『ベルばら』から『逃げ恥』まで。少女マンガの変遷を追うと「働きかたの変化」が見えてくる

2017年03月29日 15時30分 JST | 更新 2017年03月29日 15時38分 JST

「『ベルサイユのばら』を読んで『女性だって、男性と同様に働くことができるんだ』と刷り込まれたんです」

そう笑うのはキャリアコンサルタントの朝生容子(あそう・ようこ)さん。萩尾望都、竹宮惠子、大島弓子ら「花の24年組」と呼ばれる女性マンガ家の洗礼を受けて成長した後、人材育成やキャリア相談の現場で30年近く経験を積んだベテランのキャリアコンサルタントだ。歴代の少女マンガから、働きかたの変化を読み解いていく。

yoko aso

■70年代の少女マンガに「結婚の先」は存在しなかった

――少女マンガがお好きだそうですが、キャリアや人生観に影響を受けましたか?

ものすごく受けています。私の母は専業主婦で、子どもの頃は「大人になったら結婚して家庭に入るんだろうな」ということに疑問を持っていなかったんです。でも『ベルサイユのばら』のオスカルに出会い、『女性だって、男性と同様に働くことができるんだ』と刷り込まれてしまって(笑)。

『ベルばら』もそうですが、少女マンガの世界では70年代以降、働く女性の姿が多く描かれています。『はいからさんが通る』の紅緒(べにお)は雑誌記者に、『キャンディ♥キャンディ』のキャンディも看護婦になります。職業婦人のヒロインが多いんですね。そういうマンガを読んでいく中で、「女性も働く時代になりつつあるんだな」ということは漠然と感じていました。

ただ、マンガはどの作品も「結婚の先」の現実は描かれない。オスカルは死んでしまうし、他の作品も愛する人と結ばれたらそこでおしまい。結婚したら完結するのが70年代少女マンガの典型的なパターンだったように思います。

■80年代からは「普通の働く女性」が主役に

――80年以降、働きかたを描いたマンガで印象に残っているものはありますか。

柴門ふみさんの作品が時代に与えた影響は大きいですよね。『同・級・生』『東京ラブストーリー』では、一般企業で働くOLが描かれています。メインは恋愛ですが、80年代後半から90年代は「働く女性」が普通のこととして描かれ始めた時代。また、98年にドラマ化された『お仕事です!』は、会社を辞め起業する女性の話です。あの作品で「女性も起業するんだ!?」「キャリアチェンジって勇気あるな」と驚いた人は多いはず。

ちょうど同じ頃、私は新しい環境に飛び込んでみたくて、新卒入社で11年勤めた会社から、人材育成サービスなどを手がける企業に転職したんです。ベンチャーだったので変化も激しくて忙しかったんですが、とても充実した日々でした。

でもそんなときに、ある女性から「朝生さんってまるで『働きマン』ですね」と言われたんですよ。読んでみたら「そうか、私って世間からはこんな風に見えてるんだ……」とちょっとショックでした(笑)。

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■『働きマン』と対をなす『きょうは会社休みます。』

――『働きマン』(2004年~)は28歳独身の編集者・松方弘子を中心に、仕事に奮闘する人たちの姿を描いた群像劇です。男性と対等かそれ以上の猛烈な働きぶりで仕事にすべてを捧げるヒロインの姿は、賛否両論を巻き起こしました。

松方弘子というキャラクターが新しかったのは、「働く」ことに対して疑問を持っていないところ。「マン」というタイトルからもわかりますが、すごく男性的な女性として描かれていますよね。ある意味「島耕作」に近い位置づけです。「全力で仕事に向き合う」女性もいるんだよ、という事実を顕在化させたという点で、すごく意義のある作品だと思います。

一方で、あの作品を読んで「ここまでして働きたくない」と感じた人も多かったのではないでしょうか? 『働きマン』と対照的なスタンスにありながらもヒットしたのが『きょうは会社休みます。』です。事務職OLの花笑が主人公の恋愛モノですね。総合職への転向を断る場面もあり、恋愛、家庭を重視したいと考えている人の共感を集めたのかもしれません。

ただ、私の職業柄、「ちょっと危ういんじゃないかな」と心配にもなりました。花笑が「彼がいなくなったら私に何が残るんだろう」と自問するシーンがあるんですが、「今一緒ならそれでいい」といった感じで完結してしまった。現実問題として夫が亡くなったり、リストラされたりしてしまったとき、「私にもっと経済力があれば」と後悔している女性を私はたくさん見てきました。そういう事例を知っているだけに、もう少し今後のキャリアのことを考えてみても良かったのでは、と思いました。

■『逃げ恥』で可視化された、金銭換算できない家事労働への不満

――最近のヒット作といえば、就職としての契約結婚を描いた『逃げるは恥だが役に立つ』ですね。

『逃げ恥』は、金銭換算できない家事労働への不満、女性のキャリア設計の難しさといった、女性たちの間で潜在的にモヤモヤしていた気持ちを見事に形にしてくれた作品だと思います。津崎平匡(つざき・ひらまさ)さんという男性キャラクターの魅力も大きい。ヒロインの社会的な立場や経歴、肩書きではなく人格を見て、対等に接しているところが女性から絶大な支持を得た理由ではないでしょうか。理と情、両方で相手を理解しようとする真摯な姿が魅力的でしたよね。

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――70年代と今を比較すると、人々のライフスタイルはずいぶん変化しています。女性が仕事に求めるものも変わってきているのでしょうか。

現代は価値観が多様化しており一概には言えませんが、収入や雇用形態に「安定」を求める気持ちはより強まってきている気がします。例えば、かつて事務を請け負っていた一般職の女性は「結婚したら仕事を辞める」という前提の人が多かったんですね。でも今は、専業主婦で生活していけると思っている人は少ない。結婚後も長く働き続けるからこその堅実な選択として、就業時間や環境が安定している事務職を希望する女性が増えています。特に土日休みが難しい、飲食やアパレル業界の人たちからキャリアチェンジの相談が多いのですが、未経験からの転職は簡単ではありません。

■長く働き続けるために、さまざまな職場経験を積むことも大事

――女性たちの長く働きたいという希望と、企業の雇用のミスマッチが起きている?

そうです。企業には、経験だけではなく、その経験から培った汎用的なスキルにも着目しながら選考し、異業種、異職種から転職するチャンスを与えてほしいと思います。また、リモートワークや時短勤務のように生産性を高められるような人事制度を検討したり、あるいは派遣会社の社員として雇用が保障されている常用型派遣社員を採用したりするなど、人材活用の手段を増やすことも重要でしょう。ただし、ひとつの企業がその人の人生をまるごと保障する時代はもう終わります。個人も柔軟にキャリアチェンジできるよう、自分にはどんなスキルがあって、どんな風に組織に貢献できるのか、ということを認知する視点は必要なのではないでしょうか。

そのうえで、キャリアカウンセラーのような第三者と一緒に考えることは効果的です。今の仕事が「望んでいないもの」である人も、第三者の視点を取り入れることで、中長期的なキャリアに生かせるポイントを発見することができるかもしれません。それで「やっぱりキャリアチェンジしよう」ということになったら、自分が成長できる機会をきちんと与えてくれる会社を探してみるのが良いと思います。転職を不安に思う人もいると思いますが、さまざまな職場で経験を積むことも、長く働き続けるうえでは必ず役に立つと思いますよ。仕事って人間をものすごく成長させてくれるものですから。

朝生容子氏 プロフィール

キャリアコンサルタント、研修講師。オフィス・キャリーノ代表。

1988年慶応義塾大学卒業後、日本電信電話株式会社(現NTT東日本)入社。人材開発部門にて若手社員育成、女性活躍推進に従事。その他、マーケティング、経営企画等に従事。1999年に社会人向け教育機関(株)グロービスに転職。企業研修部門において人材育成のコンサルティング、およびキャリア研修講師を担当。2012年に独立。年間、200名以上のキャリア相談実績あり。執筆や講演等でも活動中。2001年英国レスター大MBA。

(取材・文:阿部花恵 / 撮影:西田香織)

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