【イギリス総選挙が3分でわかる】メイ首相の与党・保守党が過半数割れ。労働党が躍進 何が起こったのか(UPDATE)

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Britain's Prime Minister Theresa May gives an election campaign speech to Conservative Party supporters in Norwich, June 7, 2017. REUTERS/Toby Melville TPX IMAGES OF THE DAY | Toby Melville / Reuters
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【UPDATE】与党・保守党が過半数割れ(6/9 19:00)


8日投開票のイギリス総選挙は、テリーザ・メイ首相率いる与党・保守党が第1党を維持するものの、議席数を318に減らした。過半数(326)に8議席足りず、イギリス下院はいずれの政党も過半数を獲得できない「ハングパーラメント(宙ぶらりんの議会)」となることが確定した。

党内ではメイ首相の責任を問う声が出ているが、BBCの報道によるとメイ首相に辞任の意向はないという。名首相は少数与党内閣としての再任をエリザベス女王に奏上する見通しだ。

BBCによると、保守党が過半数を占められなかったため、メイ首相は北アイルランドの保守政党「DUP(民主統一党)」に閣外協力を求める可能性があるという。DUPの獲得議席は10議席で、保守党の議席を合わせると328議席となり過半数を超える。最大野党の労働党は261議席に躍進した。

メイ首相は4月、総選挙を前倒しで実施することを表明。保守党は改選前でも330議席を有し、単独過半数を超えていたが、EUとの離脱交渉を前に政治的な基盤を盤石にしたいとの狙いから「伝家の宝刀」を抜いたが、もくろみは失敗に終わった。

当初は保守党の圧勝とみられていたが、高齢者の一部に負担増を強いる福祉政策案をメイ首相が打ち出したことで情勢は一転。有権者から大きな不評を買い、支持率は急落した。メイ首相はたまらず撤回したが、党勢は回復しないまま投開票日を迎えた。

メイ首相の責任を問う声が党内から出るのは確実で、ロイターは「メイ首相は政治的な求心力を失いすぎて、地位を維持できないかもしれない」などと論評している。

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イギリスの総選挙(下院議会選、定数650)が6月8日(現地時間)に投開票されます。今回の選挙は欧州連合(EU)離脱を決めた国民投票後初の総選挙で、結果次第では今後のイギリスの方向性に影響を与える可能性もあり、注目を集めています。

テリーザ・メイ首相が率いる与党・保守党の支持率は、一時は最大野党・労働党を20%以上引き離し「歴史的大勝」になると予測されていました。

ところが総選挙を間近に控え支持率が低迷。「過半数を割るのでは」という声もでており、予断を許さない状況です。

なぜ、こんなことになっているのでしょうか。

メイ首相「総選挙は、将来の確実な道と安全を担保する唯一の方法」

総選挙の前倒しを決めたのは、与党・保守党を率いるテリーザ・メイ首相本人です。メイ首相は2016年7月、EU離脱の国民投票で残留派だったデービット・キャメロン首相の辞任に伴い、リーダーの座を引き継ぎました。

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キャメロン氏(左)とメイ氏(右)

イギリスでは法律(議会任期固定法)に基づき、総選挙は5年ごとに実施すると定められています。ただし、首相は議会の3分の2以上の賛成を得た場合に、解散権を行使して選挙を前倒しできます。前回の総選挙は2015年で、保守党が勝利しました。次回の総選挙は2020年実施予定でした。

メイ首相は就任当初から「2020年まで総選挙は実施しない」と繰り返し発言していました。ところが4月18日、電撃的に総選挙の前倒しを表明しました。

現在、保守党の議席は330議席。2015年の総選挙で勝利し、下院で単独過半数を占めています。にも関わらず、メイ首相はなぜ選挙を前倒しするという賭けにでたのでしょうか。背景には、やはり「EU離脱」があるようです。

メイ首相は総選挙前倒しを表明するにあたって、こう語っています。

将来の確実な道と安全を担保する唯一の方法がこの選挙を行うことだ。

メイ首相は、前のキャメロン政権で内相を務めていました。しかし、首相になる過程で「国民の信任」である選挙を経ていません。

総選挙に勝利できれば、メイ首相は党内で党首としての地位を固められます。保守党内にはEU離脱強硬派と慎重派のどちらもいるため、指導力を発揮するためには選挙で圧勝したいところです。また、EU離脱をめぐって国が二分しましたが、選挙で議席を上積みできれば、「国民の信任を得た」として、安定した政権運営ができると目されています。

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下院で演説するメイ首相

メイ首相は4月にこう語っています。

「議会は一体となるべきですが、現在は分断しています。国はまとまりつつありますが、政治家はそうではありません。総選挙が必要であり、ただちに実施する必要があります」(4月18日・総選挙前倒し発表で

「総選挙を前倒ししないとなると、2020年の選挙を目前に控える中で(EU離脱)交渉の大詰めを迎えなければなりません。それは誰の利益になるのでしょうか」(4月19日・下院

イギリスは、2019年3月末までにEU離脱の大枠を定める離脱協定の合意を目指しています。今後、EUとの離脱交渉を有利に進めるためにも、メイ首相は「今が選挙のチャンス」だと判断したようです。この時、メイ首相の支持率は44%。安定した支持も総選挙前倒しを後押ししました。
(*野党・労働党のジェレミー・コービン党首の支持率は23%でした)

世論調査会社YouGovとタイムズ紙の世論調査によると、総選挙前倒しの宣言以降、保守党は安定した支持率をキープ。一時は最大野党・労働党と24%も差が開きました。

ところが、総選挙直前にきて保守党に陰りが見え始めました。6月6日実施のYouGov世論調査では、保守党が42%、労働党が38%と4ポイント差に。労働党が猛烈な追い上げを見せており、調査によっては労働党のほうが上回っているものも出ています。

保守党のマニフェストは評判が…

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保守党のマニフェスト。表紙には「ともに前進しよう」の言葉

保守党が低迷する理由の1つが、5月18日に発表されたマニフェストの内容です。保守党は公約として、高齢者の在宅介護の自己負担額の見直しを掲げましたが、これは「認知症税」だとして強い批判の的に。保守党は反発を受けて、「負担額に上限を設ける」と公約を修正しました。

また、子供の貧困についても2015年総選挙のマニフェストでは「子供の貧困をなくす」と記していましたが、今回のマニフェストでは「解消したい」という文言になっていたことで批判を集めました。「保守党は子供の貧困に取り組む姿勢を失った」と、反発の声がでたのです。

「児童貧困対策グループ(CPAG)」によると、イギリスでは4人に1人の子供が貧困状態にあるとしています。CPAGのCEOアリソン・ガーンハムCEOはハフポストUK版の取材に対し、「イギリスでは400万人の子供が貧困ライン以下で暮らしている」として対策の必要性を訴えています。

対する労働党はマニフェストで、国営の医療制度「国民保険サービス(NHS)」の拡充や教育予算の増額を盛り込みました。大学授業料の無料化や全ての小学生に給食を無償提供すると訴え、支持を広げています。

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労働党のジェレミー・コービン党首

相次ぐテロ、メイ首相に批判も

イギリスでは、相次ぐテロが影を落としています。2017年に入ると大きなテロ事件が3度発生。首都ロンドンでは3月と6月、2回のテロがありました。マンチェスターでも5月に人気歌手アリアナ・グランデさんのコンサート会場で爆発があり、22人が死亡しています。

メイ首相は6月4日の会見で「イギリスは過激思想に寛容すぎた」として、対テロ戦略の見直しやインターネットの規制強化を進める方針を示しましたが、相次ぐテロを防げなかったことで野党からは激しい批判を受けています。

メイ首相は、前のキャメロン政権で治安対策の責任者である内相を務めました。当時の保守党は緊縮財政を進めるため、警察官を2万人削減。このことで、メイ首相を批判する声が出ています。労働党のコービン党首らは、メイ首相に辞任を求めています。

これに対し、メイ首相は6日の演説の中で、「選挙の数日前には、新たな政策を数多く発表するつもりはないが」と前置きした上で、「テロ行為で有罪判決を受けた人々の刑期を長くするべきだ」「当局が外国人のテロ容疑者を、自国に送り返すことをより容易にすべきだ」と述べ、移民の権利を手厚く保護する「人権法」を改正することで、さらなる対テロ対策を実施する方針を示しました。

保守党は過半数を維持できるか?

ここまで保守党の支持率が低迷する要素を挙げましたが、それでも大方の世論調査では、総選挙には保守党が勝つとみられています。

ただ、当初予測されていた「歴史的大勝」にはならず、場合によっては保守党が議席を減らし、単独過半数を握る党がいない「ハング・パーラメント(宙ぶらりんの議会)」になる可能性も示されています。6月6日実施のYouGov世論調査に基づく議席予想では、保守党が302議席、労働党269議席となっており、与党・保守党が過半数を割るとみられています。

この場合、保守党は単独政権を維持できず、他の党と協力する「連立政権」を模索しなければなりません。
(*キャメロン政権も、2015年の総選挙で過半数を得るまでは「自由民主党」との連立政権でした)

保守党が現有議席を維持できるのか、過半数を維持できるか、労働党がどこまで支持が伸ばせるのか…。結果次第で、メイ首相の進退や今後のEU離脱交渉に影響を与える可能性もあります。ちなみに、労働党のコービン氏はEU懐疑派ながら、2016年6月の国民投票では「残留派」でした。

混迷が続くイギリスの今後を占う総選挙は、日本時間の6月9日昼ごろに大勢が判明するとみられています。

【UPDATE】2017/6/9 0:32 YouGovが最終世論調査を発表

YouGovが6月5〜7日に実施した最終世論調査に基づく支持率は次の通り。保守党42%、労働党35%、自由民主党10%、英国独立党5%、緑の党2%、その他6%。