日本の中高年男性は「世界でいちばん孤独?」 国が抱える深刻な病、その原因とは

日本人をむしばむ「孤独」という最も深刻な病巣は放置されっぱなしなのである。
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新年度が始まった。新たな職場、新たな学校、新たな生活には、どんな出会いが待っているだろう。期待に胸を膨らませる人もいれば、不安を感じる人もいるかもしれない。人生とは出会いと別れを繰り返すものだが、年を経るにつれて、新たな友達づくりが下手になっていく傾向がある。

どうやったら、中高年になっても新しい友達をつくれるのか、そんな話を書こうと思って調べていたら、思いがけない事実に遭遇した。日本の男性はどうやら、世界でいちばん孤独らしい、ということだ。なぜなのだろうか。人々の精神や肉体をむしばむ「孤独」はこの国の最も深刻な病の1つになっている。背景や原因を探ってみた。

年を取ると友人をつくるのが難しくなる

読者の皆さんに「親友」と呼べる人はいるだろうか。筆者にも親しい友人はいるが、学生時代のように濃密な時間を過ごす友達はなかなかいない。

そして人は年を取るごとに、新しい友人をつくるのが難しくなる。また友人の数も減っていく。これはさまざまなデータや研究でも実証されている。2014年のアメリカのフェイスブックユーザーの平均友人数のデータを見ると、18~24歳までの平均が649人なのに対し、25~34歳は360人、35~44歳は277人、45~54歳は220人、55~64歳は129人と、年長者になるほど少なくなる。

2013年のドイツの研究者などによって発表された論文によれば、友人のネットワークの輪は10代、20代を通じて広がり、20代の最後をピークに、その後は縮小トレンドに入っていくという。この背景にあるのは、生活環境の変化だ。家庭や仕事、睡眠、運動、趣味......。20代を過ぎると、とにかく日々、忙しく、毎日のように会い、何でも話し、悩みを分かち合った学生時代のような友人関係を維持することは難しくなる。また、就職、結婚や出産などライフステージが多様化し、それまでの友人とは異なる生活環境に置かれるという事情もあるだろう。オランダの調査では、人は7年ごとに親しい友人の半分を失っていくという。

とはいえ、別に友人・知人が多ければ多いほどいいというわけでもない。イギリスの人類学者ロビン・ダンバーは、動物の脳の大きさと社会関係性はリンクしており、脳が大きいほど、付き合う個体数が多く、取り巻く社会グループが大きいと結論づけた(調査概要はこちら)。そして、人間の脳のサイズによれば、「150人」が適正なソーシャルサークル(友人などとして関係を築く人の数)であると打ち出した。これが「ダンバーズナンバー」と言われるもので、安定した関係性を維持できるのは150人が上限である、ということになる。

その中でも、最も強い関係性を結ぶ第1階層に5人、第2階層に10人、第3階層に35人、最後のレイヤーに100人で合わせて150人、というように構成されているという説を唱えた。つまり、親友や家族としてきわめて緊密な関係を築けるのは5人ぐらいが適正ということだ。何となく腑に落ちやすい数字ではある。

フェイスブックでの知り合いの数が多ければ多いほどいいということではなく、真に信頼できる親密な関係性を他人と築くことができるかが、人の幸福の最も大きな決定要因である――。これは、数多くの権威ある研究でも幾度となく指摘されてきた。ハーバード大学の卒業生を75年間追い続けた研究など、数多くの調査で、「人生で最も重要なのはほかの人との温かいつながりである」ことが明らかになっている。

人の健康にも大きく影響

そうしたつながりがあるかないかは人の健康にも大きく影響する。米ブリガムヤング大学の2015年の調査では、35歳以上の350万人のうち、「社会的に孤立している」「孤独を感じる」「独居」のいずれかの場合、死亡リスクが26~32%高かった。まさに、孤独は寿命を縮めるのだ。「孤独は、たばこや肥満同様、もしくは以上の健康リスク」であることは、多くの権威ある研究によって裏付けされている。

そんな「不幸の魔窟」のような「孤独」という病。これは女性より男性にとって、より深刻な問題だ。イギリスの調査では、51%以上の男性には2人以下しか友人がおらず、8人に1人、つまり約250万人が、まったく友人がいないという結果だった。特に年を取ると、友人が少なくなり、誰も友人がいないと答えた率は、24歳以下は7%だったが、55歳以上は19%に上った。WHO(世界保健機関)の調査でも、4人に1人の男性が、家族や友人など頼れる人がいない、という結果だった。

オジサンはなぜ孤独になるのか。それは男性と女性の人との付き合い方の違いに関連している。男性は人と繋がる時、何かの媒介、物、経験などが必要である場合が多い。一緒にスポーツをする、ゲームをするなど、何かの物理的なきっかけを要するのだ。女性は、そうした媒介がなくとも、関係性を成り立たせることができる。何時間でも電話をしながら、お茶を飲みながら、延々と会話を成り立たせることができる。恋バナ、夫の悪口や子供への不満、語るネタは売るほどある。一方で、男性同士が面と向かって、うわさ話に興じる姿はあまり思い浮かばない。その間には将棋があったり、スポーツがあったり、もしくは仕事の話だったり......。

しかし、誰かと何かを一緒に「する」のはただ、「話す」だけの行為と比べて、時間も手間も掛かる。仕事や家庭に忙殺される中、そうした余裕はなかなかない。

このように、年を取るごとに友人をつくるのが難しくなる中で、特に中年以降の男性は孤独というトラップに最も、陥りやすい人たちということになる。

こうした傾向は世界共通のようだが、その中でも、日本人の「孤独度」は世界の中でも群を抜いて高く、特に男性は世界一「寂しい人たち」という結果が出ている。

世界の先進国が加盟する国際機関OECD(経済協力開発機構)の2005年の調査によれば、「ほとんど、もしくはまったく友人や同僚もしくはほかの人々と時間を過ごさない人」の割合は日本の男性では約17%(女性は14%)で、21カ国平均の3倍近い。もちろん調査21カ国の中ではダントツのトップだ。

つまり、5~6人に1人の男性が絶対的孤独を抱えているという現実。社会から置き去りにされたような孤立感は生きがいや幸福感をむしばみ、生きる意欲をそいでいく。日本人の自殺についての統計を見ると、40~60代男性の自殺率が最も高く、同世代女性の2倍以上に上っている。

孤独を防ぐセーフティネットがない

なぜ、日本の男性はここまで孤立してしまったのだろうか。その1つの要因に、日本社会に孤独を防ぐセーフティネットがほとんど存在していないことが挙げられる。中年以降の男性が友人をつくったり、社会参加をし、孤独を防ぐために、ウェブメディアのライフハッカーは以下のような方法を勧めている

  • Meetupといったオンライン上で同じ趣味の仲間を募ったり、見つけたりするサイトを利用して、気に入ったグループに参加する
  • 講習やクラスに参加する
  • 趣味を通じて仲間を見つける
  • 教会など宗教的な集まりに参加する
  • スポーツに参加する
  • ペットを飼う
  • ボランティアをする

要するに仕事以外での結びつきをつくることが重要ということだ。しかし、そうはいっても労働時間の長い現役世代はなかなか、そうした機会をつくることは容易ではないし、何より、仕事や家庭以外の「第3の居場所」が日本にはそもそも、あまりないように感じる。

同じOECDの調査によると、たとえば、アメリカやスウェーデンなどでは宗教やスポーツ、政治など、3つ以上のグループ活動などにアクティブに所属するという人が多かったのに対し、日本は1つ程度。アメリカでは、コミュニティで活動したり、NGOでボランティアに関わったり、地域の教会の活動に参加する、などという人が多いが、日本では、そうした「第3」のネットワークの存在はそれほど大きくはない。筆者のアメリカ人の知人などでも、教会活動やボランティア活動などを通じて、第2のパートナーと知り合い、晩年結婚をするなどという人も多い。

核家族化、都市への人口集中、血縁・地縁の希薄化に対するセーフティーネットのない日本では、結局のところ、「孤独対策」は行政などに委ねられるしかないということになる。しかし、個々のニーズをすくいとり、対処していくのには限界があり、結果的に、日本人をむしばむ「孤独」という最も深刻な病巣は放置されっぱなしなのである。

(岡本 純子 :コミュニケーション・ストラテジスト)

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