青林堂の社員「パワハラで適応障害・休職」と提訴 経営者から「バカ」「スパイ」と連日罵声

「ガロ」や「カムイ伝」などで有名な青林堂も、最近は『そうだ難民しよう!』などの書籍が社会問題化していた。

出版社の「青林堂」(東京都渋谷区)の社員が、経営陣から罵声を浴びるなどのパワハラを受け、適応障害となって休職に追い込まれたとして、同社と蟹江幹彦社長らに対して損害賠償1100万円と未払い給与など計約1800万円の支払いを求め、2月13日に東京地裁に提訴した。

「月刊漫画ガロ」や「カムイ伝」などで有名な出版社だったが、近年では難民を中傷する『そうだ難民しよう!』などの書籍が社会問題化していた。出版傾向は大きく変わった。社内で何が起きたのか。

記者会見した(左から)鈴木剛・東京管理職ユニオン執行委員長、中村基秀さん、佐々木亮弁護士

訴えたのは、埼玉県の同社社員、中村基秀さん(48、休職中)。訴状などによると、中村さんは2000年代前半に営業職で青林堂に入社後、約2年で別の会社に転職。2014年に偶然出会った社長に誘われて再入社した。このとき、3カ月の試用期間後に正社員として雇うという約束を会社側が守らなかったため、中村さんは個人加入の労組「東京管理職ユニオン」に加入して団体交渉を求めたところ、解雇を通告された。中村さん側が申し立てた地位保全と賃金支払いの仮処分が認められ、2015年9月には都労委で中村さんを復職させることで和解が成立した。

2015年10月に復職した中村さんに、会社は自費出版の営業や編集補助などの仕事を命じたが、就業時間中の外出禁止や残業禁止を申し渡した。他の社員とは別の部屋に隔離され、パソコンはインターネットやプリンターに接続されておらず、名刺の作成も拒まれたという。

中村さんが録音していた会社幹部とのやりとりによると、業務報告を求められ、仕事の環境が整っていないと抗議すると「お前がバカだからできないんだよ!」「無駄メシ食らい」といった罵声を浴びせられたという。

中村さんは、約300時間に及ぶ経営陣とのやりとりを録音しており、提訴後に東京・厚労省クラブでの記者会見で、音声の一部を公開した。

社長「お前がバカだからできないんだよ!」

中村「バカだからできないんですか?」

専務「そうだよ、能力が足りないからじゃない」

社長「みんなできることじゃないか、こんなことは!」

2015年10月29日の音声 ※注:クリックすると音声が再生されます)

専務「自分が社長に信頼されるようなこと、何した? 売り上げは上がらない。会社はめちゃめちゃにする、ブラック企業だって言われる」

社長「こういうふうにうちを混乱させて…周囲に知らせて、うちのスパイじゃん」

専務「スパイだよね。スパイって楽しかった?スパイごっこ楽しかった?楽しそうだったよね」

2016年1月22日の音声 ※注:クリックすると音声が再生されます)

専務「今日の業務命令にあなた拒否をしてますから、サボタージュとみなして、スト決行、はい、12時」

中村「すみません、僕の話は聞いてもらえないんですか?」

2016年1月26日の音声 ※注:クリックすると音声が再生されます)

2016年2月2日から、朝に身体が動かない、原因不明のせきなどの症状を訴え休職。適応障害や鬱病と診断され、心療内科に通っている。

提訴前に取材に応じた中村さんは「会社は自主退職に追い込むつもりだったのだろうと思う。自分も当初は退職するつもりだったが、仕事に絶望していた若手の同僚を助けてやるために、絶対に復職しようと思っていた。でも彼らもみんな退職してしまった。現状では、今までのことにきちんとけりをつけてもらいたいという気持ち」と話す。

東京管理職ユニオンも原告として名を連ねている。中村さんとの交渉の中で組合を誹謗中傷し、何度も脱退を働きかけたことを不当労働行為として、550万円の損害賠償を求めている。記者会見で鈴木剛・執行委員長は「パワハラの相談を受けることが非常に多いという点では普遍的な事件だと強調したい。こういうことを職場からなくす必要がある」と話した。

青林堂は2月3日、1カ月以内に復職しなければ退職させると中村さん側に文書で通告し、未払いの社会保険料約125万円の支払いも求めた。担当者はハフィントンポストの取材申し込みに対し「中村氏の案件については、Twitterで経緯を説明しています」「当社の関係者名簿が持ち出されて、東京管理職ユニオンから文書が送られており、その件についても触れていただきたい」とも述べた。

同社はTBSの取材に対し、Twitterで以下のように回答を公表している。

青林堂は1962年に編集者の長井勝一氏(故人)が設立。1964年に「月刊漫画ガロ」を創刊し、白土三平「カムイ伝」や水木しげる「鬼太郎夜話」などの名作を世に送り出した。しかし経営難が続いていたとされ、1996年に長井氏が死去した後、経営者が入れ替わる中で現社長が経営を引き継いだ。2010年ごろからはムック「ジャパニズム」や、人種差別をあおるヘイトスピーチが社会問題化した「在日特権を許さない市民の会」(在特会)桜井誠・元会長の著書などの書籍を多数出版している。

2015年12月には、難民を中傷するイラストを描いた漫画家の画集「そうだ難民しよう!」を出版し、「あからさまな差別の扇動」と批判されていた

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