アート&カルチャー

ファッション界は、政治の話をしたらダメですか

編集者・軍地彩弓さんに聞いた。

2017年09月13日 16時30分 JST | 更新 2017年09月14日 06時38分 JST
Getty Images
DiorのフェミニストTシャツを着るモデル。

誰もがあこがれる高級ブランドの洋服はキラキラしている。

華やかで、夢の世界で生きている人たちの持ち物にみえる。でも最近、様子がなんだか違う。

Tシャツを通して「男女の平等」を伝えるブランドが出てきたり、ファッションショーで女性蔑視の政治家を批判したりする動きもあった。どうして急に"政治的メッセージ"を発信するようになったのか。

雑誌『Numero TOKYO』の最新号でその理由を探った、エディトリアル・ディレクターの軍地彩弓さんに話を聞いた。

HuffPost Japan
軍地彩弓さん

——『Numero TOKYO』2017年10月号では、「赤」をキーカラーにして現代を生きる女性の姿やフェミニズムにフィーチャーしています。ファッション雑誌が「女性の地位向上」など政治的なメッセージを特集することに驚きました。

クリスチャン・ディオールが2017年春夏のパリコレクションで「WE SHOULD ALL BE FEMINISTS(男も女もみんなフェミニストでなきゃ)」というスローガンが書かれたTシャツを発表しました。

ディオールといえば、老舗ですよね。古い歴史を持つディオールは、ファッション業界の象徴のようなブランド。そのトップブランドが、こういったメッセージをダイレクトに伝えてきたことが、大変衝撃的でした。

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ディオールの2017年春夏コレクションで発表された『WE SHOULD ALL BE FEMINISTS』Tシャツ

ファッションブランドは、世界各国の消費者向けに商品を売るグローバル企業が多いので、あえて政治的なメッセージを控えていたところがあります。何らかの主張をした場合、消費者がたくさんいる分、必ず逆の立場の人がいますので、気配りをする必要があるからです。

それでもなお、ディオールが勇気を出してメッセージを発信した驚きをNumeroでも表現したかった。

Aya Ikuta / HuffPost
『Numero TOKYO』2017年10月号より

——ほかにも似たようなメッセージを最近出したブランドはありますか?

2017年3月のミラノコレクションでは、わかりやすい形でファッションブランドが声を上げ始めましたね。その2ヶ月前、女性蔑視発言を報じられたアメリカのドナルド・トランプ大統領に対して、女性達が大規模なウィメンズマーチで反対の声を上げたという背景もありました。

一番わかりやすかったのが、ミッソーニです。ウィメンズマーチに登場したピンク色のプッシーハットが観覧者用のゲスト席に置いてありました。

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プッシーハットをかぶって登場したモデルたち。

ショーの最後にクリエイティブ・ディレクターのアンジェラ・ミッソーニが、彼女の家族を連れて、「こうやって声を上げることも大事だ」とスピーチをして...。

「不確定な時代に、強く安全に、人権を尊重する強いつながりが私たちにはある」「私たちのファッションコミュニティが強く結ばれていること、恐れを知らないことを世界に知らしめたい」と、マイクを持って話しました。

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ショーの後、スピーチをするアンジェラ・ミッソーニ。

——プラダのショーも話題になりました。

プラダのショーでは、それぞれの時代で働いている女性、家庭に入っている女性のいろいろな姿が投影されていて。思わず泣いてしまいました。

ミウッチャ・プラダはそこまで政治的なことを言わないデザイナーなんですが、ミラノのコレクションでは、女性に対しての強いメッセージを感じ取れました。私たちも、雑誌を通して日本の読者に「伝えなくてはいけない」と。

Estrop via Getty Images
プラダ 2017春夏プレタポルテコレクション

——それが最新号のVIVA DONNA特集につながったんですね。

服を単なる服として、「これがトレンドです」と伝えるだけが雑誌の役割でなくなったと思います。「パリコレでウケたものが売れる」という時代でもありません。

パリやミラノのコレクションは、おしゃれな服を見せるためだけにあるわけではないのです。時代の流れを感じ、クリエイターたちがこれから伝えたいメッセージを受け取りに行く場所です。今季は「メッセージ」が今まで以上に、明確に出ていました。

Aya Ikuta / HuffPost
『Numero TOKYO』2017年10月号のテーマは、VIVA DONNA。「この秋、赤を着る女は美しい」とのコピーで、女性に自信や強さを与える

ファッションはずっと女性の味方だった

——政治的なメッセージを打ち出すことで、ファッションの芸術性やポップさが失われることが心配です。

2016年7月、当時ヴァレンティノにいたマリア・グラツィア・キウリがディオールのクリエイティブ・ディレクターに就任しました。

長い歴史を持つディオールで、初めて女性が主任デザイナーに就いた意味は大きい。

もちろんトランプ大統領をはじめ、女性への「差別」が起きていることも背景にありますが、彼女は女性である自分が老舗のブランドを担う意味を、強く意識しています。「フェミニスト」Tシャツも彼女の思いが詰まっていますね。

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ディオールのクリエイティブ・ディレクター、マリア・グラツィア・キウリ

ただ、歴史的にみると、そこまで変わったことではありません。ファッション業界、特にレディースファッションをやっている企業は、これまでもこれからも「女性のため」にあるわけですから。

——女性のため?

本来ファッションというものは、意識の表象だと思っています。「ブランド」であるということは一旦置いておいて、何らかの意識を伝えるためにファッションがある。

そして、ファッションには、長年にわたって女性や弱い立場の人たちを解放してきたという歴史があるのです。

例えば1970年代、フラワーチルドレンと呼ばれたヒッピーたちは、花柄を着ることで、自由や反戦を訴えました。

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平和と愛の象徴として、花を身につけたヒッピーたち。

もっと前だと、ココ・シャネルは女性をコルセットから解放しました。シャネルは働く女性でした。

窮屈なコルセットに縛られるような、貴族的であり、男性の愛玩的な対象としてみられていた「女性の服」に革命を起こしました。徹底的に女性主体で考え、歩きやすく、ストレスのない服を生み出しました。

時事通信社
ココ・シャネル(1944年撮影)

——服が価値観の変化を促すのですね。

19世紀ごろに生まれた、背広とシャツ、パンツという定番のスーツスタイルをずっと守り続けることが「男性ファッション」だとすると、女性服は、どうしても男性目線、男性の付属物として着飾る女性という面で発展してきました。そこに「働く女性」という視点が入ったという意味で、シャネルは革新的でした。

シャネルの代表的なチェーンバッグ(マトラッセ)もそうです。もともと女性が身につけていたハンドバッグはクラッチ型の手に持つタイプで、口紅くらいしか入らない小さなものでした。

そこに、お財布とかを入れて、外に出て働きましょうとなった時に、ハンドバッグではなく肩にかけるというスタイルから発想を得て、チェーンバックが生まれました。

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シャネルのマトラッセ

ファッションはずっと女性の社会的地位と寄り添い、女性の味方であり、女性を解放し続けているんですよね。女性のファッションの歴史というのは、そういう歴史でもあるんです。

いまは自分の意見が"問われている"時代」?

——「WE SHOULD ALL BE FEMINISTS(男も女もみんなフェミニストでなきゃ)」と、デザインではなく言葉で主張するのはストレート過ぎませんか。

服の役割が少し変わってきた可能性があります。ディオールのマリア・グラツィア・キウリには、娘さんがいて、彼女ら若い世代からよくインスピレーションを得ているそうです。

今までのファッションは「誰々がこのアイテムを着ていておしゃれだ」とか、「流行りだから買おう」などと、服を購入する理由が、他者視点で発生する傾向がありました。

もちろん今もその側面はあると思いますが、SNSの時代になって、個が発信する時代になり、他者より「自分」が強くなりました。

他者の視線より、自分が何者であるかということを自らストレートに発信して、外に見せたくなってきている人たちが多いのではないでしょうか。自分自身の日常をきめ細かく伝える時代に入り、「自分の意見」や「自分のスタイル」が常に問われているのかなとは思います。

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——個人が服を着ることでメッセージを伝えたいという時代になったのでしょうか?

フェミニストTシャツに関しては、Numero編集部にいる20代の女性が、「このTシャツやメッセージに関しては自分も着たいと思った」と言っていて...。

若い子のほうが、ディオールのブランド力というよりもそのメッセージをしっかり認知して、Tシャツを買いに走っている印象があります。

フェミニストTシャツ、ものすごく売れていますよね。7万円台の値段で、決して安いものではありません。

本来だとシーズンが終わると商品販売もだいたい終わるんですが、秋冬のシーズンに入っても生地の色やメッセージをちょっと変えて、ディオールは継続して展開しています。よっぽど支持されたのでしょう。

アニエス・ベーのTシャツ人気が復活したり、GAPやシュプリーム(Supreme)が再び流行したり、文字やロゴのブームが復活したというのも、背景にはあるかなと思いますが。

ただ、ディオールのフェミニストTシャツに対して、若い子たちが柔軟に、「クールだ」と受け止めていることに希望を感じます。

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フェミニストTシャツを着るモデル

痩せ信仰、見た目主義。日本では若さを大人が消費してしまうけれど...

——女性の体型における価値観も変わっています。海外の雑誌では、写真を不自然に修正せず、ありのままの体型の女性を掲載する例もありますね。

メンズ、レディースという区分けをやめてショーを発表するハイブランドも増えています。ジェンダーフリーやジェンダー・イクオリティ(平等)というのは、政治の現場だけでなく、ファッションにおいても大きなテーマなんです。

欧米では、「もっといろいろな人がいていいじゃない、太っていていいじゃない」という意識もダイバーシティとして広がっていますね。

アメリカのデパートでは、服のサイズは10ほどのサイズを展開しています。そのぐらいの種類のサイズを置かないと、消費者から迫られるんです。「太っている人を排除するのか」と法的手段にお客さんが訴える可能性もあります。

——日本でも、お笑い芸人で、タレントの渡辺直美さんなど、体型に関係なくファッションを楽しもうという人が増えました。それでも女性の間では"痩せ信仰"があると感じるのですが...。

見た目主義的な考えが根強く、若さを崇拝する意識があるのかもしれません。例えば、AKB48は素晴らしい点も多々ありますが、欧米ではウケない側面もありますね。

若さは瞬間的なものにすぎず、成熟した大人が消費するものではない、という意識があるのでしょう。

ある種の若さ崇拝をもとに、「痩せて小さ目の女性はかわいい」という価値観が男性にあるため、女性側が「ダイエットしなくちゃ」となってしまう。

Rostislav_Sedlacek

——体型に関係なくファッションを楽しめるようにする取り組みや、「痩せ信仰」にブレーキをかける動きは、日本でも広がっていくでしょうか。

日本ではS・M・Lの3サイズ主義があって、今はそれに消費者も合わせている状態ですね。小さいサイズじゃないと、日本のメーカーの服は入らないという。日本だけのルールというものもある。グローバルに溶け込めなくて、置いてけぼりになってしまうというのが、今の日本のアパレル業界で起きていることです。

でも、変わっていくと思います。日本も幅広いサイジングを考えていかないとグローバルになれないので、やらざるを得ない。

渡辺直美さんの支持も広がっています。彼女は"お笑い"も素晴らしいですが、新しい女性のリーダーになる可能性があります。ディオールのTシャツも日本で売れている。『Numero TOKYO』10月号で特集したように、これからもそんな変化を伝えていきたいですね。

Aya Ikuta / HuffPost
『Numero TOKYO』2017年10月号より

【軍地彩弓さんプロフィール】
大学在学中からリクルートでマーケティングやタイアップを中心とした制作の勉強をする。その傍ら講談社の『Checkmate』でライターのキャリアをスタート。​卒業と同時に講談社の『ViVi』編集部で、フリーライターとして活動。その後、雑誌『GLAMOROUS』の立ち上げに尽力する。2008年には、現コンデナスト・ジャパンに入社。クリエイティブ・ディレクターとして、『VOGUE GIRL』の創刊と運営に携わる。​2014年には、自身の会社である、株式会社gumi-gumiを設立。現在は、雑誌『Numéro TOKYO』のエディトリアルディレクターから、ドラマ「ファーストクラス」(フジテレビ系)のファッション監修、情報番組「直撃LIVEグッディ!」のコメンテーターまで、幅広く活躍している。

【『Numero TOKYO』最新号情報】

『Numero TOKYO』2017年10月号

Numéro TOKYO
October 2017 No 110
Viva Donna
この秋、赤を着る女は美しい
2017.8.27発売 定価720円

特別記事:「新・女子力」って何ですか?

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