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口に出すのもタブーだった生理。日本の"空気"を劇的に変えたあるキャッチコピー

2017年08月01日 00時10分 JST | 更新 2017年08月21日 01時50分 JST

生理はオープンに話しにくい。でも、昔はもっとタブー視されていた。

女性は生理があるために穢れた存在だとみなされたこともあったし、生理中の女性を「月経小屋」に隔離する地域もあった。

その生理に対するタブー視を、劇的に変えたものがある。それは今、コンビニやドラッグストアに当たり前のように並ぶ生理用ナプキンだ。

軽い日用、長時間用、スリムタイプから肌に優しいものまで、好みや体調に合わせて選べる。バリエーションは多彩だ。

生理用ナプキンを開発、販売した女性について調べた歴史社会学者の田中ひかるさんは、「ナプキンができたからこそ、生理と口にだせる時代がきた」と話す。今ではすっかり身近なものになったナプキンが女性の生き方にどのような影響を与えたか、田中さんに話を聞いた。

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田中ひかるさん

――ナプキンはいつつくられたのでしょう?

生理用ナプキンが日本で広まったのは、1961年以降です。発売したのは、坂井泰子(さかいよしこ)さんという女性が設立したアンネという会社です。

日本では、身近な植物や布、紙が生理用品として使われてきました。近代に入ると脱脂綿が使われるようになりましたが、その後はあまり進化せず、ナプキンが登場するまでは、脱脂綿を「黒いゴムびきパンツ」で押さえるという方法が一般的でした。

ショーツの股の部分にゴムが貼ってあるので蒸れますし、脱脂綿が固定されずに転がり落ちてしまうこともあったようです。電車やバスの中に脱脂綿が落ちていることも珍しくありませんでした。そういう光景を見て、いたたまれない思いがした、とのちに坂井さんは語っています。

坂井さんは結婚後、発明家と企業の仲介をする「発明サービスセンター」という会社を立ち上げたのですが、そこに、使用済みの脱脂綿が水洗トイレに詰まらないよう排水口に網を張るという考案が寄せられました。

当時、急速に水洗トイレが普及し始め、従来の習慣で脱脂綿をトイレに捨てると、すぐに詰まってしまったのです。その考案を見て坂井さんは、水に流せて、なおかつ女性にとって快適な生理用品を開発しようと考えました。

―― 多くの女性が適切な生理用品を使えなかったことは、女性たちにどのような影響を与えたのでしょうか?

生理を負担に感じたり、恥ずかしく感じたり、ひいては自己卑下に囚われる女性も少なくなかったと思います。ナプキンが発売される前に初経を迎えた女性は、母親から「生理は『穢れ』だから、洗濯後の月経帯は太陽の下に干してはいけない」と言われ、とてもみじめな気持ちになったそうです。

生理の時は男性並みに働けない、と感じる女性も多かったでしょう。アンネナプキンの発売は高度経済成長期の真っ只中、女性の社会進出が一気に加速した時期でした。もしこのタイミングでナプキンが発売されていなければ、女性の社会進出はもっと鈍かったと思います。女性の社会進出を支え、その女性たちに消費されたのが、アンネナプキンでした。

―― 月経について『アンネの日記』では「甘美な秘密」と肯定的に表現してたことから「アンネ」という社名になったそうですね。アンネナプキンは、それまで日陰のもの扱いされていた生理や、女性をどう変えたのでしょうか?

アンネナプキンはそれまでの生理用品と比べ、格段に使いやすく快適だったので、女性たちの活動範囲を広げましたが、宣伝活動によって、月経不浄視や自己卑下の気持ちを希薄化させることにも成功しました。

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3種類のアンネナプキン。アンネジュニアセット、アンネナプキン厚形オンリーパック10個入、ナイトアンネ長時間専用3枚入(「むかしの女性はどうしてた?女性雑誌の生理用品広告集」より 山浦麻子さん提供)

生理は「穢れ」であり、女性たち自身も恥ずべきものと考えていた当時、生理用品を新聞やテレビで宣伝するということ自体が画期的でした。坂井さんやアンネ社の社員たちは、女性たちの羞恥心にも最大限の配慮を払いながら、生理にまとわりついてきた陰鬱なイメージを払拭することに努めました。

ナプキンはいずれ他社が発売したでしょうが、宣伝に力を入れ、短期間で劇的に生理観を変えることは、アンネ社にしかできなかったと思います。

アンネナプキンが爆発的に売れ始めると、アンネ社や坂井さん宛てに、多いときで1日に100通もの感謝の手紙が届くようになりました。その中に、「私たち、生理の日を『アンネの日』と呼んでいます」という手紙がありました。アンネ社はこの言葉をキャッチコピーに使って「〈アンネの日〉ときめました!」という広告を作りました。

この広告が出ると、口に出すこともはばかられ、「アレ」「お客さん」などと呼ばれていた生理が、「アンネ」と呼ばれるようになりました。今やアンネは死語ですが、「アンネ」と口に出して言えるようになったからこそ、ためらいなく「生理」と言える時代がきたのだと思います。

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―― 今、ナプキンはコンビニやドラッグストアなど日本中どこでも買えるようになりました。かわいいパッケージに包まれ、芸能人を起用したCMも流れるなど「明るいイメージ」を演出しています。しかし、生理を明るいイメージにすることで、生理痛など生理の大変な面を、かえって語りにくくなっていないでしょうか?

むしろ、生理や生理用品が一般化されたことで、生理痛についても語りやすい環境になっているのではないでしょうか。

生理が、健康についての当たり前の話題としてもっと語られるようになることで、生理痛や月経前症候群(PMS)についての正しい認識が広がればいいと思います。

例えば、妻の生理痛が軽い男性は、つらい生理痛があることを知らなかったり、逆に妻の生理痛が重い場合は、過剰に女性を気遣ったりすることがあります。

また、月経前症候群といって、生理前に腹痛や腰痛、むくみといった身体的症状だけでなく、気持ちが不安定になる女性がいるのですが、これが拡大解釈され、生理前の女性はヒステリー気味で仕事にも差し支えるという説が一人歩きしています。

こうした間違った生理観が女性のためにならないことは言うまでもありません。かつて企業が、女性は結婚や出産で会社を辞めるから採用しない、と公言していた時代がありました。結婚や出産が当たり前でなくなった現在、生理が女性を差別する際の最後の拠り所となりえます。

生理前になるとイライラして夫に暴力を振るうといった極端な例を挙げ、生理前の女性の扱い方には気をつけようというメッセージを発信しているメディアもあります。

月経前症候群は、症状が数百もあります。例えば、症状がむくみだけでも月経前症候群と診断されますが、だからといってその女性が暴力を振るうわけではありません。そういう誤解を避けるためにも、月経前の重い精神症状は、月経前不快気分障害(PMDD)という別の概念で説明されるようになってきました。

―― どのように、語るのがいいと思われますか?

生理痛も月経前症候群も、個人差があります。一度も生理痛を経験したことがない女性もいれば、毎月救急車を呼ぶほどの激烈な痛みに苦しむ女性もいます。市販の鎮痛薬が効かず、普段どおりの生活が送れないほどであれば、婦人科を受診し、治療を受けるべきです。

今は、鎮痛薬だけでなく、低用量ピルによって生理痛をコントロールするようになっています。また、月経前症候群にも低用量ピルが有効です。月経前不快気分障害も、精神科の医師たちを中心に研究が進められ、治療法が確立されつつあります。

「生理は病気じゃない」「生理痛は陣痛の練習」といった意見を耳にしますが、つらい症状を我慢する必要はありません。

女性たち自身が生理について率直に語ることによって、生理痛や月経前症候群の症状が人によって千差万別であることが理解され、生理に対する誤解や偏見が解消されていけばよいと思います。

また、あまりに身近にありすぎて、なかなか顧みることがない生理用品ですが、日本の女性たちに快適な生理用品をという一念からナプキンを普及させた女性がいたことを、より多くの人に知ってほしいです。

アンネナプキンの発売は、日本の女性史を語る上で欠かせない出来事だと考えています。

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「生理の雰囲気を男性があじわうとしたらこうです 」


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