オウムの地下鉄サリン事件、「共謀罪」では防げなかった 江川紹子氏

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オウム真理教の道場で瞑想する信者(August 11 1999 AFP PHOTO/Toru YAMANAKA/FILES) | TORU YAMANAKA via Getty Images
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オウムのテロ、「共謀罪」では防げなかった 江川紹子氏

 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織的犯罪処罰法改正案が国会で議論されている。政府は「テロ対策に必要」との立場だが、捜査当局による乱用や「表現の自由」などの侵害を危惧する声もある。

 猛毒のサリンを使った凶悪事件などを次々に起こし、社会に混乱を招いたオウム真理教を長く取材してきたジャーナリストの江川紹子さん(58)は、この法律についてどう考えているのか。

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共謀罪の問題点について語る江川紹子さん=山本亮介撮影

 《オウム真理教の暴走は共謀罪では防げなかった。》

 共謀罪の適用対象とされる「組織的犯罪集団」について、安倍首相は地下鉄サリン事件(1995年)を起こしたオウム真理教を例に、「当初は宗教法人として認められた団体だったが、犯罪集団に一変した」と説明した。

 最近、「共謀罪があれば、地下鉄サリン事件は防げた」という声を耳にするが、それは間違いだ。教団の関与が疑われる事件は数年前から各地で起きていた。既遂事件がいくつもあったのに、それらを真摯(しんし)に捜査しなかった警察の姿勢こそが問題だった。

 89年の坂本堤弁護士一家殺害事件も、当時の警察幹部は「失踪」との見立てにこだわった。家族が警察に届けた時点では実行犯は車で移動中だった。ここで着手できていたらと思うと、今も無念でならない。

 94年の松本サリン事件の後、教団幹部らに私の自宅室内に毒ガスを噴出され、命を狙われた。当時、宮崎県の旅館経営者の拉致事件に教団が関与したとの記事を週刊誌に書いていた。直後にガスが吹き込まれた現場を保存したのに、警察は鑑識活動をしてくれなかった。今も一連の捜査の失敗が教訓として生かされているのかも疑問だ。

 たしかにテロ対策は必要だ。ただ、共謀罪がなぜテロを未然に封じるのに有効か、政府の説明が不十分だ。政府が確信しているなら、こんな場合に、こう役立つと説明すべきなのに、聞こえてくるのは、「一般人に影響はない」という話ばかり。

 法務委員会で民進党議員が「オウム真理教の信者の多くは、教団がサリンで人を殺傷しようとしていたことは知らなかった」と質問すると、法務省は「目的を共有していなければ、組織的犯罪集団の構成員ではない」と説明していた。オウム真理教という教団そのものは取り締まりの対象ではないのか、と驚いた。

 問題点は他にもある。目的を共有していたかどうかは内心の問題。どう見極めるのか。身柄を拘束し、無理な取り調べで自白を強いるしかないのではないか。現時点で取り調べの可視化が義務づけられていないのもおかしい。

 本気でテロ対策をやるなら、司法取引も選択肢としてあり得ると考える。坂本弁護士事件でも、実行犯の1人、岡崎一明死刑囚が逮捕前に県警に情報提供を試みた経緯があった。仮に司法取引があればこの実行犯は確実に出頭しただろう。限定的に、慎重な運用が必要なのは言うまでもないが。

 街のあちこちに監視カメラが取り付けられ、メールやSNSで個人情報を頻繁にやりとりする時代。監視そのものに抵抗がない人が増えたのかもしれない。政府や、グーグルなどの情報のプラットフォームからの情報収集には慣れてしまっている。

 「テロ対策」や「安全安心」は一種の「思考停止ワード」。それに「五輪」が加わって、「ちょっとくらい問題があっても、仕方ないんじゃない」と、みんながあきらめてしまっている雰囲気を感じる。政府はそんなワードをてんこ盛りにして、国民に考えることをやめさせようとしている。本当にそれでいいのだろうか。(聞き手・山本亮介)

     ◇

 えがわ・しょうこ 神奈川新聞記者を経てフリー。坂本堤弁護士一家事件を機にオウム真理教問題に取り組む。「検察の在り方検討会議」委員も務めた。

(朝日新聞デジタル 2017年05月12日 21時08分)
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