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早稲田塾が大量閉鎖。この決断は「もったいない」ことになるかもしれない

2017年06月12日 23時41分 JST | 更新 2017年06月12日 23時55分 JST
ダイヤモンド・オンライン

早稲田塾「大量閉鎖」の原因は単なる少子化でははない

受験最大手で「東進ハイスクール」や「四谷大塚」を傘下に持つナガセが、子会社の「早稲田塾」で校舎の半分近くにあたる11校を閉鎖すると発表した。

2017-05-15-1494888282-7950911-dol_logo2.jpg 本記事は「ダイヤモンド・オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら

このニュースから3年前に、予備校の代々木ゼミナールが全国27ヵ所の校舎のうち20ヵ所を閉鎖したという報道を、思い出した人も多いかもしれない。しかしナガセのケースでは、少子化の煽りで教育市場が縮小しているという捉え方ももちろんできるのだが、実情はもう少し複雑で興味深い。

実際、ナガセという会社は過去10年で売上高が250億円から450億円規模へ、純利益が16億円から26億円へと成長している。単年度ごとの浮き沈みはあるが、2年ごとに見れば堅実に増収を続けている会社なのだ。

受験産業においては、全体のパイの縮小よりもミクロで起きている変化の方が大きい。ということで、今回は受験産業で起きている構造変化を3つの視点からまとめてみよう。

1つは大学受験者の構造変化だ。過去25年間で一番大きい変化は「浪人数の激減」である。団塊ジュニア人口のピークが受験にさしかかった1992年当時の浪人率は約35%、つまり昔は3人に1人が浪人生だった。それが今では激減して、8人に1人しか浪人しない。

この構造変化の影響をもろに受けた形になったのが、代々木ゼミナールだ。予備校の収益の二本柱である現役生と浪人生のうち、浪人生市場が大幅に縮小した結果、全国主要都市に大型の校舎を抱えるだけの事業規模がなくなってしまったわけだ。

ただ、代ゼミの校舎については、我々ビジネス関係者の間でよく知られた面白い工夫がある。それはもともと少子化時代の到来を予想していたため、オフィスやホテルなど他業態に転用しやすいように校舎が設計されていたというものだ。実際、駅前の一等地にあった代ゼミの不動産は、校舎閉鎖後にホテルなどに転用されてお金を稼いでいる。

いずれにしても、代ゼミの閉鎖は「浪人率減少」が最大の引き金だったことを考えると、現役生中心の早稲田塾の場合は、少し事情が異なる。構造変化の2つめのキーワードは「一般入試とAO入試」である。

同じナガセの傘下でも東進と早稲田塾で異なる強み

同じナガセ傘下の予備校でも、東進ハイスクールと早稲田塾は強みが異なることが知られている。

東進ハイスクールは、タレントとしても有名な林修センセイを筆頭に、有名講師がきらびやかに揃った「講師陣が強み」の予備校で、受験生に試験突破のための勉強のポイントを教える技術では、日本の最先端を行っている。

一方の早稲田塾は、試験ではなく論文や面接で選考されるAO入試に強い予備校として知られている。講師が生徒1人1人の強みを引き出しながら、個人のアピールポイントや関心をどうAO受験につなげるかを考えてくれるところがウリなのだが、ここにビジネスモデルとしては1つ問題がある。

AO入試は実は多くの大学にとって、入学者の早期確保の手段になっている。少子化における大学経営を考えると、入学者を早く集めたほうが経営が安定する。その理由からAO入試は、どこの大学でもスケジュールを大幅に前倒しして実施される。時期的には夏休み前から秋口には合格者が決まることになる。

一方で筆記による入学試験は、私立は1月末、国公立は2月から3月初めに実施される。このことで、予備校ビジネスとしての儲けが構造的に違ってくる。同じナガセの予備校でも、東進ハイスクールの生徒は12月に直前模試を受け、本命の受験校を絞り、冬休みには直前対策の講義を2週間びっしり受けて、1月と2月も講義のビデオアーカイブを視聴しながら弱点部分を補強する。ビジネスとして見れば、試験日ぎりぎりまで収益が上がる「構造」になっている。

一方で、AO入試で合格が決まるとどうなるか。筆者の娘について言えば、9月に本命の大学から合格通知をもらったら、そこで予備校は実質退会状態になってしまった。本当は合格後も、大学で学ぶための学力維持プログラムなどを受講すればよかったのだが、本人のモチベーションとしては、もう予備校へは通えなくなってしまった。まあ、当然といえば当然だろう。

今回、早稲田塾の閉鎖を見る限り、教育をビジネスとして捉えた場合、筆記試験の受験者を対象にするビジネスの方が、AO入試受験者を対象とするビジネスと比べて、通年でしっかり儲けられるという点で、差が出てしまったように感じられる。

さて、3つ目の構造変化として、大学受験の重要度の低下が挙げられる。これは現在進行形でこれから先、10年くらいの期間でもっとはっきりとしてくる傾向と思われ、教育・学習塾産業をさらに大きく変化させるだろう。

今の40~50代が18歳当時に経験してきたのは、「大学入試がとても重要だ」という実体験だ。だから親は、子どもに対して大学受験に一番お金を投資している。しかし、現代社会の実態はと言うと、子どもの人生にとって本当に重要なタイミングは中高受験と就活に変わりつつある。

はっきり言って、「いい大学に入れるか」で人生が決まるという考えは、古い常識になりつつある。今では「いい仲間に恵まれた中学・高校生活を送ることができるか」「就活で成功できるかどうか」の2つの要素の方が、人生にとってはるかに重要である。

そう考えると代々木ゼミナールも、本体より子会社で学習塾大手のSAPIXの方がビジネスとしては有望だろうし、ナガセは東進や早稲田塾よりも四谷大塚の方が将来は発展するかもしれない。

就活ビジネスを視野に入れると早稲田塾の閉鎖はもったいない?

一方で、重要なわりにまだ市場が大きくなっていないのが就活予備校だ。実質的に子どもの未来を決めてしまうという意味では、中学受験や大学受験で失敗するよりも就活に失敗する方がはるかに影響が大きいにもかかわらず、就活予備校は教育産業として育っていない。

これはおそらく、お金を払う親の世代にその意識が欠けているからだろう。もう少し時間が経って、就職氷河期で苦労をした世代の親が大学生の親になる、数年ないし十年くらい先には、就活が今よりもはるかに大きい産業に発展する可能性は高い。

さて、就活教育という観点では、実は代ゼミは経営的視点からちゃんと力を入れている。少子化を見据えて早めに校舎を不動産ビジネスに転用したのと同様に、代ゼミは就活についても常に時代の先を見ているのかもしれない。

就活教育は、受験以上に個別に個人の強みを引き出しながら、合格する可能性が高い企業への対策を考えて、伴走するサービスだ。その観点で言えば、東進ハイスクール型の「有力講師による最強コンテンツ」に力を入れるビジネスモデルよりも、早稲田塾型の「伴走ビジネスモデル」の方が、未来に通用するビジネスアセットとしては重要だ。

おそらく今回の閉鎖決定で、来期以降のナガゼの業績は再び増益に転じるだろう。ただ長期的に見ると、今回の閉鎖が「第三の教育ビジネスの構造変化を取りこぼしてしまった」という後悔につながらなければいいと私は思うのだが、どうだろうか。

(鈴木貴博:百年コンサルティング代表)

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