東京は衰退する。石破茂が提唱する「アベノミクスの先」の鍵となる「移住女子」ってどんな人たち?【対談】

少子高齢化、人口減少は国家の有事である。そう訴え「アベノミクスの先」に地方からの革命が必要だと提唱する石破茂さんの『日本列島創生論』が話題になっている。
Kei Yoshikawa/HuffPost Japan

2017年、団塊世代が70代に突入し始めた。そして、2016年の出生数は初めて100万人を割り込んだことが判明した。

少子高齢化、人口減少は国家の有事だ――そう訴え、「アベノミクスの先」には、地方からの革命が必要だと提唱する石破茂・衆院議員の『日本列島創生論』が話題になっている。

「『おねだり』に未来はない」など、厳しい現実も突きつけて国民の奮起を促す内容の同書の中で、石破さんが希望の光として挙げているのが、東京から地方に移住する「移住女子」という存在だ。

石破さんは2015年12月に開催された第1回目の「全国移住女子サミット」で出会った多くの「移住女子」に出会い、その可能性を感じたのだという。サミットに登壇した人々らの生活や内面に迫って著書『移住女子』をまとめた伊佐知美さんと、地方と東京、移住について語り合った。

■「全国移住女子サミット」での出会い

伊佐:元々「移住女子」という言葉は、サミットの主催者で、新潟や長野の中山間地に移住された女性たちで作った「にいがたイナカレッジ」が作ったものです。「地域の取り組みを全国で横のつながりにしよう」というサミットの第1回に、石破さんが来てくださったんです。

石破:面白そうだと思ったんでね。女子っていう言葉は若い、キャピキャピ系な感じで、新しさがある。やっぱり女性がいるところに男性は来るんだ。砂糖に群がるアリのようにとは言わないが。というのは、私の仮説ですがね。

伊佐:女性が楽しそうにしていると、正直な所、メディアも注目しやすいということもあります。地方が衰退して苦しんでる姿より「楽しいのよ、ここは」って、いう風に見えたほうが、人が集まりやすい側面もあると思います。

石破:これがまたにぎやかな人たちでね。ようしゃべるわね。本当に。私たちは商売柄いろんな会に行きますけどね、今までで一番、元気がよかったかもしれない。

■震災で変わった東京と「移住女子」

伊佐:私の出身は新潟の見附(みつけ)市という、今、人口4万人の街で、繊維はまだ産業として小さく残っている、でも1997年ぐらいから人口がどんどん減少を続けて高齢化がずっと続いている、という典型的な地方の街です。

育てた若者を、大都市や東京に送り込んで。だから人口は自然に減っているけれど、それ以上に若者もどんどん出て行ってしまう。私も、高校で長岡市に出て、大学で横浜に行きました。

でも、移住女子は人口減少というネガティブな面だけではなく、違うところを地方に発見し、自分の生き方が実現できる場所として移住してるんだなと思うんです。

例えば、サミットにも参加され、私の本にも登場される、長岡の栗原里奈さんという方がいます。もともと千葉の出身で、「東京の湾岸エリアにタワーマンションを買って、同じように都会で働いている旦那さんと暮らして、何不自由なく暮らしていきたい」という気持ちですごく都会を楽しんでおられた方なんです。でも、この方は東日本大震災、2011年の3月11日をきっかけに迷いが生じたんだそうです。

栗原里奈さん(『移住女子』より)

栗原さんは、それまで「お金が大事だ」って思っていた。それなのに、震災の時、何時間もスーパーに並んで待っていたけれど、自分の前でお米が売り切れてしまって、食料が手に入らなかった。親戚に小さな子がいるけど、おむつも買えない。「あれ?一生懸命稼いだこの紙切れは何だ?」っていう疑問が湧いてきて、自分で生きる力を付けたいと思ったんです。

それはどこかと探した時に、新潟県長岡市に出会った。ここも新潟県中越地震で被災しましたが、自給自足をされていたり、冬の備蓄食糧があったり、顔の見えるコミュニティがあって、っていう場所だった。そこにほれ込んで、地元で同じような志を持った同年代の男性とも出会って、じゃあ一緒に新潟で暮らしていきましょう、と会社を辞めて、移住されたんです。

石破:私も、今のお話は実に強烈な印象を受けた話でしたな。東京って、お金と時間がないと楽しい街じゃないんですよ。どっちもないと楽しめない、この街は。東京の華やかな暮らしがしたくて、一生懸命に働く。そして3.11の後、お金があっても時間があっても何にもできない、「この街って一体何だ?」っていうことに気が付いた人は結構いたと思うのね。

東京は、今、2020年を控えて毎日お祭りみたいな、ワクワク、ドキドキ、楽しい街のように見えるんですよ。だけど、明日、首都直下型地震が来てもおかしくないし、あさって富士山が大爆発してもおかしくないし、この楽しさは一瞬にして消えかねない非常に危ういものなんですよね。

2020年をピークとして、東京はもう超超高齢化が始まる。本にも書いたように、昭和30年から昭和45年までのたった15年間に500万の人が東京を中心とする首都圏に来たわけです。昭和30年に15歳で東京に来た人は、一昨年、間違いなく75歳になってる。活力があった東京が「高齢者がいっぱいの街」になるわけです、間違いなく。東京はこれから、介護施設を造るだけで精一杯ですよ。

だから東京は、災害と高齢化って2つの負荷がかかる。地方はどんどん衰退する一方で、東京もものすごい負荷がかかる。何のことはない。東京も地方も、多少の時間差はあっても衰退、滅亡に向かっていっているよねっていう話です。

伊佐:私は正直、出身地の新潟の田舎が嫌で、高校を卒業して「こんなところ出て行ってやる」と思って横浜に来たんです。でも、上京して3年間、金融関係の営業マンを3年してたんですが、月曜日がつらかった。

毎週、金曜日が早く来ないかな、日曜日の夜に落ち込んで、月曜日を迎える。大事な20代、30代、私の人生「これでいいの?」って漠然と思っていました。似たような違和感を移住された方は持っているのかもしれない。

取材を進める中で、移住女子には「顔の見えるコミュニティの中で、私の夢だけじゃなく地域の夢を一緒に実現したい」っていう未来を語る方が多くて。それがやっぱり豊かな生き方だし、楽しんでる中で、ビジネスも生まれていく。それが今、日本全国に増えているなと思うんです。

東京的な価値観だけではなくて、地方で生きる、多分、遊ぶフィールドを見つけたんだなと思っています。

東京は消費する街だった。お金と時間があれば楽しい。でも地方は、自分が与えられる楽しみじゃなくて楽しみを生める場所、生み出せる場所。例えば発酵、味噌や醤油づくりだとか狩猟だとか料理も、分野は違うけど、何かを生み出している仲間たちがいるんです。

■東京対地方の対立を超えて

石破:今まで東京は東京、地方は地方っていう日本には2つの国があったようなもんなんですよ。お互いになんとなく憎しみがあって「いいな、地方は。公共事業もいっぱいあって、広い家に住んで車があって、のんびりしていいよね」って東京は思ってるし、地方は地方で「俺たちが子供を一生懸命養ったのに、やつらが税金を払うのは東京だぜ。儲けに利子付けて返せ」と思ってるわけです。つい先日も、地方で政治家の演説を聞いたら、実際にそういう話をしていました。

今までは、経済成長と人口増加がそれを顕在化させなかったところがあるんですね。だけど、ここから先、東京対地方の対立は下手すると激しくなる可能性があるわけです。それでは、まずかろうと。

東京の負荷を減らすために地方にできること、地方に活力を取り戻すために東京にできることは何だ?私はこの言葉はあまり好きじゃないんだけど、ウィンウィンの関係をつくっていけるんじゃないの?っていうのは、逆に今の時代だからできるような気がするんですがね。

伊佐:移住女子は、全員が完全に東京を捨てたわけではないんです。例えば福岡だったらLCCの飛行機を使えば、片道数千円で通えてしまうから、1カ月に1回とか、東京と関係を持ちながら働くこともできます。

働き方も、副業をする人も増えているし、その副業の「副」の字を変えて「複業」にしましょうと考える方も増えていますよね。20万円稼ぎたいんだったら、複業の5万円を4つで稼ぐこともできるし、100の仕事ができる「百姓」って名乗る方も増えてきてる。

例えば私の今着ている服もそうなんですが、東京から島根に移住された若い方が、地元の材料で染め物をして服を作るだとか、東京の価値観と地方にある資源を融合させて新しいものをつくるという取り組みが、今、全国で増えています。それを強制ではなくて自分たちが本当に楽しんでいる人たちがたくさんいます。

働き方も一つじゃない。生き方も今が全部じゃないっていう時代の空気感みたいなものが、移住女子には詰まっていると思います。

本の中で、島根県海士町の話を書きました。有名なところですが、人口が減って、高齢化が進んで。でも、その中で「島留学」と名付けたプログラムで県外からの高校生を呼び寄せたりして、人口が2400人ぐらいしかいなかったところに、10年間で約400人の移住者、Iターンを受け入れたそうです。

■地方に勝者と敗者が生まれる

編集部:移住者が沢山来て、希望が持てそうな地方自治体もありますが、実態は何も有効な対策を打てていない自治体がほとんどではないでしょうか。石破さんは本で「これからは地方でも勝者と敗者が分かれる」と指摘されていました。

石破:駄目なところに合わせたらみんな駄目になるって当たり前な話で。「地方創生がうまくいかないのは、やりっ放しの行政、頼りっ放しの民間、全然無関心の市民、これが三位一体になったら絶対失敗だ」という話なのね。

効果の検証もしない行政。民間は「市役所がもっと補助金くれないかな」。市民は何の関心もない。大体、町長も市長も、いつも無投票で選ばれる。それは、自分たちで選んだ政治でしょう?自分たちがこの街を良くしようっていうスピリットがなければ、それは、当たり前に、消滅するに決まってるんじゃないですか。

例えば、今お話に出た地方創生のモデルみたいにいわれる海士町。

今の町長は、高校を出て、勤めて、定年になって島根に戻ってきて町会議員になって議長になった。その頃に、当時の現職の町長が引退して町長選挙があった。副町長が「公共事業の誘致に努め、国とのパイプを生かしてもっと補助金を獲得します」みたいなことを言って立候補しました。大体よくあるパターンでは、その副町長が当選するでしょうね。

ところが、今の町長さんは「それってねえだろうよ」と立候補して、圧倒的大差で勝った。

実は、皆が副町長を支持していた中で、町で一番の建設会社が彼を応援した。いわゆる「土建屋」ですよ。「わが何々建設は、公共事業のおかげで、国からの交付金のおかげでここまで来た。でも、これ以上続かないことは分かってるんだから、この街は新しいもので伸びていかなきゃいけない」と。かっこいいね。それで、彼が当選した。

それから、その町長は、この島では生きる力を身に付ける「島教育」を始めようと言った。廃校寸前だった高校に大勢の生徒が集まった。町長が「やろう」、民間が「そうだ」、町民が支持して。やりっ放しの行政、頼りっ放しの民間、無関心な市民の全部逆でしょう?これだと思いますよ。

伊佐:移住女子自身が動き始める例もあるんですよ。例えば、岩手県の遠野市は移住者がすごく増えているんですが、出産する場所が充実していないのが悩みでした。最寄りの助産院がお隣の花巻市、とか。。

その問題を解決するために、移住した方自身が、地元のネットワークを活用して助産婦さんに遠野市まで来てくれるよう働きかけたり。仮に行政のお膳立てがなくても、自分たちでやれるところまでやる。そんな方が全国にいて、芽が今出てきているところなんです。

そういう動きを支援する行政がもし今後出てきたら、もっと大きな動きになると思います。

石破:「女は度胸」とはよく言ったもんだ。決断力がありますね。みんながみんなそうではないでしょうけれど。

正直に言うと、移住を受け入れる側も、若い女性が来たほうが楽しい。若い女性が来て、もしも赤ちゃんが生まれたりすると「この村に子供が生まれたのは何十年ぶりだろう」みたいな素晴らしい出来事にもなるから。

そして移住者は、「外から見てるとこんな素敵なものがあるじゃないですか」っていうことが言える。地元の人が「何だ、こんなつまんないもの」っていうのが、外から来るとすごく新鮮だったりするんですよ。先ほど話に出た、遠野であれば「遠野と言えばカッパですね。以上」みたいな風に思っている地元の人は案外多くて、良さに意外と気づいていない。

観光地域づくりの舵取り役を担うというDMO(デスティネーション・マネジメント・オーガニゼーション)や、着地型観光が話題ですけれど、今まで、全部役人がやってたんですよね。市とか県の観光部長みたいなのをやってた人、しかも男性が役人の発想でやるわけですよ。しかも東京の旅行会社と組んで、東京が企画して、地元にはほとんど金が落ちない。

だけど、着地型観光の本質は、地元が企画して、地元に人を呼んでくるということですよ。そこへ外から人が来る、そして女子が移住して来る。移住女子がいれば、地元の人、あるいは男性が気付かない地域のいろんな資源がいろんな発想が出てくる素敵さがあるんじゃないだろうか。

日本の場合、国会でも、県議会、市町村議会でもそうなんだけど、女性の数がこんなに少ないのは異様で、女性の持ってるいろんな価値観が社会に反映されないのはそういうことなんですよ。

「移住女子」が色々なコミュニティをつくって、町を元気にする役割の一翼を担って、やがては「私、町会議員になってみよっかな」とか「市会議員になってみよっかな」と。そうやって移住女子が地方を変える。日本を変える。そういう期待を私は持っています。

▼プロフィール

石破茂

いしば・しげる

1957年生まれ。鳥取県出身。慶應義塾大学法学部卒。1986年衆議院議員に当選し、防衛大臣、農林水産大臣、地方創生・国家戦略特区担当大臣などを歴任。著書に『国防』など。2017年4月20日に『日本列島創生論』(新潮新書)を刊行。

伊佐知美

いさ・ともみ

1986年新潟県生まれ。横浜市立大学国際総合科学部卒。編集者・ライター。株式会社Wasei所属。これからの暮らしを考えるウェブメディア『灯台もと暮らし』編集長として、現在は日本全国、世界を旅しながら取材・執筆活動をしている。オンラインサロン「編集女子が"私らしく生きるため"のライティング作戦会議」主宰。2017年1月25日に『移住女子』(新潮社)を刊行。

注目記事