性犯罪被害者が語る、刑法改正を早く実現するべき2つの理由 「私は3歳から父に性虐待を受けて育ちました」

元タカラジェンヌの東小雪さん、女優・映画監督の水井真希さんが、それぞれの被害体験を語った。

性犯罪の被害者らで作る有志団体は4月27日、今国会に提出された、性犯罪に関する刑法の改正案を早く成立させてほしいと要望する約8000人分の署名を、衆院法務委の鈴木淳司委員長(自民)らに提出した。

同日、参院議員会館で開かれた記者会見では、幼い頃から実父に性虐待を受け続けたという元タカラジェンヌの東小雪さん、見知らぬ男に拉致された経験のある女優・映画監督の水井真希さんが、それぞれの被害体験を語り、現在の刑法をすぐに改正するべきだという理由を2つのポイントから話した。

■1つめの理由:今の刑法では親による性犯罪の一部は暴行・脅迫がないと犯罪にならないから。

現在の刑法では、強姦罪でも強制わいせつ罪でも、13歳以上の被害者に対する行為の場合には、「暴行又は脅迫」を手段とすることが条件となっている。

この条件を変えるべきだと訴えたのは、東小雪さんだ。

東さんは3歳の頃から、父親に性虐待を受けて育った。「家庭の中ではそれが普通」だったため、東さんは拒否することができなかった。父親はその立場を利用して、暴力や脅迫がなくても、性虐待をすることができた。それを性犯罪の条件にすることはおかしいと訴える。

改正案には、親などの監護者が、18歳未満の人に対して影響力を利用してわいせつ行為や性交などをした時には処罰されることが盛り込まれている。

私は3歳から中学2年まで、父親からお風呂場で性虐待を受けて育ちました。何か変な感じ、嫌な感じがするという風に思っても、大好きなお父さんがすることだから、ただ、どうしたらいいかわからない気持ちで、何か違和感があってもそれを言うことができなかった。

母親に「お父さんにやめてって言ってほしい」と一度だけ言ったことがありましたが、母はその時私に目を合わせてくれることはなく、幼いながらに「あっこれは言ってはいけないことなんだ」と強烈に思ったことを今でも覚えています。

小学校3年生になると被害がさらに悪化して、性器を挿入されるようになったのだと思います。思います、というのは、あまりのショックで「乖離」という状態になり、今でも時系列などが正確でなかったり、上から眺めているような光景が頭の中にあるからです。

そして、被害が非常に深刻なものになってからは学校に行けなくなり、拒食症になったり、視野狭窄や難聴になったりしました。親子で児童精神科を受診しても誰も本当の理由に気づいてくれず、被害を受け続けました。「もっと早く助けてほしかった」という思いが大人になった今の私にはあります。

20代中頃から、PTSDの症状で非常に苦しみました。精神科に入退院、自殺未遂を繰り返しました。リストカットや精神障害、処方薬の依存に苦しみました。自分はどうしてこんなひどい症状がでるのだろう?と思ったのですが、強烈なフラッシュバックが起きて本当に怖い思いをして、お風呂がトリガーになることもしばしばありました。混乱した状態でした。20代後半に、支えてくれるパートナーと出会い、専門のカウンセリングを受けて私は自分を取り戻しました。

親以外の人から愛情をいただいて、今の私があると感謝しています。ですが、幸運があったからサバイブできたというのではダメなんです。見えない、語られない、言えない、子供への性虐待は本当にたくさん起こっています。本当にないことのようにされていますが、ものすごくたくさんの被害者がいます。大人になってから深刻な傷を残します。子供への被害を止めないといけない。加害者を罰しないといけない。そうでないとこの被害はなくなりません。私のような被害者の声に耳を傾けてほしい。

現行の性犯罪の法律では、13歳以上であれば、加害者からの暴行や脅迫がないと性犯罪とはみなされない。あまりに現実と違うことに驚きました。私は3歳から、父親に被害を受け続けていたので家庭の中ではそれが日常でした。暴行や脅迫がなくても小さな頃から被害を受け続けている子はいる。そして、私はどうやって抵抗することができたでしょうか。こうした要件が今でも残っていることに本当に悲しい気持ちがします。

今も被害を受けている子がいる。大人として見過ごしてはいけません。この規定が110年ぶりに改正されるという節目なんです。共謀罪が先に審議されることで本当に落胆しています。少しでも現実に即したものに変えるチャンスを逃さないで、と心からお願いしたいです。

■2つ目の理由:今の刑法で性犯罪は親告罪。被害者が告訴しないと加害者は逮捕されず、被害数にもカウントされない

また、現在の刑法で、強姦罪・強制わいせつ罪は親告罪となっている。被害者の告訴がなければ起訴できない。

しかし警察による捜査の現場や、その他の場面で、女優・映画監督の水井真希さんは、被害者に対して告訴をさせないような実質的な働きかけが行われていたと語る。また、実際の被害件数より少なくカウントされることで、性犯罪の重大性が伝わらない側面があると訴える。

改正案では、被害者の告訴がなくても加害者を起訴できる「非親告罪」化が盛り込まれている。

私は、10代の頃に拉致されたことがあります。通りすがりの男の人に、首に刃物を当てられて粘着テープで縛られ、車で連れ去られました。その男のところに1晩いて、強姦はありませんでしたが、強制わいせつの被害にあいました。

なかなか自分自身でもそのことを受け止めることができなくて、警察に届け出ることができませんでした。そして、届けたあと、しばらくして犯人は逮捕され、裁判の時に、私のあとにも被害者がいたということがわかりました。

よく世の中で「日本は安全な国だ、性犯罪なんてそうそう起きない」なんて言われたり、インターネットでもそういう風に言われるのを目にします。でも私はこの15年間で40回ぐらい、性犯罪の被害を受けています。電車の中でのいわゆる痴漢とか、帰り道に男に襲われるとか、被害にあっているので、人間1人が15年で40回ってものすごい頻度。なんで「そんなにあるわけないじゃん」とか、思われるのか?全くわからないなって思ってます。

でも、私がその40回のうち、警察を呼んだのはその半分以下で、書類を書いてもらったのはさらにその半分以下なんです。なぜ書類を書いてくれないか。家の近くで男に襲われた時に私はすごく大きな悲鳴をあげて、男はその場から逃げて行きました。表に出てきた近所の人のどなたかが、110番通報してくれて、警察が来たんですが、犯人は逃げていて、物的証拠もたいしてない。そういう中で警察官は、「これ、被害届書きます?もし書きたいなら明日警察署来てください」って面倒臭そうに言ってすぐ帰っちゃったんです。だから私の被害は世の中の性犯罪被害として、カウントされなかったんだと思います。

強姦罪・強制わいせつ罪の認知件数は、年間約8000件だそうです。私のような被害がそのカウントに含まれていないから、「交通事故の方が多いんじゃない?」ってなるんじゃないでしょうか。

性犯罪は親告罪になっていますよね。だから、被害にあった人自身がこれを届け出ませんと言えば、被害が発生したことにならない。だから警察も裁判所も仕事が減る。っていう風に、口には出さなくてもみんなそういう風にしているんじゃないかと私は受け止めました。

だから、非親告罪化することは非常に重要で、日々のニュースを普通に見ている人が「日本って意外と性犯罪って多いんだな」と気づいてもらえると思います。

何も警察批判だけをしたいわけではなくて、私が真に求めているのは、被害にあって泣く女の子を少なくしたいということなんです。

というのも、私が拉致の事件で警察に行くのをためらっている間に、第2、第3の被害者が生まれていたんです。私が犯人を現行犯逮捕か、それに近い、例えば車のナンバーを覚えておくだとか、そういう状況で逮捕できていれば、被害を防ぐことができたんじゃないか。そのことを私は何年も悩んでいました。

だから、被害者を増やさないためにも、犯人を捕まえていくしかないって思っているし、電車で痴漢にあった時に、急いでいるからとか、私さえ黙っていれば、と諦めてしまう子たちに、きちんと訴えるということを言っていきたいと思っています。

■後回しにされた性犯罪に関する刑法改正

政府は、性犯罪被害者らがかねてから要望していた、厳罰化などを盛り込んだ刑法改正案について、今国会に提出した。

改正案には、記者会見で被害者が語った2つのポイント以外にも重要な変更が含まれている。例えば、肛門や口へ無理やり性器を挿入することを、女性器への挿入と同等の被害として扱うという変更は、見過ごされてきた男性の被害者を平等に取り扱うためにも必要なものだ。

しかし、自民・公明両党は、後から提出された「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織的犯罪処罰法改正案を、今国会で先に審議入りさせた。被害者らは後回しにされた刑法改正案は、6月18日までの会期中での成立が難しい状態とみている。

左から弁護士の太田啓子さん、東小雪さん、水井真希さん、戒能民江さん(お茶の水女子大名誉教授)

有志団体の取りまとめを行った太田啓子弁護士は記者会見で、「私自身も性暴力に関する事件を取り扱う中で、性被害の実態と今の法律が大きく離れていることを強く感じてきました。女性が関与していない、100年以上も前に作られた法律が使われている現状には問題がある。改正案にはいろいろな意見がありますが、やっと一歩踏みだせると思った矢先にこのようなことになり怒りを感じている」と話した。

また、別の市民団体「性暴力と刑法を考える当事者の会」代表の山本潤さんらも27日、自民党の司法制度調査会に出席。同じく、性犯罪に関する刑法改正案を現在の国会で早期に成立させるよう訴えた。

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