「早く帰れおじさん」と「結果出せおじさん」、自分はどっち?

僕が死んだら、会社の葬式もして、サイボウズの今の貯金は、みんなで山分けした方がいいですかね(笑)。
Yuriko Izutani/HuffPost Japan

残業を減らすのは本当にむずかしい。「早く帰れ」と上司がキレイごとを言うのは簡単だが、同時に企業は、仕事の成果も求められる。だから、部下は家に帰って仕事をするはめになる。現場の社員はいつも板挟み。

どうしたら良いのだろう?

グループウェアをつくるIT企業「サイボウズ」の青野慶久社長は、最大6年間の育児・介護休暇を採り入れたり、副業を認めたりしてきた。オフィスには、汚いパイプ椅子や退屈な会議の資料が置かれた灰色のテーブルがない。おしゃれなブルーを基調とした楽しい家具であふれている。カイシャの形を次々と変えてきた。

ハフポスト日本版は、株式会社マザーハウスといっしょに青野社長を呼び、働き方について議論するイベント「『会社』はなくなってしまうのか? 多様化する働き方と、組織のかたち」を開いた。マザーハウスの山崎大祐副社長が定期的にひらくマザーハウスカレッジの特別版だ。

残業を減らそう、と叫ぶ上司たちは、本気で働きかた改革をしたいのだろうか?単にメディアが騒いでいるから、あるいは経営陣から「残業削減しろ」と命令されたから、「早く帰れ」と言っているのかもしれない。

結果を出すことと、働きやすい職場は両立するのだろうか。自分はどっちを求める「おじさん」なのか。オフィスで上司や同僚といっしょに考えたい、グサリと来る青野さんの「名言」をいくつか紹介します。

1 「結果出せおじさん」と「早く帰れおじさん」の両方がいる職場は大変だ。

日本人の働きかた改革について僕は、10年間言い続けてきました。政府も前向きになってきて、安倍総理が「働き方改革が一番大事だ」と様々なシーンで発言され、空気が変わってきました。

電通の女性社員、高橋まつりさん(当時24)が過労自殺したことが報じられ、ようやく上場企業の経営者のみなさんのマインドも変わってきました。本当に繰り返してはいけない、残念な事件だったと思います。

残業を減らす流れになるのはいいのですが、職場に「早く帰れおじさん」と「結果出せおじさん」が両方いると大変ですよね。

僕の友達も「上から、残業やるなって無理やり言われて困っている」とボヤいているのですが、なんだか本末転倒ですよね。

そもそも残業削減って経営者の保身のためにやっているのではない。上から言われたからイヤイヤ残業を減らそうというのではなく、一律に何かを押し付けずに、働きかたの選択肢を増やすにはどうしたらいいのだろうか、って考えるためにあるものなのです。

「職場はどうしたら働きやすくなるのだろう」「楽しくなるのだろう」と根本的に考えることが大事だと思います。100人の社員がいたら100通りの働き方や人事制度が必要なんです。経営者のみなさん、そういう「根本の話」を社員のみなさんと話していますか?

働きかた改革の難しさを訴えるサイボウズの広告

2 リモートワークを認めるのは、社員を「信じている」からではない。

サイボウズには、入社3年目の女性で、出身地の京都で、2カ月に1回くらい実家で在宅ワークをしている人がいます。「今週1週間、(本社がある)東京から離れて働きます」みたいな感じでリモートワークするんですよ、気軽に。

「オフィスから離れて働く社員を疑ってないのですか」「完全に信じているのですね」と聞かれますが、「信じている」というより、みんなで理想に共感している状態を作っているだけなんですね。

サイボウズの社員全員が、「自分達の製品を通して、日本中の企業のチームワークを良くしたい」という理想に共感してくれたら、共通のゴールが生まれます。ゴールがあれば監視をしなくて良いんです。

ただ、ウソは絶対ダメです。家にいても、いろいろなことは起こると思います。何か突発的なことが起きた時、「ごめん、今日リモートワークをするため家にいたけど、お腹が痛くなったから午後3時から休みます」と正直に言ってくれたら、全然問題はないです。

隠したり誤魔化したりする人がいると、「リモートワーク禁止」と言わざるを得ない。ウソをつかないでオープンに言い合える社風を併せてつくるというのが、離れて働くことのライフラインだと思います。

リモートワークをしている女性社員もイベント中に思いを語った。

3 創業者が死んだら、会社も解散する?

経営者が創業者というのは、強いんです。会社を立ち上げる時に「ゼロから作ろう」と決意した時の強烈な思いがあるから。

その「思い」がいくら強くても、当時を知らない次の経営者に託して、完全に引き継ぐことは難しいですよね。

でも、たとえ経営者が変わったあとも、会社だけはそのまま、どんどん大きくなっていきます。

会社もその一つである「法人」って「バーチャルなヒト」ですよね。会社を作った人がいなくなっても、「バーチャルなヒト」である法人が生き続け、会社の口座にお金が貯まっていくんですね。本当に不思議な存在です。リアルな人はいなくなるのに、バーチャルだけが残る。

「東芝さん」などと、企業に「さん」付けで呼ぶ人がいます。あるいは、「東芝」という会社名に親しみや憧れを持つ人もいるでしょう。

しかしながら「東芝さん」ってリアルなヒトとしては存在していません。存在しているのは、例えば東芝の「取締役」の「誰々さん」なんですよね。

働いている人たちは、会社をヒトとしてみるのではなくて、リアルな誰々さんである経営陣を一人一人見て、本当に信用できるかどうかを見極めたほうがいい。

会社は、創業者が死んだら解散した方がいいかもしれません。そしたら、みんな考えるじゃないですか。解散した後にどんな理念でビジネスをしていくのか。次に創業者になる人が出てくるわけです。僕が死んだら、会社の葬式もして、サイボウズの今の貯金は、みんなで山分けした方がいいですかね(笑)。

バーチャルなヒトである法人も一度リフレッシュする機会が必要です。だってバーチャルなんですよ。いつまでも生き続け、いつまでもみんなが信用するって不気味じゃないですか。

4 社員が辞めれば、経営者はビビる

(「経営者ではなくて、現場の社員が会社の働きかたを変えるには、どうすればいいか?」という会場からの質問に対して)

日本の経営者の一番の悩みは人手不足です。良い人を採用できない。経営者に対する嫌がらせは辞めることなんです。極論すると、あなたのいらっしゃる部署の人が全員同時に辞めたら、社内で大事件になります。何が起きたんだと。経営者にとって、ものすごい大事件です。

日本人って、結構頑張っちゃうんです。「私が抜けると会社に迷惑をかける」って思ってね、頑張っちゃうんです。それがいいカモなんです。経営者にとって。おいしいんです。歯を食いしばって会社のために頑張ろうって思ってくれる人は。

今、日本では楽しい会社いっぱい出来てきているので、ぽんぽん動いたらいかがですか。みんな「やーめた」って。みんなで「辞めるぞ」、「おおー」って言って、辞めるぐらいの感じになると会社は変わるんです。

5 会社をなくしてしまおう!と本気で思った

サイボウズは2年前に前の東京・水道橋にあったオフィスが手狭になって、移転しないといけないことがありました。ただ、東京って家賃高いですよね。

だからみんなに提案したんです。「もう会社の建物なしってどう?オンラインでつながっていれば仕事はできる。家賃浮くし。その分を社員で山分けするよって」と。反発がたくさんありました。僕みたいな古い昭和型の社員が反対するかなと思ったら、若い人が反発してきたんです。

「僕は、まだ自立できていないから、先輩たちの近くにいたほうがモチベーションも上がるし、学びも速いんです」という理由です。

「だったら、リアルなオフィスが必要な理由、本当に人が集まる理由をとことんまで考えろ」と言いました。「それに沿ってもう1回オフィスつくり直せ」と。

リモートで働ける技術があるのに、なぜリアルオフィスが必要なのか。例えばみんなが集まってワクワクできるから、という理由があります。サイボウズは、天井や壁に緑があったり木の家具があったり森の中にいるみたいな雰囲気です。ハンモックもあるし、おしゃれな椅子もあるので、会議も楽しくなります。なぜオフィスに私たちは集まるのか、をどの会社も考えるようになれば日本は元気になると思います。

「『会社』はなくなってしまうのか? 多様化する働き方と、組織のかたち」をテーマとした、全3回シリーズの最終回は8月2日午後8時に開きます。参加費3000円(学割1000円)。参加者募集中です。

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