閥改革
■福祉
■雇用
■女性・マイノリティー
■安全保障・外交・対北朝鮮

政治

ahn heejung

「韓国は今、まだ民主主義の国ではない」

――「政権交代以上の新しい政治」という表現をずっと使われていて、「金大中・盧武鉉大統領が成し遂げられなかった部分を完成させ、韓国の歴史を新しく書き、また新しい韓国を示す」とおっしゃいましたが、具体的にどういうことか説明してください。

安熙正:私たちが考える「常識」という正義が、この社会でそのまま通用する国になるでしょう。また、そのような国にしたいです。政治的見解が違うからと言って芸術家をブラックリストに入れる国はもう御免です。ちょっと主張の強い記者を新聞社やテレビ局から追い出すのはもう終わらせるべきです。自分の政治的見解や基本的人権を主張したために職場で脅されたり、生活を脅かされたりしない国になるべきですね。

人類の歴史で表すなら、正義が川の水のように流れる国です。平凡な人々の常識の価値が川の水のように流れる国、つまり「民主主義の国」です。ところが韓国は今、まだ民主主義の国ではないのです。民主主義の国だと言いながら、政治家たちは皆、自分が総統や君主のように国を治めていこうとします。だから民主主義の国を正しくすること、これが職業政治家である私の天命です。

――政治家になる夢を持ったのはいつですか。どんなきっかけがあったのですか。

安:政治が私たちの社会的な正義、個人の利益を跳び越えた社会的正義についてのことなら、私は幼い頃からちょっと変わっていました。

――それはどんな面で?

安:たとえば一緒に学校生活を送っていても、授業時間に騒ぐ子がいれば、皆が一緒に授業を受けるという公益が害されるではないですか。個人の自由ではあるけれど。だから私はそんな時、皆の公益のためにその子がちょっと自制するよう頼んだのです。

そして小学校なら、春休みが終われば新学期が始まります。新学期の初日は、春休み前に教室の後ろに机を片付けたまま、床に座りこんでガヤガヤ言っているような雰囲気です。そんな時は「おい、先生が来る前に皆で掃除して、机を並べて座って待とう」。それで一緒に掃除して机を並べて、座って待ったりしていました。

――リーダーだったんですね。

安:わかりません。簡単に言えば、出しゃばるのが好きだったのでしょう。それは、皆が「ワン・オブ・ゼム」としてガヤガヤしているよりも、ひとつのクラス、ひとつの空間にいる人として何らかの秩序を作ることが皆の利益になると考えたからでしょう。なぜかというと、その状態で担任の先生が来れば皆が「まったくあなたたちは」と耳障りな話を聞かなければならないのです。こんな説教を聞くのが嫌でした。

すべて、広い意味での政治でしょう。自分のプライバシーという空間からパブリックという空間に進み出て積極的に関係を結び、パブリックというその空間が持っている皆の公益という価値を絶えず明らかにしようとして悩む。これが政治家の「徳」ですね。だから幼い頃から私にはそのような気質と資質があったようです。

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「既存の古臭い進歩・保守の構造で問題を解決しようとは思わない」

――「今は支持率が相対的に低いが、実際に選挙戦が始まればひっくり返る」と自信を持って言っていました。「国民が何を望んでいるのか、私にははっきりわかり、それに応じることができる」と自信があるように聞こえました。2017年の韓国の国民が望むのは、一体どんなことだとお考えですか。

安:新しい政治です。2002年にも盧武鉉さんを大統領にした国民です。既成の政治家とはちょっと違ったからです。2012年にも、安哲秀氏(訳注:ソウル大教授でベンチャー経営者だった安氏は2012年の大統領選に立候補を表明し支持率を伸ばしたが、野党候補統一の過程で辞退した。のちに国会議員となり「国民の党」元共同代表)の風を起こしました。なぜでしょう。政治が少し変わることを願うからです。ところが国民には新しい政治への欲求はあるけれども、その欲求はいつも満たされませんでした。私はそうした点で今、新しい政治に向かって挑戦をしているのです。

私は既存の古臭い与野党、進歩や保守といった構造で問題を解決しようとは思いません。アメリカと中国の板挟みになっている終末高高度防衛ミサイル(THAAD)の配備問題や安全保障、外交、対北朝鮮の懸案を見る時も、伝統的な進歩・保守陣営の論理で判断はしません。唯一分断されているこの小さな韓国という国で、5000万人の安全と利益の道がどのように動いているのかということだけで判断します。

私たちが見てきた政治はふたつの国でした。進歩派が考える大韓民国があり、保守派が考える大韓民国があります。和解はできません。その政治では民主主義は成り立ちません。私たちはより良い国のために競争をしていて、その競争の中で見解が少し違うだけなのです。

――これはあまりに理想的な話ではないかという憂慮もあります。一方に立つことを望む人々は他の意見を持つこともできないのでしょうか。

安:私の言う統合は、与党でも野党でもなく、進歩でもなく保守でもなく、ただすべて無視しようということではありません。私たちはふたつの態度を持つことになります。ひとつは私たちが連帯して協力関係をもっと高めるべきという、社会的な連帯の価値です。また、人間は本来不平等だから助け合わければならないという、ヒューマニズムや博愛・連帯精神の価値があります。

もうひとつは、アメリカでいえばジョージ・W・ブッシュ大統領が言うように、所有権者の市民権を中心に自己責任を強調する態度があります。これは私たちの心の中にもあります。

転んだら自分で起き上がるしかないという自主独立の精神がまずあり、足りないところを助け合って生きようという精神があります。これが人類の歴史ではプラス・マイナスのように常に作動している原点です。この原点が進歩と保守の違いを生み出しています。

問題は、自分が善だから相手を一気に処理してしまうという観点で政治をしてきました。しかし本当の民主主義は違います。民主主義は「あなたも正しく私も正しいかもしれない」という多様性と、多元主義的な相対主義を持たなければなりません。

「私が正義であいつは悪だ!打ち破ろう!」。これが革命の時代です。しかし民主主義が定着するには、私たちは異なる見解という事実として相対主義、つまり真理はふたつ以上あるという態度を持たなければ対話ができません。ふたつの異なる見解を完全にごちゃ混ぜにしてひとつにできると主張しているのではありません。民主主義だけが国家の分裂と共同体の亀裂を克服でき、私たち皆がより多くの繁栄の機会を得られるということです。それを生み出す政治が民主主義政治であり、私の言う「新しい政治」です。

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「『私を選べばすべて解決』とは言えない」

――リーダーひとりの哲学だけではそのような「新しい政治」は難しくないでしょうか。

安:憲法の通りにするのが最も重要です。ですから私は大統領に挑戦しながら「私を選べばすべて解決します」とは言えません。なぜなら、議会で法と制度を通じて妥協しなければならないことがとても多いからです。ただし私は国家を民主主義に導き、分断された状況からもっと平和と対話路線に、労使関係と労働分野については賃金の格差を縮小するために努力します。福祉は勤労と連係させて社会的絶対弱者を中心にした福祉財政を優先的に拡大します。たとえばこんな方向性をお話しします。昔の大統領選挙のような、その人が大統領になればほとんどすべてが解決されるかのように約束する選挙をしないことが重要です。そうしなければ政治が滅びます。

次に、私たちが民主主義的に統合して団結することは、誰かの人格に屈服することではないとも思います。「私のほうが優れていて経験豊富だから、お前は私に従うべきだ」。これは昔の話です。私たちが従わなければならないのは民主主義の手続きと規定、過程であって、人格ではないと考えます。

そういう面で、今の韓国は政治的にそれほど変わっていません。大統領は議会の多数派と対話して妥協しなければなりません。パートナーと認めなければなりません。ところが朴槿恵大統領はどうだったでしょう。「大統領が判断して導いていかなければならないのに、議会の与党が大統領の方針に反対している。だったら与党の院内代表も変えてしまえ。野党は毎日、揚げ足を取るばかり」。

首相は国会で承認を受けることになっています。議会の過半数を占める多数派が首相を任命する権限があると解釈すべきでしょう。ところが朴槿恵大統領は、「私が大統領になって、新しい大統領として国を導くから議会も協力すべきだ。国民の皆さん、議会は協力していませんね?」という態度でした。これでは憲法は機能しません。

大統領という直接選挙で選出された行政府のリーダーと議会は、首相と内閣を中心に妥協しろということです。この憲法が機能するには。良い民主主義のリーダーシップで対話を導かなければならないのは基本です。私たちがオバマ大統領に好意を持つ理由は、それではないでしょうか。「あの人は何か対話しようと努力しているようだ。頑固一徹ではないようだ」。これは民主主義国の指導者として当然なければならない素質です。

また、多数決を暴力として使ってはいけません。「私が多数派だ。お前たちは私にひざまずけ」では少数派が激しく抵抗しますから、議会制度はすぐに壊れてしまいます。現在の憲法と民主主義を政治指導者がまともに履行しなくなっているのです。これをまともに履行し、民主主義の国家運営の模範を私が示すということです。

もちろんそれも、反抗して台無しにしようとする人々もいるので、簡単ではありませんけど、私は今、地方自治体の忠清南道で7年間、道知事として働いています。忠清南道はこれまで知事選で民主党が一度も選ばれたことはない地域でした。道議会も与党・セヌリ党と民主党は30対11です。私が就任した時は42対2でした。そのように極端な地方議会でも、粘り強く対話を通じて問題を解決してきました。私が忠清南道でやったように韓国を運営すれば、はるかに生産的な政治になります。

経済

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「新語は作らない、看板のかけかえはしない」

――出馬宣言で、新たな経済政策は特に打ち出さないと言いましたが、その理由を教えて下さい。

安:新語は作らない、看板のかけかえはしないということです。本の内容が同じなのに、表紙を替えたりはしません。1987年からの30年間で韓国政府が試行錯誤してきた経済政策は全部で3つだと私は解釈しています。まず、開放型の通商国家であること。2番目に、イノベーション主導型経済でなければなりません。3番目に、これらを実現するために、民主主義による市場経済をより確固たるものにしなければなりません。急に看板を掛け替えても、新たな政策を打ち出したことにはなりません。

――むしろそれはかえって現実的でないと?

安:はい。30年の間にすでに打ち出された内容だと言いたいのです。そして、そこに一言つけ加えるなら、政治と政府が出るべきところもあれば、出るべきでないところもあるということです。農作業をする時、まじめな農夫が作物を枯らすと言います。「あれ、どうして芽が出ないんだ?」と水をやりすぎると、種が腐って死んでしまう。つまり、政府と政治がこれまでの朴正熙式の国家主導型の発展モデルばかり見て、何もかも政府がやろうとすればどうなるでしょうか。政府の役割を本来の位置に戻さなければなりません。

韓国人は今、さまざまな課題に直面しています。今まで、靴を造り、かつらを造り、機械工業に進出し、携帯電話を造り自動車を造り、船を造って売ってきました。そして今、これらの市場は息絶えつつある。結局、別のチャレンジをする必要があり、今も挑戦中なのです。韓流という文化コンテンツを通じて多くの市場が開け、医療サービス、教育市場サービス、また、金融もそうですが、さまざまなタイプの産業競争力を確保せねばならないということです。そのために違った形の教育政策を実施し、そこに照準をあてた人材を育成する必要があります。開放型の通商国家戦略こそが進むべき道であり、ほかに道はないと考えています。

そして、雇用の問題ですが、今までは企業がやってきたことでした。事業で成功した友人たちを見てみると、彼らには起業家精神があります。ところでその起業家精神にも、商人的マインドがあり、製造業の起業家マインドがあり、ベンチャー企業の起業家マインドもあります。今の韓国人には、新しいタイプの起業家マインドと、多様なタイプの起業家が必要なのです。

ところが、今なぜ起業家が投資を行えず、雇用が増えないのか。1つには、安哲秀氏が言っていた通り、サムスンやLGといった系列のネットワークから外れると成功の道筋が見えてこないため、挑戦できない。2つ目には、昔のような、早く安く仕入れて売るという貿易が通用しなくなったことがあります。科学技術に基づいた新たな産業や商品、サービスでなければ通用しません。そのためには科学技術が韓国人の飯のタネを作らなければならないのですが、現在、韓国内の大学と国策研究機関は、飯のタネをもたらす科学技術を作り出せているでしょうか。この問題を解決しようとするのが、イノベーション主導型の経済発展戦略です。

これまで政府が介入し過ぎて問題となるケースが多くありましたが、手を出すべきところに手を出さずにいたことも問題となりました。例えば、李在鎔・サムスン電子副会長の場合、60億ウォンの財産を相続してそれを8兆ウォンに増やしました。最高裁で無罪になりましたが、常識に当てはめて正義と言えるのか。政府の本来の役割を定めないといけません。

財閥改革

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「打倒サムスン、打倒現代が目標であってはならない」

――ほぼすべての候補者が財閥改革を口にしていますが、懐疑的にならざるを得ないことも確かです。安熙正氏の考える財閥改革の目標とは何でしょうか?

安:難しい問題であるという現実を韓国人全員が認めなければなりません。現在までの韓国の経済成長の根幹に、財閥という非常に悪質な毒があまりに密接に関わりすぎているからです。この手術は容易ではありません。多くの産業の構造調整と雇用問題に強い影響をおよぼすことになります。そのため事実上、長い物には巻かれろと現状維持を許している部分もあります。

現在、財閥問題の核心は何かというと、世襲による相続で大金持ちになることが正義と言えないこともありますが、より本質的には、市場において公正な競争を妨げていることこそが問題なのです。護送船団方式のグループに入れば、パン屋だろうと何だろうとみな自分たちの内部取引で食べさせていく。そこにはすでに、持って生まれて裕福な既得権者と、それ以外の恵まれない者からなる世界ができている。そのために公正さを欠いた市場の競争構造を打ち破ることが、財閥改革が求められる理由の核心なのです。

新たな構造を作るためには、公正取引委員会や独占禁止法などの諸制度が公正に運営されなければなりません。また、金融産業の構造改善に関する法律だとか、相互出資・循環出資の規制を見直す必要もあるでしょう。中小企業からの人材・技術流出に対して懲罰的な賠償制度を新設するとか、現行制度の運用が厳格なのかという問題もあります。こういう努力を通して、実質的に産業環境の不公正さや、公正さを欠く市場のルールを正していくことが、我々のいう財閥改革の核心目標なのです。

ただ、この問題については、お互い誤解のないようにとも思っています。「あの人は財閥側の人間みたいだ」といった「財閥の味方呼ばわり」はいけません。片方は「手術に失敗したら、外科手術にたとえれば患者の命を危険にさらすようなもの」と判断していて、もう片方は「果敢に切り込めばいいんだ」という差があるでしょうが、ここで治療の必要がないという人は誰もいないでしょう。つまり非常に単純化して、誰かがサムスンの側だとか財閥の味方だということは望ましくない。相手を非難して孤立させることは効果的な論法かも知れませんが、問題解決の場ではまったく有効ではない対話術です。

――インターネットで騒がれている話を耳にしたでしょうか。盧武鉉政権とサムスンが非常に深い関係にあったという話もあり、安熙正道知事が「サムスンから金をもらった奨学生」だというコメントも見ました。

安:はあ…私がそれをどう言えばいいのでしょうか。2002年の大統領選挙の時、大企業各社から違法な政治資金を受け取ったためにそう言われるのでしょう。それは、私が会計の最終責任者であったためです。私が誰かと親しかったからではありません。何らかの悪意…極度に単純化して非難しようとする人達のせいでそう言われるのでしょう。サムスンも現代(ヒュンダイ)も、優れたグローバル企業として、引き続き育てていくべき国民的企業です。彼らの内部取引や独占的地位をどう改善すべきかが重要なのであって、「打倒サムスン」「打倒現代」が目標であってはなりません。

盧武鉉政権時代にもっと確実な財閥改革を望んでいた人たちからすれば「なぜ解体できなかったのか」と言うのですが、それも韓国の国民と世論、また、時代の力量でできる限りのことをした結果です。大統領が絶対的な権力をふりかざせる国ではありません。

今、多くの国民が、韓国の不公正な産業環境を改めるべきだと訴えるから、李在鎔副会長も国会の聴聞会に出てこざるを得ず、特別検察官に呼び出されずにはすまないわけです。金大中、盧武鉉政権の時代について言うと、万一同じような措置を取ろうとすれば、「経済が困難な時に何を言う」と、強い抵抗が起きたはずです。韓国の市民意識がそれだけ発展したということです。このように発展した市民の意識と民主主義の力量が韓国市場の民主主義を作り出す際にも、最も重要な力となります。そういう方向に進むべきなのです。

福祉

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「無償化を持ち出すこと自体、私には理解できない」

――他の候補者の掲げる福祉の公約について「施し的な政策だ」「ポピュリズムだ」と批判しました。福祉は「施し」ではなく基本的人権だという社会的な合意の流れがありますが、逆行しておられるのではありませんか?

安:私がある大学で講義をした時、学生たちが大学授業料の半額支給と大学の学費無償化について、私がどう考えるのかと尋ねてきたのです。それで大学生のみなさんにこう言いました。「今、国家の状況をかんがみた時、労働力が失われる高齢化時代に、君たちのおじいさんの世話をすることが、私からすれば最も重要なことだ」と。2番目には「働く能力が絶対的に乏しい乳幼児や子供を育てることが重要です。そしてその次には働く能力、経済力を失った障がい者を助けることです。タイタニック号で救命ボートに乗る順番どおりでなければなりません。この方々を乗せる救命ボートすら不足しているのが今の韓国です。

ところで、政治家が選挙前に現れて学費の半額免除を公約するなど、私からすれば本当に理解できない(訳注:朴槿恵大統領は2012年の大統領選で、大学授業料の半額免除を公約した)。政治がそうあってはならないと申し上げたい。つまり、子供たちには本当に申し訳ないが、私もよりよい大学政策を打ち出したいけど、現在の国家財政における優先順位からすれば、今すぐ約束できないことを分かってほしい。代わりに皆さんが学費の融資を受けて、社会人になった時に多額の借金を抱えることを防ぐための保証だけはしよう。だからもうちょっとだけ我慢してほしい。我々の親世代は今、あまりにも大変なんだ。僕たちを育てるために洗いざらい使い果たしてしまって。…(目頭を熱くして)田舎にいる両親を思うと急に涙が出てきました。私の親ではなく、普通に、みんなの親のことです。

ともかくそういった順番を(決めて)財政を組むべきですが、今はその財政の消耗がものすごいんです。ですから、無償だとか何とか持ち出すこと自体、正直私には理解できません。

福祉政策は私からすれば3つに整理できます。1つは共同体の人間としての道理です。お隣が飢え死にしそうな時に自分だけ食べるのは人間じゃありません。この共同体に人間の義理の全てがあります。ですが、働く能力を失ったり、経済活動ができない社会的弱者が優先されるべきです。

今、そして未来のためにも、0歳から5歳までの保育に国がより確実に責任を負うべきだと考えています。最も優秀な教師が安定して見守るべき課程が保育だと考えています。むしろ大学院の博士クラスが保育にあたればいいんです。人材が唯一の財産ですから。ところが今、最低賃金ギリギリの保育園の先生たちにろくな待遇も与えず、身分も安定させず、監視カメラを設置して子供を虐待していないか監視するのが子ども政策と言えるのでしょうか。

福祉政策は最も基本的な共同体の義理と義務を果たすべきところ、倫理と道徳と義務にかかわる問題です。これが福祉です。積極的な富の再分配と、経済循環としての福祉政策がベーシックインカム(基礎所得保障)でしょうか。基礎所得保障の良し悪しや制度の是非はさておき、順序からすれば、(基本的な共同体の義務を果たすことが)より急務だと強調するばかりです。

私はですから「学校給食の無償化」という言葉は使いません。なぜそれが無償給食になるのでしょうか(訳注:2011年にソウル市で学校給食の無償化が政治問題化し、住民投票や市長の辞職につながった)。国家が教育の義務を果たす場でお金を使う順序からすれば、私は保育が一番先に来ると思います。支持を広げるための手段として福祉論争を挑むのは控えようと主張しています。そんなことをしたら、よい政治を作るのが難しくなります。働く能力については、働ける人には働き口を提供し、働く能力のない人には、我々が責任を取っていこう。そうすると、現在韓国人が取り組むべきなのは老人福祉と、児童と保育の問題、障がい者の問題になるのです。

――それらが優先されると?

安:はい、その通りです。そして働く能力のある方には、どういう働き口を得られるかに関連した福祉政策が重要となり、現在の4大保険制度(国民年金、健康保険、労災保険、雇用保険)の給付率をどう高められるかが重要となります。雇用保険に加入して失業者となった時、失業保険を受けたとして、給付額が4人家族の都市平均の生活保護費にも満たないとすれば、雇用保険はすでに機能を失っているといえるでしょう。それなら、既存の雇用保険制度をどうするのか、まず議論すべきですよね。つまり、こうした既存制度の整備について話し合わず、学生に例えれば、次々に新しい参考書を買ってきては勉強しろというようなものです。政治と選挙という空間の中で、政治が今、過剰になっているせいでしょう。30年間、政党政治に携わってきた職業政治家としての安熙正の主張です。

雇用

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「『ソウルにいなければ敗者』600年続いた一極集中の是正を」

――雇用が不足していて、特に若者を対象とした質の良い働き口が不足しているという話をよく耳にします。正規雇用と非正規雇用の賃金格差もかなり深刻ですが。

安:今、雇用が全くないというわけではありません。しかし、この公正さに欠ける産業構造の中で、働きたいと思う職場は大企業や公務員しかなく、このような状況を招いているのです。そのため雇用の数はあっても働きたい仕事はないんです。経済の民主化を通じて、働きたいと思える雇用に変えていかなければなりません。しかしこの政策は非常に複雑なものです。「同一労働同一賃金」のルールを作っていくこと。それを実施すること。ところが、政府レベルで何か規則を作ろうとしても、実施することができません。

また、労働市場での市場原理というものは、需要と供給を通してのみ価格が決定されるわけではありません。労働組合と雇用主との社会的な妥協の結果でもあります。自動車産業の垂直構造を例にあげてみましょう。ドイツの自動車企業の下請け中小企業と、韓国の現代自動車の協力会社は、利益構造が全く異なります。韓国では本社がものすごく優位ですが、ドイツはそうではありません。これは長く続いた労働組合の闘いの結果なんです。これは今すぐに私が大統領になったとしても一朝一夕にして正すのは難しい問題です。しかしこうした方向に進むために努力しなければならないことだけは明らかです。

大企業と中小企業の賃金格差の問題だけではなく、私はさらに決定的な問題があると見ています。「ソウルにいなければ敗者」という韓国の一極集中の問題です。これは600年の伝統なのです。中世の王朝時代から続いた覇権の秩序が、私たち皆を蝕んでいるのです。ソウルにある多くの中小企業や地方都市にとって一番の問題は、人材を見つけるのが難しいということです。賃金格差もそうですが、ソウル一極集中が持つ文化的、社会的覇権のために生じた問題です。この構造を是正しなければなりません。

だから私は「なぜ政府が権力を握って離さないのか、地方自治体に権限を与えよ」という話をしているのです。ソウルにいなければ敗者になる、この600年の覇権の秩序を正してこそ、我々は活動の場が広がり、雇用の機会も広がるのです。

さらに企業経営者の活動を活発にすることも必要です。政治家たちがこぞって「私が雇用を増やした」と言いますが、税金を使って雇用をいくらか増やすのがそんなにすごいことでしょうか。雇用とは、市場と経済の中で、多くの企業の挑戦と投資が作り出すものではないでしょうか。税金を使って生みだされた雇用は国民にさらなる負担となります。全く不要な政策というわけではありませんが、企業の投資を活性化させる措置がもっと必要です。経済の民主化、イノベーション主導型、労働市場の整備、そして積極的な企業買収と、不採算企業の構造調整。これらを通じて、企業経営者たちが問題を解決できるようにしなければなりません。

例えば倒産しそうになった場合、早く整理して次に進めるようにしなければならないのですが、それができないためギリギリまで耐えて、支えあっていたもの同士が揃って倒産するのです。最後まで耐えさせてしまう理由は、労働市場の硬直性や、産業構造調整への社会的な制度が不十分だという問題もあります。複合的な政策を通して、雇用拡大へ努力する段階に入らなければならないのです。

女性・マイノリティー

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同性婚「制度化の議論、まだ難しい」

――女性に対して、どれくらい理解しているのか、気になります(笑)実際、男女比で言えば、男性が圧倒的に多いところを経験してこられましたよね。

安:韓国社会で男として生きてきたということは、常にそういう教育を受けていたということです。特に幼い頃は「台所に入ってはダメだ。男じゃなくなる」と、いつも言われてきました。ですから私も、韓国の男性中心の不平等構造の中で成長してきたことは、間違いありません。

――家事をしますか?

安:しますよ。

――本当ですか? 料理はしますか?

安:おとといは子供2人が遊びに来たので、スパゲティを作りました。私が作るものは美味しいですよ(笑)。

――ご自身をフェミニストだと思われますか。

安:分からないですね。私は一人の民主主義者であり、ヒューマニストです。ただ、フェミニズムを通して、私が持っていたヒューマニズムというものが、一方的な、男性中心のヒューマニズムだったのだな、と気がついただけです。私たちが持っている人文学的な認識や世界観もすべて、「男」という窓から見つめているのです。今はようやく、ワイドブラウン管、つまりジェンダー的に広いブラウン管で眺められるようになりました。ですから、人間や人生への理解の幅が、以前よりもはるかに広がりました。

――中絶手術の合法化についてはどのような考えをお持ちなのか、知りたいです。

安:難しいテーマです。合法と言うからには、法と制度によって、そのルールを決めなければなりません。しかし、それが難しいのです。「死」の領域をどこに定めるか。実際、どう見ても難しいことなのです。(子宮に着床している)この状態も、一つの生命であることだけははっきりしています。しかし、これは生命の問題でもあるのですが、ある女性はこう言うのです。「反対だと言うなら、子供が生まれたとき、あなたたちがみな育ててくれたらいいのに。望まない妊娠をしたのに、結果的にどんな責任も持とうとしないのに、なぜ私の権利を侵害しようとするのか」。こういう女性の意見をたくさん聞きました。それも、一人の人格として、十分に主張し得る内容です。しかし、法と制度を通じて何かをつくり上げるということは、それを積極的に奨励するという意味にもなります。また、非常に厳格に規制したり、管理したりするという面もあります。この境界線上で、制度化が難しい面があり、私も今すぐ答えを出すのは困難です。

――アメリカや、その他の国では、今や同性婚を合法化する動きがありますよね。しかし、とりわけ韓国では、まだ腫れものに触るようなレベルに留まっていますが、どのような考えをお持ちですか。

安:中絶からこの同性婚に至るまで、私たちが制度化をするということは、社会的な合意がそれだけ形成されているということを意味します。しかし、私たちがこの件で社会的な合意を得ることは、まだ難しいでしょう。社会の制度になるということは、私たち全員のルールになるということです。約束事を決めるには、合意に至るまで、多くの時間がかかります。

同性愛について、私たちは性的指向と個人的な選択権を尊重しなければならず、それを人格的に非難してはならないと思います。しかし、それを制度化するには、社会関係の問題になるので、多くの合意と努力が必要です。韓国社会が中絶の合法化や同性婚について、制度化の議論を受け入れるのは、まだ少し難しいでしょう。

――そうだとしても、今後も少数者の声に耳を傾けてくださることを期待してもいいのですよね。

安:はい。人権の分野では、私たちは一切の差別を拒否し、差別に反対しなければなりません。私はその点では、女性であれ、性的少数者であれ、差別を受けることに反対します。しかし、先ほど申し上げたように、社会での制度化は、また別の領域になります。多くの国民、市民の社会的な関係性の中で合意がなされた上で、制度が運営されなければならないので、その分、多くの説得を重ねるプロセスが必要になります。

安全保障・外交・対北朝鮮

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トランプ大統領と「対話の道は十分見いだせる」

――李明博、朴槿惠政権で、南北関係が非常に悪化しました。これをどうしていきますか。また、金剛山観光や開城工業団地についてどのような立場なのか、知りたいです。

安:まず、北朝鮮の核が問題になります。解決するためには、ひとまず南北間の対話をしなければなりません。北朝鮮とアメリカも対話をしなければなりません。南北間での対話を基に解決を図ることで、朝鮮半島の非核化プロセスを踏んでいく必要があります。

ただし、現在、国際社会では、国連安全保障理事会の常任理事国以外は核兵器を持ってはならないと約束をしてしまっています。NPT(核不拡散条約)という、国際的なルールがあります。北朝鮮はこのルールから一方的に脱退し、国際社会から制裁を受けているのです。私たちも国際社会の一員として、この制裁に共に参加しなければなりません。しかし、私たちは同時に、当事者でもあるので、もう一歩進んで、対話をしなければならないのです。対話をして、何かしら突破口を探さなければならないでしょう。そのようなプロセスを通じて、結果的に平和体制を早く築かなければなりません。いつまでこうしているつもりですか。

――ドナルド・トランプ氏がアメリカの大統領になって、早くもたくさんの政策に取りかかっており、反発もあります。米韓関係への影響について懸念もあります。

安:多くの国が懸念を抱いています。アメリカが孤立主義を選ぶことで、全世界の自由貿易や交易、また、様々な地域紛争の増加といった、多くの懸念が生まれています。しかし、その一方で、トランプ大統領はアメリカの利益のために一生懸命闘おうとしているとも言えます。

ただ彼は、少し違うやり方で、アメリカの利益を守ろうとしているのです。友好国に対して、アメリカが一方的に損をしているから、非常に難しい状況にあるのだと考える多くのアメリカ人の支持を受けて大統領になったので、トランプ大統領は少し露骨に、アメリカの利益を守ろうとするでしょう。

しかし、対話の道は十分に見いだせると思います。「彼は特定の理念、信念を持っているから危険だ」と言う人もいますが、私は、先入観を捨てるほうがよいと思います。トランプ大統領は、オバマ政権のやり方ではアメリカの利益が守られないと考えており、自分が考えるアメリカの利益に従って行動しようとするでしょう。それに対して私たちは、対話を通じて、問題を解決しましょう。危険で困難な要素として作用しているのは明確な事実ですが、あまりおどおどしたりするのはやめようと申し上げたいです。

――世界各地から、テロのニュースが入り続けており、不安が高まっています。韓国はどのように対応すべきだと思われますか。

安:東西冷戦で巨頭が代表して争った時代は90年代に終わり、今は、様々な形のテロの脅威が存在しています。しかし、韓国の憲法精神のとおりに私たちが努力すればよいのです。人類の共栄と世界平和に寄与する国として私たちが進むことだけが、様々なテロの脅威から国家と国民の安全を守る道でしょう。一切の侵略戦争に介入してはいけないし、一切の覇権争いに加担してもいけません。憲法前文の精神のとおりに国家を導いてこそ、様々な形の危険要素から、韓国を安全に守ることができます。それが、おそらく最も重要な原則になるのではないでしょうか。

――最後にもう一つだけ。先ほどの民主主義に対するお話の中で、多様性について言及されましたが、安熙正知事が考える民主主義と多様性とは、何でしょうか。

安:生命の本質が、多様性です。生命にコピーはあり得ません。ですから、多様性こそ、ある意味では生命の本質と言えるかもしれません。そのような点で、私たちはみな、互いに違うということを認めなければなりません。

青年時代、革命をすべきだと考えていた頃は、「この世の中には真実と偽り、その二つしかない」と思っていました。しかし、1987年の民主化運動が終わり、私、または私たちみなが認識したことは、偽りと真実、善と悪の概念よりも、私たち誰もが多様な存在であるという事実を受け入れ、どうすれば、それを共存のための価値としながら、社会的な関係性と国家体制を築いていけるか、ということでした。これこそまさに、民主主義の課題なのです。

ハフィントンポスト韓国版に掲載された記事を翻訳・編集しました。

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