政治

「今の政党には選択肢がないと思っている人たちを可視化する必要がある」 東浩紀さん

「民進党の価値を、民進党の議員自身が分かっていなかったと思う」

2017年10月11日 08時02分 JST | 更新 2017年10月13日 00時20分 JST

衆院選について、投票を積極的に棄権することに賛同する人たちの署名をインターネット上で集めている批評家の東浩紀さんは、ハフポスト日本版のインタビューで、コストの観点から選挙の是非を考える必要などを訴えた。後編では、各党に対する評価や、四半世紀にわたる有権者としての思いなどを聞いた。

Kazuhiro Sekine
インタビューに応じる東浩紀さん=東京

―安倍政権についてはどう評価しますか。

安倍政権は腐敗してると言えば腐敗していると思いますが、森友学園の問題にしても、加計学園の問題にしても、やっぱり決定的に贈収賄で追及できるほどの証拠が出てきたわけではないだろうと。

そうなると、メディアを巻き込んだ印象戦で戦うしかないから、話はそっちの方向に大きく傾いていったと。結局、「ワイドショー政治」に野党自体がすごく依存してしまい、足をすくわれてしまったなと思っています。

僕としてはここが一番大きい問題だと思っていて、今回の政局だけではなくて、ここ数年間ずっと言えることなんですが、野党側が自民党の一強を崩すために、正攻法ではできないので、すごくメディアのポピュリズムに頼ってしまっているんですね。

自らポピュリズムに頼るようなことをやって、そして足元をすくわれたというのが今回の形に見えますね。

ワイドショー政治に頼ってはいけなかったわけですよね。「モリカケ」(森友学園、加計学園の両問題)の政局ってのは、まさにワイドショー政治主導型の「反安倍」的な空気の醸成であって、一見それは野党にすごく得になるように見えるんだけども、実は非常に危険な状況なんです。

ポピュリズムってのは、右にも左にも、どっちにも触れることがある。面白ければどっちでもいいわけですよ。

そういう意味で僕はモリカケ政局は危険だと思っていましたね。安倍政権の支持率が下がっているように見えるけど、こんなのいつ反転するかわからないですし。だから今、立憲民主党に急に追い風が吹いているように見えますけど、これもわからないですよ。何がどうなるか全然わからない。

―政策的に議論を深めてほしいと思うことは何でしょうか。

経済政策、つまり財政再建と景気拡大をどう両立させるかっていうことに尽きるでしょうね。本当は。

あとはイデオロギーの部分で言うと、すでに言った通り、戦後日本の価値観を維持したまま自衛隊をどうやって合憲化し、ねじれを正していくか。非常に重要な問題ですよね。

それに付随して外交。つまり、「日本が自衛隊を合憲化させる=軍国主義」だっていうようなタイプの誤解を解いていく努力をしなければならない。

―自衛隊については、自民党も憲法に明記する改憲案を持っています。希望の党も9条を含め、改憲議論の必要性を打ち出しています。東さんが望む自衛隊の合憲化とは違うのでしょうか。

自民党や希望の党の改憲は、戦後日本を乗り越えるという価値観の変更とセットでアピールされると思うんですよ。そうするとやっぱり外交も悪くなるでしょう。

僕は、自衛隊の合憲化っていうのは、戦後日本の否定っていうものを意味するものであってはならないと思うんですよ。戦後日本の平和主義の延長線上に自衛隊が合憲化されるという文脈をきちんと作って、アピールしなければいけないと思います。

だから条文の文言の問題だけではなく、提案する政治勢力の姿勢というのが大きく問われてくると思うんですね。この意味で自民党と希望の党が提案し、実現する自衛隊の合憲化というのは、条文だけを見ると良いように見えるけど、セットになった様々な価値観という点では、日本の未来にとって明るいものにはならないと思いますね。

で、ここがやっかいなところなんですが、こう言うと、「じゃあ、お前はやっぱり『9条守れ』派なのか」って言われるんですが、それは違うわけですよ。だから本当に困る。

こういったニュアンスは全部抜きにして、「でも結局イエスかノーでしょ」っていうのが選挙であり、投票なわけですが、政治には、本当は様々なニュアンスがあるわけです。最後には確かにイエスかノーかもしれないけど、だからといって、ニュアンスの議論が全部飛んでいいわけがない。だから旧民進党勢力が提案する改憲と、自民党が提案する改憲というのは、たとえ結果的に同じ条文に収斂したとしても、コンテクストが違うはずなんですね。

―今回の選挙、東さんは本当に棄権するのでしょうか。

どうなんだろう。こんな署名活動を始めたのに投票に行ったら、それはそれでたたかれるような気がする。でも行かないとたたかれるし(笑)。今この瞬間(10月5日)だったら僕は小選挙区については棄権か、もしくは白票を投じて、比例代表のみ立憲民進党に入れるのかもしれません。

ただ、それは立憲民主党に本気で期待しているというわけでもない。どうみても、オールドスタイルの「左翼」政党になるのが目に見えちゃってるので。そういう意味では、もう選択肢はないですよね。だから、ほとんど枝野さん応援が目的ですね。枝野さんは今回辛かったよね、みたいな。

―これまでの選挙では、投票には行っていたのでしょうか。

行ってるし、基本的に自民党にはほとんど入れていないです。地方選とかでもしかしたら入れているかもしれないけど、基本的には入れてない。

僕が有権者になって最初の選挙、いやもしかしたら2回目だったかもしれませんけど、とにかくそれは1993年の細川内閣が誕生した衆院選なわけですよ。

STR New / Reuters
細川護煕首相(当時、前列右から4人目)と新内閣のメンバー。結党以来、38年間政権を維持してきた自民党が「下野」した=1993年

僕の世代っていうのは、まさにそこから有権者としての経験が始まってるわけですね。それはつまり、自民党ではない、別のリベラル勢力が作られるんだという期待があったわけです。

僕はこの四半世紀、その期待で動いてきたわけです。そのために日本新党にも投票した。みんなの党にも入れた、民主党も入れた。どんどん入れたわけですよ。その結果がこれですよ。だからもうこの虚しさというかね。

本当に、民進党の両院議員総会で、希望の党へ合流するという前原代表の方針が了承されたときには、これどういうことなの、みたいな。解党するにしたってこうじゃないだろうと。

総会も別に紛糾することなく、「まあ、いいんじゃないの」みたいな。だっておかしいじゃないですか。議員だってみんな人生かかってるわけだし。何の保証もないわけですよ、希望の党に合流しても。

それなのに、前原さんから「俺を信じてくれ。ここからやり直す」みたいなことを言われて、「いいです」みたいな。あれ、ほんとびっくりだよ。みんな、万単位の有権者を抱えているわけでしょ。普通だったら、「地元に戻って少しもませてください」でしょ。それが「今ここで決断しろ」みたいな。本当におかしい。

代表があんなこと言い出したら解任動議とか出ますよ。でも実際には出なかった。政党交付金の配分とか、色々問題はあるわけなのに、そういうの何も決まってないまま前原さんに一任しているわけでしょ。

議員だって、自分のことだけ考えたとしても、もっと言うはずですよ、普通はね。

だからまあ、議員の間ですでに捨て鉢の雰囲気が漂っていたんでしょうね。「どうせ民進党は終わるんでしょう。もう何でもいいよ」みたいな。それがやっぱり怖いと思うんですよ。民進党の価値を、民進党の議員自身が分かっていなかったと思うんですね。

20年の歴史と20万人の党員、サポーター、この意味を軽視しすぎなんじゃないかと。資金だって持ってるじゃないですか。それで衆院議員が90人近くいたんだよ。でもなんとなく「最近低調だからだめだよ」みたいな。いや、そうじゃないから。

彼らが一番、民進党の財産をわかっていなかった。その原因は結局、これもまたポピュリズム。メディアとか、ネットに出る支持率何パーセントとかいう、揺らぐ数字だけを見て判断しているわけですよ。積み上げてきたものを見ていないわけです。

確かに今この瞬間の支持率は6パーセントとか7パーセントとかかもしれないけど、それはフローの話であって、ストックの話ではない。民進党にはストックがあったわけですよ。

希望の党はフローはすごいかもしれないけど、ストックは何もない。ゼロなわけですよ。

でも選挙って結局、フローだけを見せる瞬間なわけですよね。普段の積み上げてきたことっていうのは全部忘れちゃうわけですよ。異常事態に直面して頭がぼーっとなって、そしてストックを全部投げ打ってしまった。

スポーツみたいになっちゃっているわけですよ。どれだけレーニングしたのか、そんな事は関係なく、その時に勝つかどうかだ、みたいな。結果が全てだ、みたいな。

でも政治の結果って、別に選挙に勝つことではなくて、選挙と選挙の間にこそあるわけで、それはすなわち議員や政党の活動ということなんですけど。そのストックの部分をすごい軽視している。

小選挙区制というのは、政治家たちをそういう方向に向かわせる制度なんだと思うんですよ。中選挙区だったら、3番目か4番目の当落線上で行ったり来たりしてるんだけど、それでもそれなりに地元に支持者がしっかりいるから当選できるという感じなんでしょう。

でも、小選挙区だととにかく勝者は1人でしょ。そうなると、例えば「小池さんに3万円で来てもらって」みたいなことになるわけでしょ。あれも笑っちゃうけど。そして結局、小池さんも出馬しない、と。彼女は「機を見るに敏」なわけで、選挙が終わったら希望の党もないかもしれない、みたいな。そうなると、結局、選挙の結果、民進党がなくなっただけですよね。

これまでも、選挙はくだらないとか、リベラルはふがいないとか、投票先がないとか言ってきましたが、とはいえ、民進党みたいなところに「まあ、頑張ってくれよ」という思いで僕は票を入れ続けてきたわけです。「今復活するのは難しいだろうな。これじゃ解党しかないだろう」と言いながらも入れてきた。

解党するにしたって、もっとちゃんとした解党の仕方があるだろうと思っていた。

だから、今回はかつてなく怒っているし、そういう意味ではかつてなく政治にコミットしてますよ。棄権とか言ってたたかれていますが、ある意味で今回が一番真剣です(笑)。

棄権とかって言うと、無関心の表明っていうことにされてしまうわけだけども、そうじゃないんですよ。関心があって真面目に考えた結果、どこにも入れられないし、こんな選挙支持できないという態度っていうのはあり得るんですよ。そういう態度があり得るんだっていうことを、ちゃんと言っていかないといけないと思う。

報道もちゃんとそういう声を拾い上げるべきですよ。今の政党には選択肢がないと思っている人たちを、もっと可視化していかないと。本当はそういう人たちがすごく多いわけです。それがなんとなく無関心層とか、無党派層みたいなくくり方にされているわけですよ。

僕は25年間、有権者としてずっとその違和感を持ち続けてきました。無党派とか無関心とか言われている人たちの中には、何も考えていない人ばかりではなくて、政党がちゃんとした勢力として見えてこないから、投票できない人たちっていうのがいっぱいいると思う。

そういう人たちは、みんなの党に入れてみたり、維新に入れてみたり、日本新党に入れてみたり、その場、その場で右だとか左だとか言われているわけだけど、まさに新しい希望を探しながら投票行動をしている人たちは、たくさんいると思う。

でも今は、その一時しのぎの投票先ですらなくなってしまい、一方で、希望の党は非常にクリアな方向性を出してきたので、逆に希望がないことがわかってしまったという状況だと思います。

Issei Kato / Reuters
演説する希望の党代表の小池百合子・東京都知事=東京

まあ、希望の党、とてもクリアですよね。小池さん本人は出馬しないんだもんね。

前原さん、今何考えてんでしょうね。小池さんに出馬するよう説得に行ったわけでしょう。それで「いやいや、出馬なんてないですよ」とか小池さんに言われて。前原さんも「いや、ないって​​​​​言われても、どうするんですか」みたいな。そしたら小池さん、「それは皆さんご自身で考えたらいいんじゃないんですか」みたいな。前原さんは「でも信じてましたよ、俺たち」みたいに返したのかな。コメディですよね。

―集めた署名は衆院議員に渡すのですか。

議員の誰か、例えば細野豪志さんとかに渡そうかなと思っています。僕は元々、細野さんのことをずっと応援していたんです。たまたま同年代であるのと、やっぱり彼は中道、どちらかと言うと保守なんだけど、非常に現実的な対応力があって、戦後の大切な価値観を守りながら多様な国に日本を導いていこうということで頑張っていた人だと思うんですよ。

だけど今回、そんな人が「女王陛下」の一部下みたいな形になっちゃってですね、ほんとに辛いわけですが。

ともあれ、そんな細野さんに渡すことができたらいいなと思っています。彼なら受け取って何か感じてもらえるんじゃないかと思っています。ほかにも分かってくれる人を探そうかなと。

Toru Hanai / Reuters
細野豪志氏

―希望の党 についてはどう見ますか。

小池さんは元々、日本会議の人でもあり、小池さんが特別顧問を務める「都民ファーストの会」の元代表、いまは外れましたけど野田数さんなんかは、大日本帝国憲法復活の請願をやってたりしたわけで、やっぱり、はっきりとした方向性を持ってますよ。あの方向性を持ったまま国政に参加されたんじゃ、たまったもんじゃないし。

小池さん個人の資質ってことで言えば、豊洲の市場問題をあれだけ争点化して人々の対立感情をあおった後、結局何の決着も出さないまま今に至っているわけですよ。結局あれ、人々が和解できなくなっただけですよね。

政治って、何でもクリアにすればいいってもんじゃなくて、クリアにするとむしろ友と敵がはっきりするから問題がこじれちゃうこともある。

なんとなく曖昧な状態で、「それはもちろん引っ越したい人もいるでしょう。でもまあ、しかし、引っ越したくない人もいる。しょうがないじゃないですか」みたいな。こう、ずずずずずっとやっていくというのも大事なわけです。そういうのがやっぱり政治家でしょう。

政治家が国民の顔を見てるんだったら、まさにそのような能力が、本当に政治家の能力として評価されるはずなんですよ。ところがメディアを向いてしまう。メディアは結局、当事者じゃないから、友と敵がクリアに分かれて、はっきりしたほうが書きやすいわけですよね。

そういう意味で、メディアの側を向いた政治をやってきた結果、あらゆるところで論点をクリアにするみたいなことになってきたと。それで結局、国民の生活にとってそれは得ですかって話ですよね。

豊洲の市場問題、確かに有明に不安を持っていた人たちや、豊洲を追い出されたら困る人たちがいたでしょう。でも多くの人たちが、まあこれはしょうがないと。引っ越しはやむを得ないわけだから、その代わり安全対策とか経済的補償はちゃんとしてくれよ、というふうになってたはずなのに、今は解決の糸口がなくなってしまいましたよね。小池さんは、国政に関してもそういうことをしてくるんじゃないかという気がして怖いですね。

Kazuhiro Sekine
東さん

―今後国政はどうなっていくのでしょうか。

本当に深刻な事態になったと思います。投票行動がポピュリズムにならないってのはどういうことかというと、政党に歴史がないとだめだと思うんです。

目の前の候補が魅力的に見えるけど、ちょっと一歩引いて考えるとか、目の前の候補がだめに見えるけど、それでも一歩引いて考えるとか、そういうことが投票行動としては必要なんです。

そうじゃないとポピュリズムになる。その瞬間瞬間の人気投票になっちゃうわけですから。

じゃあ、一歩引いた時に何を投票の根拠にするかってことですが、これは政党の歴史だったり、実績だったりするわけですよ。中道左派で30年、40年やってきましたみたいな実績があれば、目の前でスキャンダルがあったとしても、やっぱり投票してくれるということになるでしょう。そういう歴史というものが、安定した政党には絶対に必要だった。

そういう点でも、その歴史に最も近い場所にいた民進党が解体したというのは、歴史をゼロから組み上げなければならないということで辛いですね。これからのリベラルは、歴史がないからポピュリズムに頼らなければいけない。

だからもう、10年間ぐらいは難しいでしょうね。それでも、これもまあ、100パーセントないんですけど、立憲民主党がですね...。いや、でもやっぱりないだろうなあ。

今回の民進党の騒動で、右派と左派が別れて、クリアになってよかったという人がいますね。でも、そういうのこそ幼稚だと思う。政党政治なんて基本的に野合に決まってるわけですよ。

クリアにするってことはどういうことかって言うと、もう曖昧な結集ができなくなっちゃうってことなんです。希望の党に行った人は、もうこれからリベラルなふりは絶対にできないじゃないですか。

人間の心の中って、リベラルなものと保守のものがいろいろ組み合わさっているわけで、そういう中で毎回なんとなく行動している。それは、厳密に言えば矛盾かもしれないけども、それもある幅の中だったら大丈夫だということで政治家としてやっているし、同じ政党に結集しているわけで。

それが今回みたいに「踏み絵」を踏まされちゃうと、今までリベラルな気持ちを持っていた人も、希望の党に行って公認されたらもう戻れないと思うんですよね。だから、そういう意味でも痛いですね。

リベラルの復活を本気で願うのであれば、今回の選挙が「やるべきでなかった」こと、日本社会にとって本当に大事なものを壊してしまったことを、今後もしつこく言い続けるべきだと思います。