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「この4年間、思い出したくもない」文在寅氏の支持者たちは"精神崩壊"の時代を乗り越えた

2017年05月10日 19時12分 JST | 更新 2017年08月23日 15時33分 JST

大気汚染のせいなのか、重く垂れこめた空の下で青い風船が左右に揺れる。日本でもDJ OZMAがカバーしたK-POPグループ・コヨーテのヒット曲『純情』に合わせて「文在寅!文在寅!」のコールが続く。

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5月8日夜、光化門広場に集まった人たちは、文在寅陣営が配布した青い風船や1本5000ウォンのライトスティックで文支持を表明していた

韓国大統領選の投票前日の5月8日午後7時、光化門広場は文在寅(ムン・ジェイン)氏の支持者に埋め尽くされていた。

「彼は有言実行の人。朴槿恵(パク・クネ)は選ばれたのだからちゃんと政治をやってほしかったのに、それがかなわなかった」

こう答えたのは熱心に文在寅氏の演説を聞き入っていた、27歳と31歳の姉妹だ。彼女たちは「私が出馬しても文に投票する」という意味のプラカードを掲げていた。

「壊れてしまった民主主義を立て直してほしい」。1人で訪れていたバリスタ男性は、静かに思いを口にした。

「前回も文在寅に投票して、メンブンになった。とにかく、過去の害悪を清算して欲しい!」

6歳の子供を連れた40代の主婦によって、私は約4年半ぶりに「メンブン」という言葉を耳にすることになった。


■韓国のスラング「メンブン」とは?

「メンブンになりそう!」

2012年12月20日、朴槿恵・前大統領が就任したその朝、私のもとにこんなメールが届いた。その直前の夜、光化門前広場は彼女が所属したセヌリ党の公式カラーの赤で埋め尽くされ、パクサモ(熱心な朴槿恵支持者)の男性がギラついた眼で握る太極旗がひるがえっていた。

メンブンとはメンタルブンゲ(精神崩壊)を意味する韓国語のネットスラング。前回の選挙後、韓国のSNSにはこの言葉が飛び交っていた。日本では「反日」という言説も飛び交う文在寅氏だが、この友人が彼を支持していたのはそんなことが理由ではない。

彼女は当時「朴槿恵政権になったら、自由にものが言えなくなる。政権批判をしたら干される時代が続く。世論が誘導されて、偏った報道しか流れなくなるから」と言っていた。それを聞いた私は正直、少し考えすぎではないかと思っていた。しかし、この4年間の韓国はどうだったのか。

政権に批判的な映画監督をはじめ文化人たちは政府によるブラックリストに載せられ、セウォル号事件や中東呼吸器症候群(MERS)により若者から老人までが命を落とした。なにより崔順実(チェ・スンシル)という民間人を、国政に介入させた。文在寅支持者だけではない。多くの韓国人にとってまさにこの4年間は、メンブンの時代だったのかもしれない。


■文在寅氏の支持者「ずっと悔しかった。でも今は嬉しい」

翌5月9日夜、開票と同時に文候補の優勢が伝えられた約1時間半後、文在寅氏は自身のTwitterに「光化門、11時、一緒にしましょう」と書き込んだ。光化門広場に向かうと昨晩同様、青色で埋め尽くされていた。しかし目がギラついた者は見当たらない。

街中ですれ違っても気にも留めないほどの「普通の市民達」が、特設ステージを前にじっと彼の登場を待っていた。泣き出す者、文コールをあげる者、身を寄せ合うカップル......。セウォル号の遺族たちがステージに上がると、彼らを励ますコールが沸き起こった。その直後、文在寅新大統領が姿を見せた。文コールと、スマホのフラッシュがスパークした。

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「この4年は思い出したくない!」と言う40代と50代の女性二人組。サムズアップは文支持のサインだ。

「辛かったけれど、自分が投票した人が当選して本当に気分がいい」(ソウル在住の40代夫婦)

「この4年間のことは思い出したくもないし、話したくもない。でも今は気分最高! 正義を立て直してほしい」(ソウル在住の40代と50代の女性2人組)

今どんな気持ちかと質問すると、次々に喜びの声があふれた。

「本当、ずっと悔しかったよね。でも今は嬉しいよ」

傍らにいた、「メンブンになりそう!」と言っていた友人は私に笑顔を向けた。かつて彼女は私に泣きそうな表情を見せ、広場からバス停までの帰路を無言で過ごした。でも今日は、こぼれそうな笑顔にあふれていた。


■大学生「政治に無関心だとどんなことが起きるのか分かった」

「崔順実(チェ・スンシル)ゲートが起きるまでは政治に関心はなかったし、自分の生活にどう政治が関係するかも実感できなかった。しかし今は崔順実ゲートを清算しなくてはいけないと思う。その能力もあり行動力もあるのが文在寅候補だと思う」

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選挙当日にこう語った、文在寅キャンプ青年委員会未来世代行動本部長のチョ・ソンヘさん(上写真)は、成均館大学の学生だ。前回の選挙では、別の候補に投票したという。崔順実ゲートは文支持者だけではない。結果的に大学生をはじめ若者たちに政治に関心を持たせ、投票に駆り立てることになったのだ。

「昔は政治に興味を持ったり、候補者を支持することは隠していた。でも崔順実ゲート事件が起きて朴槿恵が罷免されて以来、政治に無関心だとどんなことが起きるのか分かったから、自分も周りの友達もはっきりと政治について声をあげるようになった」(チョさん)と語るように、今回は友人たちも同候補や違う候補のキャンプに参加したそうだ。


■「民主主義とは?」友人に質問してみると...

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5月10日午後、青瓦台に向かう文在寅新大統領の車に光化門前で遭遇。手を振る市民に笑顔を振りまいていた。

翌10日午後1時、文在寅新大統領を乗せた車は青瓦台に向かうために、光化門前広場を通過した。積弊の清算を国民に期待されて当選した文在寅新大統領だが、未来は未知数だ。

私は昨晩ともに過ごした、日本語が堪能な友人に「民主主義ってなんだ?」と質問した。するとこんな答えが返ってきた。

「文在寅がすべてを解決できるとは思っていない。なんでもかんでも期待はしていないし、民主主義が万能だとも思っていない。でも間違っていたと気づいたら間違いを認め、自分たちの手でやり直す。これができるのが民主主義の素晴らしいところだと思っているし、文大統領は国民によって大統領に選ばれたのだから、私たち国民のほうを見てくれると信じている」

4年前、彼女が口にした言葉は奇しくもその通りになった。今回は予言になるのか、空振りに終わるのか。答えに向かう道は始まったばかりだ。

執筆:朴順梨(フリーライター)

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