カート・ヴォネガットの幻の小説、ついに発売へ

没後10年で短編集に収録 独特な「世界の見方」に再び注目が

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未発表だった5つの短編小説、独特な「世界の見方」に再び注目が集まっている

「この5つの作品には関連性があります」と、近日発表される作家カート・ヴォネガットの短編小説集コンプリート・ストーリーズの序文でデイブ・エガーズ氏は述べている。

この作品には(1969年に発売された)「スローターハウス5」の作家による5つの未発表作品も含まれる予定だという。この待望作は、ヴォネガットの長年の同志、ジェローム・クリンコウィツ氏とダン・ウェイクフィールド氏により編集され、9月26日に発売される。

多作の作家、カート・ヴォネガットの死後10年を経て、新作が発表される。ヴォネガット作品の歴世的な研究によって、彼の感動的な文化批評ーーそして共感を生む語り口ーーに再び注目が集まっている。

第二次世界大戦中の政治体制下を生き抜き、つづく冷戦、争いを好むアメリカによる20世紀末期の干渉、911後の外国嫌いの風潮や宗教に対する不寛容、そして気候変動による不安の波にいたるまで。ヴォネガット氏の発言は、警鐘とともに現代の読者に影響を与え続けている。

彼の「道徳的な話は、われわれに(生きる上でどの道を選択するかに関して)何が正しく何が間違っているのかを教えてくれます」とエガーズ氏は付け加える。「明確な道徳観により得られる満足感や、混乱した世界にもたらされた順序ほど素晴らしいものはありません」

コンプリート・ストーリーズは、1941年から2007年に渡る彼のキャリアを通して執筆された全部で97の短編作品から成っている。そのうちの5作品は最近になって発見されたものだという。

「長年にわたるヴォネガットの研究者として、ジェロームは未発表の作品があることを知っていました」とウェイクフィールド氏はハフポストUS版に語った。

クリンコウィツ氏の言葉に気を留めたウェイクフィールド氏は、2016年の夏、インディアナのブルーミントンにあるリリー図書館のヴォネガット資料保管所を訪れた。そこには他の未公開で未完成の作品のなかに、いくつかの「ドローン・キング」と呼ばれる作品があった。

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「ヴォネガット作品の多くは1950年代に出版され、そのほとんどがこの年代に書かれたもので、60年代初期に出版されたものも同じでした」とウェイクフィールド氏は語っている。

「ウェルカム・トゥ・モンキー・ハウス」(1968)や「ハリスン・バージロン」(1961)のようなヴォネガット氏の代表作では、医薬品の地獄郷の恐怖を生み出し、政府の平等主義は失敗に終わりました。

「ドローン・キング」は先日、奇妙で素晴らしさに欠けるとオピニオン雑誌「アトランティック」に批評されたが、正しくは、ヴォネガット氏の才能の追憶が、少し社会の妥当性を欠いた愉快で奇妙な筋書きを満たしたものだと言えるでしょう。

「60年代初期に書かれたいくつかの作品は、文化の変遷を反映しています」とウェイクフィールド氏は語る。「1963年にレッドブック・マガジンから出版されたある作品では、同年に出版されたベティー・フリエンダン氏の「フェミニン・ミスティーク」をモデルとした「女性ー無益な性ー」と題された新作を読んで人生が変わったという女性について述べています」

コンプリート・ストーリーズは、ヴォネガット氏の広範囲に渡る短編作品の初めての包括的な作品集だ。エガーズ氏同様、今彼の作品が公開されることに何かしらの力が働いているとウェイクフィールド氏は考える。

「今ある倫理的な疑問は、いつの時代にもあったものだと私は思います。誠実さ、忠誠、裏切り、名声そして富と対立する自身の基準」と彼は言う。「しかしながら、1つだけヴォネガット短編作品の最盛期から大きく変わっていることがあります。それは富豪と貧困の間にある圧倒的な収入格差です」

「カートはいつも虐げられた弱者の見方であり、彼の好きな言葉はインディアナ仲間のユージーン・V・デブスの書いた『山上の垂訓』の中の一節でした。『下層階級がある限り、私はそこに属し、犯罪者階級がある限り、私はそこの一員であり、刑務所に魂がある限り、私は自由ではない』」とウェイクフィールド氏は語った。

「現代人にとって、これらの言葉に基づいた倫理観を思い出させてもらうのは良い機会だといえるでしょう」とウェイクフィールド氏は言葉を締めくくる。「若者たちはヴォネガット作品を楽しみ、彼の言葉の中に、新しい世界の見方を見出してきました。そして彼の作品は、こうした若者たちの好奇心を刺激し、可能性を広げ続けるのです」

カート・ヴォネガット氏によるコンプリート・ストーリーズは、アメリカでセブン・ストーリーズ出版から9月26日より発売される。

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