あの人のことば

「地球温暖化は嘘っぱち」と叫ぶトランプ大統領の誕生に、アル・ゴア氏は何を思うのか

『不都合な真実』から10年、ゴア元副大統領がハフポストのインタビューに胸中を語った。

2017年11月15日 07時25分 JST | 更新 2017年11月15日 13時07分 JST
HuffPost Japan
来日したアル・ゴア氏

溶けゆく北極の氷、巨大化する嵐、大量の水が街を襲う洪水――。地球温暖化の深刻さを、元アメリカ副大統領のアル・ゴア氏が無数のデータをもとに訴えた映画『不都合な真実』から10年以上が経った。

この10年間、アメリカでは政権が代わるたびに、地球温暖化対策に積極的な時期と消極的な時期が交互に訪れ、世界を振り回してきた。そして今は「地球温暖化は嘘っぱちだ」と公言するドナルド・トランプ氏が大統領だ。

11月17日、ゴア氏の映画2作目『不都合な真実2:放置された地球』が日本で封切られる。来日したゴア氏はハフポスト日本版の単独取材に対し、「ドナルド・トランプ個人と、アメリカ国民には温度差がある」と述べ、トランプ政権下にあっても温暖化をストップしようとする動きは確実に広がっているとした。

■10年越しの訴え

Joe Traver / Reuters
ゴア氏はクリントン政権(1993年-2001年)で副大統領を務め、2000年の大統領選に出馬。得票数では勝りながらも、ジョージ・ブッシュ氏に敗れた。「国民の団結と民主主義の強さを守るため身を引きます」。それが敗北宣言の言葉だった。

アル・ゴア氏は下院議員、上院議員、副大統領を経て、2000年の大統領選に立候補したが、ジョージ・ブッシュ氏に敗れた。副大統領だったころに温室効果ガス削減を初めて義務づけた「京都議定書」をリードしたこともあり、その後は、地球温暖化問題の啓発に力を入れるようになった。

災いを引き起こすのは、「知らないこと」ではない。「知らないのに知っていると思いこんでいること」である。

2006年に公開され、ゴア氏が出演したドキュメンタリー映画『不都合な真実』では、詩人マーク・トウェインの言葉が引用された。『不都合な真実』によって、地球温暖化に対する一般の人々の意識を変えたとされ、ゴア氏はノーベル平和賞を受賞した。

ただ、公開当初から「地球温暖化は科学的に証明されていない」「自然エネルーはコストがかかりすぎて非現実的だ」などとして、ゴア氏を批判する声も多かった。『不都合な真実2』も、ゴア氏に寄せられた批判を紹介するシーンから始まる。

​​​​​​ゴア氏はインタビュー中、この10年を振り返り、こう語った。

Yuriko Nakao / Reuters
2006年公開の「不都合な真実」。CO2の増加を放置すると海面が上昇し、多くの人が家を失うなどといった衝撃的な内容が反響を呼び、世界中で大ヒット。同名の著書もベストセラーとなった。2007. REUTERS/Yuriko Nakao (JAPAN)

「アメリカにおける私への批判は、ここ日本より大きかったかもしれません。しかし、この10年の間に、地球環境をめぐる2つの大きな変化がありました」

「一つは、気候が関係している異常気象は、明らかにその破壊力がますます大きくなり、発生頻度もますます増えています。気候危機がもたらす結果は、10年前に科学者が予測し私たちに警告した時よりもさらに悪いものになっています」

「二つ目は良い変化です。今は、地球温暖化への解決策があるのです」

ゴア氏が語る解決策とは「再生可能エネルギー」だ。近年、天然ガスや太陽光、風力エネルギーは低価格化が進んでおり、普及への期待がもてるそうだ。

(C) 2017 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
『不都合な真実2:放置された地球』より

「10年前、(再生可能エネルギーは)地平線の彼方に見えていましたが、今は目の前にあるのです。手の届く費用ですし、コストも日々減り続けています。気候危機の早期解決に乗り出すのに必要なツールを私たちは持っています」

「希望があります。私自身、とても楽観的です。私たちは気候危機を回避しているところです。この戦いに、私たちは勝利するでしょう。しかし、勝利の広がりに十分な速さがありません。さらに勢いを増す必要があります」

■世界の理解は進んでいる――パリでの「手応え」

(C) 2017 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
COP21の会場でカナダのトルドー首相と握手を交わすアル・ゴア氏(『不都合な真実2:放置された地球』より)

再生エネルギーへの希望を語り、「勝利する」とまで言い切るゴア氏。その自信の根拠には、パリで世界各国のリーダーと議論した「手応え」があるのかもしれない。

オバマ大統領が2期目だった2015年12月、21世紀後半に温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目指す世界的な枠組み「パリ協定」が採択された。オバマ大統領もサインをして、世界は一つにまとまった。

実はゴア氏も2015年12月、国連気候変動会議(COP21)が「パリ協定」を採択した現場にいた。

「COP21が始まるちょうど2週間前、パリでは痛ましいテロ攻撃がありました。その2週間後、パリに集まった世界のリーダーたちの考えに、この事件が影響を及ぼしていました。この出来事が、合意を結ぶパリでのチャンスを、より大きな目的意識を持ってより真剣に考えるきっかけになったと私は考えています」

もちろん、パリ協定は一筋縄では採択できなかった。中国やインドのような発展途上国からは、「先進国は化石燃料を使って発展してきた。発展途上の我々に化石燃料を使わないように迫るのはズルい」という声もあった。

(C) 2017 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
『不都合な真実2:放置された地球』より

こうした声に対し、ゴア氏はこんなふうに向き合った。

「確かに、彼らの言い分はわかる。だけど、もし150年前、仮にアメリカと日本が、環境汚染を回避してくれるクリーンな再生可能エネルギーを利用することができたとしたら、私たちはそちらを選択していたでしょう」

「彼らには今、その選択肢があります。しかし、豊かな国が手助けをして、そういった国々が新しい技術を導入していくことが重要です」

「不都合な真実2」でも、パリ協定の交渉に難色を示すインド代表に対し、ゴア氏がアメリカの太陽光発電企業の発電技術をインドへ無償提供を提案するシーンがある。

さらにゴア氏は語る。

「彼ら自身も、国民からの政治的プレッシャーに直面しています。なぜなら、インドや中国といった国では、国民の大気汚染への不安が高まっているからです」

「中国の平均寿命は大気汚染が原因で5.5歳も短くなりました。ですから、汚い化石燃料からクリーンでより安い再生可能エネルギーへと変える理由はいくつもあるのです」

■トランプ大統領のせいでアメリカは「逆戻り」?

Joshua Roberts / Reuters
2017年6月の演説で、トランプ大統領は「パリ協定」からの離脱を宣言した。 REUTERS/Joshua Roberts

ところが、こうした温暖化対策への機運がまたしても頓挫する。

「地球温暖化は嘘っぱちだ」と公言するドナルド・トランプ氏が、アメリカ大統領に選ばれたことだ。トランプ大統領は、2017年6月にパリ協定離脱を表明した。

ゴア氏は当初、トランプ氏に追従してパリ協定を離脱する国が出ることを心配したという。

「彼は非常に不人気な大統領になってきていますが、彼を強く支援する小さな基盤がまだあります。パリ協定から離脱する意図を表明する演説をした時、これを理由に他の国も離脱するのではないかと心配しました」

ただ、ゴア氏の心配は杞憂に終わった。今のところ先進国や中国やインドを含む多くの国がパリ協定の支持を表明。再交渉も否定している。

「トランプ氏がパリ協定離脱を表明した次の日、世界の他の国々が『私たちはパリ協定を守る』と明言しました。私は本当に嬉しかった。そして、カリフォルニア州、ニューヨーク州、その他何百もの都市や多くの州、何千もの企業が『パリ協定を守ります』と口を揃えて言いました」

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(左から)Facebookのマーク・ザッカーバーグ氏、アップルのティム・クック氏、テスラのイーロン・マスク氏。アメリカの名だたる企業の経営者らがパリ協定離脱を表明したトランプ氏を批判した。

「今、アメリカには新しいハッシュタグがあります。#wegotthis(We got this.=『我々は達成した』)です。アメリカはパリ協定を遵守し、さらにはそれを超える勢いです。そもそもアメリカが法的にパリ協定を離脱できるのは、2020年の大統領選の翌日なんですよ(笑)」

「ドナルド・トランプ個人と、アメリカという国・アメリカ国民の間には温度差があります。アメリカはまだパリ協定の中にいて、約束を守り、それをさらに超えようとしています。そしていま、トランプ大統領は孤立し、(パリ協定に)ダメージを与える能力は抑えられています」

■超大型ハリケーンの「訴え」

Richard Carson / Reuters
超大型ハリケーン「ハービー」によって、テキサス州ヒューストンの街は洪水被害に見舞われた。 August 27, 2017. REUTERS/Richard Carson

2017年、アメリカは大きな自然災害に見舞われた。超大型のハリケーン「ハービー」がテキサス州を襲い、大規模な山火事がカリフォルニア州で起こった。ゴア氏はこうした自然現象こそが、地球温暖化の議論において「私以上に『訴える力』を持っている、新しい参加者だ」と表現する。

「ハリケーン『ハービー』よって、テキサス州ヒューストンでは150cmの雨が降りました。これは2万5000年に一度の出来事でした。その直後、ハリケーン『イルマ』と『マリア』も来ました。数週間の内にやってきた3つのハリケーンの被害額は約3500億ドル(約39兆円)にのぼるとみられています」

「そして、カリフォルニア州史上最悪の山火事もありました。同じころ南アジアでは豪雨でその10倍の死者がでました。バングラデシュの1/3は水に浸かりました。それと同じ週には、ナイジェリアでも洪水が起こり、10万戸が被害に遭いました。最近でも、2つの台風(21号、22号)が日本を襲いましたね」

Patrick Fallon / Reuters
10月にカリフォルニア州で発生した大規模な山火事。焼失面積は880平方キロメートルを超えた。これは東京23区の面積(およそ619平方キロメートル)を上回る規模だ。

「世界中でこうした出来事が、今までよりもっと頻繁に起こっています。すると、地球温暖化という言葉を使いたがらない人々も、『ちょっと待って。何かとても危険なことが地球で起こっている』と、言い始めました。言い方はどうであろうと、問題に対応するために、私たちは何かを変えていかなければならないのです」

世界は、10年前にゴア氏が警告したような環境に近づいているかのように見える。一方で、アメリカでは「アル・ゴアからノーベル平和賞を取り上げろ」と主張するトランプ氏が大統領になった。ゴア氏の主張に対しても、ネットなどでは「デマ」だという声が根強く出ている。

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来日したアル・ゴア氏

インタビューの最後、ゴア氏はこう語った。

「私たちには落ち込んでいる時間はありません。私たちにはやるべきことがあるのです。私にとっては、注いだ全エネルギーが活かされる仕事があることは光栄なことなのです。そして、解決策を見出した時に感じた希望が、私にやり続ける力を与えてくれるのです」