フランスの子供が新生児から1人で寝る理由 出生率2.01の裏に「重圧なく育児できる」環境

合計特殊出生率が2.01と先進国の中では高いフランスには、母親のストレスを軽減させる子育てのスタイルがあった。
Catherine Delahaye via Getty Images
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母親同士で、「母親の務めはいつまで続くのだろう」と話すことがある。子どもが大人になってからも、就活や婚活にまで関与する親は多いという話も聞く。

日本で少子化が進む背景として、母親が感じる重圧が大きいという点は見逃せない。一方、合計特殊出生率(女性が生涯に産む子どもの平均数)が2.01(2014年時点。2015年は1.96)と先進国の中では高いフランスには、母親のストレスを軽減させる子育てのスタイルがあった。

赤ちゃんができたら「子ども部屋」を用意

その1つが、赤ちゃんのころから子どもを1人で寝かせることだろう。日本では、子どもが小さいときは、親子同室で眠る家庭が多い。フランスでは、子どもが生まれるとわかったら赤ちゃんの部屋を用意する。ベビーベッドを入れ、たんすの中には、赤ちゃんの服や肌着をそろえる。早ければ生後数週間から赤ちゃんを1人部屋で寝かせる。

あるフランス人の友人宅でも、生後数カ月の子どもが自分の部屋のベビーベッドの中で、1人で眠っていた。周囲にはおもちゃや絵本が並べられた本棚がある。目を覚ましているときは家族のいるリビングで過ごすが、昼寝の時間や夜になったら自分の部屋に連れていかれる。

赤ちゃんを1人で寝かせておいて、心配にはならないのだろうか。友人夫婦の寝室は、赤ちゃんの部屋とは廊下を挟んだ真向いにあった。友人によると、起きて泣いたら聞こえるから大丈夫だという。泣き声が聞こえたら、赤ちゃんのそばへ行って、おむつを替えたり授乳したりする。赤ちゃんの世話は夫や年長のきょうだいも担っていた。

フランス人が赤ちゃんを1人で寝かせる理由の1つは、自立心を養うためと聞く。また、夫婦で過ごす時間を大切にするため、という理由もある。母親にとっては、赤ちゃんと24時間一緒にならないので、気分転換できるという利点もありそうだ。

別の知人宅を訪ねた際には、こんなこともあった。夜になって知人の幼稚園児の娘が「体調が悪い」と両親に訴えた。彼女は、普段は自分の部屋で1人で眠っている。母親が「今日は、私たちの部屋で一緒に寝ましょう」と言うと、調子が良くないのにもかかわらず、とてもうれしそうにしていた。フランスの子どもにとっては、親と一緒に眠るのは特別なときだけなのだ。

フランスの親は、小さな子どもを他の人に預けることにもあまり抵抗はない。周囲がそれを責めるという話も聞いたことがない。フランス人女性に「日本では、保育園に子どもを預けて働くことに罪悪感を持つ人もいる」と話したことがあるが、女性は心底驚いたという顔をして、「フランスでは、小さいうちから保育園に子どもを預けて働くことは当然のことよ」と言った。

働いている親は、子どもが3歳で幼稚園に入るまで、保育園に通わせたり、ベビーシッターに預けたりする。平日昼間の公園は、ベビーシッターに連れられた子どもでいっぱいだ。仕事中だけでなく、夜に夫婦で食事に出掛ける場合などにも気軽にベビーシッターを頼む。

週末になると、公園には親子連れの姿が多くなる。日本の公園では、砂遊びなどして子どもと一緒に遊ぶ親の姿も目立つが、フランスの親はベンチに座って、雑誌や本を読んだりしているのが普通だ。子どもは子どもだけで遊ばせて、時々チラチラと目を上げて様子を見守っている。子どもが自分で創意工夫して、自由に遊ぶことを重視している。

外で駆け回れば幼い子どもはよく転ぶものだ。日本人の場合は、子どもが転んだらすぐに駆け寄り、助け起こして「ケガはない?」と確認する親も多いのではないか。フランス人の親は子どもが転んでも、血相を変えることはない。子どもが泣きもせず、自分で起き上がり再び遊び始めたらベンチに座ったままでいる。子どもが泣いたときだけ、そばに行って世話を焼く。

子どもの長期休暇でも、つきっきりではない。フランスの幼稚園・学校は、年5回も長期休暇がある。フランスの企業では有給休暇が多いが、すべての学校休暇に合わせて親が仕事を休むことはできない。学童保育のようなシステムもあるが、祖父母宅で子どもを預かるケースも多い。祖父母とはいえ、親と離れて過ごすことは、子どもの自立心を養うことに役立っている。小学生でもパリから1人で長距離列車に乗り、フランス南部にある祖父母宅を訪ねる子どももいた。長期休暇中に夫婦で旅行をするために、祖父母宅に子どもを預けるという家庭もある。夫婦の時間を大切にすることに、祖父母の世代でも理解があるのだ。

親であるだけでなく、自分の人生も存分に楽しむ

こうして、適度に息抜きができるフランスの母親は、子育てにそれほどプレッシャーを感じていないようだ。家族政策が手厚いこともあるが、2人、3人と複数の子どもをもつ人も多い。子育ての一方、自分や夫婦としての人生も楽しんでいる。一人息子を育てる日本人の母親が、「もう子どもは産まない。大変だから」と話すのを聞いたことがある。彼女は教育熱心で、家事もきっちりとこなしていた。日本では、親の務めをしっかり果たそうとする女性ほど、子どもを産むことを躊躇してしまう傾向もある。

自立を重視した子育ては、母親にとって手間が省けて気が楽な面もある。子どもにとっても、親から干渉されず自分で考え行動することは、失敗はあっても長い目で見ればプラスになる。フランス流の子育ては、母親にとっても子どもにとってもメリットがありそうだ。

(国末 則子:フリーライター)

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