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「日本人は我慢しすぎです」社員を"大事にしている"はずの日本企業で起きていること

2017年07月29日 00時12分 JST | 更新 2017年07月29日 00時16分 JST
Ryan Takeshita

日本の会社は「社員を大事にしてきた」というが、本当だろうか——。

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューの前編集長の岩佐文夫さんは、これまでおよそ100人の経営者へのインタビューを通して、日本の会社のあり方について考えてきた。岩佐さんは「個人の声」を押し殺してきた日本企業に疑問を抱く。

社員を数としてとらえ、集団としては、大事にしてきた日本の会社。でも、本当はひとり一人の社員の「バラバラの価値観」と向き合って来なかったのではないか。

ハフポスト日本版は、株式会社マザーハウスといっしょに岩佐さんを呼び、イベント「『会社』はなくなってしまうのか? 多様化する働き方と、組織のかたち」を開いた。

マザーハウスの山崎大祐副社長が定期的にひらくマザーハウスカレッジの特別版だ。

岩佐さんの印象的な言葉をいくつか紹介します。

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1 「編集長になって人生が変わった。しかしそのポストを作ったのは僕ではない」

今、53歳です。1986年、バブルの前夜に「自由学園」という学校を卒業しました。卒業して財団法人「日本生産性本部」という経済団体に入りました。

2000年に「ハーバード・ビジネス・レビュー」が月刊化するときに、転職。今年の3月までは編集長をやっていました。

編集長就任の声をかけられた理由は分かりません。私にアプローチする前に、3人に断られている可能性だってありますよね(笑)。私みたいなタイプって部下にしたら厄介なんですよ。「お山の大将やらせとけ」っていうのが、上の判断だったのかもしれません。

引き受けるとき「5年で辞めます」と言いました。ビジネス書の編集をやっていると、ハーバード・ビジネス・レビューの編集長は「最高峰みたいな仕事」。

そんな仕事をさせてもらえるなら、この仕事を最後に、ダイヤモンド社も辞めようと決めていました。

ポストが人を育てると言いますよね。良くも悪くも、編集長になっただけで私を見る目が変わるんですよ。会える人が変わる、出る場が変わる、人前でしゃべらせてもらえる、チャンスを与えられる。

本当に良い経験させてもらいました。ポストってすごいなと。でも、このポストは私がつくったわけじゃないんですよ。

ハーバード・ビジネス・レビューの編集長ってポストは、40年の歴史があって、私はそこにポンと乗っただけでなんですよね。そのポストを一人が独占するのはよくない。いろんな人に経験してもらいたいと思って、期限を区切ることにしました。

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2 「『日本企業が社員を大事にしてきた』は本当か」

「雇用を守る」「人を切らない」という意味では、日本企業は戦後、人を大事にしてきました。ただ、昨日も同い年くらいの女性とご飯を食べたんですけど、銀行に勤めているご主人の転勤にともなって海外に行くんですよ。50歳過ぎた人が辞令1枚で海外に「はい、分かりました」って1カ月後に行っちゃうって、これ何なんだって。

家族もいるし、子どもの教育もあるのに、「いや、僕は行けないです」という交渉は、ほとんどないですよね。2カ月後の飲み会の約束どうなるんでしょう(笑)。

転勤の挨拶の手紙やハガキってありますよね。「会社に拝命されまして、○○に赴任になりました」と。拝命されて分かりましたって、一人前の社会人としての意思が感じられない。

会社の命令1本で、やる仕事、働く場所、全てが決まってしまうというのは、人を大事にしてきたことにつながるんでしょうか。

もちろん日本以外の国でも会社によって転勤の仕組みは様々でしょうが、日本の会社は「ずっと面倒みるから、個人の声は押し殺してね」というメッセージを暗黙のうちに発してきたのだと思います。

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岩佐さんに鋭い質問を投げかけるマザーハウスの山崎大祐副社長

3 「『あなたの雇用を30年以上守ります』は誠実ではない」

いまの時代、新入社員に対して「三十数年間、雇用を守り続けます」と言う会社は、誠実と言えるでしょうか。ビジネス環境がどんどん変わる中、いまの事業はそんなに続くという保障はないはず。

日本の終身雇用が成功した時期、それを謳歌した世代って特殊だったんです。高度成長が続いた戦後のある期間だけ、日本社会で機能していたと考えるほうが良いのかもしれません。

経営者だけではなくて、僕ら働く側の責任もあります。「新人類」って言葉聞いたことあります?1986年の流行語大賞に選出された言葉です。男女雇用機会均等法で働きかたが変わり、その時期に入ってきた新入社員が、「こいつらは、会社人間じゃない」と旧代の人から思われて名付けられました。

僕がその世代なんですよ。それで今その世代は53歳。皆さんが社内で53歳の人を見たら「何だろう。社会って変わんないな」って、ちょっとがっかりしませんか。「これから社会を変えていく」「会社に頼らない生き方をみんなする」と私も1986年に思っていました。でも変えられなかった。

経営者の問題にも行き着きます。日本は入社1年目、入社2年目、入社3年目の社員をほぼ同じに扱います。「あなたはこういう所ができていませんね」と厳しい評価をしないんです。それで、45歳ぐらいになったら、ハシゴを外される。

会社がつくった評価基準に人を合わせ、それぞれの人の強みを見ようとしない。あなたはこういう強みがあるので、もっとこういう力を伸ばしたらどうかっていう、一人一人に合った評価をしないと、本当の意味で人を大事にしたことにならないのではないでしょうか。

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4 「日本人は我慢しすぎです」

日本人、仕事で我慢し過ぎではないでしょうか。企業が我慢させ過ぎですよね。我慢というのは自分を殺すこと。本来企業はそういう自分を殺した人ではなくて、一人一人の積極的な発想を求めている。

だから、我慢させちゃいけないと思います。社員が思ったことをどんどん提案していくことをやらないといけない。そういう会社ではないと生き残れないし、強い会社はそういう会社。

今一人一人の声を出せる時代になり、マジョリティである必要はなくなりました。それぞれの働きかたで「生きる」というのが健全で、どっちが優れているか、間違っているかということではない。

がむしゃらに仕事に没頭するのもいいし、家族の時間を優先するのもいい。昔の働きかたの価値観を信じている人は、「本当にあなたはその生き方って自分に合ってますか」と問い直してみたらどうでしょう。

「自分の親の世代」がそうだったから、周りがそうだからっていうだけで何となく思い込んでる人が多いのではないか。自分にとって何がハッピーかを自分で考えて行動を起こす人が増えれば日本は変わると思います。

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熱心に岩佐さんの話の感想を書く参加者

人工知能が広まれば仕事の価値も変わります。例えば医療。人工知能が高い確率で癌を見つけられるような時代になると、医師として必要とされる知性も変わってくる。

一方で人工知能が一番置き換えにくい仕事の一つは床屋さんや美容師さんと言われています。人によって髪型とか髪質とか頭のかたち全部違って、その人が「軽く切って」って言ったときに、軽いって意味が人によって全く違う。

コミュニケーションとクラフツマン(職人)的なものが一緒になる仕事は、実は機械に置き換えにくい高度な仕事と言われています。

ものを正確に覚えて記憶してることを武器にすることではなく、新しい価値をつくりだす仕事こそ人に求められて来ます。また、今まで価値としてあまり強調されてなかった「縁の下の力持ち」のような能力があらためて評価される社会に変るかもしれません。

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左から、私(竹下隆一郎/ハフポスト編集長)、岩佐文夫さん/ハーバード・ビジネス・レビュー前編集長、山崎大祐さん/マザーハウス副社長

5 「理想のマネジメントとは何か」

理想のマネジメントに答えがあったら面白くないと思います。100人いれば100人の答えがある。あるビジネススクールに呼ばれて勉強会をしました。そのときのグループワークで、「皆さんが考える理想の会社の条件をキャッチコピーで言ってください」という課題を出して、優勝したグループが「孫にも自慢できる会社」でした。孫に自慢できるって簡潔でいいですよね。

これからの経営者って「どんな社会をつくりたいか」競争に晒されるんだと思うんですよね。賛同したり共感したりする人がその会社に集まる。そこには年齢も性別も何も関係ない。

やりたい仕事もバラバラでもいい。つくりたい社会に共感した人が、その企業に集まる。その目指す社会の違いによって多様な企業が存在し、どのメッセージに対して手を挙げる人が多いか。社会はその方向で変わると思います。

「『会社』はなくなってしまうのか? 多様化する働き方と、組織のかたち」をテーマとした、全3回シリーズの最終回は8月2日午後8時に開きます。参加費3000円(学割1000円)。参加者募集中です。