ぽっちゃりモデルNao、自分を受け入れたきっかけは何千人もの『プロフィール写真』だった

「みんな完璧じゃないと思うんです。パーフェクトな人なんていなくて、だから、自信がなくても、コンプレックスがあっても、自分を許してあげたらいいんじゃないかなと思います」
Aya Ikuta

日本初のぽっちゃり女性向け雑誌『la farfa』で、創刊当時から専属モデルとして活躍している吉野なおさん(以下、Naoさん:モデル名義)。

彼女は幼い頃からぽっちゃり体型だった。自身の体型を気にするがゆえに、「痩せていない自分は自分ではない」という思いに捕らわれ、約8年間摂食障害に苦しんだ。

でも今は、プラスサイズモデルとして、自信を持って自分を"魅せる"活動を続けている。例えSNSで心ない中傷を受けても、「デブでーす。だからどうしたの?」と言える強さがある。

Naoさんに、摂食障害と向き合ってきた日々や克服のきっかけ、そしてプラスサイズモデルとして、自分の体を好きになれないという人たちに伝えたいことを聞いた。

■好きな人から、「好きだけど痩せてほしい」と言われた

——Naoさんが摂食障害になってしまった原因は、何だったのでしょうか。

小さい頃からぽっちゃりしていて、よく周りにからかわれていました。いじめまではいかないけど、保育園や公園などで遊んでいると、知らない子に「デブ」と陰口を言われて笑われたりして。子どもだからこそ、無邪気に言うじゃないですか。それで傷ついていたけど、どうしたらいいのかもわからなかったし…自分が太っていることがずっと悩みだったんですね。

女性で、例えば「鼻がもう少し高かったら」「目がもう少し大きかったら」とか、「自分のココが気に入らない」という悩みを持っている人は多いと思います。でも、私は自分の存在自体が嫌でした。「この部分がもうちょっとこうなったら」ではなくて、もう、「全部がダメだ」と思っていました。



——「自分の体が嫌い」という気持ちが消えず、摂食障害になってしまったんですね。

思春期になって好きな人ができたんですけど、その人から「好きだけど痩せてほしい」と言われたんです。「中身は好きなんだけど、もうちょっとダイエットしてほしい」って。それがきっかけで本格的なダイエットを始めました。食事のカロリーを計算するようになって、「これは食べたらダメ」とだんだん過激になってきて。18、19歳くらいの時には、固形物を食べるのが怖い、ちょっとでも食べたら罪悪感がすごいという状態になってしまいました。

——ダイエットで、どれくらい痩せてしまったのですか?

ピークよりは30kgくらい痩せて、47kgくらいになったんですけど、心の中では「私まだ太っている」って思っていました。

痩せると、まわりの人が褒めてくれるんですよ。「痩せたね」って。それがまた嬉しくて、食事量を減らしました。食事の量を減らすと、最初は痩せていくので、「じゃあ食べなければいいんだ」と思って、飲み物しか口にしないとか、そんな毎日が続きました。でも、常にストレスで。ずっと食べ物のことや痩せることを考えていて、何をしていても集中できなくなるくらいでした。

ある時、それが爆発して過食をしてしまいました。それがさらに罪悪感になって、そのストレスを解消するためにまた過食してみたいな…。悪循環に入ってしまって、8年くらいそんな状態が続いていました。

——過食と拒食を繰り返していた?

主に過食ですね。嘔吐はしなかったんですけど、たまに下剤を使ったり、前日に過食をしたら次の日はまったく食べなかったりしていました。そういうダイエットをする以前は普通に食べられたのに、例えばファミレスでセットメニューを頼むのも怖くなりました。「普通の食事」がわからなくなって、どうしたらいいのか、ずっと悩んでいましたね。

——摂食障害に苦しんでいた当時、どのように考えていたのでしょうか。

「痩せれば幸せになれる」とか、そういうことを考えていました。うまくいかないことがあると、結局たどり着く考えは「私が太っているから。ダメな人間だから」ということでした。過食して体重が増えたり、何か失敗すると、どんどん自分がダメな人間になっていくんです。それまで以上に自分に自信がなくなってしまって、恋人ができても、疑心暗鬼のままでした。

摂食障害を克服したきっかけは、”何千人ものプロフィール写真”

——摂食障害を克服したきっかけは、何だったのでしょうか。

25歳の頃、たくさんの人のプロフィール写真を扱うアルバイトをしていたんです。その、何千人もの人たちの写真を見ている時に、「私、ずっと自分が痩せていないといけないと思っていたけど、世の中にはいろんな人がいるんだな」ということに気付いたんですね。

——きっかけは、「知らない人のプロフィール写真」?

はい。プロフィール写真って、みんな割と明るい表情で写っているんですよ。それまでの私が太っている人に対して持っていたイメージは、ダイエット広告の「ビフォー(Before)」の写真でした。だらしなくて、姿勢も悪くて、不幸な人生を送っているみたいなイメージ。それが刷り込まれていました。

だけど、仕事でいろいろな人の写真を見ているうちに、「あれ?」と思って。今まで「太っている人はネガティブに生きている」と思っていたけど、実はそうじゃないんじゃないかなと思い始めました。

太っているに限らず、背の高さ、目の大きさ、鼻の高さ、顔の大きさとか。みんなそれぞれ違って、たとえコンプレックスに思うようなところがあっても、何というか...ちゃんと生きていて、世の中に存在しているし、不幸じゃないかもしれない。それに気付いて、自分の体型にとらわれて生きるのはすごく損なんじゃないかなと思い始めたんですね。

——自分の中の考え方が変わっていったんですね。

同じ人ってひとりもいないんだなって。それまではテレビの過激なダイエット番組とか、色んな情報や環境に影響を受けて「痩せなければ幸せになれない」と考えていたんですけど、自分の視点で世の中を見られるようになりました。

それまではずっと太っている自分を否定していて、「痩せないと自分になれない」「太っているのは仮の姿だ」と思っていたけど、「いや。でも私ずっとぽっちゃりしていたから、これが自分なんじゃないかな」って。諦めるというよりも、受け入れて生きていこうと思いました。

「みんな痩せたいと思ってる」 そう決めつけている人が、多すぎる

摂食障害を克服したNaoさんは、「ぽっちゃりに対するネガティブなイメージを変えたい」「自分のように摂食障害が治った人もいる」という思いを伝えていこうと考え始めた。そんな時、たまたま『la farfa』の編集者に出会い、モデルとしてスカウトをされた。Naoさんは、創刊号から『la farfa』を支えるレギュラーメンバーのひとりになった。

——ラファモ(『La farfa』のモデル)として活動することは、Naoさんの人生にどのような影響を与えましたか?

私はラファモになるまで、明るいぽっちゃりさんにあまり出会ったことがなかったんです。でも、ラファモの子達はみんな明るくて、かわいいしおもしろい。「ああこんな子たちもいるんだな」って間近で感じられて、自分が昔考えていたことは本当に偏っていたなと思いました。

あとは、モデルの仕事は健康でいないとできないので、自分をもっと大事にするようになりました。肌が荒れたり体調を崩したらすぐ病院に行くとか、昔だったら放っておいたことでもケアしたり、もっと自分のことを大事にするようになりました。

今は心身ともに安定していますが、摂食障害が治っていなかったら、こういった仕事はできなかったと思います。そういう意味でも、自分にとって色んなタイミングが重なって今に至ったという感じがします。

ラファモとして活動中のNaoさん

——おしゃれももっと楽しめるようになりましたか。

昔は、黒とか暗い色の、体のシルエットが目立たないような服を着ていました。「太っていたら、おしゃれをしちゃいけない」「いつか痩せるんだから、太っている時に服を買うのはもったいない。痩せてから買おう」と思っていました。でも、むしろ黒い服を着ている方が、体がドーンと大きく見えちゃうんですよね。

体型の印象はコーディネートのバランスで全然違うんです。あと、痩せていても、だらしない格好をしていたらだらしなく見えるし、太っていても素敵な服を着ていたら素敵に見える。『la farfa』に出るようになって自分でもおしゃれを勉強するようになりました。

——ラファモをやっていてよかったと感じる時は、どんな時ですか。

読者の方から、『la farfa』を見ておしゃれや体型に対してポジティブに考えられるようになった、自殺を思い止まりましたと言われたこともあります。それこそ、摂食障害だったけど症状が和らぎましたとか。

つい最近も海外の方からお手紙を頂いて、「私もむかし摂食障害で悩んでいたけど、治った今はハッピーに暮らしているの。あなたの活動は世界中の女の子たちに勇気を与える大事なことだから頑張って続けてね」って英語で便箋いっぱいに書いてくれていて、感動しました。そういうことがあると、やっていてよかったなと思います。

——ラファモとしてメッセージを発信する立場になって、何か気をつけていることはありますか?

時々、テレビ番組のダイエット企画への出演依頼が来たりします。でも私はラファモになった当初から、そういう番組には出ないと決めています。きっとお金にはなると思いますが、私はダイエット番組やメディアが流すネガティブなぽっちゃりさんのイメージに影響されて体型コンプレックスを抱くようになったと思うので、絶対にやらないと決めています。

あと、日本のテレビ番組は、ぽっちゃりさんをよく笑いの対象にしていますけど、そういうのも好きではないです。わざと大食いさせたり、デブっていじって笑ったり。また、「ぽっちゃりだけど彼氏がいる」、「ぽっちゃりだけどかわいい」といった表現で出演者を探しているメディアの方が時々いますが、すごく失礼だなと思います。「“だけど”って何?」って。「太っていたら彼氏がいるのはおかしい」「太っていて可愛いのはおかしい」っていうイメージの裏返しですよね。

そうして笑いの対象になるぽっちゃりさんを見た視聴者が「痩せなきゃ」と思いつめてしまうかもしれない。摂食障害で悩んでいる子がもっと悪化してしまうかもしれない。そういったことがすごく嫌なので、ぽっちゃりに対してネガティブなメッセージを発信するものには気をつけるようになりました。

——「痩せたらかわいい」という、「余計なお世話だ」としか言いようのない表現もよく目にしますよね。メディアやファッション業界は、『見た目』の価値観に大きな影響を与える存在ですが、「こう変わってほしい」と思うことはありますか?

過激なダイエット広告はやめてほしいなと思います。1カ月で30kg痩せたとか、極端なものは出さないでほしい。ビフォーアフターで明らかに合成写真とかもあるのに、今はダイエット広告に規制がないですよね。あと、たとえば某有名ダイエットジムの広告も、ビフォーのイメージ写真にネガティブな演出をしすぎている印象があります。

ある日、フェイスマッサージに行った時の事なんですが、カウンセリングでダイエットコースを勧められ「ダイエットするつもりはないのでいいです」と言ったら、「でも、みんなよりも綺麗になりたくないですか?」と言われたことがあります。「はぁ?」って思いました。「やせる=綺麗になる」「女性はみんな痩せたいと思ってる」と決めつけている人が、ちょっと多すぎる。世の中には、いろんな体型の人がいて生きているのに。

私たちは、生まれてきた時点で存在として肯定されている

——Naoさんは、摂食障害の経験を講演で語る活動もされています。女の子たちに向けて、伝えたいことはなんですか。

いま取材を受けているみたいに、ぽっちゃり市場のことが取り上げられると、「でも糖尿病や成人病になるリスクがあるでしょう」というコメントが寄せられたりするんです。でもそれと同時に、体型を気にしすぎて鬱になってしまう人もいる。体の健康ももちろん大事だけど、心の健康も大事です。

私は、ファッションは自分を表現することや、外に出るきっかけだと思っていて。新しい服やお気に入りの服を着ると、その服を着てどこかに出かけたくなったりしますよね。外に出かけたら運動不足の解消にもなるし、今まで知らなかった何かや誰かを見つけることができるかもしれない。素敵だと思うお洋服を着ることは、そういったポジティブなきっかけを作っていけるんだよ、と伝えていきたいです。

あとは、「いろんな人がいていい」ということも。私はネガティブな考え方を変えて、なるべく今を楽しもうと心がけるようになりました。

——コンプレックスは、多くの人が抱えているものだと思います。自分の体を肯定的に捉えるということは、したくてもなかなかできないものです。コンプレックスを受け入れるためには、どうしたらいいと思いますか。

みんな完璧じゃないと思うんです。パーフェクトな人なんていなくて、だから、自信がなくても、コンプレックスがあっても、自分を許してあげたらいいんじゃないかなと思います。欠点があっても、それが彼女、彼だから。

ちょっと哲学的な話になってしまいますけど、私たちは生まれてきた時点で存在として肯定されていると、私は思っています。

女性は妊娠すると、子どもを産むために体調面とかすごく気を付けますよね。薬を飲んじゃいけないとか、あれはいい、これはだめ、とか。自分一人で生きていた時よりも、何カ月も体を大事にして出産に至るので、とりあえずは、私たちは命の存在を肯定されて生まれてきている。

生まれたあと、成長する中で、色々なことがあって存在を否定されるようなこともあるかもしれない。でも誰でもみんな、誰かの体から生まれたことは否定できない、揺るがない事実ですよね。

生きているということは、誰でも1度は誰かに肯定されていたという証明でもある。そんな風に考えて、自分で自分を許してあげたらいいんじゃないかなと思います。

——「自分を許してあげる」ということ、難しいけど、したいですね。Naoさんは心が強いなと思います。

SNSで、全然知らない人から「ぽっちゃりじゃなくてデブだろ」というコメントがついたりするんですが、「デブでーす」って言うと何も返事が返ってこないんですよ。私、デブだし、「えっ?」て。「そうだよ!」「だからどうしたの?」って言えるようになりました。

自分がそうであると思いたくないから…例えば「目が小さいね」とか人に言われたら気にしちゃうと思うんですけど、自分は「目が小さい」ってまず受け入れておけば、「そうだよ」となるだけで。目が小さくても死なないし。そればかりを気にして、つらいままで生きていく人生と、「これが私」だと受け入れて明るく生きていく人生、どちらか選べると思います。

メディアなどでいろんな情報を目にしていると、容姿や性格や生活などについて「◯◯でないといけない」という理想のイメージを抱いて現実とのギャップに苦しんでしまう時もあると思います。でも、自分の人生をどう生きるか選ぶのは、自分自身です。世界中にいる色んな生き方をしている人に出会うことや、いろんな人の意見を聞くというのも大事だと思います。

視野を広げて、角度を変えて、自分の本当の心の声を聞いてみてあげてほしいです。

■Naoさんが登壇するイベント情報

soar life library

【日時】2017年6月14日(水)19:00