「匿名性の低い」地方でLGBT当事者はどう生き、理解を訴えるべきか 明治大の鈴木教授に聞いた

保守的で閉鎖性が強いとされる地方で、LGBTの人権をめぐる理解や活動はどうしたら広がるのか。自身もゲイで、札幌でLGBTの支援活動を続けてきた明治大教授に聞いた。

札幌市で6月1日、性的少数者(LGBT)のパートナーを公的に認める「パートナーシップ制度」が始まり、4組が認定を受けた。同様の仕組みは東京都渋谷区などでも導入されており、札幌市は全国で6番目、政令指定都市では初めてとなる。

制度は、当事者たちの要望活動が行政を動かす形で実現した。大都市に比べて保守的で閉鎖性が強いとされる地方で、LGBTの人権をめぐる理解や活動はどうしたら広がるのか。札幌の制度創設に尽力し、自身もゲイである明治大の鈴木賢教授(57)に聞いた。

鈴木賢・明治大教授

——札幌の制度は、鈴木さんをはじめ当事者の皆さんが声を上げてから1年でのスピード実現でした。地方都市での活動は大変だったのではないですか。

今回はそうでもなかったんです。というのも、札幌は地方といってもある程度都会ですし、かつてはLGBTの権利を訴えるイベント「レインボーマーチ」も開かれていました。LGBTについて理解があるまちです。

制度をつくる行政側にLGBTを理解してくれる人がいたことも大きかったです。前市長がレインボーマーチに参加してくれていましたし、今の市長もLGBTに関しては同じ考え方です。職員も含め、制度創設に前向きでした。

ただ、一般的には、やっぱり地方は匿名性が低い社会であり、その意味ではLGBTに対する理解を広げるのは困難があると思うんです。世間が狭いというか。何かやろうとするとすぐに誰か特定されてしまう。近所の人たちには、子供の頃からよく知られてしまっていますし。

顔の見える関係が強いと、自ずと人の人生に干渉してしまうんでしょうね。社会で広く共有されている価値観からはみ出たていたら、それを注意してあげようとする。それはおそらく善意なのでしょうが、うっとうしいですよね。田舎の温かさが裏目に出ているというか。だからみんな、しがらみのない都会に出ようとするんです。

でもね、一番厄介なのは実は家族なんです。

——といいますと?

親は子どもの幸せを願っています。でもそれはまだまだ、ステレオタイプな幸福観なんです。異性と結婚して子どもをつくって。逆に結婚してないと幸せになれないという考え方。こんな人生観なら、とても同性愛なんて受け入れられません。だから当事者たちは家族や親戚とは疎遠になってしまうんです。

——パートナーシップ制度は東京が始まりでした。LGBT関連のイベントも、東京のレインボープライドが注目されています。やはり当事者は東京など都会に向かうしかないのでしょうか。活動も地方では難しいのでしょうか。

確かに渋谷、世田谷で2015年に同性カップルを結婚に準ずる関係と認める制度ができたことは大きなインパクトがありました。これがきっかけで社会の意識が変わったと思います。

私自身、札幌で30年ぐらいLGBTの権利獲得のための運動をしてきましたが、そんな発想はありませんでした。レインボーマーチはやったけど、同性婚を要求したことはなかったんです。そもそも結婚という制度がどこか家父長制的で、女性に押し付ける印象があったからです。

でもよく考えたら、同性カップルの場合、婚姻が法的に選択できないというのは、明らかに国家による差別なんですよね。実際に結婚するかしないかは別にして、そもそも法的に選べないというのは。

社会保障や税制なども家族単位で決まっていて、結婚することで優遇されることもあるわけで。だから、同性カップルの結婚に注目した取り組みが東京で起きたことには、多様な人がいる強みや発信力を感じました。

ただ、矛盾するかもしれませんが、制度ができたのは東京だったから、というわけでもないんですよ。東京でも制度があるのは渋谷と世田谷だけでしょう。ゲイコミュニティーがあることで知られる新宿や中野ではそんな動きはありません。結局、その自治体の首長次第というところがあります。

東京特有の難しさもありますね。行政機構が大きく、制度まで動かすとなると大変。LGBTの当事者団体も多く、それぞれ考え方が違ったりする。まとめるのに一苦労です。行政に要望に行くと、必ず団体の窓口を一本化してくれと言われるので。

——逆に言うと、地方でもLGBTへの理解促進や活動を広げるチャンスはあると?

そうです。あきらめてはいけません。実際、大阪市淀川区ではLGBTの支援活動が盛んですし、青森でも4年前からレインボーパレードが続いています。最初は数人でスタートしたのが、今年は100人の参加者がいたそうです。北海道でも、札幌の制度創設がきっかけで旭川でも同じような仕組みを求めようという動きがあると聞いています。

——それでも「世間の狭い」地方で顔をさらして実名で活動するのは難しいのではないですか。

ビビる気持ちはわかります。私自身、十数年前に週刊誌によってアウティング(同性愛者だと暴露されること)されたので。私の場合、幸いセクシャリティーで待遇が差別される職場ではなかったのですが、まだまだそんな職場ばかりではないでしょうしね。さらには、学生ならなおさらかもしれません。就職に響くんじゃないかとか。

もし活動したり、カミングアウトしたりするんであれば、それなりの覚悟を決める、あるいは自分に自信をつけるしかないんでしょう。とはいえ、今の若い人たちは割とあっけらかんとしている人が多く、LGBTに対する抵抗感もないように思えます。認知が広がったのと、インターネットを通じて悩みも含めていろんな情報が共有されているのが大きいのではないでしょうか。だから彼らにはすごく期待しているんです。

あとはLGBTのカップル自身がリアルな存在だということを示すことでしょうね。生きているところを見せるといいますか、生活実態を見せるといいますか。

日本では、安定的にパートナーと暮らしているLGBT当事者は少ないと思うんです。同性婚は認められていないし、同性パートナーシップのような制度も始まったのはごく最近。導入自治体もまだ6つ。そして一番の問題は仕事なんです。

特に地方では、女性の仕事が少なかったり、賃金が安かったりして、レズビアンのカップルは一緒に暮らしたくても生計が立てにくいという現状があります。そのため、レズビアンなのに男性と結婚せざるをえない人もいると聞きます。女性の地位が低いという別の問題もからんでいて、ことはLGBT特有の事柄だけにとどまらないのです。

プロフィール

鈴木賢(すずきけん)

明治大法学部教授、北海道大名誉教授。専門は中国法、台湾法など。LGBTをめぐる各国の法制などについても詳しい。自身もゲイで、札幌市のパートナーシップ制度を要望するグループを主導した。

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