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バブル崩壊が生んだ「ひとりゴルフ」の魅力。上司や取引先とコースを回る時代は終わった

もしかしたら、これが「ゴルフ」の理想なのかもしれない。

2017年10月10日 15時26分 JST | 更新 2017年11月03日 09時29分 JST
ValentijnTempels via Getty Images

「生涯未婚率、男性が23%、女性が14%に急増で過去最高に」――そんな調査結果が4月に報じられると、ネット上では「日本オワタ」「申し訳ない」と、絶望感や罪悪感を表現する言葉が溢れた。

一方で、近年では「おひとりさま」需要の高まりもあり、「ひとり旅」「ひとり焼肉」、さらには「ひとりフェス」など様々な「ひとりレジャー」が広まりつつある。

そんな中、いま新たな「ひとり」向けのサービスが注目を浴びている。それが「ひとりゴルフ」だ。

■「ひとりゴルフ」ってなに?

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GDOの1人予約サービス

「ひとりゴルフ」と言っても、「ひとりぼっちでゴルフのラウンドをまわる」ということではないという。GDO(ゴルフ・ダイジェスト・オンライン)ブランディング推進室の星麻紀子さんは、こう説明する。

「ゴルフ場のコースを回る場合、通常はグループ単位が原則なのですが、そうなると事前に友人などと日程を調整する必要があります」

「ただ、中には『誘えそうな友人や知人がいない』『明日急に休みなったからゴルフをしたい』というユーザーさんもいらっしゃいます。そういったニーズを受けて生まれたのが『1人予約』のサービスです」

GDOでは通常予約とは別に「1人予約用」の専用ページを設けており、ここでは、GDOが提携するゴルフ場が予約を募集し、ネット上で参加者のマッチングができる仕組みだ。指定された日時に参加者が一定人数(4人程度)集まれば、ゴルフ場に現地集合・現地解散でプレーできる。

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GDOの1人予約サービスの仕組み

つまり「ひとりゴルフ」とは、より正確に言えば「ひとりで気軽に、ゴルフ場の予約ができるサービス」ということになる。こうしたサービスはGDOだけでなく、楽天のゴルフサービスサイト「楽天GORA」なども展開している。

ただ、ゴルフというと「紳士のスポーツ」「大人の社交場」といったイメージもあり、初対面の人とコースを回るのは緊張してしまいそうな気もする。実際にサービスを利用している人はどう思っているのだろうか。実際に話を聞いてみた。

■「煩わしさが一切ないのが魅力」

Kei Yoshikawa
ゴルフ歴2年の竹田さん(仮名)。1年半ほど前から利用している1人予約ゴルフの魅力が教えてくれた。

「初めて予約をした時は、さすがに緊張しました(笑)」

そう語るのはゴルフ歴2年の竹田香織さん(仮名)だ。1年半ほど前から利用している1人予約ゴルフの魅力について、こう語る。

「ゴルフって、たしかに友達同士で行くのも楽しいんです。でも、どこのゴルフ場にしようか、日程はどうしようか、何時からにしようか、車は誰が運転しようかとか、色々と決めることが多いんです」

せっかく日程を決めて準備しても、社会人であれば急な仕事が入ることもある。そうなると、予定が流れて結局ゴルフにいけない。キャンセル料もかかる。そんなことが相次ぎ、竹田さんは「自分だけでもゴルフに行ければ」という思いが強くなったという。

そんな時に竹田さんが出会ったのが、1人でもゴルフ場の予約ができるサイトだった。

「突然ゴルフに行きたくなっても、気軽にネットで申し込める。知らない人同士のマッチングになりますけど、みんなゴルフをしたくて集まっている人なので会話には困らないですよ」

言うなれば、共通の趣味の人があつまる「オフ会」のような雰囲気で、気まずくなることはないという。

Kei Yoshikawa
「初対面でも、ゴルフ好き同士で話に困ることはありません」という。

「一番初めは緊張しましたが、今では知らない人同士のほうが、マイペースになれると思っています。変に気を遣わなくて良いので、自分のゴルフに集中できるんです。会社の接待と違って、どんな時にも『ナイスショット!』って言う必要もありませんし(笑)」

■「ひとりゴルフなら、毎週土・日で月8回も行ける」

Kei Yoshikawa
稲垣さんは「普段会えない人と会えるというのも魅力」と語る。

「私はとにかく沢山ゴルフがしたいタイプなんです。でも、仲間を集めるとなると、行けてせいぜい月2〜3回。でも、ひとりなら、毎週土・日で月8回も行けます」

そう語るのは、ゴルフ歴3年の稲垣有子さん(59)だ。稲垣さんが1人予約でゴルフをするようになったのは1年ほど前。その魅力について、稲垣さんはこう語る。

「一緒にコースを回る人も、赤の他人でも同じゴルフ好きですからね。自然と話題は広がります。しがらみもなく、毎回いろいろな職業の人と話せるのも面白いです。たとえば戦闘機の整備をやっていた元自衛官の人。他にも警察官、歯医者さんもいましたね。普段会えない人と会えるというのも魅力です

予約サイトでは自分のプロフィールを入力でき、ゴルフのスコアも10刻みで申告できる。レベルも「エンジョイ」「セミアスリート」「アスリート」と本気度を申告できるので、「楽しくラウンドしたい」という人と「本気でやりたい」という人がかち合うこともないという。急な仕事が入ったときなどにもキャンセルが効くのは嬉しい。

■「ひとりゴルフ」需要の増加、背景はバブル崩壊?

バリューゴルフ
「バリューゴルフ」平成30年1月期 第2四半期決算説明資料

1人ゴルフ予約サービス「1人予約ランド」を展開するバリューゴルフによると、1人予約を受け入れるゴルフ場は年々増えており、現在は813コースにのぼる。これは3年前の約1.7倍だ。サービス登録者数も38.3万人と増加を続けている。

なぜ、1人予約ゴルフの需要が高まっているのか。その背景には、日本経済とゴルフ業界の趨勢が関係しているようだ。

GDOシニア・コンサルタントの江ヶ崎忠晴さんはこう語る。

「1980年代、バブル経済の絶頂期には各地でゴルフ場の新設ラッシュを迎えました。会員権の高額なやり取りもあり、4億〜5億もの値段がついた名門コースもあると聞いています」

「ゴルフ場を作るのには100億円程度かかるのですが、建設費を捻出するための"錬金術"として会員権が売り出されました。1989年(平成元)年あたりが会員権相場のピークでしたね」

時事通信社
ゴルフを楽しむ田中角栄首相(東京・小平市の小金井カントリークラブ) 撮影日:1972年09月24日

江ヶ崎さんは「本当に、おかしな時代でしたよ」と笑いつつ、バブル期のゴルフ業界を振り返る。

「バブルの頃は、ゴルフ場も会員権を持っていないと利用できなかったんです。会社の接待需要もたくさんありました。当時、ゴルフ場で最も必要とされていた人材は『予約の電話を上手に断れる人』だったと言われるぐらいです」

「わざとプレー料金を高くしているゴルフ場もありました。というのも、当時のゴルフは接待ゴルフが主流。接待された人に『私は高いゴルフコースで接待されたんだぞ」という自尊心を満足させるためでもありました」

ところがそんな状況も、1990年代前半にバブル経済が崩壊すると一変する。ゴルフ会員権の相場が暴落し、資本的な体力を失っていったゴルフ場の中には倒産するところも相次いだ。

時事通信社
肩を落とす証券マン(東京都兜町の東京証券取引所) 撮影日:1990年03月22日

GDO事業推進部のマネージャー野中隆伸さんはこう語る。

「時代の流れと、ゴルフ場の建設には時間差があります。ゴルフ場の数がピークを迎えた時に、日本の景気は右肩下がりになり、一気に需給バランスが崩れました」

「ピーク時、日本のゴルフ場は2400コースほどありましたが、今後3〜4年で2000コースを割ると言われています」

バブル経済崩壊後から続く「失われた20年」とも呼ばれた景気の冷え込みで、ゴルフ業界にも冬の時代が訪れた。

日本生産性本部がまとめた「レジャー白書2016」によると、ピーク時には2兆円に届くといわれたゴルフ市場も2015年には9000億円を割った。「団塊の世代」が2015年に定年退職を迎えたことも影響しているという。

ゴルフ人口の減少も顕著だ。2016年にゴルフコースで年1回以上プレーしたことのある人(ゴルフ参加人口)は前年比210万人減の550万人。この1年間で27.6%減っており、ピーク時の3分の1になった。

一方で、ゴルフ場の入場者数はゴルフ人口ほど落ち込んではいない。2016年、1人あたりのゴルフ場平均利用回数は年間17.8回(前年は14.4回)、練習場は年間18.2回(前年は15.9回)。一人あたりのプレイ回数は増えていることになる。

野中さんはこう指摘する。

「バブルの頃に見られた、上司に無理やり連れて行かれたり、仕事の付き合いで嫌々やっていたりしたようなゴルフが終わり、自分が本当に楽しめるゴルフにシフトしている。だからこそ、ラウンド数がそこまで減っていない。本当にゴルフが好きな人が残り、1人予約を活用しているものと思われます」

■ゴルフ場も「1人予約」の掘り起こしに努力

USA Today Sports / Reuters

GDOがゴルフ場の1人予約サービスをスタートしたのは2011年。世界経済ではリーマン・ショックが落ち着いた頃だ。当時、1人予約を受けいれていたゴルフ場は、GDOが提携する約2000コース中わずか100コースほどだったという。

ところが、ここ数年で受け入れコースは増加。現在は約800コースが1人予約に対応している。「ゴルフを本当に楽しみたい」というゴルファーの需要に、冬の時代を迎えたゴルフ場が応えようと努力していることが伺える。

約3年前から1人予約を受け入れている「さいたま梨花カントリークラブ」(埼玉県比企郡)の秋元俊朗支配人はこう語る。

「ゴルフは仲間でやるものだという意識は昔からありましたが、ここ数年で『ひとりでも気軽に行けるんだ』という認知が広まったと思います。受け入れ開始当初と比べても、2倍弱は増えています」

「ユーザーさん自身も『仲間がいなくて人数が集まらないけど、ゴルフが好きだ』という人が多い。そんな人が1人予約を利用して、ゴルフを楽しんでいらっしゃいます。同じ趣味を持つ人同士ですから、初対面でも気まずくなることは少ないようですね」

同クラブでは1人予約の潜在ニーズの掘り起こし策にも力を入れる。誰でも参加できるオープンコンペを、月1回程度のペースで催している。その狙いについて。秋元さんはこう語る。

「ちょっと前までは『ひとりでゴルフに行くなんて寂しい人だな』と思われがちだったと思います。でも、誰でも参加できるオープンコンペだと、ひとりの方も参加しやすい。毎回、40〜50人ほどのゴルファーのみなさんが腕を競っています」

Kei Yoshikawa
さいたま梨花カントリークラブのロビーにある「硝子の塔」がシンボル。

今後もニーズにあわせて、ゴルフ場の1人予約枠を拡充することも検討しているという。秋元さんはこう語る。

「定年退職でゴルフをやらなくなったという人が、1人予約をきっかけにやり始めたという例もあります。楽しく明るく来場していただけるのは、私共としても大変嬉しいです」

「もし一人ゴルフに興味があれば、ほんの一歩、足を踏み出してみてください。新しい世界が広がりますよ。女性でも大丈夫ですし、スコアを気にしないでも楽しめます。ゴルフは本来、みんなで楽しくプレーするもの。1人予約のゴルフは、その理想に近い形かもしれません」


ハフポスト日本版は、自立した個人の生きかたを特集する企画『#だからひとりが好き』を始めました。

学校や職場などでみんなと一緒でなければいけないという同調圧力に悩んだり、過度にみんなとつながろうとして疲弊したり...。繋がることが奨励され、ひとりで過ごす人は「ぼっち」「非リア」などという言葉とともに、否定的なイメージで語られる風潮もあります。

企画ではみんなと過ごすことと同様に、ひとりで過ごす大切さ(と楽しさ)を伝えていきます。

読者との双方向コミュニケーションを通して「ひとりを肯定する社会」について、みなさんと一緒に考えていきたいと思います。

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