あの人のことば

「がん患者が、自分の力を取り戻すお手伝いを」マギーズ東京センター長に聞く

「マギーズの扉を開けた瞬間、泣く人もいます。それは温かみのある空間の持つ力です」

2017年09月16日 10時32分 JST | 更新 2017年09月16日 10時39分 JST
なかのかおり
マギーズ東京センター長の秋山正子さん

亡くなった小林麻央さん、闘病記を出版した竹原慎二さんら、ブログでがんを公表する人も増えた。改めて治療の選択や、関わる人のサポートについて注目されている。がん患者や家族が予約なしに立ち寄れるNPO法人「マギーズ東京」(東京都江東区)は、オープンしてまもなく1年。見学を含め、のべ5000人以上が訪れた。センター長で訪問看護歴25年の秋山正子さんに、利用の状況を聞いた。

■ 温かみのある空間・予約や時間制限なしに

―がん患者の相談窓口は他にもありますが、マギーズの特徴はどういうところですか。

「最初のマギーズセンターは、1996年にイギリスでスタート。がんになった造園家・マギーさんが、ほっとできる場と友人のような専門職のサポートがほしいと願い、担当看護師と建築家の夫が力を尽くしました。今は英国に20カ所、さらに世界に広がっています。マギーズの名前をもらうには、本部の意向をクリアしなければなりません。スタッフ研修やサポートプログラムが必要ですし、自然光の入る建物や中庭、キッチン、個室、一人になれるトイレがあることも条件です」

「お茶を飲みながらくつろいだ雰囲気で、無料で相談できます。診断がつかないうちや、遺族になってからなど、どの段階で来ても大丈夫です。昨年10月のオープン以来、見学を含め5000人以上が訪れました。1日に10人以上です。年代は20~80代と幅広く、初めは男性が2割、女性が8割でしたが、だんだん男性が増えました」

「がんの部位は乳腺や婦人科、消化管など様々で、患者さんは全体の4割ぐらい。家族は3割で、あとは友人、ケアマネジャー、医師など関係する人です。1時間ぐらいの滞在が多く、2~3時間の場合も。お弁当を持ってきて自分でお茶を入れ、ぼーっと海を眺めて1日、過ごす人もいます。リピーターも増えています」

■ 治療後の不安に寄り添う・代替医療、なぜやりたいか解きほぐす

―どんな相談がありますか。

「手術や抗がん剤など、集中的な初期の治療をした後の相談が多いです。がんは5年、10年と再発転移がないかフォローが必要なのですが、病院に行く期間が空いていくのが、放り出されるような気持ちになる。治療のさなかに、どの手術法を選ぶか悩むケースもあります。迷いをとにかく聞いてほしいんですね」

「代替医療をやっているとか、やってみたいという相談も多いです。すべてを否定するわけではありませんが、明らかに間違った情報に飛びつく人もいます。まずは話を聞きます。『身近な人がやっている』『別の治療を断る理由にしている』など背景がある。状況を解きほぐしていくうちに、何がこわいか、どうなりたいか、わかってきます。私たちも、かみくだいて説明を加えます。『ベストな選択として、病院は手術や抗がん剤などの標準治療をしてほしいと思っているかもしれません』『やってみて、その治療をやめる選択肢もありますよ』と。その結果、標準治療をやってみようかと思う患者さんもいます」

「医療関係者とのコミュニケーションに悩む人もいます。話しづらくても、自分の体で起きていることだから、ドクターに話したほうがいい。『表現が遠回りでどうしたいかよくわからなかった患者さんが、マギーズで相談してからすっきり話せるようになり、治療が前に進んだ』というドクターからの報告もありました」

■ 家族間のサポートも・力を取り戻す手伝い

―家族からの相談も多いそうですね。

「ある男性の患者さんの場合、先にお姉さん夫婦だけで来ました。心配ごとを聞いたら、男性が何も食べないという。退院後に、本人を連れてきました。しばらくして男性が、テーブルに用意されたおやつを食べたんです。『話して楽になった。食べてみようかな』と言って、胸のつかえがとれた様子でした。お姉さんも表情が明るくなりました」

「子育て中の女性は、家族にも本当の悩みは言えませんでした。夫が家事や育児も頑張っているけれど、いっぱいいっぱいなのではないかと心配だそうです。夫婦それぞれに話を聞いて、橋渡ししました。『そこまで張り詰めなくてもいいんだ』とお互いに荷を下ろせたようです。患者さんが亡くなって家族が報告に来てくれることもあります」

「人生の物語の中に、がんというイベントが起こります。いっぺんに病気や治療の重たい情報が入ると、困惑する。信頼できる人に話すことで、整理がついてくる。私たちは、相談する人が自分の力を取り戻すのに付き合います。その人自身が、どうするか選び取る。マギーズの扉を開けた瞬間、泣く人もいます。『ここまで来られた自分をほめたい』と。それは温かみのある空間の持つ力です」

■ 子育て中の姉、がんで見送る・在宅ネットワークを構築

―秋山さんは訪問看護に長く取り組んでいます。きっかけを教えてください。

「私は16歳の時、父を自宅で看取りました。家族に囲まれて、いい最期でした。母はがんだと教えてくれなかったのですが、知っていたら手伝えたのにという悔いから看護師を志しました。関西で子育てしながら看護学校の教員をしていた時、41歳だった姉ががんになりました。手術も抗がん剤も選べないほど手遅れでした。姉も子育て中で、入院していると子供に会えません」

「在宅医療の仕組みがまだ整っていない中、姉を神奈川の自宅で過ごせるようにしました。土日は私が通い、秋田の母も手伝いました。東京で在宅ケアをしていた先輩の力を借り、地元の病院も連携してくれました。ヘルパー、近所の人にも頼みました。義兄の勤務先の理解もあり、子供たちと関わる時間が取れました。在宅だと、看取りまで経過が見えて、家族も納得できます。私たちも、『よく生きてくれた』と思えました。この経験から訪問看護の道へ進みました」

■ 地域で理解求め・前身の「保健室」スタート

―マギーズを始めるきっかけは。

「東京の診療所で働くようになり、2001年、訪問看護ステーションを始めました。その後、介護保険の改定で生活援助を減らされ、家事に困る人が出てきて、近所の人を中心にボランティアの会を結成。私たちは、地域の人に在宅医療を知ってもらう講演会をするようになり、行政も巻き込みました」

「2008年、がん看護セミナーで、マギーズのセンター長と知り合いました。イギリスのマギーズを見に行ったり、講演に招いたり、準備を重ねました。必要と訴えても、どんなものか見せないとわからない。都内でマギーズ準備室として2011年、『暮らしの保健室』をスタート。ベテラン看護師が対応して、介護やがんのよろず相談に乗り、地域に受け入れられました。国の助成、都や区のがん療養相談の委託を受け今も運営しています」

「そしてマギーズ共同代表の鈴木美穂さんに出会います。彼女はテレビ局の記者で、乳がんになり、マギーズを知って検索すると私の名前につながった。最初は暮らしの保健室に来た彼女の話をじっくり聞きました。鈴木さんの知人の紹介で、海風を感じられるこの土地を確保できそうということになり、一緒に取り組みました。本部の承認を得て、研修を受け、資金集めやNPO法人化など準備を重ねました」

なかのかおり

昨年10月、オープン時のイベントで共同代表の鈴木美穂さんと

■「今、聞いてもらいたい」に応える・寄付集め専門職が対応

―医療や福祉、行政の枠組みの中では不十分なのですか。

「近年、がんの相談に診療報酬が1回だけつくようになり、医療機関も力を入れています。でも、『予約を入れないとダメ』とか、『30分まで』とかでは困るんです。人の思いは『今、聞いてもらいたい』もの。もやもやしたことをまるごと話せるところでないと、相談にならない。それに、ざっくばらんに話せるのは病院の外なんですね。先日、30代の男性が、外来でよくないニュースを聞いた。今から行っていいかとマギーズに電話があり、小一時間、話を聞きました。病院の医師とうまくいっていないそうで、『いざという時、こういう場があるのは心強い』と言われました」

「マギーズは、数千人の個人からの寄付や企業の協力でできています。土地は五輪で使われるそうで2020年まで期間限定で借りています。三井不動産レジデンシャルの協力で、地代はほぼなく、固定資産税だけ払います。建物に必要な費用は3680万円の見積もりでした。クラウドファンディングで700万円の目標に対し2200万円も集まりました」

「スタッフは常勤の看護師と臨床心理士が4人。非常勤は5人です。NPOの職員として雇用し、光熱費と人件費で年間3000万円はかかります。助成も受けていますが、自立して運営していけるように厳しくチェックされます。現職のがん専門認定看護師や管理栄養士も交代で来ます。必要なら、専門性を持ったスタッフがいる日に予約して来てもらいます。サポート的なボランティアは5人が研修を受けて、登録しています」

■若い世代の悩み、受け止める・寄付文化を根付かせたい

―これからの目標はありますか。

「マギーズを運営していて、思った以上にニーズは高いと実感しています。私が始めた暮らしの保健室は高齢者が中心。ここは若い人が多い。ニュースやSNSを通してこういう支援があるという情報が行きわたっていると思います。若い世代は、仕事や子育て、結婚・出産など悩みが幅広い。『抗がん剤治療のときは休んでいいから』と配慮され、給料カットになった相談者がいました。治療が終了してもそのまま。復職や再就職の問題があっても、行政の窓口には話しにくいんでしょうね」

「がん診療連携拠点病院が数キロの範囲にいくつかあるこの土地で、続けていくために実績を作っています。運営は、状況を見て変えたい。相談は平日の午前10時から午後4時までですが、希望があるので月1回は土日もオープンしたいです。専門職向けの研修を開き、マギー流を各地に持ち帰ってもらう。リラクゼーションのクラス、家族や遺族などのグループセッションも計画しています。また、参加型のチャリティイベントを増やし、寄付の文化を根付かせたいです」

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あきやま・まさこ 1950年生まれ。末期がんの姉を自宅で看病した経験から訪問看護に携わって25年。テレビ局記者の鈴木美穂さんと出会い、NPO法人マギーズ東京を設立。訪れる人を笑顔で迎える。

なかのかおり ジャーナリスト Twitter @kaoritanuki