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障がい者のいる家庭との接し方にためらってしまう...当事者はどう感じている?

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YOKOHAMA PROJECT
ヨコハマプロジェクト「ダウン症のあるくらし」冊子に登場する兄弟 | ヨコハマプロジェクト「ダウン症のあるくらし」より
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家族や知り合いの家に障がいのある子どもが生まれたら、あなたは何と言葉をかけるだろう? 普通の赤ちゃんの誕生と同じように、素直に「おめでとう」と言えるだろうか。

神奈川県で障がいのある人とない人の交流などをしている一般社団法人「ヨコハマプロジェクト」代表の近藤寛子さんは、悪気はなくても知らず知らずのうちに相手を傷つけてしまうような言葉がかけられることがあると話す。

「障がいのある赤ちゃんを産んだお母さんのなかには、周りの人に『なぜ、出生前診断を受けなかったの?』と聞かれる人も多くいます。そう聞かれることで、『自分の子どもは社会に受け入れられないのではないか』という不安を感じ、自分を責めてしまう親もいるんですよ」

一方、「自分が障がい者やその家族を傷つけてしまうことが怖い。だから、障がいのある人やその家族には近づかないようにしよう」と、見て見ぬふりをする人もいる。

ダイバーシティ(多様性)という言葉が盛んに使われるようになるなか、これではダイバーシティをさらに進めた「インクルージョン(包括・受容)」という、ひとりひとりが自分らしく組織に参加している状態には程遠い。障がいのある人やその家族が、すれ違いを感じる時ってどんなときだろう。すれ違いをなくすには? これまでの活動から見えてきたいくつかのヒントについて、近藤さんに話を聞いた。

近藤寛子さん
近藤寛子さん(一番左)とヨコハマプロジェクトのワークショップに参加したある家族(The Huffington Post 撮影)

医療機関とのすれ違い…「告知のときの医者の表情は一生忘れられない」

まず出会うすれ違いの場面は、子どもをとりあげた医師による、告知のときだ。障害がある可能性を告知する際の医師らの表情を「一生忘れられない」と親たちが話すのを、耳にすることがあると近藤さんは話す。

近藤さん自身も、その1人だ。経営コンサルタントの近藤さんには、3人の娘がいる。ダウン症のある3女が生まれたのは、新型出生前診断の臨床研究が始まる前の2012年のことだった。

帝王切開の麻酔から目覚めると、娘が病院から消えていた。呼吸が荒いとの理由で、赤ちゃんは拠点病院に搬送されていた。その日の夕方、近藤さんは医師から、娘の心臓に疾患があり手術が必要だとだけ告げられた。近藤さんは何とか冷静に「手術という解決方法があって良かった」と言ったのだが、医師はためらいの表情を見せた。

翌日、娘にダウン症がある可能性を近藤さんに告知したのは、医師ではなく夫だった。このときようやく、初日に医師が見せた表情の意味を理解した。医師でさえ、「障がいのある子を産むこと」を伝えるのに、歯切れが悪くなると感じた瞬間だった。「ためらうのは医者だって同じだ」と近藤さんは振り返る。

自治体などから提供される情報のズレ…「仕事は続けられるだろうか」の答えが得られない

ダウン症がある、またはダウン症の可能性があると告知を受けた親の多くは、ショックを受けると同時に、ダウン症に関する情報を欲する。しかし親たちは、情報の少なさと提供される情報のズレに直面する。

告知の際に提供される情報は「ダウン症の子どもは約4割が心疾患にかかる」といった、医療情報を中心とした内容だ。反面、親たちが求めるのは、「仕事は続けられるだろうか」「しつけはどうしたらいいのか」「きょうだいにはなんと説明すればいいのか」といった、中長期的な生活が見通せるような情報だ。

妊娠すると、自治体から母子手帳が配られるほか、産婦人科などで子育てに関する様々なリーフレットを入手できる。これと同様に、障がいに関する情報も、早い時期に信頼できる医療機関から最新の正確な内容が欲しい。

しかし、実際には提供される情報は少ないうえ、自治体によっても提供する内容に差がある。結果、医療側からもたらされる情報もまちまちになる。近藤さんが自治体から紹介してもらった医療関係者は、30年以上前に出版された絵本を紹介した。ありがたいことであることにはかわりないが、最新情報が書かれているとは言いがたいものだった。

「妊婦の段階での情報提供のあり方が、アメリカと日本ではそもそも違う」

なかなか国内では自分の欲しい情報が見つからなかったが、世界に目を向ければ必ず情報はあるはずだと近藤さんは確信していた。世界保健機関(WHO)によると、ダウン症の子が生まれる確率は約1000人に1人。「まだ出会えていないだけで、どこかにきっとデータはあるはず」と考えていたからだ。

アメリカの事例を調べていくうちに、近藤さんは「妊婦の段階での情報提供のあり方が、日本と海外とではそもそも違う」と気がついた。アメリカでは、出生前診断などの際にお腹の子に染色体異常の可能性がみられると、専門知識をもった人がカウンセリングするなど、さまざまな検査後のフォローアップが充実している。マサチューセッツ州では2012年、中絶するしないに関係なく、医師が妊婦に中立的な最新情報を提供すべきと法律で定められた。その中には、医師はどんな公的支援があるかも伝えるといった内容も含まれる。

一方日本では、出生前診断は中絶の判断材料と考えている医者もいると、ヨコハマプロジェクトが主催する勉強会で講演したアメリカの専門家は指摘した。ダウン症候群の当事者や家族と医療関係者との橋渡し役の第一人者、ステファニー・メレディス氏だ。メレディス氏は「羊水検査で何らかの異常があった場合、中絶する人が96%もいるのは医者の責任でもあるかもしれない」などと話した。

適切なケアを受けられるよう、母子の体内に関することは早めに知っておきたいが、検査後に手にする正確な情報は日本では少なかった。近藤さんは2015年11月、アメリカの事例を参考に、産婦人科や小児科などで冊子「ダウン症のあるくらし」の配布を始めた。誕生したばかりの赤ちゃんが、乳児期から学齢期、成人になるまでどのように成長するのか、ダウン症のある人との暮らしがどのようなものかをイメージできるものがあれば良いのではないかと考えたのだ。

成長に合わせて直面する課題や活用できる支援制度なども含め、写真を交えて40ページにわたって紹介。これまでに、41の都道府県にある医療機関などから、配布の問い合わせが来た。

冊子は近くの医療機関に置かれていなくても、ヨコハマプロジェクトに問い合わせすれば送付してもらえるが、電子書籍版も用意されている。メールなどでは問い合わせがしにくかったり、海外に住んでいる場合でも、気軽に読んでもらえるようにした。

ヨコハマプロジェクトさんの投稿 2015年10月24日
ヨコハマプロジェクトが作成した小冊子「ダウン症のあるくらし」

「障がい者への恐怖は、自分が知らないことに出会ったときに生まれるのでは」

冊子にはたくさんの笑顔を掲載した。「障がいがあることは不幸だと、勘違いされたくなかったから」だという。

「野球をしたり、高校に通ったり、ファーストフード店で働いたり、それぞれが楽しんでいるんですよ」

近藤さんは、障がいがある人が身近にいないことで、「大変だ」とか「不幸だ」と誤解されたり偏見を持たれたりするのではないかと話す。反対に、もし身近なお店でダウン症の人が働いていたり、ダウン症の子どもが近所の子どもたちと一緒に遊んだり同じ教室で学んでいたりするのを見ていれば、障がいのある人が社会に受け入れられていると感じることもあるだろう。「障がい者への恐怖は、自分が知らないことに出会ったときに生まれるのでは」

ヨコハマプロジェクトは障がいのある人とない人の交流を気軽に楽しめるイベントを企画している。一緒に歩く「チャリティーウォーク」や、おもちゃづくりワークショップなどで同じ体験をすることで、お互いの能力や特性を気軽に知ることができるのではないかと提案している。

近藤さんは、「元々、私たちは、国籍、性別、年齢など多様性がある社会に暮らしている」と話す。これらのダイバーシティを見過ごしてしまい、触れたことのない違いに出会ったとき、とても大きな違いに感じられたり、不安を感じるのではないかという。

近藤さんは、障がいのある人と暮らすイメージについて、「オランダへようこそ」という詩を紹介してくれた。簡単にまとめると次のような内容だ。

「赤ちゃんが生まれるのを待っている時というのは、すばらしいイタリア旅行を計画してるようなものです。
数カ月後、待望の飛行機に乗り込む。ところが着陸後に流れてきたスチュワーデスのアナウンスは…

『オランダへようこそ!』

えっ、オランダ!? いったいどういうこと?

イタリアに行くのを夢見てきたのに、何かの手違いでオランダに到着。ここで過ごすしかないみたい…

ただ、大事な事は…宇宙の彼方、違う星に到着したわけではないということ。
ただ、「少し違う場所」ということだけ。」

近藤さんは、障がいも、オランダのような一つの旅行先のようなものだと話す。

「オランダで暮らすには、イタリアとは違うことを学ばなくてはならないし時間もかかる。でも、意外と素敵な場所かもしれない。

障がいも、そういう感じだと思うのです。一つの個性というか。ダウン症に限らず、自閉症などにしても、旅行先の一つのようなものだと思うのです。もしかしたら、オランダではなく別の国についていたかもしれないですし。

それらの違いに触れてみると、『不安に思うほどでもなかった』『もっと早くにわかっていればよかった』と、ほっとした気持ちになったり、何かしたいと思ったりするかもしれません。ひとりひとりが自分らしく組織に参加できるインクルージョンも、まずは多様さに触れてみることから進むかもしれないと思います」


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