「渋谷をヘイトスピーチのない街に」 住民グループ、東京オリンピック前に条例制定めざす

渋谷駅前のホールで「渋谷・新ダイバーシティ条例推進協議会」が主催するシンポジウムがあり、長谷部健区長も登壇した。

2020年の東京オリンピック開催地となる東京都渋谷区。外国人観光客の増加に備え、ヘイトスピーチ(差別の扇動)により強く対応できないか。

同性カップルを法的に認証する「同性パートナーシップ条例」を日本で初めて成立させ、多様性(ダイバーシティ)の活用を積極的に打ち出す基本構想をまとめた渋谷区で、そんな取り組みを進めている住民グループがある。

2月22日、渋谷駅前のホールで「渋谷・新ダイバーシティ条例推進協議会」が主催するシンポジウムがあり、長谷部健区長も登壇。以下のようにスピーチした。

「差別や偏見はマジョリティー、つまり非当事者の意識の問題です。決してマイノリティーの問題ではなく、マジョリティーの意識の変化を求めていく。これが、重要な問題だと考えています」

「ヘイトスピーチは表現の自由をかたった人権侵害であり、差別意識を助長、誘発を煽る言動は、地域社会にとっても亀裂を生じさせかねない憂慮すべき課題だと感じております。今後は表現の自由との関連を鑑みながら、どういった取り組みが可能か、様々な区民の意見を聞きながら引き続き研究課題としていきます」

シンポジウムには、同性愛を公言し、アパレル大手のGapから渋谷区役所に転職した、男女平等・ダイバーシティ推進担当課長の永田龍太郎さんも登壇。「極端な差別には、ふんわりと支えている層がある。そこへの啓発も大事だと考えています」「ダイバーシティだけでは多様性を認識しているだけ。(多様性をエネルギーへと変えてゆく)インクルージョンがないと前に進みません」と発言した。

協議会の代表を務める長島結さん(46)は、渋谷区で生まれ育ち、今も渋谷区に住む。

東日本大震災後の福島第一原発事故で、食品の放射性物質に関心が高まっていた2012年、区内の住民グループが区議らに働きかけを続け、「安全な食材を給食に使用してください」とする区議会への請願を全会一致で可決させた。

「無名で何の肩書のない人でも、集まって活動すれば大きな流れをつくることができる」と感じたその翌年、新宿などで大きなヘイトデモが起きた。差別が許せず、抗議する一人として路上に立っていた長島さんは、仲間とともに勉強会に出かけたり、ヘイトデモの出発点となることが多い銀座を抱える中央区役所にかけあったりした。

やがて地元・渋谷区で、同性愛カップルに「パートナーシップ証明」を発行することなどを定めた全国初の条例が2015年3月31日、可決された。正式名称は「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」で、前文に「性別、人種、年齢や障害の有無などにより差別されることなく」と、人種を含む差別の根絶をうたっている。

しかし、条文での具体的な言及は性別以外はなく、ヘイトスピーチを規制する具体的な根拠とするには、新たな条例が必要だというのが長島さんらの考えだ。

2016年6月に施行された「ヘイトスピーチ解消法」は、ヘイトスピーチを「不当な差別的言動は許されない」と規定するが、罰則はない。その後、大阪市が2016年7月に被害の申し立てを受けて団体・個人名の公表やプロバイダーへの削除要請をする条例を施行、名古屋市などでも対策条例の検討が始まっている。

新たな条例を区議会で可決させるには、議員への説得や働きかけなど根気強い作業が必要になる。長谷部区長も「まずは啓発活動をどう充実させていくかが重要。その先に必要であれば条例ということも考えているが、簡単にできるものでもない。ぜひ議論を深めて、そういった空気を作る必要があるのではないか」と話す。

長島さんは「2020年東京オリンピックの中心開催自治体の一つとして、ソフト面でも対策を強化しないといけない」と、五輪前の条例制定をめざす。

「国も踏み込んだ規制ができず、多くの自治体も前例主義にとどまっている中、渋谷区は多様な文化を持った外国人住民も多く、条例をつくる街としての資格がある。先進的な街としての波及効果を期待できると思います」と、渋谷で新たな条例を作る意義を語っている。

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