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「ビールのイッキ飲みは好きじゃない」 そろそろ始めよう、21世紀のビールの楽しみ方

2017年07月26日 16時15分 JST
Ryan Takeshita

大人は何でビールを飲むの、と子供に聞かれると答えるのは難しい。味は苦いし、お店で何杯か頼めばお金もかかる。それでも、子供には説明しにくい魅力がある。

サントリーの第3のビール「頂」のPR動画が先日、公開中止になった。「絶頂うまい出張」というタイトルで、地方の女性と出会い、食事をともにする様子が"体感"できるように描かれており、女性たちが「肉汁いっぱい出ました」「コックゥ〜ん!しちゃった・・・♡」といったセリフを連発する。

お酒のプロであるはずのサントリーの社員は、ビールをこういう風に飲んでいるのだろうか、と想像して悲しくなった。

水着のお姉さんのポスター、イッキ飲み、上司に無理につれて行かれる居酒屋。ビールのこうした古い面を一度忘れて、改めてビールの楽しさについて考えてみたい。

私が好きな地ビール(クラフトビール)を岩手県でつくり続ける「ベアレン醸造所」の嶌田洋一(しまだ・よういち)専務に話を聞いた。

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——「ベアレン醸造所」を立ち上げたのはなぜでしょうか。

私は大学を出たあとの1990年、協和発酵に入り、岩手県の盛岡市に転勤で行きました。そこで当時キリンビールに勤めていた木村剛(現・ベアレン醸造所社長)と知り合い、飲み友だちになりました。

その後、1994年に酒税法が変わって、免許に必要だった年間生産量の基準が2000キロリットルから60キロリットルに下がります。小さな会社でもビールをつくれるようになって地ビールのブームがやってきたんですね。ブームは少し落ち着きましたが、木村がビール会社の設立を持ちかけて来たんです。

私はお酒が好きだったし、大手ビール会社がつくる画一的なビール以外の「選択肢」を日本に増やしたいと思い、会社を辞めて、2001年に共同創業しました。

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——「コクとうまみのバランスが良い本格ラガー」とベアレン醸造のビールを紹介されています。ビールのレモネード割りなどユニークな商品もありますね。

ドイツから移設した醸造施設を使って、原料や作り方はこだわっています。ただ、だからといって、地ビールならではの「うんちく」を語りたくないし、普通に食卓に並ぶビールをめざしたいだけなんです。岩手の企業であることにこだわっていますが、ラベルに岩手の風景や観光名所を載せているわけではない。

岩手で作られ、岩手の人が無意識に日常で飲むビールづくりにこだわっています。うちに就職をしたいという、若い優秀な人もおかげさまで増えましたが、「クラフトビールマニア」より、「昔から身近にあったので」と門を叩いてくれる人のほうが好きです(笑)。

——嶌田さん自身は、昔からビールが好きだったのでしょうか。

ビールって不思議な飲み物ですよね。子供が100人いたら100人とも「苦くて、おいしくない」と思うはずです(笑)。それでもおいしそうに飲んでいる大人を見て育ち、飲んでも良い年齢に達したら、「飲み方を覚えよう」と自分の味を鍛えていく。

自分の味覚を疑ってみて、「好み」を変えていく。そこに成長や新しい自分の発見があります。

分かりやすい喜びって長続きしないんです。口当たりが良くて誰もが甘いと感じるジュースは、子供は大好きですが、さすがに毎日飲んでいたら飽きますし、食卓に出てきたらしつこくなります。

ビールは苦いのに、毎日おいしく感じられます。料理にも合うし、ほかの素材を殺さない。ビールを始めとしたお酒は、分かりにくいから持続するんです。そこが好きですね。

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——サントリーの「頂」のPR動画はご覧になりましたか。

個人によって受け止め方は違うと思いますが、「あ、狙っているな」とは思いました。これだけ商品の種類が増えて、「ビールを飲まない」という若い人もいる中、企業は大変だと思います。インターネットで情報があふれる中、商品をアピールするのも苦労しますよね。

私たちもCMを作っているので、「きれいごと」だけでは商品の話題づくりが出来ないのは分かります。当たり障りのない動画だと誰も見てくれませんから。

ただ、話題づくりの「節操」がなくなっていくのは残念です。先ほど申し上げたように、ビールは1回飲んで終わりというものではなく、場合によっては毎日の食卓にあがってくる、力強い商品なのです。だから一発で拡散するものではなく、じわじわと広がる宣伝が向いていると思うのですが。

——ビール市場は1994年をピークに下がり基調です。ビール会社大手は、シェアの「順位」にこだわり続け、価格競争に走ってきたようにも思えます。

ビールの魅力をうまくマーケットに伝えていかないと、消費者がついてきてくれません。アメリカではバドワイザーやミラーなど大手ブランドが生まれ、派手なCMとともに大量消費社会をひっぱってきました。

その一方で、各州の特徴を生かした小さな醸造所が生まれ、地ビール(クラフトビール)の市場も広がりました。アメリカでは近年、ファストフードを見直したり、野菜中心の料理がブームになったり、新しい生活スタイルが主流になりつつあります。

地ビール企業は大手が危機感を抱くほどの存在になりつつあり、消費者にとっては、色々なビールが飲めるという選択肢が与えられます。マーケットの多様性が必要な時期に来ていると思います。

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——酒税の課題や消費の低迷も背景にありますが、日本の大手メーカーが「第3のビール」や「発泡酒」などビールに似せた安い商品を作り続けています。選択肢は増えたのではないですか。

仲間と、ちょっとした遊びで、ビール系飲料の飲み比べをしたことがあります。「本物の」ビールと私も区別がつかないぐらいでした(笑)。日本のメーカーの努力には頭が下がります。でも味はビールに似せているだけで、「価格の選択肢」のみが増えるのはさみしいですね。ビールの多様な側面を伝えていかないと、先ほどのサントリーのPR動画のような「世界観」からは抜け出せない。

私は中学生だった頃、朝通学するときに、酔いつぶれたおじさんがコップ酒を片手に道路で寝ていた光景をよく見ました。酸っぱい匂いがして、悲しくなりましたね。幸い、お酒は好きになりましたが、今でも覚えているぐらいなので、若い人に向けてお酒の嫌なところではなく、楽しさや新しい魅力を伝えていきたいですね。

男性だけでなく、女性も、場合によってはお酒が飲めない人もビールを飲んでいる人の輪の中にいれば楽しめる「場づくり」でしょうか。

ドイツの地方にいけば、昼間からおじさんがビールを片手に新聞を読んだり、仲間とだらだらしゃべったりしているシーンがみられます。「いいな」と思ってしまうんです。

私はお酒は好きですが、ヤケ酒をしたことがありませんし、イッキ飲みは嫌いです。うちの会社では「お酒の悪口だけは言うのをやめよう」と社員に言い聞かせています。

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2002年2月、建設中の工場。右が嶌田さん

——ビールは私たちに必要ですか。

東日本大震災が起きた2011年、私は無力感でいっぱいでした。生活にすぐ必要な商品を売る企業は被災地を支援できるのに、ビールを配っても誰も喜ばないのではないか、と。「宴会を自粛しよう」という動きも東京など全国であり、私たちもビールの生産を震災直後は止めていました。

でも、そのうち被災地から「ビール、飲みたいんだよね」という声が聞かれ始めたんです。そこで勇気を振り絞って、被災地支援のため岩手県山田町に行きました。ちょうど「母の日」だったのでカーネーションも持って。

するとカーネーションもビールも大人気なのです。どちらも生活「必需品」ではないのに、花1本、ビール1杯で、みんなの表情が明るくなるんですね。ビールは無力ではなかった。人は必要なものだけで生きていくのではないと教えられました。

——そんなビールの魅力を伝えるためには、PRや宣伝は、どうしたら良いのでしょうか。

私たちは、岩手県の盛岡駅から歩いて10分ほどの「よ市」と呼ばれる路上買い物市に土曜日に出店しています。お客様の「マイジョッキ」を保管しおいて、ふらっと立ち寄ってもらえれば、自分の専用ジョッキを取り出して飲める場所です。週末になると、みなさん来てくれて、仲間と出会える場になっているんです。路上で立ったまま飲むビール、最高ですよ。

常連さんは、苗字やプロフィールをお互いに知らなくても、「ビール=楽しい」という思いで交流している。ここで出会って結婚したカップルも3、4組いるはずです。「ベアレンビールがなかったら私たちの結婚はなかった」とまで言ってくれる。ビールの魅力以上の出来事ですよね。

ビールにストーリーがあって、選択肢がある。画一的な味だけが大量に並ばない社会。もちろん簡単ではないのですが、新しい時代になって消費者が変化していることは確実なんです。

いや、消費者が変化しているから私はベアレンビールを作っているのではなくて、自分はそういう社会になった方が面白いと思うからこそ、自分達のビールを作り続けているのかもしれません。

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嶌田洋一(しまだ・よういち)

1967年東京生まれ。ベアレン醸造所取締役。協和発酵(現・協和発酵キリン)に入社し、2001年にベアレン醸造所を共同創業。家族は妻と3人の子供。誕生日には、東京のベアレンビールファンが、ビールをかたどったケーキをプレゼントするほど、お客さんとの交流を大事にしている。2015年には、日本外国特派員協会が主催、日本ビアジャーナリスト協会が協力する「世界に伝えたい日本のクラフトビール」で、全国グランプリを獲得した。著書に「つなぐビール」(ポプラ社)