「政治家も女装を体験した方がいい」 メイクを体験した男性が語る

「自分にも、女性にも優しくなれた」
半分だけ女装した樽井寿夫さん
半分だけ女装した樽井寿夫さん
Hisao Tarui/Twitter

ハフポスト日本版は、男性にメイクや女装を体験してもらう「女装紳士」(大阪市)を経営するIMAさん(27)と、客の男性にインタビューし、メイクの意味について考えてきた。このテーマを掘り下げるため、さらにもう一人、女装紳士を訪れたことがある男性に話を聞いた。「メイクはあなたをどう変えましたか?」

◾️香川県の会社員、樽井寿夫さん(43)

―女装紳士に来られたきっかけを教えてください。

はじめて来たのは今年の8月4日です。次の日が自分の誕生日で、42歳のうちに女装を体験しようっていう目標を立てていたのでギリギリ駆け込んだ形になりました。

きっかけは1年前にさかのぼります。当時、体調も悪くて、「自分も人生半分まできたな。あといくつまで生きられるんやろう」と思ったんです。

5年前に離婚したんですけど、離婚したくてしたわけではなかったので、なかなか立ち直れなかったんです。子どもたちとも離れて1人ぼっち。生きる目標を失っていました。

人生について考えるうちに、「俺、もし女だったらどんなんやろ」って思ったんです。

子どもの頃、二つ上の姉に連れられてよく女の子たちと遊んでいて。大人になってからも、周りからは「お前、優しすぎる。女っぽい」とか言われて。そんなことがあったので、自分が女性だったらどんな感じなんやろうと興味がわいてきて、インターネットで「女装」と検索しました。それで女装紳士を見つけました。

でも、いざ予約しようとすると、やっぱり躊躇があってなかなかできなかった。周りの人には「2016年中の目標です」なんて言ってましたけど、太り気味だったので、ダイエットしてからとか思っているうちに忘れてしまって。で、今年になって「42歳のうちにやろう」と決心して、ついに予約を入れました。

―実際に行ってみて、いかがでしたか。

当日は有給を取りました。予約の2時間前に大阪に着いて、最初はご飯食べて、街をぶらぶらしようと思ってたんですけど、なんか緊張してきて、それどころじゃなくなって。バスターミナルのトイレにこもって「どうしよう、どうしよう。ああ、一体俺何やってんやろ」ってなって。結局、店に行ったのは時間ギリギリでした(笑)

女装紳士のホームページで、IMAさんが現代画家の経歴があるって紹介されていて。なんか、遠い存在というか、シリアスな方なんやと思っていたら、ドアを開けたら小柄で明るくて、かわいらしい人が飛び出てきて(笑)。それがIMAさんやったんですけど、安心したというか、拍子抜けしたというか。

「どんな感じにしますか?かわいい感じ、それともきれいな感じ?」。IMAさんからそう聞かれたんですけど、40すぎのおっさんなんで、「かわいくなりますか?」って逆に聞き返したりして。「年齢相応で、でできるだけかわいく」ってことになりました。

メイクが終わると、ショートボブのウィッグ(かつら)をかぶり、ワンピースを着ました。そして鏡を見ました。第一印象は「げっ」ですよ。一瞬固まりました。気持ち悪くて。それは、メイクが似合ってなかった、ということではないんです。

鏡なんで当然、自分の姿が映ると思うやないですか。ところが、目の前に現れたのは女性。目をパチパチしたら、鏡の中の女性もパチパチ(笑)。「これ、俺やん!」て(笑)。映ってるのは自分なのに自分に見えないという、その奇妙な感覚が気持ち悪かったんですね。でも、そのうち気持ちが落ち着いてきて、じっと見ていると「かわいいんちゃうん」て(笑)。

自身の女装した写真を紹介した樽井さんのツイート

―メイクや女装を体験して人生観が変わったというお客さんも多いようです。何か変化はありましたか。

まず、自分に対して優しくなれたんですよ。それまでの俺は、離婚などをめぐって自分自身を責めて苦しんできました。自分が嫌いでした。

でも、女装を体験した日、香川に帰る高速バスの中で、ぼんやり自分の女装姿の写真を見てるうち、写真の自分に励まされたように思えたんです。「報われんかったけど、お前は頑張ったよな。辛い目したよな。でも俺はわかってるぞ」って。思わず涙があふれてきました。

自分をようやく認めてあげられたという感じで、これで俺は変われる、これから精一杯生きなあかんと思えたんです。

ちょうどそのとき、離婚以来、ずっと音信不通だった一番上の娘からメールが入ったんです。「お父さん、明日誕生日やね。会いたい」って書いてありました。

うれしかったんですけど、すぐに返事できなくて。でも次の日になって、「ありがとう。うれしいな」と返信しました。そしたら、今度は「お父さんに昔、ひどいことしたよね。ごめんね」って返事があって。胸が詰まってしまいました。

娘に謝らせてしまったことが親として申し訳なくて。自分も意地張ってる場合ちゃうなと思い直して、お盆に会いました。

自分を肯定できるようにもなりましたね。離婚してどん底の時には、おかんに「俺、生まれてこなければよかった」と言ったこともあります。でも、最近になってようやく、「俺今は1人やけど、人生楽しいよ」と言えるようになりました。

女性に対する考えも変わりました。メイクと女装を体験したことで、男としてのプレッシャーとかしがらみから解放された気分でした。でも、しばらくすると、女性ってそもそも大変なんやって気づくようになったんです。

例えば、夜のスーパーで、仕事帰りに小さい子どもを連れて食材を買っている女性たちが目につくようになったんです。男と同じように働いてきた上に、今からご飯作って、子どもの世話もする。さらにメイクも落とすんやと。すごいと思いましたね。

それまでは「男は家の大黒柱として稼いでいる。家族養ってる」っていう意識が強かったんです。それでちょっと子どもと遊んだくらいで、子育てやってるみたいな満足したりして。

でも女性は、男性と変わらないぐらい稼ぐし、子育てもする。こりゃ、男女が一度入れ替わって初めて対等やなと思いますね。全然、男性の方が楽してますよ。

だから、離婚した前の妻に対しても、今となっては「俺自身に全てを受け止める器がなかったんかな」と思うようになりました。結婚しているときはどこか自分の中に「俺は夜勤もして頑張ってる。それなのにお前は...」みたいな感覚があったんやと思います。仕事を言い訳にして、逃げとる部分があったと思います。

―大人の女性にとって「メイクはマナー」と考える人もいるようです。これについてどう思いますか。

本来楽しいはずのメイクが、暗黙のルールで「せなあかん」みたいになっていたらめちゃめちゃ負担ですよ。会社がマナーだって言ったって、じゃあメイク代出してくれるわけでもないでしょう。

そもそも女性がどんだけ生きづらい社会なんですかね。女性は人生で色々と環境が変わるでしょ。結婚すれば苗字が変わり、夫の家族に気を使わなあかん。

結婚や出産でキャリアが寸断され、大学卒業してんのに、復帰したら働き口がパートしかないとか。女性の力を無駄にしている社会ですよ。政治家たちも女性活躍って言うんなら、いっぺん女装を体験した方がいいと思いますね。

それとね、遊び半分で女装するのも正直腹立つんです。よくテレビでやるやないですか。男が女装して「ビフォー・アフター」みたいなやつ。で、ほかの出演者とかが「女の子よりかわいいですね」とか言ったり。かわいいとか美しいとかいうものすら女性から奪うんか、っていう感じで。

―メイクとは一体なんでしょうか。

自己表現であり、ファッションの一つだと思います。服や帽子、眼鏡で気分が楽しくなることがあるのと同じですよ。

それに誰だって自分に100%自信を持っている人って絶対いないでしょう。メイクで前向きになれることもあると思うんですよ。とにかく、自分のことを好きになれるってことが大事だと思います。

実は、9月に2回目の女装体験をして来たんです。今回は顔の半分だけメイクしてもらいました。男の自分と女の自分とを同時に写真に撮ってもらおうと思って。

自分を元気づけるためだけでなく、女性に対する理解を深めるためにも、誕生日とかの節目で女装をまた体験したいと思っています。

半分だけ女装した写真を紹介する樽井さんのツイート

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