あの人のことば

地元女性たちが運営する指宿市立図書館、クラウドファンディングで日本最高額の1000万円達成

2017年07月17日 17時22分 JST | 更新 2017年08月20日 23時11分 JST
そらまめの会

九州の南端にある鹿児島県指宿(いぶすき)市。その二つの市立図書館を指定管理者として運営するNPO法人本と人とをつなぐ「そらまめの会」が7月14日、クラウドファンディングで1000万円を達成した。図書館活動のクラウドファンディングとしては、東京・渋谷にある「森の図書室」が2014年に達成した953万円を抜いて、国内最高額を更新した。

「そらまめの会」は、地元の有名企業でもなければ、全国で指定管理を請け負う大手企業でもない。図書館でボランティア活動をしていた元保育士の女性が中心となって、地元の女性たちがゼロから立ち上げたNPOだ。右も左もわからないまま、手探りで奔走。地域の人たちに愛される図書館を、10年かけて作り上げてきた。

今回のクラウドファンディングでは、移動図書館車である「ブックカフェ」をつくるために寄付を募った。指宿市では、指定管理者導入前の2005年、予算削減のため移動図書館車を廃止。図書館から離れた地区の子どもたちの利用が激減したことがきっかけだった。「そらまめの会」へ集まった1000万円の多くは地元の人たちからで、ブックカフェによる地域の活性化への期待も高まっている。締め切られる7月18日午後11時まで、最終目標の1300万円を目指し、そらまめの会では引き続き支援を呼びかけている。

■ある日突然、町の図書館が指定管理者に......

指宿市は2006年に1市2町が合併した自治体だ。旧指宿市と旧山川町には、歴史ある図書館がそれぞれあったが、合併後の6月議会で両図書館に指定管理者制度を導入することが決定された。驚いたのは、図書館でボランティア活動をしていた女性たちだった。その一人で、現在は「そらまめの会」理事長と指宿図書館館長を兼任する下吹越(しもひごし)かおるさんは、当時をこう振り返る。

「どうしよう、このままだと私たちの町の図書館をまったく知らない、よそから来た人たちに任せることになってしまう......と、ボランティア仲間の学校司書たちと相談しました。だったら、NPOになって自分たちで図書館を運営してみようと。本と人とのつながりを守りたいと思いました」

当時、指宿市図書館は、一般職員が数年ずつ図書館に在籍する状態が続き、利用者も減っていた。しかし、下吹越さんたちボランティアの活動により、徐々に活気が戻ろうとしていた矢先だった。

下吹越さんたちは勉強を重ねて法人格を取得。ボランティアの仲間や学校司書たちと計画を立てた。その頃、保育士だった下吹越さんは保育園を休み、司書教諭資格を取るために鹿児島大学に通った。指定管理者に応募するには、「職員の半数に司書資格」が必要だったからだ。メンバー全員が司書か司書教諭の資格を持った「そらまめの会」は、12月議会で応募のあった5社の中から見事、指定管理者に指名。翌年4月から図書館運営に乗り出すことになった。しかし、安心は全くできなかったという。

「前日の3月31日に図書館の鍵を一つ、ぽんと渡されました。担当職員は新しい部署に行ってしまい、図書館担当の職員配置もなかった。こんな状態で、明日から私たちは図書館を運営できるのか......と心配だらけでした。帰る時に振り返ったら、いつも見慣れている図書館が大きく見えました。不安で胸が押しつぶされそうでした」

ibusuki

図書館のクラウドファンディング日本一になった「そらまめの会」のブックカフェプロジェクト

■手探りで始めた図書館、10年かけて改革

「そらまめの会」の苦難は続く。

「指定管理者として船を漕ぎだしましたが、私たちは図書館のことは知っていても、運営や経営のプロではなかった。電気はどこに頼んだらいいのか、税金はどう計算するのか、保険料はどう処理するのか。自分たちで入札にかけて、全部決めなくてはなりませんでした。最初は本当に何もわかりませんでした」

しかし、地元の人たちの助けが「そらまめの会」の危機を何度も救った。たとえば、地元の会計事務所の所長は、「君たちには経営スキルはないのだから、1年目は無償でサポートしよう。でも、2年目からはちゃんと考えてやれるようにしないさいよ」と教えてくれた。貸借対照表の読み方もわからなかった下吹越さんたちだったが、知恵を借りながらなんとか活動を軌道に乗せた。

「そらまめの会」による図書館では、さまざまなイベントが実施されるようになった。たとえば、日中に親が働いているためにおはなし会に参加できない家族のために、「よるのおはなし会」を夜間に開催。毎年9月には、よるのおはなし会のあと、図書館をお化け屋敷に演出して「図書館ミステリーツアー」を開いている。2013年からは、指宿駅の足湯広場で指宿昔話紙芝居を方言で披露、市外から来た観光客にも好評という。

「お客さんは『駅に降りると現地の言葉で現地の話を聞けてうれしかった』と言われます。うちの図書館には、元気な図書館員がいます。図書館の目玉は図書館員です。図書館ミステリーツアーでは、町の人たちがボランティアでお化けや妖怪に扮してくれます。この時1年に1回、この夜だけ手伝ってくれるお化けボランティアもいるんですよ」

「そらまめの会」による10年がかりの改革で、図書館の利用者数は約1万人増えているという。

ibusuki

ミステリーツアーに参加したお化けボランティア。泣き出す子どもが続出という

■戦後から指宿の人たちを支え続けてきた図書館

もともと、指宿図書館は終戦直後、1948(昭和23)年に開館という歴史ある図書館だ。当時の指宿町は戦争から帰ってきた失業者であふれていた。サツマイモ栽培を試みるが、農業の専門的技術がなかったため、黒斑病が蔓延してしまう。そこで、鹿児島県の担当者が「農民図書館」をつくろうと動いた。そうして開館した指宿町の図書館は、夜間に農業講座を開いたり、実に1002人、174の読書グループを生み出して農業に関係する本を貸し出したりした。また、学習会を開催して、農家の育成に尽力した。

「今でこそ、あちこちの図書館でビジネス支援や農業支援をしていますが、指宿では昭和24年には既にビジネス支援を実施していました。当時の図書館の文芸誌『柳和(りゅうわ)いぶすき』第2号には『本の読み方は、単に気の向くままに読むというのではなく、生産を高めるために本を読む。食生活を改善するために本を読むというように、あるものを目指してその問題を解決するために本を読むような傾向が多分に強いので、誠に望ましい読み方だと思う』と書かれています。読書が営利につながり、戦後の町の復興につながっていったのです」

他にもこんな話が指宿の図書館には伝わる。当時、農家の女性たちの読書グループがあったが、本を読んでいると「畑仕事を嫌う怠け者」として、家族から良い顔をされなかった。読書グループの学習会で推挙された「アルプスの少女ハイジ」を図書館で借り、隠れて読むのが、彼女たちの心の支えだったという。

「ある時、農業婦人部でアイリスの花を育てようとして、失敗が続きました。そこで女性たちが図書館の本で調べたところ、球根類は越冬させなければ発芽しないということを知ります。当時、指宿にはまだ冷蔵庫がある家庭は少なく、女性たちは隣町の製氷業者に頼み、球根を越冬させてもらいました。やがて、その球根を植えたところ、なんと畑一面にアイリスの花が咲き、農家は潤うようになったそうです。『本もたまには、タメ(為)んなったんねえ」と初めてお姑さんが読書の価値を認めてくれました。それ以来、女性も堂々と本が読めるようになったとのことです」

指宿の図書館は、そこで暮らす人たちの人生を支えていたのだ。

ibusuki

10年かけて市民から愛される図書館づくりをしてきた「そらまめの会」

■「子どもに本を届けるのが正しいお金の使い方」

そんな伝統を受け継ごうと、そらまめの会では「本と人をつなぎ、人と人とのつながりが生まれるような場」を目指し、ブックカフェのプロジェクトを立ち上げた。最終的な目標は、図書館までなかなか足を運べない子どもや高齢者に本を届けるだけではない。プロジェクトで下吹越さんはこう話す。

「若い世代の人口流失や少子高齢化が深刻な課題となっています。さまざまな要因が積み重なり、この課題が生じているのですが、私はその一因として『人と人とのつながりが希薄化していること』が理由だと考えています。私たちはこの問題を、『本のある空間』を届けることで解決していきたいと考えています。空間があることでそこに交流が生まれ、多くの人が繋がっていきます。移動式の『走るブックカフェ』はこの問題を解決し、地域をより活性化させるきっかけになると考えています」

4月からスタートしたクラウドファンディングだが、2か月で最初の目標金額750万円に到達する快挙。これにも、地元の人たちからの手助けがあった。当初、「そらまめの会」のメンバーが友人や知人のネットワークで支援を呼びかけていたが、300万円ほどのところで伸び悩んでしまった。

「ここからどうしようと言った時に、地元の会計事務所が協力を申し出てくれました。『やっと我が町にも、ファンドレイジングの可能性にかけている人が現れた』と喜んでくれたそうです。そこから、会計事務所が間に入り、漁業協同組合や病院などを一緒にまわってくださり、寄付を集めました。その会計事務所では設立50周年の予算で、講演や記念品製作を考えていたそうですが、『子どもたちに本が届けられる。これを支援することが正しいお金の使い方だ』といって、その周年行事予算の200万円を振り込んでくれました」

ここで一気に流れが変わる。

■ブックカフェに本や野菜、音楽家を乗せて走りたい

目標金額の70%まで迫ると、当初はあまり図書館に興味のなかった人たちが、後から続くようになったのだ。地元の人たちからの温かい応援は途切れなかった。

「地元のさつま揚げ屋さんはお金がないけど、バザーでさつま揚げを揚げるからその売上を全部あげるといって、1日中さつま揚げを揚げて売ってくれました。バザーとして出店してもらった野菜の売上金を渡そうとすると、『ブックカフェに使って下さい』と言っていただきました。小学校4年生の男の子の作ったお野菜もその中にはありました。ある日、私たちのもとに80歳ぐらいのおばあちゃんが来て、『これでバスを買って』とクシャクシャの1000円札を出してくれました。このプロジェクトはそういう気持ちに支えられています」

「そらまめの会」では当初の750万円から、目標金額を1300万円に再設定した。それも1000万円を超えたことで、達成のゴールが見えつつある。「そらまめの会」のブックカフェには、地元の人たちの夢が乗せられているのだ。

ibusuki

バザーでのさつま揚げの売上が全額寄付に

「本だけではなく、指宿の名産品もこの車に積み込んで、売って歩きます。ミュージシャンを乗せて、あちこちでコンサートもしたい。その人や企業の歴史を聞き取って、世界に1冊だけのオリジナル絵本を作りたい。さまざまな講座も開きたい。何も持たない私たちですが、ブックカフェがあれば活動の幅が広がります。NPOでも、やればちゃんと図書館の運営ができるんだということを知ってほしいです」

自治体が設置する社会教育施設でもある公立図書館の運営を民間に任せる指定管理者制度は2003年に施行された。以来、現在にいたるまで激しい論争がある。しかし、そんな議論を横目に、指宿市立図書館は自分たちの町の図書館をそこで暮らす人たちとともに、作り上げている。本当の地方自治とは何か。指宿市立図書館の「奇跡」から、私たちは考えなければならない。