ハーバード大・学生新聞、ヘイトスピーチへの反論が鋭い 「百田尚樹氏の講演会中止」騒動で話題に

教育機関は、証拠に基づいた研究を基盤としている。対照的に、ヤノプロス氏は単に逆説的であるためだけに他者の信念に異議を唱えているようにみえる。
BERKELEY, CA - APRIL 27: A right wing activist holds a sign during a rally at Martin Luther King Jr. Civic Center Park on April 27, 2017 in Berkeley, California. Protestors are gathering in Berkeley to protest the cancellation of a speech by American conservative political commentator Ann Coulter at UC Berkeley. (Photo by Justin Sullivan/Getty Images)
BERKELEY, CA - APRIL 27: A right wing activist holds a sign during a rally at Martin Luther King Jr. Civic Center Park on April 27, 2017 in Berkeley, California. Protestors are gathering in Berkeley to protest the cancellation of a speech by American conservative political commentator Ann Coulter at UC Berkeley. (Photo by Justin Sullivan/Getty Images)
Justin Sullivan via Getty Images

一橋大学で6月10日に行われる予定だった、百田尚樹氏の講演会が中止になった一連の騒動に関連し、ハーバード大学の学生新聞が2017年2月に掲載した社説が話題となっている。

米国弁護士の渡邉葉氏が6月6日にTwitter上で社説を紹介。同ツイートは10日午前9時現在までに1000回以上リツイートされ、拡散している。

社説「Free Speech, Not Hate Speech(言論の自由、ヘイトスピーチではなく)」を掲載したのは、学生新聞「ザ・ハーバード・クリムゾン」。2017年2月にカリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)で起きた、右翼ニュースサイト「ブライトバート・ニュース」編集幹部マイロ・ヤノプルス氏の講演会中止事件を受けて、大学における言論の自由とヘイトスピーチについて論じている。

1873年に創刊された同紙は、後にアメリカ大統領となるフランクリン・ルーズベルトやジョン・F・ケネディが学生時代に編集者を務めたことでも知られる。

ハフポスト日本版は「ザ・ハーバード・クリムゾン」編集部の許可を得て、社説全文を翻訳した。

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暴力的な抗議活動が学生の安全を脅かした後、UCバークレーの管理者は先週水曜日(※訳注:2017年2月1日)、言動が物議を醸している極右講演家のマイロ・ヤノプルス氏を招聘したイベントの中止を決定した。

「150人の覆面扇動家」が、ヤノプルス氏の講演会に対して平和的に抗議していた他の人々の活動を妨害し、大学キャンパスに10万ドル(約1100万円)の損害を与えた。

我々は、UCバークレーの管理者が行ったこの効果的かつ効率的な事態への対応を賞賛する。

この件は、リベラルなUCバークレーのキャンパスにおける言論の自由に関する戦いとして記録されている。大学キャンパスにおけるヘイトスピーチと知的多様性を、しっかりと区別することが大切だ。

大学生は、自分の意見や世界観を考え直すために、幅広い視野と証拠に基づくアイデアに触れることが必要不可欠である。しかるに、大学がこのような知的成長を促すためには、理にかなった保守主義者を招いて学生に教育経験の機会を与えるべきだ。ヤノプロス氏のような、ほとんど中身のない逆張り視点の論者ではなく。

ヤノプロス氏は、彼が支持する憎悪に満ちた信念をキャンパスで広める資格を与えられるのにふさわしい人物ではない。高等教育機関は、世界認識を深めるために、新しい知識を生み、古い信念に挑戦し続けることを誇りとしている。また、これらの教育機関は、証拠に基づいた研究を基盤としている。

対照的に、ヤノプロス氏は単に逆説的であるためだけに他者の信念に異議を唱えているようにみえる。そうするとき、彼の主張にはほとんど妥当性がみられない。ヤニプロス氏は人種差別主義者、性差別主義者、反ユダヤ主義者にすぎず、知的思考よりも憎悪と恐怖を助長している。

ヤニプロス氏が、学生の安全と健全な生活に明確な脅威を与えると考えられる、強い前例がある。たとえば、ヤニプロス氏が2016年12月にウィスコンシン大学ミルウォーキー校で行った講演では、同校に所属するトランスジェンダーの学生、アデレード・K・クレーマー氏を大画面に映し出し、大勢の群衆の前で、クレーマー氏を嘲笑した(学生たちも笑っていた)。

この一件のあと、クレーマー氏は同校の学長に向けてこう書いている。「あなたはご存知ですか? 部屋いっぱいの人々が、私を悪い変態かのように笑ったり、セクシュアリティをアウティング(意に沿わぬ公開)された私を、大勢の人が怒鳴りつけたり(あるいは、それよりひどいことをしたり)するときの感覚を。そのときの恐怖がどんなものであるかわかりますか?」

この極右講演者の視点は、“大学に受け入れられている”と感じたい学生にとって、強く忌避すべきものだ。ヤニプロス氏は、ある学生にとっては、重大な脅威であることが何度も証明されている。このことだけでも、大学管理者が彼をキャンパスの目立つ場所から退場させるのに十分だろう。

言論の自由と知的多様性に関する議論において、ドナルド・トランプ大統領がTwitterに投稿した皮肉は、特にアメリカの学生抗議者を落胆させるものだった。

バークレーのキャンパスで起こった抗議行動に対し、トランプ大統領はこうツイートした。「もしUCバークレーが言論の自由を認めず、意見を異にする罪なき人々に対する暴力を行使するなら - 補助金はなしかな?」

考えてみよう。"言論の自由"を支持する人は、同時に憲法に関する考えを広めることに従事していることにほかならないともいえるし、バークレーで平和的抗議を行っていた学生は、アメリカ憲法修正第1条で定められた権利を行使していると認識している。

トランプ大統領による、「学生の抗議に対して公立大学から補助金を引き上げる」という直接的な脅迫は、アメリカの最も強力な民主的権利のひとつに対する重大な侵害だとみなされなければならない。

ハーバード大学の所属員は、自らのキャンパスにヤニプロス氏のような講演者を招く前に、よく考え直すべきだ。彼のような存在を私たちの大学に招くことは、筋が通らず、憎悪に満ちた彼らの主張を正当化し、クラスメイトに脅威を与えるだけだ。

我々のキャンパスには、マイロ・ヤニプロス氏や他のオルタナ右翼の居場所はない。ハーバード大学のミッション・ステートメント(綱領)には「学生の"全員参加"を阻害する要因を特定し、取り除くことを目指す」とある。ヘイトスピーチの特定と防止は、このミッションに必要不可欠だ。

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記事の原文はここで読むことができる。

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