児童養護施設で暮らすLGBTの子どもが抱える悩みとは? 全国初の実態調査から見えてきたこと

児童養護施設の職員からの「施設にいる子どもがLGBTのようだが、どう対応すればいいのか」という相談がきっかけだった。

「児童養護施設における性的マイノリティ(LGBT)の対応に関する調査」報告会が5月27日、東京・早稲田で開催された。主催は、「LGBTと社会的養護」に取り組む一般社団法人レインボーフォスターケア。4月には、大阪市で同性カップルの里親認定されたことで注目を集めた団体だ。

レインボーフォスターケア代表の藤めぐみさんは、全国初となる調査の経緯について、「LGBTと社会的養護という課題を掲げていく中で、“育てるLGBT”だけでなく、“育てられるLGBT”についても取り組んでいかなければ、という思いから今回の調査を行うに至りました。最近では児童養護施設は小規模化が進んでいますが、集団行動が多いという特性がある。毎日が修学旅行のような状態。日常の場面で困難も多いのでは、ということが予想されました」と語った。

写真左から、一般社団法人レインボーフォスターケア代表・藤めぐみさん、埼玉大学の渡辺大輔准教授、金沢大学人文学類の岩本健良准教授

■「LGBTと思われる児童がいる/いた」施設が全体の45%に

児童養護施設の職員からの「施設にいる子どもがLGBTのようだが、どう対応すればいいのか」という相談を受けて、調査委員会を結成。全国601の児童養護施設に調査票を送り、220施設の職員から回答を得た。

回答によると、LGBTと思われる児童が「現在いる」とした施設は10%、「過去にいた」は29%、「現在にいて、過去にもいた」が6%。なかには「複数いる/いた」との回答もあり、全体の半数近い45%(99施設・のべ144名)に「LGBTと思われる児童がいる/いた」という結果となった。

回答人数133名の内訳は、トランスジェンダーと思われるケースが95名、同性(両性)愛的な傾向がある児童が59名、性分化疾患と思われる児童が2名。

■他の児童との入浴を嫌がる、スカートをはくことを激しく抵抗

職員が「LGBTと思われる」と判断した理由について、以下のような回答があったという。

「他の児童との入浴を嫌がり、同性の担当職員を意識していた」(男児)、「声変わり、ひげ、毛が濃くなることに嫌悪感を抱き、『自分は昔、女だったかもしれない』と発言することがあった」(男児)、「スカートをはくことに激しく抵抗した」(女児)

また、過去に施設にいた女児が「卒園後、数年してから性同一性障害の診断を受け、身体的治療を受けた。戸籍の名前の変更は済んでいるが、性別変更は条件を満たしていないためしていない」という報告もあった。

※調査内の「男児」「女児」は身体の性に沿った表記。

会場となった早稲田奉仕園には、児童養護施設職員、教育関係者をはじめLGBTの問題に関心を持つ出席者が多数集まった

■カミングアウトを通じて施設と学校の連携が強まった好例も

「LGBTと思われる児童への対応と結果」の項目では、「LGBTと思われる児童がいる/いた」と回答した施設のうち67%が何らかの対応をしたという。

「制服のスカートを着用しなくてもいいように学校と調整した」「セクシュアルマイノリティのボランティアサークルの人に相談した」「何気なく(LGBT関連の)本を見せて話をした」など、職員の行動がよい結果に結びついたケースも多く見受けられた。

調査委員会メンバーで静岡大学の白井千晶教授は、「3分の2の施設がLGBTと思われる児童のために、何らかの対応策をとっていました。素晴らしい対応をされている職員の回答も多数ありました。また、職員間の連絡、施設と学校との連携が強まったという声もありました」とコメントした。

■「男女別」の環境が基本であるがゆえに対応が困難

一方で、問題点も浮かび上がってきた。とくに多かったのが、寝室や入浴空間など施設のハード面における課題だ。

「施設の都合上、個室が確保できないのでプライバシーの配慮が難しい。浴室についても大浴場で女子に関しては中高生も複数で入浴することになり、職員の把握できない空間となる」「男女の性別で環境が分かれているため、トランスジェンダーの児童が入所した場合、どちらに配置すべきかという判断が難しい」といった声も寄せられた。

上記の理由から、「(LGBT児童の)受け入れはできない」と言い切る施設もあった。

■約半数の施設「性的マイノリティについての研修を行っていない」

ソフト面の課題もある。全体の約半数に及ぶ48.8%の施設が、「職員向けの性的マイノリティについての研修を行っていない」と回答している。

「昔ながらの感覚で、性別には男と女しかいないと思い込んでいる職員がいる」「トランスジェンダーの児童のことを、他の児童や家族にはどう説明すればいいのかわからない」などの回答から、性の多様性に関する職員側の意識が全体的に低いという実態も明らかになった。

「性的多様性の複合性や可変性、はっきりしないことがもどかしい」という声も、現場の理解が追いついていない現状を表している。

「LGBT児童に配慮しなければならないとの思いやりから、『○○さんだけは誰でもトイレを使っていいですよ。でも他の男子は男子トイレ、女子は女子トイレを使いなさいね』という言い方を職員がしてしまうことで、かえってその児童を孤立させてしまうケースもあります」と白井教授は説明した。

「職員向け性的マイノリティ研修」の必要性について解説する埼玉大学の渡辺大輔准教授

■施設内での性加害・被害の予防の視点も必要に

養護施設に入所した児童の背景から、「性虐待との関連と区別しづらい」というジレンマもある。職員側には児童一人ひとりの個別の性を理解しながら、施設内での安全のために児童間での性的加害・被害を予防する視点も今後は求められていく。

施設に複数の大人(職員)がいることが、LGBT児童にとってポジティブに働く可能性もあるという。

「例えば、3人にいる職員の中で『この人になら話しやすい』という職員を児童側が選べるケースもあるかもしれない。実親ではないからこそ、打ち明けやすいという関係性もあるでしょう。養護施設のいい面と言えるかもしれません。LGBTの児童にとって過ごしやすい環境を整えていくために、今後はさらに詳しくヒアリング調査を行っていくつもりです」と白井教授は総括した。

詳細な「児童養護施設におけるLGBT児童調査報告書」はこちらから確認できる。

(取材・文 阿部花恵

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