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「働きかた改革」全盛の時代に、マザーハウス副社長・山崎大祐が語る"会社"の存在意義

2017年07月05日 18時46分 JST | 更新 2017年07月06日 23時06分 JST

「やはり会社はあったほうがよいし、できるならみんなオフィスに来たほうがいいと思います」

マザーハウスの山崎大祐副社長が口にした言葉は、私には少し意外だった。

会社以外の場所から遠隔で仕事を行うリモートワークや、多様な就業形態の容認など、働きかたの変革に関する議論が盛んになっている。その背景には、旧来の日本企業における働きかたや労働環境にある非合理を是正しようとする意識があるのでは、と私は考えていた。

外資系金融機関のゴールドマン・サックス証券出身で、現在は自ら企業経営を担う山崎氏は、どちらかというと既存のシステムに否定的なのではないかという思い込みがあったのだ。しかし、ことはそう単純ではなかった。

ハフポスト日本版は、マザーハウスと「会社」をテーマにしたイベントを共催する。イベントを前に、なぜ会社組織やオフィスに集まって働くことに肯定的なのか、山崎氏にその「会社」観を聞いた。

■「生産性」と「コミュニティ」という視点

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――山崎さんの「会社」に関する関心はどこから来ているのでしょうか。

山崎:3つあります。

まず、経営者である以上、僕の仕事は皆が働くための場所をつくること、コミュニティをどうつくるかに絶えず向き合うことです。常に「会社ってそもそもなんだろう」と考えているし、制度とか仕組みを作る上で、皆が会社に何を求めているのかはいつも気になります。

2つめは、世の中に飛び交う「働きかた改革」に対する問題意識です。働きかた改革って実は会社改革でもあるわけじゃないですか。フリーで働く人もいれば会社に所属して働く人もいるわけで、なんであまり会社の話をしないのかな?とすごく思います。副業とかリモートワークの話って、同時に「会社とは何か?」 を問うことでもあるはずですが、その議論はまったくまとまっていないと感じています。

3つめは、もう少し大きい話なんですが、僕はもともと学生時代から興味があって、思想としての資本主義を研究しているんです。

いまって会社の危機だと思うんです。この数十年は、「会社」への信頼がかつてなく低くなっている。特に日本はそうだと思います。

日本は戦後から高度成長に至る中で、「年功序列・終身雇用であなたを守ります。その代わりにあなたは自分の人生を捧げてください」というような双務契約が企業において続いていた。それが、バブルがはじけて、制度が崩壊したあとは、日本型の会社組織がどうあるべきかが見つかっていないんですよね、この20~30年。

日本企業の新たな理想形を求めて、アメリカ型のガバナンスとか、資本主義のあり方がずっと議論されているけれども、実は見つかっていない。その間に、会社への信頼がずっと失墜し続けてきたこの何十年だと思っています。

この3つが重なって、いま僕は「会社」の話をしたいなと思っているんです。

――山崎さんは会社には肯定派なんですよね。会社は存続していくべきだと思っている。

山崎:うん、そうです。

――その理由というのは。

山崎:生産性とコミュニティ、ぜんぜん違う2つの観点があると思うんです。

成果の観点で言うと、皆で集まって仕事をしたほうがいいケースと、個人でやったほうがいいケースは全然違うと思います。

クリエーティブ系のビジネスは基本的にあまり集まる必要がない。そもそも会社が本当に必要かどうかとすら言えます。しかし、製造業にしろサービス業にしろ、オペレーションビジネスは違う。日々のPDCAによる改善であったりとか、毎日オペレーションを継続したりしていくことにすごく意味がある。

世の中の仕事って、ほとんどがオペレーションビジネスなんですよ。リモートワークとか副業のような話って、クリエーティブな人にとってはいいと思うんですけど、そうでない人には実はとっても危険な話で。

オペレーション型のビジネスをやっている人にとっては、絶対同じ場所に集まったほうが効率がいい。みんなで集まって力を持って、価値を出したほうがいいはずです。むしろ1人だけ部分的に切りだしたら、生み出せる価値がすごく低くなってしまうことがある。

集まったほうが生産性が高いのか? どれぐらいの頻度で一緒にいると生産性が高いのか? バラバラの場所で、色々な人たちと仕事したほうが生産性が高いのか? というのが、生産性の視点です。

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もう1つがコミュニティという視点です。

僕はフェイス・トゥ・フェイスが生む信頼ってまだ人間にすごくあると思うんですよね。同じ場所にいるという信頼感。この信頼感というものは、日頃から色んな所で仕事をしているとなかなか生まれないものです。

また、人間は、見えないこととかお互い同じ場所にいないことが不信感につながりやすいじゃないですか、残念ながらまだまだ。そういう中で、信頼を醸成するコミュニティをつくっておけば、その人に何か不測の事態が起きたときに対応できる。フリーの人はすべて自分でやらなければならないですが。

極端な話、事故にあってしまったとします。怪我で半年間、アウトプットがほとんど出せません。でもそうだとしても、会社であれば、それまでの信頼があるから、その人をサポートできるんですよ。人間だから、仕事上の成果うんぬんではなくて、助けてあげようよっていうセーフティネット機能です。

それはやっぱり、今までどう仲間としてやってきたのかとか、同じ場所に集まって「あいつ人間として信頼できるよね」っていう信頼があってこそじゃないですか。フリーで、業務目標を達成するかどうかだけで付き合っていた人だと、成果が出せないなら他の人を選びますよ、となりやすい。スイッチングコストがすごく低いんです。

やはり、会社に集まって仕事する意味がコミュニティという観点でもあるんじゃないのかな、と思っていますね。

■日本に足りない「イノベーティブな生産性」

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――いまの会社に対する違和感って、個々人が本来発揮できるはずだった生産性が、人が集まっているせいで落ちているんじゃないの? というものだと思うんです。そういう発想から、転職したりフリーになったりするのではないでしょうか。これは、会社である限り逃れられない宿命なのか、それとも日本企業が変われていないだけなんでしょうか。

山崎:両方だと思います。

モノが足りなかった時代、サービスが足りなかった時代は、市場に需要のほうが大きいので、とにかく同じもの・ことを供給するのが重要だったんですよね。「足りない状況に対して、いかに効率よく生産的にサービス・財をつくっていくか」が大事だった時代は、とにかくオペレーションに尽きたんです。そういう時代に、日本企業は適応してきた。

右肩上がりの時代はすごい楽なんですよ。とにかく我慢すれば、なんとなく報われる。だから我慢しろでよかった。人間的な部分を見る必要がなかった。

今はもう、みんな「絶対そうじゃない」ってわかってるじゃないですか。そうすると、上司とか、チームリーダーたちが、人間的に向き合って仲間をモチベートしていく義務が生まれるんですよね。それができない中で、未来も右肩下がりになるとなれば、モチベーションは下がりますよ。

会社にいれば生産性にあがるとか、会社でみんなが一緒にいればいいというのではない時代になっているのは間違いなくて、チームを作ることができるリーダーや、みんなの価値を組み合わせることができるリーダーが凄く求められている。でも、圧倒的に足りないですよね。「イノベーティブな生産性」みたいな話になったときに日本は圧倒的に弱い。

■経営者として考える「どうやって皆を守るか」

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――日本は今までオペレーションビジネスが多すぎたということはありませんか。また、技術革新によってオペレーションビジネスは減っていくのではないか、減らしていくべきではないかという論点についてはどう思われますか。

山崎:サービスやものづくりが強い国というのもあって、オペレーションビジネスは多いと思います。また、AIやIoTなどの進歩で、オペレーションビジネスが危機にあるのもそうでしょう。

経営者的な視点で言えば、日本の社長さんたちの間には、人が機械に代替されることに対する危機感は強くあるでしょうね。経営者は、「どうやったらみんなを守れるか」って、絶対思っているんですよ。アメリカ型経営と日本型経営では違うかもしれませんが。

アメリカは労働市場の流動性も高いし、自己責任の国で、それに対価を払うと。日本はやはり、雇用を守ることへの意識が強いと思います。そういう意味でいうと、これから、オペレーションビジネスで同じことをやり続けるのは得意だけど新しいことに対しての意識がどうしても持てないみたいな人たちをどうやって配置転換していくかみたいなことは、みんな思っていると思いますけどね。

――労働者を守るのも、会社でやるべきだというお考えですか。

山崎:僕自身の考えではそうです。そしてそれに必要なことは、ビジネス開発だと思っている。

マザーハウスの従業員は75%が女性で、産休・育休をとる人も多い。そして戻ってくるんですが、うちは土日、特に日曜日が忙しい状況がある。日曜日にお客さんがいっぱい来るのに現場を見られないとなると、店長になるのは難しいわけです。

では、彼女たちが活躍できずに終了か?というと、それは違う。僕は制約条件によってこそビジネスが創れると思っているから、「日曜日働けません」という条件において、彼女らが一番モチベーションを持って仕事ができる環境をどうつくったらいいかを考えています。

カタログギフトの関連業務であればリモートワークでできるかな、とか、そういう配慮は必然的にできるんですよ。みんなが集まれればいいけど、そうできない人に対してもきちんと対応できるビジネスのあり方をつくり、価値をつくれるように設計していく。この役割を担う人の重要性はすごく大きくなっていくと思います。

設計するためのツールには、IoTのようなテクノロジーと、ストーリーと、2つあると思います。そして、ストーリーのほうがより重要です。

なぜ重要かというと、これから間違いなく人が足りなくなるからです。優秀で、仕事に対するモチベーションも高い子育て世代はたくさんいるので、そういう人たちをどうやって集めるかは重要なテーマになってくる。彼ら・彼女らを活かせる会社しか、そういう人たちを集められないので。

山崎大祐(やまざき・だいすけ 株式会社マザーハウス副社長)

1980年東京生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。
大学在学中にベトナムでストリートチルドレンのドキュメンタリーを撮影したことをきっかけに、途上国の貧困・開発問題に興味を持つ。2003年、ゴールドマン・サックス証券に入社。エコノミストとして、日本およびアジア経済の分析・調査・研究や各投資家への金融商品の提案を行う。2007年3月、同社を退社。大学時代の竹中平蔵ゼミの1年後輩だった山口絵理子が始めたマザーハウスの経営への参画を決意し、同年7月に副社長に就任。マーケティング・生産の両サイドを管理する。
マザーハウスは途上国でバッグやジュエリーを生産。国内22店舗、香港および台湾7店舗で販売している(2017年6月現在)。

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後編では「コミュニティとしての会社」について深く掘り下げる。