歌謡賞の授賞式でトロフィーをオークションにかけ「お金がない」と訴えた韓国の歌手

「賞金が出ないので、今、このトロフィーを売らないといけません」

歌謡賞を受賞した歌手が、授賞式の場でトロフィーをオークションにかけ、現金を手にしながら芸能界のブラック労働の実態を訴える――。

そんなパフォーマンスが韓国であった。

ソウルで2月28日にあった「第14回韓国大衆音楽賞」でフォーク部門の最優秀賞に輝き、授賞式で舞台に上がった歌手のイ・ラン(31)は、変わった感想をスピーチした。

中央日報によると、イ・ランは「友達が、金と名誉と楽しみのうち、2つ以上が満たされなければ(授賞式に)行くなと言ったけど、授賞式は面白くもないし賞金もない。名誉は本当に感謝しています」と言った。

続いて「先月の収入が42万ウォン(約4万2000円)でした。音楽収入だけでなく、総収入です。今月はありがたいことに96万ウォン(約9万6000円)でした。それで、ここで賞金をもらえればよかったんですが賞金が出ないので、今、このトロフィーを売らないといけません」と宣言した。

「月の家賃が50万ウォン(約5万円)なので、50万ウォンから始めます」と、その場でオークションを始めた。

トロフィーはすぐに会場の男性が落札し、現金を支払った。

イ・ランは「名誉とお金を得ました。皆さんは楽しみを得ました」と述べて、舞台を後にした。

この背景についてイ・ランは、授賞式直前の2月28日午前、Twitterで連投していた。

「1カ月の半分以上を、いろんな人といろんなことを相談する『打ち合わせ』に費やし、週1回の講義(1時間5万ウォン程度)、原稿数本(10~20万ウォンの間)を書いたら1カ月が終わる」

「率直に言って、打ち合わせも重要だけど、打ち合わせ自体はすぐに収入にならない。(相手は給料をもらっている場合が多いけど)だから打ち合わせのときはおごってくれると嬉しい」

「雑誌のインタビューも撮影も格好良く見えるけど、一銭にもならない。車代も出ない。皆さんそれを知らない。これは本当に問題だ。私は雑誌にきれいな写真だけ残して飢え死にするかもしれない」

■会場の受け止めは「パフォーマンスとしては成功」

イ・ランは2012年8月にアルバムデビューしたインディー系のシンガーソングライター。薄給で働かされる芸能界のブラックな事情を訴えようとしたと受け止められ、大きな反響を呼んだが、ちょうど新作のアルバムが発売されたばかり。会場は「計画的なパフォーマンス」と受け取った人が多かったようだ。

最優秀ロックアルバム賞を受賞したグループ「ABTB」のドラマー、カン・デヒはハフィントンポスト韓国版に「現金50万ウォンを払った瞬間、パフォーマンスだと分かった」と言う。

「50万ウォンを払った男が、イ・ランの制作に関わるスタッフだったことは、知ってる人ならみんな知っている。同じミュージシャンとしてお金の話を話しにくいこともあったけど、パフォーマンスとしては成功だと思う」

選考委員会の音楽評論家の一人も「深刻な話をアーティストらしく取り上げた。スピーチも堂々としていて楽しかった」と評価した。

イ・ラン本人はハフィントンポスト韓国版に「賞金もないのに事前に受賞するかどうかも教えてくれなかったので、受賞したらオークションをしようと思った。着飾って参加したのに手ぶらで帰ることになったら虚しいと思った」と述べた。

「オークション以外のパフォーマンスも考えたけど、朝起きて通帳の残高を見たら、私自身びっくりして、正確な数字を公表しなきゃと思った。このパフォーマンスはあちこちで非難されているけど、もし同じパフォーマンスを男性ミュージシャンがやったら、もっと楽しい風刺として受け取られたのではないか」。

ハフィントンポスト韓国版に掲載された記事を翻訳・加筆しました。

韓国の近現代がカラーで蘇る

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