NEWS

2018年以降、「世界同時不況」が始まる? バブル崩壊の引き金を引くのはどこなのか

2017年06月13日 19時36分 JST | 更新 2017年06月13日 19時36分 JST
AFP via Getty Images
People walk into the branch of bankrupt US investment bank Lehman Brothers in Seoul on September 16, 2008. South Korean regulators restricted the business of Lehman's units in Seoul following the announcement of its collapse in the United States. AFP PHOTO/BYUN YEONG-WOOK (Photo credit should read BYUN YEONG-WOOK/AFP/Getty Images)

2017-03-21-1490084511-1369241-tklogo1000320.jpg 本記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら

これからの世界経済の大きな流れについて、みなさんはどのようにお考えでしょうか。今の株式市場の雰囲気から判断すると、「世界経済は今後も順調に拡大するだろう」と考えている方々がけっこう多いのではないでしょうか。

ウォール街では米国の景気拡大がはやし立てられ、米国株も6月に入って史上最高値を再び更新したばかりです。株式市場の強い動きに引きずられるように、米国では多くのエコノミストたちが楽観的な景気予測に傾いてきています。いつも不思議に思うのは、株価が上がると人々は「景気がよくなる」と勘違いをしてしまうということです。そういった意味では、エコノミストも一般の人々も大差はないといえるのかもしれません。

2020年までに世界経済の激震が始まってもおかしくない

IMF(国際通貨基金)も世界経済は腰折れすることなく、順調に成長していくという見通しを堅持しているようです。IMFが4月中旬に発表した最新の経済見通しでは、2017年の世界経済の成長率見通しを3.5%と前回(2017年1月)の数字から0.1ポイント上方修正し、2018年の成長率も3.6%まで高まると予測しています。2016年の成長率3.1%から2年連続で世界経済の拡大は継続するだろうと考えているわけです。

確かに、2017年3月末の時点では、世界経済を牽引する米国では消費が増加基調を保っているうえに、欧州でも消費が回復基調を続けていることが確認されています。中国でも公共投資が景気を下支えしているなかで、消費の伸びはそれほど衰えていないようです。日本だけは消費が冷え込んだままですが、その分を企業収益と住宅投資がカバーしているので、今のところは大きな問題がなさそうです。要するに、世界経済全体を俯瞰(ふかん)してみれば、低成長の傾向が続いているとはいえ、それでも好況の部類には属しているといえるでしょう。

しかしながら、私が現状をどのように認識しているかというと、2020年くらいまでの世界経済の先行きを考えたときに、好況から不況に転じる本質的な問題が、経済の深層部で不均衡として蓄積していて、いつ激震が始まってもおかしくない状況にあるということです。

具体的にどういうことかというと、2008年のリーマンショック後の世界的な金融緩和を通して、先進国・新興国を問わず世界中の国々で債務が増えすぎてしまっている事実を重く見るべきだということです。

米国では家計の債務が2017年3月末で過去最高の水準を更新しているのに加えて、FRB(米国連邦準備制度理事会)が量的緩和により莫大な負債を抱えてしまっています。FRBの総資産規模は歴史的に見て高水準に膨らんでおり、GDP比で20%を超えるまでになっているのです。ECB(欧州中央銀行)や日本銀行に比べればFRBの財務はかなりマシであるにもかかわらず、FRBが金融危機前の資産規模に戻すには、ざっくりいってあと5~10年はかかるという見方が妥当でしょう。

「金融緩和はコストのかからない政策」という幻想

欧州では国家、銀行、家計がそれぞれに重債務に苦しんでいるなかで、ECBも量的緩和によって資産規模を拡大し、負債を増やし続けています。ECBの総資産規模はGDP比ですでにFRBを超えてしまっていて、30%に達しようとしているのです。それでも欧州経済は力強さを回復したとまではいえず、南欧を中心に失業率が高止まりしています。そのため、ECBは2016年12月に量的緩和の終了時期を2017年12月末まで延長することを決定せざるをえませんでした。ECBが出口戦略を始める以前に、それを説明する環境があと数年で整うかどうかも怪しい状況にあります。

一方、日本でも国家が重債務を抱える傍らで、日銀が大規模な量的緩和を行い、未曾有のペースで負債の膨張が進んでいます。FRBやECBに比べると驚くべき数字ですが、日銀の総資産規模はGDP比で90%を超えてしまっているのです。その副作用として、市場に出回る国債が減少し続けることにより、日銀が市場から国債を買えなくなる時期が2020年の前には確実に訪れることになるでしょう。

金融緩和はコストのかからない政策であると見られがちなのは、日銀がいわゆる出口戦略を迎えるときに赤字が膨張するという問題を無視しているからです。そのような理由で、日銀は緩和による財務の見通しをこれまで明らかにしてこなかったというわけです。

世界の主要中央銀行の今後の金融政策の不確実さを整理すると、たとえFRBが出口戦略に着手する状況になったとしても、資産規模を危機前の水準に圧縮するには、5~10年単位の期間を要することになりそうです。当然のことながら、ECBが資産規模を圧縮するにはFRBより長い年数がかかるでしょうし、日銀にいたっては10年かかっても絶対に無理であると考えるのが自然であるしょう。

それ以前に、ECBや日銀が本格的な出口戦略に着手するには、あと3年経っても無理なように思われます。すなわち、ECBや日銀の出口戦略が遠ざかれば遠ざかるほど、国家や民間(企業・家計)の債務が膨らみ続けるという借金バブルの悪循環は一向に収まることはないでしょう。

米国、欧州、日本が中央銀行の負債により経済の下支えを指向しているのに対して、中国は景気対策として行った4兆元の公共投資とFRBの量的緩和がもたらした副作用に苦しんでいます。

中国の民間債務は、すでに日本のバブル末期並みに

FRBが量的緩和を実施していた当時、中国企業は主にドル建て債務を増やし、大規模な設備投資を行ってきました。その結果として、鉄鋼、セメントなどの素材メーカーだけでなく、自動車やスマートフォンといったメーカーにまで供給過剰の波が押し寄せてきているのです。今では供給過剰による収益悪化によって、中国企業の多くは債務の返済に四苦八苦しています。とりわけ、ドル建て債務が多い企業では、人民元安によって債務負担が増えているという現実があります。

BIS(国際決済銀行)の推計によれば、中国の民間債務は2015年9月末時点ですでに21.5兆ドルとなり、リーマンショック後から4倍へと急速に膨れ上がっています。驚くべきことに、その債務総額はGDP比で200%に達してしまっているのです。

日本の民間債務は1989年にGDP比で200%を超え、その後にバブルが崩壊することになったのですが、中国の民間債務もすでに日本のバブル末期の水準に達してしまっているのです。習近平指導部は共産党独裁体制を維持するために、何としても経済をソフトランディングさせようと躍起になっていますが、それが達成できるか否かは、もはや誰にもわからないでしょう。

中国の民間債務の内訳は、企業が17.4兆ドル、家計が4.1兆ドルとなっていますが、債務の8割を占める企業部門のうち、債務比率が高い不動産、鉄鋼、金属、資源などの分野では、債務不履行や法的整理への懸念がつねにくすぶり続けています。中国はGDPを1兆ドル増やすのに、企業部門だけで2兆ドル超の債務を増やす必要があったのですから、今の中国経済は非常に効率が悪い状況になっているといえます。ですから、生産効率を考慮に入れた人件費を計算すると、中国沿海部の人件費はすでに米国南部を上回ってしまっていると推測されるのです。

私が本格的なグローバル経済が始まったと考える2001年以降を振り返ってみると、2006~2007年までは米欧の借金バブルによって、世界は好景気を謳歌することができました。ところが、米欧の借金バブルが行き詰まることで、先進国を中心に経済危機が起こった後は、新たに世界経済を下支えするようになったのは、中国を筆頭とした新興国であったのです。

ただし、先進国の中央銀行が大規模な緩和に踏み切るなかで長く続いた超低金利によって、新興国は企業活動の負債依存度を高めることとなり、成長率がカサ上げされていたという現実を見逃してはなりません。

「新興国企業」の債務は2008年比で3倍に

BISの統計では、新興20カ国・地域の企業の債務総額は、2008年末の9兆ドルから2016年3月末には25兆ドルへと3倍近い水準に増えています。同じ期間にこれらの国・地域の名目GDPが1.5倍しか増えていないと比べると、債務の増加率は異常であるといえるのです。さらには、先進国の企業の債務総額が35兆ドル前後と横ばいで推移しているのと比べても、新興国企業の債務の増加が新興国の成長率をカサ上げすると同時に、非常に非効率な経済をつくりあげていることがわかります。

「歴史は繰り返す」というように、先進国の景気が低迷しているときは、新興国や途上国に投資資金が潤沢に流れ込むようになります。そうなれば、投資資金があり余るようになるため、新興国や途上国では銀行の融資基準が甘くなり、企業や家計は身の丈以上の借金をして設備投資や消費を活発化させる傾向が強まっていきます。このような与信バブルが新興国や途上国の経済成長をカサ上げしていたわけですが、歴史の教訓が教えるところでは、こういった借金経済には、必ず大きな落とし穴が待ち受けているものです。

経済を見るうえで重要なのは、世間の雰囲気に左右されることなく、しっかりと現状の問題を直視するということです。すなわち、今後の世界経済に生じる大きな問題点は、世界のあちらこちらで債務が膨れ上がってしまっているということに起因しているのです。

世界全体の負債総額は152兆ドルにまで膨らみ、世界のGDP合計の2.3倍になってしまっています。これは、新興国の企業が債務を急増させただけでなく、先進国、新興国、途上国のいずれもが国家として債務を増やしているという要因も加わっています。実際に、先進主要国で唯一経済が安定している米国であっても、米国債の発行残高は金融危機時に比べて2割も増えていますし、一進一退の日本では、相も変わらず毎年40兆円程度の新発国債が発行され続けているのです。長く続いた超低金利は、国家の借金依存症を改めることができなくなっているのです。

2020年くらいまでの世界経済を考えたときに、まず心配なのは、異常な水準にまで増加した新興国の企業債務です。概して、これらの企業の生産性は著しく悪化している事例が多いからです。その典型例が中国企業であり、企業収益の悪化から、いまだに倒産が相次いでいて、経営者の夜逃げは日常の光景となっているのです。グローバル経済で競争しているかぎり、競争力の低い企業は退場させて債務を削減するしか、経済の効率性を高めることなどできません。そういった意味では、借金依存の経済が拡大し続けることはできないというわけです。

今の世界の経済状況は、経済に過熱感はまったくないものの、後に「バブル経済」だったといわれるかもしれません。なぜなら、リーマンショック後の世界経済は借金バブルによって支えられてきたからです。今の長期にわたる世界経済の緩やかな景気拡大期は、借金バブルの賜物であったといえるのです。

過去の数々のバブルをもたらした主因は、例外なしに、異常な水準にまで膨らんだ債務の増加にあります。バブルがその限界をあらわにするのは、ある時点で借り手の収益の見通しが悪化し、貸し手が融資の拡大に歯止めをかけるようになるからです。その結果として、債務の増加が止まると同時に融資が減少してくると、経済は悪化の方向に動き出し、債務の不良債権化が表面化してくるというわけです。

世界各国で金融緩和の限界が指摘されるなかで、政治の世界では財政出動を声高に唱える人たちが増えてきているのも気にかかります。それぞれの国々の経済にとって、債務の増加が将来のいちばんの重荷となっているにもかかわらず、景気を浮揚するために財政出動を増やそうなどという発想は、目先のことしか考えていないというほかありません。国家も企業も債務は地道に返済していくしかなく、「国家の財政再建と景気拡大の両立」や「企業の債務返済と景気拡大の両立」など、過去数百年の資本主義経済では起こりえませんでした。

日本では中国のように企業債務を心配する必要はありませんが、国家がGDP比で200%を優に超える債務を抱えてしまっています。日本で若い世代を中心に消費が増えないのは、国民が国の社会保障制度を信用していないからです。いずれ行き詰まるだろうと考えて、老後のために貯蓄を増やす傾向をいっそう強めているというわけです。

そういった意味では、財政再建を実行しなければ、将来の景気回復はありえませんし、財政再建を先延ばしにして目先の景気にばかり配慮していれば、より悲惨な経済状況が避けられないようになるでしょう。そのことを、欧州債務危機の教訓が見事に示しているように思われます。 

歴史を振り返ってみると、通貨安だけで経済を中長期的に回復させた国はありません。たとえ長い時間がかかったとしても、構造改革と成長戦略のみが有効な政策になりうるのです。また、増税だけで財政再建を達成した国はありません。増税をする前に歳出削減を断行する必要があり、歳出削減をしなければ財政膨張は止まらず、増税は焼け石に水になってしまうからです。

このような考えを日本のケースに当てはめると、政治が優先してやるべきことは、社会保障改革を断行することで国民に将来の安心感を与えると同時に、その痛みを和らげる成長戦略によって経済成長を下支えしていくということではないでしょうか。

2018年までには米国経済が大減速、悪影響が世界に及ぶ

米国発の経済危機によって世界経済がマイナス成長に転落したとき、世界経済を救ったのは、中国の4兆元の公共投資をはじめ、その他の新興国の旺盛な投資や消費でした。つまりは、米国の借金バブル崩壊の後始末に、新興国の民間部門が新たに借金をして穴埋めをしていたというわけです。

ところがいまや、中国やその他の新興国が借金経済を続けるのが難しくなってきています。世界経済の成長を持続させるためには、新たな国々が巨額の借金をして、投資や消費を喚起する必要があるのです。

少なくともドナルド・トランプ氏が米国大統領選挙で勝利した2016年の11月までは、世界中の国々を見渡してみても、そのような国々は見当たりませんでした。たとえ中国のように巨額の借金をしたとしても、その国は今の中国の二の舞いになるだけだったからです。

しかしながら、私と同じ考えを持つ識者のなかにも、トランプ政権が米国の財政赤字を増やしてでも世界経済を支えてくれるかもしれないと期待している人がいます。米国が巨額の財政出動をしても長期金利が低く抑えることができるのであれば、私もそうした期待を持つことが可能だと思いますが、現実には難しく、やがて長期金利の上昇が財政出動の効果を相殺してしまうでしょう。その結果、米国の債務増大が近い将来に大きな重荷となって、米国経済、ひいては世界経済に反動減をもたらすことになってしまうでしょう。

それ以前に、トランプ政権はロシア疑惑によって弱体化が始まっていて、大型減税と巨額のインフラ投資は公約の半分の規模も達成できない可能性が高まっています。米国の家計の債務残高が自動車ローンやクレジットカードローンなどの増加によって過去最高の水準を更新しているなかで、延滞率がじわじわと上昇し始めていることを考えると、いつ消費が減少に転じて景気が失速してもおかしくはないでしょう。

ですから私は、2020年くらいまでの世界経済を見通したときに、楽観的な見通しや明るい展望を決して持つことができません。

2018年までには米国経済が大減速(ゼロ%台の成長)ないし後退(2四半期連続のマイナス成長)に陥る局面を迎え、その悪影響が中国や日本、欧州にも及ぶのではないかと懸念しているのです。2017年は中国が秋の党大会に向けて、公共投資の増額によって景気の浮揚を図ろうとしているので、資源の需要が増加し新興国経済を下支えできるかもしれません。しかし、やはり2018年以降は借金バブルの反動で厳しい局面が訪れるのではないかと考えている次第です。

(中原 圭介:経営コンサルタント、経済アナリスト)

【東洋経済オンラインの関連記事】