フランスが宿題めぐる新政策を実施へ。フィンランドや韓国との比較から宿題の存在意義を探る

宿題のない学校は夢だろうか?必ずしもそうとは限らない。
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努力のあとには成果が?いやいや、学校のあとには宿題だ。

宿題はフランスの子どもたちが避けては通れない道。学びのためには復習をし、ひとり自宅でトレーニングを積まなければならない。宿題は理想のなかでは成功の一要素だが、現実には不平等の一要素となっている。

2016年の「OpinionWay」の調査によると、両親から宿題を「全面的に」手伝ってもらえるのはフランスの中学生全体のわずか6%という結果が出ていた。家庭の経済事情や両親が移民等の問題で、子どもの教育の質に格差が生まれていることが問題となっていた。

しかしこのデータは2017年の万聖節のバカンス(10月下旬〜11月初旬にある2週間程度の秋休み)のあと、変わることが予想されている。5月にジャン=ミシェル・ブランケール教育相が提案した"宿題を学校で"プログラムの開始とともに、全国の中学生は学校の中で無料で宿題の援助を受けることができるようになるのだ。

フランスの高校生が1週間に自宅で宿題に割く時間は「約5時間」という調査結果が出ている。これは経済協力開発機構(OECD)加盟国のなかではちょうど平均的な時間だが、週10時間のロシアや14時間の中国と比べればかなり短いとも言える。

とはいえ宿題が本当に不平等の原因となっているならば、なぜ単純に宿題をなくすか、あるいは必要最低限にまで減らさないのだろうか。いくつかの国はこの選択をしたが、必ずしも子どもたちにとっての夢にはなっていないようだ。

フィンランドでは、自由時間が第一

子どもの教育と宿題の関係でもっとも引き合いに出される例はフィンランドだ。フィンランドでは初等教育の開始が7歳からであるのに加えて、子どもたちが夜に自宅でしなければならない宿題の量は少ない(あるいは全くない)。New York Timesでも述べられているように、子どもたちには単純に宿題がなく、宿題を始めるには青年期(だいたい16歳頃)を待たなければならない。

「子どもたちには宿題がありません。彼らはもっと子どもであること、若くあること、人生を有意義に使うことに時間を使わなければならないのです」より年少の子どもについてフィンランドのクリスタ・キウル元教育相は、マイケル・ムーア監督のドキュメンタリー『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』の中でこう説明している。

ムーア監督は驚いて、キウル氏に尋ねる。「では一体、子どもたちは何をしているんですか。木登りでもしているんですか」「ええ、彼らは木登りをすることもできるでしょうし、新しい虫を見つけて、それを次の日学校で話すこともできるでしょうね」とキウル氏は当意即妙に答える。

フィンランドの子どもたちに宿題がない(あるいはほとんどない)ことは、この国の驚くべき教育システムの一つの側面にすぎない。クラスは少人数で構成されている。各教育機関は競争をせず、「良い学校」という概念も存在しない。テストや試験は、高校の終わりを除いてない

生徒のレベル分けもなく、成績評価もほとんど存在しない。夏休みは10〜11週間続き、年間の授業数は190日だ。1日あたりに生徒がクラスで過ごす時間も、小学校で1週間に約20時間と、フランスに比べてぐっと少ない。

結果はどうか。結論から言うとかなりうまくいっている。フィンランドの教育制度は、ヨーロッパでももっとも最良のものとしてしばしば引用される。OECDが15歳の生徒を対象に3年ごとに実施している学習到達度調査(PISA)でも、フィンランドはコンスタントに高スコアを出している。

韓国でも宿題はないが、事情が違うようで...

子どもたちに宿題をあまり多く課さない別の国の例は、韓国だ。しかし事情はフィンランドとは大きく異なっている。韓国の生徒は学校の授業や塾に多くの時間をとられるあまり、他のことをする時間がほとんどないのだ。

例えば「BBC」は16歳のハイ=ミン・パークさんのケースを取り上げている。彼女は8時から始まる学校のために毎朝6時半に起き、学校が夕方4〜5時頃終わったかと思うと食事のために急いで家に帰り、夜6時から9時まである塾に向かう。彼女が宿題をできるのはやっとそれが終わってからというわけだ。こうした事情で韓国の生徒が宿題にあてる時間は少ないのだ(例えパークさんが2時間宿題をしたとしても)。

韓国の生徒の勉強時間は、1週間で平均50時間。従って韓国がフィンランドに次いで2番目に宿題を課すのが少ない国だというのは、木を見て森を見ずということなのだ。

成果を出すことへのプレッシャーに晒された、権威的で競争原理に基づたこのシステムは、韓国では実を結んでいる。韓国の生徒はたしかに学業的な成功の点で世界のチャンピオンだが、生徒が学校で感じる幸福の度合いは経済協力開発機構の加盟国の中でもっとも低いという結果も出ている。

アメリカとフランスの個別のケース

アメリカでは、いくつかの学校が試行錯誤をしてきた。それは例えばフロリダのこの小学校のケースだ。小学校は宿題の代わりに、生徒に毎晩20分間、自分で選んだ好きな本を読むことを提案している。

またマサチューセッツのエセックス小学校は、生徒が遊びや家族とのリラックスにより多くの時間を使えるよう推奨している。「我々は生徒たちがプレッシャーを感じず、学校外の活動にもっと時間を使えるようになることを望んでいます」と小学校の教員エミリー・ドワイヤーさんは「The Boston Globe」のインタビューで説明している。またこのフロリダの小学校と同じく生徒に夜の読書をするよう促している。

フランスでは2016年の新学期、ある小学校が、既存のものとはまったく異なるモデルとともに開校した。フランス領バスク・ビオッツァにあるこの小学校では、生徒がしたいことを好きなときにする。もちろん宿題はない。校長のエミール・メンディエタさんによれば、宿題は彼らの成功にとってなんら必要ないという。メンディエタさんの教育観が正しかったかどうかを判断するには、数年は待たなければならないだろう。

宿題は成功の秘訣ではない?

フランスでは1956年以来、小学校で記述式の宿題を出すことが禁止されている。理論上は、口頭での宿題(読書や調べ学習)だけが許可されているのだ。とはいえ記述式の宿題は完全に消えた訳ではなく、その在り方はフランスで常に議論の的になってきた。2012年10月には、フランス人の68%が宿題の廃止に反対するという調査結果が出ていた。

フィンランドでは、低学年の生徒は14時を過ぎると両親に迎えに来てもらうことができる。夕方まで帰らない他の生徒に関しては、学校内や地域のセンターで国が財政面をまかなっている各種スポーツや芸術的な活動に参加することができる。

2016年10月には、「ZupdeCo」という団体が、中学生に自宅で行う宿題を課すことを禁止しようと主張していた。「家庭での宿題にNOを、学校での宿題にYESを」と題されたマニフェストを通じて、この団体はより平等な、不平等を生まず子どもにも親にもストレスをかけない学校を理想としていた。

オーストラリアの研究者によれば、宿題に時間をかけすぎることは、最悪の結果として学業的な成功率の低下を、良くて何の改善も生み出さないとされている。一方で他の研究者、例えば心理学のハリス・クーパー教授などは、自宅での宿題と生徒の成功のあいだには明らかな相関関係が――とくに小学校5年生以上には――あると述べている

しかしそれだけではまだ、自宅で勉強した時間が成功の度合いを高めているのか、あるいは単純に、良い結果を出す生徒が猛勉家なだけなのかどうかを見極めるのは難しい。

では何をすればいいのか。"学校で宿題を"プログラムが、宿題をめぐる生徒の格差を多少なりとも是正するとしても、私たちは宿題それ自体の存在意義を問い直す地平からはまだまだ遠くにいる。このアイディアが具体的なプロジェクトになったとしても、フィンランドのように、子どもたちが学校が終わってから何をすればいいか途方にくれないために、代替となる活動を提案できなければならないだろう。

ハフポスト・フランス版より翻訳・加筆しました。

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