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トランプ大統領のイエメン軍事作戦、成功を強調するホワイトハウスの主張は事実なのか

2017年03月01日 01時07分 JST | 更新 2017年03月01日 01時31分 JST

アメリカ中央軍が1月29日未明に実施したイエメンのイスラム過激組織「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)掃討作戦は、ドナルド・トランプ大統領が承認した初めての軍事作戦だった。

しかし結果は、9人の女性と10人の子供が死亡し、アメリカやサウジアラビアと同盟を結んでいた部族指導者までも殺害してしまう結果となった。

米軍側にも死者が出た。掃討作戦の一員だった、海軍特殊部隊「ネイビー・シールズ」のライアン・オーウェンズ特殊作戦指揮官が死亡した。マイアミ・ヘラルド紙によると、父親のビル・オーウェンズさんは2月26日、ワシントン郊外のドーバー空軍基地にライアンさんの遺体が到着した時、トランプ大統領が来てビルさんと妻のマリーに慰めの言葉をかける予定だったが、拒否したと語った。

ビルさんが礼拝堂の牧師からトランプ大統領がこちらに向かっていることを告げられると、「申し訳ありませんが、トランプ大統領と面会したくありません」と伝えたという。「騒ぎを大きくしたくはありませんでしたが、良心に従い、大統領との対話を拒否しました」

また、ビルさんは「息子の死を隠れ蓑にして、原因調査を回避しないでほしいのです」と訴えた。「調査をしてほしいのです。政府は息子のために調査する義務があります」

この作戦では他に6人の米軍兵士が負傷し、軍用機が危険な着陸を余儀なくされ、攻撃で破壊された。

軍事関係者によると、1月29日の作戦は十分な情報、地上支援など適切な準備がないまま実行され、アルカイダ側から予想以上の抵抗に遭遇したという。

部族長アブデル=ラウフ・アル・ダハブ氏が写った2013年度の写真。

生存者や目撃者の証言によると、イエメン・ヤクラ地区の村で実行されたこの襲撃で、10人の子供と9人の女性を含む少なくとも25人の民間人が死亡したという。生存者らはイエメン政府に対し、今回の襲撃についてアメリカ政府に再調査を促すよう求めた。

アルカイダに拉致された部族メンバーの解放に尽力していたシャイフ(部族の長老)も犠牲になった。また、シーア派の反政府勢力「フーシ」との戦闘でイエメン政府に協力していたシャイフのアブドゥル=ラウフ・アル・ダハブ氏も死亡した。

AP通信によると、シャイフの一部はアルカイダと長い間関係を保ってきたが、2013年、地域からテロリストを掃討するためにイエメン政府と協定を結んだ。

■ ホワイトハウスは成果を強調するが…

トランプ大統領が初めて指揮した今回の軍事作戦について、数多くの疑問が浮上している。

ホワイトハウスは、「襲撃は成功した」と繰り返し主張している

死亡したアブドゥル=ラウフ・アル・ダハブ氏とつながりのあった政府関係者は、イエメン、アメリカ双方に大きな犠牲が生まれた今回の襲撃計画について、疑問を投げかけている。

攻撃を仕掛けたネイビー・シールズは、地雷が埋設され、狙撃兵や重武装の兵士によって守られたアルカイダの基地に遭遇した。当初の予想以上にアルカイダの兵士たちが重武装だったことが判明している。

トランプ氏は、軍事関係者が十分な情報、地上支援、適切なバックアップの準備がないと警告していたのにもかかわらず、掃討作戦を承認したことでで大きな批判を受けている

「報道によると、オバマ氏なら作戦を絶対に承認しないと言われた後に、確信をもってイエメン襲撃作戦を実施してしまったという」トランプ大統領は、オバマ政権は決して実施することはない作戦だろうと言われていた、イエメンでの不十分な対テロ作戦を開始すると決めていた。

また後になって、作戦時にトランプ氏はシチュエーションルーム(ホワイトハウス西棟の地下にある状況分析室)におらず、ホワイトハウス内の住宅地区にいたことが判明した。

トランプ氏が指揮したイエメン襲撃の「成果」は、子供たちを殺害することだった。

ホワイトハウスのショーン・スパイサー報道官は、この襲撃は「見事な成功をおさめた」と主張している。

スパイサー報道官は2日の会見で、「イエメンで行われた掃討作戦は、十分に情報収集がされていた」と語った。

「結果は見ての通りでだ。見事に成功した。目的を達成し、我々が苦しんできた命の損失を防ぎ、犠牲者が生まれることを抑止できた」

トランプ政権はイエメンの襲撃を「大成功」だったととらえている。この成功で犠牲になった兵士と30人の民間人は、コメントできないというのに。

米軍は、掃討作戦が失敗した原因を調査している。

「当初、ペンタゴンは民間人の犠牲者が発生したことを否定していたが、日曜日にイエメン当局が「アラビア半島のアルカイダ」が運営するソーシャルメディアサイトで襲撃の際に犠牲となった血まみれの子供たちの写真が掲載されたことを発見し、動揺が走った」【重要】ペンタゴンは当初、トランプ氏が承認した作戦でイエメンで民間人の犠牲者が発生していたこと否定していた。それは嘘だ。

上院軍事委員会の委員長のジョン・マケイン上院議員(共和党)は今回の掃討作戦について「7500万ドルの軍用機を失っただけでなく、より重要なのは、アメリカ人の命が奪われていることだ。成功とは言えない」と批判した

トランプ氏はTwitterでマケイン氏に反論した。

マケイン上院議員は、メディアに対して作戦の成功と失敗について話すべきではない。テロリストに屈してはならない!彼は長い間負け続けている…

…とても長い間だ。彼はもはや勝つ方法を知らないのだろう。ちょうど私たちの国が行き詰まり、紛争に陥っているのをただ見ているだけなのだ。私たちのヒーローである…

…ライアンは勝利のミッションで死んだ(マティス国防長官はこう言っていた)。作戦は「失敗」ではない。アメリカを再び偉大にする時が来たのだ!

マケイン氏の発言の翌日、スパイサー報道官は「作戦は間違いなく成功した。作戦がうまくいかなかったと考えている人はライアン・オーウェンズ司令官の犠牲にひどい仕打ちをしている」と反論した。

「彼は危険な任務であることを承知の上で戦った。彼が作戦の危険性を知っていなかったという人は、今回の作戦が成功したことを全く認める気もなければ、称賛する気もないということだ」

スパイサー報道官は、トランプがベッドで寝ている間に一人のシールズ隊員が死亡することとなったイエメン掃討作戦について、ジョン・マケインのに対する批判を「不名誉なこと」だと批判した。

■ イエメンで再び台頭するアルカイダ

今回の襲撃で、イエメンのアルカイダが他の数多くの部族との関係を作り上げてきていたことが、アメリカ軍の空爆で民間人に犠牲者が出たことをネタにして戦闘員の補充を行っていることを通して明るみに出た。

「アラビア半島のアルカイダ」は、スンニ派のアブド・ラッボ・マンスール・ハディ大統領、そして彼と協力関係にあるサウジアラビア、アラブ首長国連邦から事実上の支援を受けており、2014年終盤から1万人以上が殺害されたシーア派反政府勢力「フーシ」との戦闘を繰り広げてきた。

ドナルド・トランプ氏は、2月1日の襲撃で殺害された米軍兵士ライアン・オーウェンズ氏の遺体を迎えるため、大統領専用ヘリ「マリーンワン」に搭乗した。JONATHAN ERNST / REUTERS

イエメン政府はこの数年「アラビア半島のアルカイダ」を厳しく取り締まっていたが、結果的に、「フーシ」掃討を優先してアルカイダの活動を許容することになった。

今回の掃討作戦の目撃者によると、ヤクラ地区の犠牲者のうち、少なくともアルカイダ兵士が6人いた。

また、部族の指導者や関係者によると、2013年に母国から逃亡しアルカイダに所属する女性サウジアラビア人が、同じくアルカイダに所属するイエメン部族の息子の家で隠れていたという。

しかし、アルカイダに所属していた今回の犠牲者は全員、それほど大きな役割を任されていない戦闘員だったとみられる。犠牲者の中には、テロリストのネットワークを利用し、拉致された同じ部族の人を助け出そうとしていたシャイフもいた。

アメリカ国防総省の高官は、「今回の掃討作戦は特定の人物を標的にしておらず、ある情報に基いて実施され、成功したものだ」と語った。この高官は、この掃討作戦について、自分の名前を匿名にすることを条件として話した。

襲撃で破壊された家を探し回る住民たち。

アメリカ中央軍司令部は、14人のアルカイダ兵士を殺害したと発表した。その中には戦術と武器の専門家であるアル・ダハブ氏と兄弟のスルタン氏が含まれているという。

しかし、ヤクラ地区の村に住むイエメン人たちは、掃討作戦を「情報機関の失敗だ」とみている。 「アルカイダを始末したいなら、こんな小さな村じゃなくて周辺の山岳地帯を攻撃するべきだ。アメリカ人の情報は間違っている」と、村の長老アジズ・マブハウトさんは語った。

ヤクラ地区襲撃の直前、アブドゥル=ラウフ・アル・ダハブ氏は近隣のマリブ州でハディ政権の軍事長官と会談している。会談には、アルカイダのアル・ダハブ氏の補佐官ファウド・アル・カシ氏が同席していた。この会談は他にも2人の軍事関係者が目撃、あるいは手伝っていたという確認がとれている。 この2人の関係者は、匿名を条件に会談について語った。

およそ800人の部族戦闘員を指揮していたアル・ダハブ氏は、イエメン軍との5日間の交渉の中で、反政府勢力「フーシ」との戦闘で兵士を増強するために約1500万のイエメン・リヤル(約670万ドル)を受け取っていたとファウド・アル・カシ氏と2人の関係者は語った。アル・ダハブ氏は会談後ヤクラ地区に戻り、襲撃前日の夕方、アル・カシ氏は兵士にその金を配った。

上院軍事委員会委員長のジョン・マケイン上院議員が、ドナルド・トランプ大統領からの批判的なコメントについて記者の質問に答える。J. SCOTT APPLEWHITE/AP

イエメン軍のモラルガイダンスを指揮し、実質的な広報官に相当するモハーレン・カスロフ将軍はテレビ局「アル・アラビヤ」に、アル・ダハブ氏がハディ政権と協力して、イエメン西南部にあるバイダ州ラダー地区付近の町をフーシから奪回しようとしていたと語った。

アル・ダハブ氏の一族は、もともとバイダ州で18人の兄弟と異父母兄弟で構成されている強力な軍隊を持っていた。しかし、一族は長老権をめぐり長い間争って分裂しており、一部はアルカイダに合流している。一族の少なくとも3人はアルカイダの上級幹部であり、そのうち2人はアメリカの無人攻撃機(ドローン)の空爆で死亡し、残る1人のタレク氏は一族の争いで死亡した。アルカイダが一族を支えたこともあり、姉妹のうちの1人は「アラビア半島のアルカイダ」首脳でプロパガンダを担当していたアンワル・アル・アワラキ氏と結婚し、2011年のドローン攻撃で殺害された。

しかし、タレク氏の死後、2012年に一族の指導者になったアル・ダハブ氏は、繰り返しアルカイダへの帰属を拒否しており、アルカイダに不信感を抱いていた。その理由は、地域の他の部族と著名な人物によると、彼が指導者に帰属を誓っておらず、政府とのつながりを持っていなかったからとのことだ。彼らはテログループとの問題に巻き込まれる恐れから、匿名を保つことを条件としてAP通信に語った。

ハディ政権の広報官ラジー・バディ氏は、AP通信のコメント要請には返答しなかった。AP通信がアリ・モフセン副大統領にメールを送ったが返信はなかった。

アメリカ政府関係者は、アル・ダハブ氏とハディ政権との関係を掃討作戦の計画に関わった高官が知っていたかどうかという質問に回答しなかった。

トランプ大統領がデラウェア州のドーバー空軍基地を訪れ、特殊作戦指揮官のウィリアム・ライアン・オーウェンズ氏に敬意を表した。MARK WILSON VIA GETTY IMAGES

■ 伝わってこない凄惨な襲撃現場

「アラビア半島のアルカイダ」は2009年に設立され、金、家族関係、あるいは脅迫という手段を使い、イエメン国内の部族との同盟を強化しようとしている。

部族によって「アラビア半島のアルカイダ」との同盟に参加する、同盟を反体制派への対抗策として用いるなど、立場は異なる。ある部族は同盟に協力し、ある部族は同盟を避けた。いくつかの部族は分裂することもあった。

イエメン情勢が複雑になる中、アルカイダは2015年以来ハディ大統領支持派の勢力と共に、非公式にシーア派の反政府勢力と戦っている。アルカイダはしばしば、ハディ大統領を支持しているサウジアラビアとアラブ首長国連邦が資金提供している超保守的なイスラム原理主義民兵と協力関係を結んでいる。これにより、バイダ州を含む、かつてアルカイダが追放された地域へと帰還できるようになった。

AP通信によると、米軍の掃討作戦について、8人の証人と現地の生存者、そして著名な地方部族の長老からの証言が得られた。

彼らの話によると、1月29日午後1時30分ごろ、ネイビー・シールズがヤクラ地区を襲撃したとき、ベイダ州の人口密度の低い地域で銃撃戦が始まった。村の戦闘員が発砲して銃撃戦が勃発し、攻撃ヘリコプターから空爆があった。戦闘は数時間続き、少なくとも3つの家屋が破壊された。

アル・ダハブ氏が居住していた場所から遠く離れていない場所に住むシャイフのアフメド・アル・サラミ氏は、「牛や羊も死んでしまった」と語った。彼はネイビー・シールズと戦うために武器を手に持った村人たちの中にいた。

この掃討作戦の標的は、アル・ダハブ家に属する6棟の家と、地元部族の長老アブドラ・マブハウト・アル・アメリ氏だったとみられる。村人の証言によると、アル・アメリ氏の息子で、アルカイダ戦闘員のモハメド氏が、襲撃当時家にいた。また、逃亡したサウジアラビア人のアルカイダ女性戦闘員アルワ・アル・バグダディ氏、同じくアルカイダ戦闘員の弟、そして妊娠中の妻とその姪が別の家にいた。部族の長老と関係者は、モハメド氏が彼らを収容していたとみている。

彼らのうち、姪以外全員が殺害された。

アル・ダハブ氏の家には、アルカイダによって拉致された親戚を解放するため、他の部族から送られてきた15人の代表団がいた。目撃者によると、80歳代の部族の長老シェイク・シフ・アル=ジュウフィ氏は、家から出たところを銃撃されたという。

「動くもの全てが無差別に攻撃され、あたり一面が銃弾の嵐でした」と、代表団のメンバー、アブドゥッラー・アル・ジュウフィ氏は語った。「頭が吹っ飛ばされていなければ、頭を下げ続けなければいけない。これが私たちがしたことです」

アル・ダハブ氏の一族のうち、アブデル=ラウフさんとスルタンさんのほか、アンワル・アル=アワラキ氏の娘アンワール・アル・アワラキさんを含む3人の子供が殺された。 アンワル・アル=アワラキ氏の長男アベル・ラフマンさんは2011年、ドローンの攻撃で殺害された。

アル・アメリ氏の一族は最も被害を受けた。反政府主義者との戦闘前夜に資金提供を受けていたサレ・モーセン・アル・アメリ氏によると、5人の女性、6人の子供を含む13人が殺害された。

戦闘から逃れようとしたサレ・モーセン・アル・アメリ氏の娘ファティムさんは、彼女の6人の子供のうちの1人と家から逃げ出したが、銃で撃たれて死亡したという。

「しばらく経って私たちは彼女の身体を引っ張り、無意識を失いながらも生きていた、母の血で塗れた彼女の子供を見つけました」

ハフィントンポストUK版より翻訳・加筆しました。

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