平日はシンプルな家事でいい。ストレスの少ない、ドイツの合理的な食生活

「やらなければならない」と信じていることが案外単なる思い込みで、やらなくても別に平気だったという場合もある。毎日同じ状況で生活していると、なかなか気づかないだけなのだ。

「時間がない」—そう思う現代人は多いのではないか。仕事、家事、育児、プライベート......限られた時間の中でいくつもの要素をやりくりするのは容易ではない。常に時間に追われるストレスから解放されたいと思いつつ、解決策がないまま日常が過ぎる経験は誰にでもあるだろう。

しかし「やらなければならない」と信じていることが案外単なる思い込みで、やらなくても別に平気だったという場合もある。毎日同じ状況で生活していると、なかなか気づかないだけなのだ。

筆者はドイツ・ベルリンで暮らしてみて、それまで抱いていた思い込みがなくなり、生活が格段に楽になった。ドイツの真似をするというのではなく、自分の中に存在しなかった習慣を知ることで、考え方の幅が広がったのである。中でも家事、特に食事については日本にいた頃よりもずいぶんと気楽に考えるようになった。日本の読者にも何かのヒントになることを願い、ドイツの食生活を紹介したいと思う。

パン、ハム、チーズの「火を使わない夕食」

ドイツの食生活はシンプルだ。朝食メニューはパンにハム、チーズ、野菜などを挟んだものや、ミューズリ(オーツ麦などの穀物を加工したものにドライフルーツ、ナッツなどを加えたシリアルの一種)に牛乳やヨーグルトをかけたものが主流。

昼に温かいものを食べ、夜は再びパンにハム、チーズという「火を使わない食事」が伝統的である。夜に温かいものを調理する家庭も当然あるが、火を使わない夕食は現代でもごく普通の光景だ。

ドイツパンは、白くふわふわした日本の食パンとは異なる。ドイツパンの種類は豊富で地域によっても異なるが、一般的に北部に行くほど生地に使われるライ麦の割合が高くなる。

朝食は「作るものではなく、食卓に並べるもの」

以前ドイツの一般家庭にホームステイをしていたときは、パン、バター、ハム、チーズという内容の朝食を毎朝準備していて「ドイツの朝食とは作るものではなく、冷蔵庫から出して食卓に並べるものなのだな」と思ったものだ。もちろんこれは手抜きではなく、そうした食文化なのである。

ドイツでは夕食も朝食と同じ内容でいいのだと知ったとき、それを真似しようとは思わなかったが、少なくとも日本食のように「夕食にはご飯と味噌汁、メインのおかずに小鉢やサラダを付けなければ」という半ば強迫観念めいたものは消えていった。

普段の食生活、2人の子どもの母に聞いてみた

キッチンに立つカトリン・ペッチュさん。(c)Yuki Kubota

ファッションデザイナーのカトリン・ペッチュさんは、ベルリン市内のアパートで夫、11歳の息子、生後6カ月の娘と暮らしている。市内に自身のアトリエ兼ショップを持ち、午前10時から午後4時まではそこで働く。

「朝はパンにコーヒーとか、フルーツサラダを食べますね。時間がないときはお店でサンドイッチを買うこともあります」

朝食によく作るフルーツサラダ。リンゴやバナナ、キウィなどを刻んで混ぜたもの。これにオレンジジュースやコーヒーを添える。(c)Yuki Kubota

平日は毎朝6時20分に起床し、子どものために朝食と弁当を用意する。どちらもパンにチーズや野菜などを挟んだサンドイッチだ。弁当は昼食用ではなく、午前中の休憩時間に食べるもの。学校の始業時刻が早いため、午前10時半頃にパンを食べる休憩時間が設けられている。

夫が息子を学校へ送り届けると、ペッチュさんは一人で朝食。ヨガなどをしてから6カ月の娘とともに10時にアトリエに到着する。スタッフは若い女性が数名という構成で、赤ちゃん連れでも大丈夫だという。昼食はアトリエ周辺で外食することが多い。

学校へはサンドイッチのほかにフルーツを丸ごと持参する子どもも多い。(c)Yuki Kubota

軽い夕食は、胃もたれせずによく寝られる

16時に仕事を終えるといったん帰宅して、息子を家で迎える。そこから買い物メモを持って買い物へ。「頭に浮かんだらすぐに書き留められるように」と、ペンとメモは家の各所に置いてある。

夕食によく作るのはサラダ。パンを添えるときもある。ときどきはシチューや、茹でたジャガイモにハーブソースをかけた料理も食卓に上る。

現代の家庭料理で手の込んだものはなく、野菜もよく使う。ドイツ料理レストランで見かけるようなどっしりとした肉料理は、ベルリンの一般家庭では特別な行事を除いてあまり作らない。

スーパーで売っている惣菜の品揃えは日本ほど充実していないが、夕食を作る気力がないときにはサンドイッチを買ったり、気軽なアジア料理レストランで料理をテイクアウトする人もいる。

考えてみれば、昼食は午後の活動に向けてエネルギーが必要なので、しっかりした食事を取るのは意味がある。夜は寝るだけなので昼間と同様に食べなくてもいいといえる。理にかなった食生活ではないだろうか。

平日はシンプルに、週末はみんなで食事を楽しむ

こうした食習慣は、日本の感覚ではなかなか受け容れられないかもしれない。日本人にとって食事は非常に重要で、食べることは大きな楽しみだろう。

私自身も夜には温かい料理を食べないと、どことなく寂しい気持ちはある。しかし以前のように品数に縛られることはなくなり、いまでは栄養バランスさえ気をつけていれば、ご飯に具だくさんのスープ程度で十分だと思っている。

ドイツでは平日の食事はごくシンプルに、週末は家族全員で生地からピザを作ったり、夏は庭や公園でバーベキューパーティーをする、という例もよく聞く。そうしたメリハリが、家事への重圧感を減らして日常を楽しむ秘訣かもしれない。

現代に合った家事のありかた

職場に6ヵ月の娘を連れていけるペッチュさんは、一般のオフィスで働く女性よりは育児しやすい環境かもしれないが、それでも仕事と家事、2人の育児をすべて回すのは大変だと話す。

朝食を作りながら、6ヵ月の娘にもミルクを与えるカトリン・ペッチュさん。(c)Yuki Kubota

面倒に思いがちな食器洗いは食洗機を使ったり、家族それぞれのスケジュールはスマホのカレンダーに記入して家族全員で共有したりと、ツールを上手に使いこなすことで、家庭が回る工夫をしている。

ペッチュさんの夫も自営業だが、「私が頼めば夫も家事をやるのですが、やるべきことを気づくのは私のほうが早いです」という理由で、自分のほうがより多くの家事を分担しているそうだ。しかしガラス磨きなど一部の家事は、外注することも考えている。

キッチンとダイニングは同じスペース。以前は別の場所に小さな独立型のキッチンがあったが、現在の場所へ移動させ、大きなダイニングキッチンにした。(c)Yuki Kubota

ドイツでは自宅の掃除を定期的に外注している人も珍しくない。1週間に1回、あるいは隔週1回程度で住まいをきれいに保てるのなら、依頼する価値はあると考えるのだ。

掃除代行サービス会社から探すことも、口コミで個人に直接依頼することも可能で、料金は頻度や会社(あるいは個人)によっても異なるが、ベルリンの場合は1時間当たり1800円程度で依頼できる。

ドイツの食洗機の家庭での普及率は2016年時点で約7割。 (c)Yuki Kubota

家事分担や、外注・機械化も考慮に

男女ともに働く現代では、男女の役割分担が明確だった時代の家事は実情に合わなくなっている。それは日本でもドイツでも同じだ。

忙しくても家の中が問題ない程度に回り、誰か一人だけが大きなストレスを溜め込まないようにするには、家族で家事を分担したり、外注や機械化によって作業を減らしたりすることが必要ではないか。平日の食事はシンプルにして、休日に料理を楽しむスタンスもいいのではないか。冒頭のように「やらなければならない」ことが思い込みに過ぎないこともある。

ベストな方法は人それぞれ違う。100人いれば、100通りのやり方があるはずだ。大切なのはそれぞれがストレスを溜めることなく、気持ちよく暮らしていくことではないだろうか。

(ベルリン在住ライター・久保田由希

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