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「差別の視線が同性愛者を死に追いやる」鈴木賢教授は訴えた。一橋大学アウティング事件

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LGBTなどの性的指向・性自認について、本人の了解を得ず暴露する「アウティング」について議論する討論会が5月5日、東京・御茶ノ水の明治大学で開かれた。大学院生がアウティングを受けた後に転落死した事件について、自身も週刊誌でアウティング被害を受けた、明治大学法学部の鈴木賢(すずき・けん)教授が「彼を死に追いやったのは大学であり、社会」と訴えた。

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討論会で話す鈴木賢教授(左端)。最も右は木村草太教授


■一橋大学アウティング事件とは?

2015年に一橋大学・法科大学院の男子学生のAさんが、同性愛者であることを同級生に暴露された後、転落死した。Aさんの遺族が、大学と同級生に対して計300万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしている。今回の討論会は、遺族を支援する有志団体が主催した。

遺族の代理人である南和行弁護士によると、Aさんは2015年4月3日、同級生に「はっきり言うと、俺、好きだ、付き合いたいです」と恋愛感情を告白した。同級生は「付き合うことはできないけど、これからもよき友だちでいて欲しい」などと返事をする。

その後、クラスの仲の良い友人達でつくる「LINE」のグループに、「おれもうおまえがゲイであることを隠しておくのムリだ。ごめん」と投稿して、Aさんがゲイであることを友人グループに知らせた。その後、Aさんは心身に不調をきたすようになり、同年8月24日、授業中に校舎のベランダを乗り越え転落死した。

裁判で同級生側は「第三者に言ってはならない義務はない」と、アウティングに違法性はないと説明。Aさんのカウンセリングをしていた大学側も「被害者の死は突発的な自殺行為で予測不可能だった」と主張しているという。


■鈴木教授「被害者の死を無駄にはできない」

今回の討論会は大学の教室で開催されたが、300人ほどの席が埋まり、数十人の立ち見がでるほど。関心の高さを伺わせた。基調講演で鈴木教授は17年前に、週刊誌によってアウティングされた自身の体験を以下のように話した。

「当時は北海道大学の教授でしたが、台湾から来た同性のパートナーと結婚式のまねごとをしました。そのことを週刊新潮に『台湾人男性と結婚披露 北大教授の評判』として、“危ない橋を渡った人、渡らなかった人”というコーナーで取り上げられました。『同性愛者の癖に北大の教授をしている』と、からかう内容でした。このゴシップ記事が出てから、あらゆる学生や同僚にも私が同性愛者だということが知られるようになりました」

ただし、周囲の理解もあり鈴木教授は、大学を辞めることもなくその後も勤め続けたという。その体験を踏まえて、Aさんが死を選んだことについて以下のように訴えた。

「彼は同性愛者だから自殺に追い込まれたのでしょうか。私はそうではないと思います。彼を自殺に追い込んだのは大学であり、この社会です。同性愛者であるから苦悩が生まれるのではありません。社会や同性愛を異端視し、差別する視線が同性愛者を死に追いやっているのです。それを変えない限りは、悲劇が繰り返されます。学校・職場・地域での啓発活動が重要です。異性愛だけが正常ではありません。そもそも多様なセクシュアリティの人がいるということを前提にしなくてはならない。被害者の死を無駄にはできない」


■木村教授が法科大学院に苦言「教育環境としては異常」

後半の討論会には首都大学東京の憲法学者、木村草太教授も出席した。「Aさんの生前、周囲の人が加害者の行為を咎めなかったのはなぜか?」という南弁護士の質問に対して、木村教授は、法科大学院という制度の問題もあるとして、以下のように答えた。

「全国トップの合格率と呼ばれる一橋大学の法科大学院でも、司法試験に一発合格する確率は50%を切っている。苛酷な環境で、人に対して思いやりを持つことが難しい。そういう危険な環境を敢えて作り出すのが法科大学院という制度。高ストレスにさらされた人を20〜30人の小さなクラスに閉じ込めるのは、教育環境としては異常だと思っています。小中学校が『いじめ』が生まれやすいのと同様に、危険な制度を運用しているという認識がまだ弱いです」