衆院選、党首たちのアピールネタと避けるネタを比較してみた

3極の争いを意識した舌戦に、それぞれの戦略が垣間見えた。
朝日新聞社

3極の戦略、アピールネタと避けるネタ 衆院選折り返し

衆院選の折り返しとなる「選挙サンデー」の15日、各党の党首たちが全国各地で街頭演説に立った。「自民党・公明党」「希望の党・日本維新の会」「立憲民主党・共産党・社民党」による3極の争いを意識した舌戦に、それぞれの戦略が垣間見えた。

■アベノミクスをアピール、「森友・加計」触れず

安倍晋三首相が欠かさず訴えるのは「国難突破解散」の理由に挙げた北朝鮮問題と少子高齢化への対応だ。

札幌市など6カ所で街頭演説に立った15日も、北朝鮮による核・ミサイル開発に触れ、「脅しに屈してはならない」と強調。国際社会と連携して圧力を高める必要性を訴えた。

選挙戦序盤と比べ、拉致問題への言及を増やしているのが特徴だ。9月の日米首脳会談でトランプ米大統領の来日時に拉致被害者家族と面会することを要請し、「米国も解決に全力で取り組む」との約束を取り付けたとアピールする。

少子高齢化対策として掲げたのは、幼児教育無償化を含む「全世代型社会保障」の実現。「子育て世代に思い切って投資していく決断をした」と消費税の使途変更に理解を求めた。

安倍政権の実績とアピールを強めるのはアベノミクス。「民主党政権時代、GDP(国内総生産)は493兆円。私たちは『3本の矢』の政策で挑み、過去最高の543兆円になった」と強調。「正しい政策を進めれば、人口減少しても成長できる」と声を張る。

公示日にもアベノミクスに言及した首相だが、13日に日経平均株価が21年ぶりに2万1000円を超えたことも取り上げるようになった。「恩恵は富裕層や都市部だけ」との批判を意識してか、15日には「大切な年金は株式市場で運用している。その結果、年金資産は46兆円増え、確かなものとなった」と株高の効用を訴えた。

政権復帰を果たした2012年衆院選を含む直近4回の国政選挙は、いずれも経済政策を前面に訴えて大勝した。今回も必勝パターンを踏襲する「安全運転」を選択したと言える。

一方、解散から15日まで計40回の街頭演説で、首相が語らないテーマがある。

野党から繰り返し説明を求められた「森友・加計問題」については、街頭演説では一度も説明していない。9日のTBS番組の党首討論では、「私は十分説明している。街頭演説で説明するというよりも国会で問われれば説明したい」と述べた。

自民党公約の柱に据えた自衛隊明記を含む改憲についても、賛否が分かれることを意識してか、街頭ではほとんど言及していない。

報道各社の情勢調査では自民に勢いがある。首相に批判的な自民前職からは「これで首相は自分の路線が間違っていないと受け止める」との声も漏れる。(北見英城)

■強める安倍政権批判、憲法改正・安保は少なめ

「自民党は既得権益死守ファースト。国民ファーストの政策を実現したい」。希望の党の小池百合子代表は報道各社の情勢調査で自民堅調が伝えられるなか、政権批判を日に日に強める。

前面に押し出すのは、森友・加計学園問題だ。苦戦が伝えられる本拠地・東京で11カ所の街頭に立った15日も、「隠そう、隠そうという政府。資料がない、破棄した(では)政治への不信が募るばかりだ」と指摘した。

首相が成果を誇るアベノミクスへの批判のトーンも強めている。「安倍総理はGDPが50兆円増え、アベノミクスの成果だというけど、うそ。今の『1強安倍政治』に任せておくと、日本そのものがゆでガエルになってしまう」

この日は多くの女性候補を立てて圧勝した7月の都議選の熱気を呼び覚まそうと、都民ファーストの会の都議らと演説に臨んだ。強調したのは、「女性活躍」に関する主張。主要政党でただ一人の女性党首として、「(希望は)女性候補を20%擁立した。自民党は8%」と違いを強調した。

一方で、「憲法9条を含め改正論議を進める」と公約に記した憲法改正や民進合流組への「踏み絵」にした安全保障問題について触れる場面は少ない。「自民党の補完勢力」(共産・志位和夫委員長)との批判や党内の意見のズレを意識しているとみられる。公約の柱の一つの「原発ゼロ」も「2030年には原発ゼロに持って行きたい」と触れる程度だ。(石井潤一郎)

■「草の根からの民主主義」強調、「ステルス作戦」も

立憲民主党の枝野幸男代表が強調するのは、「草の根からの民主主義」だ。「国会の中で筋を通し、安倍政権の暴走に対して戦い続ける勢力として一定の影響力を持たせて欲しい」。15日は愛知、京都、大阪、兵庫の計9カ所で訴えた。

公示直後から、安保関連法を強行した安倍政権の政権運営や経済政策を「国民を上から統治する政治」と一貫して批判。「草の根からの民主主義が、日本の21世紀の民主主義だ」と転換を呼びかける。

結党宣言から2週間ながら、希望の党に安保法の反対派が排除された結党の経緯を逆手に取り、「立憲民主党は国民の皆さんが背中を押したからできあがった政党だ」と訴える。街頭では「枝野コール」が起こり、12日夜に公式サイトで受け付け始めた個人献金も1日半で1700万円以上を集めたという。

共産党との協力に否定的な連合に配慮し、候補者を一本化しても共産幹部とはできるだけ街頭で並ばない「ステルス作戦」(党幹部)を進める。一方で、14日からは保守論客の漫画家、小林よしのり氏らを応援弁士に招き、保守票の取り込みも狙う。小林氏は15日も「安倍政権の暴走を止められる政治家が必要だ。立憲民主党は筋が通っている」と訴えた。(南彰)

(朝日新聞デジタル 2017年10月16日 00時12分)
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