フィンランドが110年かけて実現した世界トップレベルの「男女平等」とは?

男女平等の国として知られるフィンランド。ハフポスト日本版編集部では、フィンランド男女平等会議の議長、サリ・ラーッシナ博士にインタビュー。100年以上かけて、フィンランドが目指してきた男女平等の社会を支える仕組みについて聞いた。
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男女平等の国として知られるフィンランド。世界経済フォーラム(WEF)が2016 年に発表した男女平等指数のランキングによると第2位で、世界でもトップクラスの男女平等が実現しているといえる。一方、日本は政府が「すべての女性が輝く社会づくり」を掲げるが、144カ国中111位と、前年の101位からさらに後退していた。

ハフポスト日本版は、このほど来日したフィンランド男女平等会議(TANE)の議長、サリ・ラーッシナ博士にインタビューした。ラーッシナ博士はガン医療の専門医で、2015年からは議員に選出。政治家として多忙な毎日を送りながら、3人の子育てをしている母親でもある。男女平等の社会を築くにはどうしたらよいのか。100年以上かけて、フィンランドが目指してきた男女平等の社会を支える仕組みについて聞いた。

■男女平等を実現すれば、どんなメリットがあるのか?

――日本では安倍内閣が「女性が輝く社会」を掲げ、政府の重点課題としています。しかし、いまだ男女平等は国際的にみても低い水準です。男女平等を実現するには、多くの人たちがそのメリットを知る必要があると考えますが、男女平等は社会にどのような影響を与えますか?

フィンランドが近代国家として経済的、社会的に発展した重要な鍵を握ったのが、男女平等でした。私たちは1906年、女性に完全参政権を付与した世界初の国です。それは、道徳的に必要なばかりではなく、経済的にも理にかなったものでした。

フィンランドは現在、世界で最も暮らしやすい国のひとつとして評価を受けています。さまざまな指標から、安全で安定した国であり、高い生活水準を持ち、汚職も少なく、報道の自由度も高く、教育制度も世界でトップレベルと言われています。

このように、さまざまな視点からみることはできますが、政治家としていえるのは、国の経済にとって、できるだけ女性が労働市場に参加することが大切だということです。私たちの研究では、男女格差を減らすために投資をすることは、経済的にもメリットがあると考えられています。逆に言えば、経済社会の発展は、男女平等を確保する構造に投資することによって可能になるということです。

また、家庭で家事や育児をすることも大事ですが、それだけではなくて、女性のさまざまな能力を専門分野……たとえば、経済や科学、芸術などに活かすことも大事です。これは男性の仕事、これは女性の仕事という役割分担をやめ、男性女性に関わらず、個々の才能を活かして社会に参画することは、個人にとっても社会にとっても、もっと広い観点からみても、世界にとって良いことだと思います。そうすることで、お互いに支え合い、発展する社会になります。

政治家であり、医師であり、3人の子どもの母でもあるラーッシナ博士

■男女平等の考え方が、保育所から議会にまで浸透

――フィンランドで男女平等の社会を支えている仕組みについて教えてください。議長を務めていらっしゃるTANEはどのような組織なのでしょうか?

TANEは政府の機関で、メンバーは議員で構成されます。そこに専門家やNGOがアドバイザーとして入っている諮問会議です。TANEはフィンランドの社会保健省の管轄にあり、ジェンダーに関わる法整備をしているところです。同時にTANEは大臣官房の中で、さまざまな計画づくりをサポートしたり、政府の決定に関わったり、男女平等に関する調査をしています。最近では、男女の報酬格差についての本を出したところです。その本では、何が問題で、解決法は何なのか、という話をしています。

TANE以外にも、フィンランドには男女平等に関するオンブズマンというシステムもあります。こちらは政府の機関ではなく、独立した立場にあります。議員たちは、TANEとオンブズマンと一緒に仕事をしています。協力はしますが、お互いに独立している機関です。

もうひとつ特徴的なのは、女性議員による超党派のワーキンググループで、非常に活発です。男女平等に関する問題をここで話し合い、それを自分たちの党に持ち帰って、党内で議論を深め、知識や問題意識を共有していきます。もう30年ほど続いていて、代表する党が違っていても、女性であるという連帯感によってよく協力しています。これらのネットワークはとても大事で、最も大切なのは女性同士が協力することです。

――政府や専門家たちによる取り組みが必要である一方、男女平等の意識を育てるには、子どもの教育も大切だと考えます。フィンランドでは、男女平等に関する教育をどのように行っているのでしょうか?

すべての教育課程において、男女平等の考え方は浸透しています。小さい子どもが保育所やデイケアに行く頃から、すでに男女の分け隔てなく平等に扱われます。学校でも、教師たちは高い教育を受けていますので、男女平等の大切さをよく知っています。

それから、フィンランドでは女性の教育レベルが高いです。高等教育を受けた女性は社会で活躍することが多く、家庭でも子どもたちはそういうお母さんの背中を見ながら育ちます。そこにポジティブな循環が生まれていると感じます。

かつて農業国だったフィンランドでは、もう100年ほど前から女性が働くことは当たり前でした。もしかして違う点があるとすれば、日本にはまだ伝統的な母親の役割があり、働くお母さんのモデルが、フィンランドに比べてそれほど長い歴史を持っていないのかもしれませんね。

■世界トップレベルの男女平等の国、フィンランドの課題

――日本政府の統計によると、2016年度の大学進学率は、男子55.6%に対し、女子48.2%とまだ7.4%ポイント低いものの、年々その差は縮まってきています。しかし、日本の場合は、大学を出て就職しても、出産した場合、父親の育児休暇がなかなか取れなかったり、保育所に入れなかったり、女性が子育てしながら働き続けることが困難な状況にあります。女性の労働力率(15歳以上人口に占める労働力人口の割合)が、30代の子育て時期に低下し、育児が落ち着いた40代以降に再び上昇するという「M字カーブ」の解消には至っていません。フィンランドでは働く母親へのサポートが手厚いと聞きますが、いかがでしょう?

そうですね。しかし、何事も完璧ということはありません。フィンランドでは男女平等に関して、基本的にはすばらしい成果をあげていますが、法制面でもっとサポートしていく必要があります。たとえば、フィンランドでは父親の育児を促進するための「父親休暇」を取得した後に、父親と母親のどちらか、あるいは両親が取れる「親休暇」があります。

ただ、制度が古くなってしまいましたので、この日はお父さんが半日休暇、別の日にお母さんが半日休暇を取ることができる、というようにフレキシブルにしていきたいです。家族に合わせてシステムも変えなければいけませんし、社員が休暇を取った際に政府から収入面で保障されるようになれば、雇用主にとっても、一日休まれるより半日は仕事をしてもらったほうがメリットは大きいはずです。

――現状に合わせて柔軟に制度を変えていくことも大事なのですね。他に、男女平等に関して、フィンランド政府は今後、どのように推進していこうと考えているのでしょうか?

まだ、課題はあります。中でも大事なのは、DVの問題です。状況は良くなってきていますし、社会でも以前よりオープンに話ができる雰囲気になっていますが、根絶までには至っていません。男性によるDVは、失業やアルコールによって起こるケースが多いです。男女平等ではつい女性ばかり見がちですが、男性側にも解決しなければならない問題があり、そちらにも目を向ける必要があると思います。

また、セクシュアルハラスメントも課題です。特に若い人たちのコニュニケーションにおける表現やスピーチですね。中でも、性的マイノリティ(LGBT)の人たちへのアプローチの仕方はどうしたらよいのかという問題があります。これはすべての人たちの平等や人権に関わることで、SNSが普及している中、LGBTに対する表現をとても気をつけなければいけないと思います。

■男女の賃金格差は職種の違いに起因

――日本では、女性の非正規雇用が多く、男女の賃金格差はなかなか縮まりません。いまだ女性の平均賃金は男性の73%にとどまっています。フィンランドではいかがでしょう?

フィンランドでも女性の収入は、男性のそれに比べて84%です。しかし、ゆっくりではありますが、徐々にその差は縮まってきています。なぜ男女で格差があるのか、その理由は、男女で職種が分かれてしまっていることにあります。たとえば、看護師は女性、エンジニアは男性というふうにです。

大学でも女性は社会科学系、男性は技術系に進学する傾向が強いです。また、女性は子どもが生まれるとしばらく育児に時間をとられます。そうすると、雇用主は女性になかなか、キャリアアップやスキルアップできるポジションを与えることに躊躇してしまいます。女性たちも、自信を持って難しいポジションにチャレンジすることが大事です。

――日本でも、2020年までに上場企業の女性役員を30%に増やすという目標を掲げていますが、いまだ3.4%(2016年7月現在)と程遠い状態です。クオータ制(一定の割合をあらかじめ女性に割り当てる制度)の導入も指摘されています。フィンランド政府は企業に対し、女性を管理職に登用するよう働きかけをしているのでしょうか?

フィンランドでは、企業のクオータ制は導入されていません。議会でも盛んに議論はされてきましたが、少しずつ成果を上げているため、まだその段階には来ていません。フィンランドではこれまでに、女性の大統領や首相、最高裁判所裁判長、ルーテル教会監督などを輩出してきました。民間企業もあと少しで実現すると信じています。

フィンランドの男女平等について語るラーッシナ博士

■「女性政治家」に「女性」が消えた時が本当の男女平等

――日本政府によると女性議員の割合は衆院で9.3%に満たず、列国議会同盟の調査では193カ国中163位でした。2015年時点で、フィンランドでは42%以上のもの女性議員がいるそうですが、どのように実現したのでしょうか?

ここまで来るのに、110年かかりました(笑)。フィンランドにおける男女平等の実現は、1906年から始まっています。議会改革により、身分、性別、社会的階層、財産や地位によって制限されない普通選挙権が、すべての成人市民に与えられました。先程も触れた通り、女性に参政権と被選挙権を同時に認めた世界初の国です。当時、世界的にみても進歩的なことでした。

研究によると、議員のジェンダーバランスが実現できたのには、いくつかの要因があることがわかっています。まず前提として、女性が労働市場に広範囲に参加していること。それから、非常に活発な女性の組織が各政党内につくられていることです。私たちの選挙制度は候補者と政党にそれぞれに投票する手法ですが、それぞれジェンダーバランスが取れていることも、私は誇りに思っています。

フィンランドでは、女性議員は「女性政治家」としては見られず、一人の「政治家」として見られています。評価は能力で決まります。政治家だろうが、医師だろうが、それは同じです。社会で肩書に「女」が付けられなくなった時、本当の男女平等社会になるのではないでしょうか。

■個人や家庭で実現する男女平等が、社会や世界に広がる

――もともとは、がんの専門家でいらっしゃると聞いていますが、なぜ政治の道へ?

問われたらどうしようと思っていた質問でした(笑)。私は学生時代から政治的な関心を持っていました。実は医師として仕事をしながら、地元の政治的機関でもメンバーとして活動していたのです。そして、患者さんの診察をしているうちに、徐々に地元の医療サービスのあり方に構造的な問題があるのではないか、もっと良い医療サービスを提供できるではないか、と考えるようになりました。たまたま、政治家になる機会が舞い込んできたので、チャレンジしてみることにしました。ですから、政治に携わるようになってから30年、そのうち10年は国レベルの政治家として活動しています。

――医師として、政治家として活躍されながら、同時に子育てもしていらっしゃると聞いています。どうやってご自分のワークライフバランスをとられたのでしょうか?

夫との協力が欠かせませんでした。私が知る限り、夫は世界中で一番、平等な人です。お互いにキャリアを持ちながら子育てをしていくということは、夫にとっては当たり前のことでした。ある一時期は、私の仕事が忙しかったために、夫が仕事よりも家事や育児を優先させてくれたこともありますし、その逆もありました。上手にバランスをとりながらやってきました。

――そのお話を聞いて納得しました。個人や家庭で男女平等が実践されるようになれば、その社会全体が男女平等になりますね。

その通りです。それがさらに世界に広がればと思っています。