乙武洋匡「自分の頬が濡れていた」 欧州最大のLGBT祭典ロンドン・プライドでの2時間

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乙武洋匡
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イギリス・ロンドンで7月8日に行われたLGBTの祭典「Pride in London2017」。相次ぐテロの後、イギリスは誰もが「排除されない社会」をどうやって築いていこうとしているのか。作家の乙武洋匡がレポートする。

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ヨーロッパ最大と言われるLGBTの祭典「Pride in London2017」が開催された。パレード当日に向けては、ロンドン有数の観光地であるタワーブリッジにレインボーフラッグが掲げられたり、英国議会の議事堂でもあるウェストミンスター宮殿が虹色にライトアップされたりと、街全体が祝福ムードに包まれていた。

プライド当日、朝起きてパレードに向かおうとGoogleマップを開いた私は、思わず「おお」と声を上げてしまった。市民の憩いの場であるリージェンツパークの南側からロンドン中心部にあるトラファルガー広場までの約2.4kmの道のりが、虹色に表示されているのだ。地図上に光り輝く一本のラインこそが、この日のパレードのルートを示していた。

パレードに参加できるのは、事前に登録したグループのみ。それぞれのグループは、ディズニーやフェイスブックといった企業の他に、NPOや大学の有志団体などが母体となっている。パレードの参加者は思い思いのコスチュームやグループごとにあつらえた揃いのTシャツに身を包み、後方に簡易舞台が設けられたフロートと呼ばれるトラックに先導され、約2時間をかけてゴールを目指すことになっていた。

正午。私が参加することになっていたグループの集合場所に到着すると、すでに真っ白なドレスにド派手なメイクで着飾った白人のドラァグクイーンや黒づくめのボンデージ衣装に身を包んだセクシーな黒人男性など、普段の生活ではめったにお目にかかることのできない人々が待ち受けていた。

「Happy Pride!!」
「Happy Pride!!」

仰々しい格好をしたイギリス人と背の高い車椅子に乗った日本人。はたから見れば、いたって不思議な組み合わせかもしれない。だが、笑顔でこの日の“合言葉”を交わせば、初対面なんてことは関係なしにすぐに打ち解けることができてしまう。魔法の言葉だ。

パレードの開始は13時半と聞かされていたが、結局、私たちのグループが出発できたのは15時をずいぶんと過ぎた頃だった。だからと言って、文句を言う人など誰もいない。グループを先導するトラックが流す大音量の音楽に合わせて体をくねらせ、時折ビールを流し込む。待機場所に指定された路上は、まるで青空に見守られたディスコクラブのようだった。

いよいよ私たちのグループの出番が来た。警官たちの指示に従って、大通りを歩き出す。思わず、吹き出してしまいそうになった。ここ数ヶ月はテロが相次いで起こっていたこともあり、普段はピリピリした態度しか見せることがなかったロンドン警察。そのコワモテの警官たちの頬には、なんとレインボーのペインティングが施されていたのだ。

LGBTフレンドリーな警官たちに見守られながら私たちが歩き出すと、そこには異空間が広がっていた。ビクトリア時代の建物があちこちに現存する歴史的な街並み。それらの建物に挟まれるようにして走る大通り。その両側にはレインボーフラッグを手にした市民たちが大挙して押しかけ、歓声を上げている。

「Happy Pride!!」
「Happy Pride!!」

沿道の人々と“魔法の言葉”を交わす。どこの誰かもわからない相手と、心からの笑顔を交わす。進んでも、進んでも、群衆は途切れることなく沿道を埋め尽くしている。フロートが流す大音量の音楽に合わせて歌う人。手にしたレインボーフラッグを振り続ける人。厚みのある手のひらをパチパチと打ち鳴らす人。誰もが、思い思いの手段でパレードを盛り上げていた。

しかし、私は次第にそれらの行為がただパレードを盛り上げるためのものではないことに気づかされた。彼らは、心の底から祝福しているのだ。LGBTとして生きてきた人々の存在を。彼らの人生を。彼らの生き様を。歌い、旗を振り、手を打ち鳴らすことで、彼らが今、ここに生きていることへの感謝と祝福を表現しているのだ。

いや、彼らが祝福する対象は、きっとLGBTの人々だけではなかったはずだ。そこに集まったすべての人々、この世界に生きる一人ひとりの存在、一つ一つのかけがえのない命に対しての敬意と祝福が、たしかにそこでは感じられた。

沿道を進む。老いも若きも、男も女もどちらともつかぬ人も、白人も黒人もヒスパニックもアジア人も、そこにはじつに多種多様な人々が集い、笑顔で言葉を交わしていた。

「Happy Pride!!」
「Happy Pride!!」

Pride。誇り。そう、私たちは、もっと誇りに思っていい。私たち一人ひとりの存在を、もっと誇りに思っていい。一人ひとりの存在を、人生を、たがいに祝福しあうことが、こんなにも心地よく、心の底から歓びを感じられることだなんて、思ってもみないことだった。

約2時間のパレードは、あっという間に終わってしまった。ゴールした私は、そこで初めて、自分の頬が濡れていることに気がついた。

今回のパレードには、過去最大となる150万人が参加したという。パレードにも参加したロンドンのサディク・カーン市長は、こんなコメントを発表している。

「ロンドンで素晴らしいプライドを開催することは、悲しみ、苦しみ、死別、テロリズムへの何よりの対抗手段だ」

人種、宗教、言語、性別−−人々が抱える“違い”は、何よりも私たちの間に分断を生みやすい。ヨーロッパに比べ、日本では人種や宗教が分断のテーマとして語られることは、そう多くない。しかし、LGBTや障害者など、まだまだ「異なる世界の人々」として扱われている存在がいることを忘れてはならない。

それでも、私は信じている。私たちには、そうした違いを受け入れ、誰もが排除されない社会をつくりあげる力があることを。私たちには、それを成し遂げるだけの知恵と強い心があることを。

(取材・文 乙武洋匡

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