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「どんな親でも必要なのは愛」 塩崎恭久氏が語る里親と特別養子縁組のこれから

“子どもの権利“の法制化に努力した元厚労相

2017年11月21日 11時29分 JST | 更新 2017年11月21日 11時52分 JST
satoko yasuda / Huffpost Japan

さまざまな事情で、生みの親の元で暮らせない赤ちゃんや子どもは約4万人もいる。その受け入れ先の多くが施設。家庭で育てる里親・特別養子縁組は、なかなか浸透していない。

ところがここ数年、そんな状況に変化の兆しが。2016年5月に児童福祉法が改正され、すべての子どもを「家庭」で育てる原則が盛り込まれた。今年8月には、里親の委託率75%以上という目標を掲げた「新しい社会的養育ビジョン」も打ち出された。

当時、厚生労働大臣だった塩崎恭久氏は、今回の政策転換の立役者のひとり。何が原動力となったのか。親と暮らせず、つらい思いをする子どもを、どうすれば減らしていけるのか。塩崎氏に聞いた。

satoko yasuda/Huffpost Japan

■ひとりで勉強会を続けてきた。

––児童養護政策の大転換をされました。原動力となったできごとや、ご自身が里親や養子縁組に取り組むきっかけとなった経験は何だったのでしょうか。

私の地元の愛媛県、宇和島市にみどり寮という児童養護施設があります。そこの谷松豊繁さんという方が全国児童養護施設協議会の会長だった際に「児童養護のことを勉強してほしい。『NAIS』グループ(根本匠、安倍晋三、石原伸晃、塩崎恭久4氏の政策研究会)でやってくれないか」と言われ、私の声掛けで勉強会を始めました。

ところがその後、他の3人は大臣などになって忙しくなったので、私がひとりで、自民党内で関心がありそうな人を選んで勉強会を続けてきました。全国の児童養護施設をまわり、子どもたちと一緒に夕ご飯を食べたり遊んだりしてね。そういうことの積み重ねかな。

やっぱり、愛着形成の大事な時期に施設に入りっぱなしというのは、子どもにとってどうなのかと。母親のにおいとか、母親じゃなくても親代わりの人のにおいとか、そういう本能的な部分は0歳の赤ちゃんには特に必要だと感じました。

––アメリカに留学された経験から、血がつながらない子を育てる「養子縁組」や里親という考え方にあまり抵抗がなかったという側面もありますか。

そうですね。ハーバード(大学院)で勉強していた時に、アメリカ人と日本人のカップルの友人がいました。10年ほど前に渡米した時、引っ越し先に遊びに行くと小さな赤ちゃんを抱いていた。ベトナムから養子を迎えたと、2人ともすごく嬉しそうでしたね。

もう一つ、長男が1年間コロラド州に留学したのですが、ホームステイ先のホストファミリーは過去にもいろいろな人たちを預かっていました。ご主人は日本で言えば大きな企業の普通のサラリーマンでしたが、アメリカでは、ホスト役として他人を家庭に迎えることが当たり前なだったんですね。

                

時事通信社提供
参議院本会議で改正児童福祉法が可決、成立し、一礼する塩崎恭久厚生労働相(左手前)=2016年5月27日、東京・国会内

––児童福祉法を改正して、子どもの権利や家庭養育優先の原則を法律に書き込む必要があると思われたのには、どんな理由があったのでしょうか。

法律に書かないと、実態は変わらないという強い思いがありました。そもそも、親の権利は民法に書いてあるけども、子どもの権利は日本の法律のどこにもありませんでした。

このため、(児童虐待事案などで)児童相談所の立場はどうしても弱くなります。子どもを親から引き離さないとならなくても、「親の権利」が立ちはだかり、一歩を踏み込むことができずに悔しい思いをしている。犠牲になるのは子どもたちです。1日1日が失われていきます。

(虐待などのケースで)実際に家庭に踏み込んで子どもを親から引き離す苦労を聞くと、やはり法律で子どもの権利を書き、家庭養育優先の原則も明確にする必要性を感じました。

––自民党では「家族は血で繋がっているもの」といった伝統的な家族観が強いという印象がありますが、そうした児童養護政策の転換に対して反発や批判はなかったのでしょうか。

(厚労大臣を務めていて)党内にいなかったのでわかりません(笑)。児童相談所や施設の人からの反発はありました。おそらく(急な変化に対する)心配が大きかったのでしょうね。

satoko yasuda/Huffpost Japan

■里親制度「一番身近な市町村も関わるべき」

––たしかに「数値目標が厳しすぎる」「数字を追うことで子どもの最善の利益が置き去りにならないか」といった意見が出ていましたよね。

ですが、改正児童福祉法で、すでに「就学前の乳幼児期は養子縁組や里親、ファミリーホーム(※1)への委託を原則とする」と定めているのです。これを数値化したのが75%(※2)。正直言うと、「原則」なのに75%では甘すぎるぐらい。

改正法に基づいて決めたのが今回の「新しい社会的養育ビジョン」なのだから、これを否定されると法律自体を否定することになってしまう。むしろ、みんなで知恵を持ち寄って汗もかいて、どうやって実現するのかを考えてほしい。

都道府県や政令市、一部の中核市は児童相談所があるので里親の委託に取り組んできましたが、子どもや家庭にとって一番身近な自治体は市町村。市町村がもっと主体的に児童養護に関わるよう、考え方を変えないといけません。

※1 生みの親と暮らせない子どもを家庭に迎え入れて育てる制度。里親との違いは、親に当たる養育者が3人以上必要で、5〜6人の子どもを育てる点。

※2「新しい社会的養育ビジョン」で、3歳未満の児童は概ね5年以内、それ以外の就学前の子どもについては概ね7年以内に里親委託率75%以上を実現することや、特別養子縁組の成立件数を現状の約2倍となる年間1000件以上にする目標が盛り込まれた。

––この高い目標を、今後どのように実現していくのでしょうか。

高い、高いというけれど、例えば3歳児未満は5年以内、6歳未満が7年以内に75%を実現するということは、120万人の自治体で毎年新たな里親が9人必要になる計算になりますよね。

私の地元・愛媛は人口140万人なので、約10人必要。(マッチングがうまくいかずに)成立しないケースもあるだろうから、倍の数が必要だとしても20人。県内に児童相談所はいま3つしかないですが、中核市の松山市もやるべきだと思うので、そうすれば4つ。一つの児相で年5人を新たに探してくればいいわけです。

––できない目標ではない?

そのとおりです。東京23区も児童相談所を作れるようになり、自分たちでやろうとしています。例えば人口約90万人の世田谷区なら新たに必要な里親は7人。突拍子もない数ではない。むしろこれまで里親(の開拓)をあまりやってこなかった児童相談所が多いんですよ。

––中には里親と里子で相性がよくない場合もあると思います。委託を進めるには里親の数を増やさないとなりませんが、どのように質を担保するのでしょうか。

3月に一部改正した「里親委託ガイドライン」を出しましたが、実態は、児童相談所によって取り組みに非常にばらつきがある。影響力のある里親がいると、その人のやり方が正しい、ということになっている地域もある。

なるべく専門的な人を中心に運営される児相にしないとダメだと思うのだけれど、子どもを里親に委託するかどうかを決断する時の判断基準も、児相ごとにばらばらだという課題も明らかになりました。

ガイドラインを徹底させ、里親のあり方をきちんと定義しないと、必ずしも望ましい形ではない里親も出てくるかもしれません。

今までの児童相談所だけを対象にした研修も、市町村の支援に関わる人たちも含めて統一的にやったほうがいいと思います。

satoko yasuda/Huffpost Japan

■里親や特別養子縁組、ファミリーホーム。どれもやりやすく

––家庭養護である里親や特別養子縁組、ファミリーホームは、それぞれどのように共存していったらいいのでしょうか。

ケースバイケースですが、継続的に安定した家庭環境で育てる「パーマネンシー(法的安定性)」をもっとも確保できるのは特別養子縁組でしょう。

ただ子どもが置かれた環境・状況はさまざまで、そう簡単ではない。どの順番でやるかということより、どの手法でもやりやすくしていかないといけません。

––現在の乳児院や養護施設の数を減らしていくお考えでしょうか。

以前、イギリスの家庭養育改革の立役者であるロジャー・シングルトン卿と話した時に彼が言っていたのは、イギリスも20〜30年前は施設中心だったのが、哲学を転換したということです。施設の人たちが失業して路頭に迷うのではないかと大騒ぎになったそうですが、彼は、それは違うと。

難しい環境に置かれた子どもたちの問題や、どう対応すべきかについて、いちばん詳しいのは施設で働く人たちです。さらに研修を重ねて、難しいケースを一施設だけでなく、地域で支援する(際の中核になる)という、新たな役割や枠組みを施設は担っていくべきだと彼は言っていました。

つまり、一つの施設の中で子どもたちを支援するだけでなく、特別養子縁組でうまくいかないことがあった時に地域でどう対処するとか、里親期間の終わった子どもをどうケアしていくかに取り組んでいく。

これからはフォスタリング機関(※編集部注:児童相談所などとチームとなり、里親のリクルート、研修、支援などを一貫して担う支援機関)のような役割を担う人材が必要になってくるので、現在、施設で働く人たちには、今後は地域で重要な役割を果たしてもらうということを考えています。

Issei Kato / Reuters
※写真はイメージです

––市町村に求めるものとして、家庭での養育を続けるための支援について改正児童福祉法や養育ビジョンに盛り込まれました。

今までは、児童相談所が警察から虐待事案の通報を受け、市町村と一緒に当該家庭を訪ねて食い止めた事例がある一方で、警察から児相、児相から市町村に伝わらなかった事例もありました。役割分担ができていなかったのです。やはりいちばん身近にいる市町村が見回りに行くべきではないかと思います。

国と児相、市町村が一緒に組んで、3者が状況を把握できるような役割分担を新たにつくりましょう、と。それと民間団体。こどもにとっては、やはり生みの親と一緒にいるのがいちばん幸せなはずなので、その条件を整えてあげるのがわれわれの仕事です。

児童相談所は何か問題がないと個別の家庭に行きませんが、市町村は赤ちゃんがいるすべての家庭を保健師がまわるなど、いろんな形で家庭との接点があります。どうしようもなくなって、育てられなくなるっていう状況を生み出さないようにするのは、市町村でないとできません。

satoko yasuda/Huffpost Japan

■親になるには「愛」が必要

––塩崎さんが考える、親になるのに最低限必要な条件はなんだと思われますか。生みの親でも里親でも、ここだけはクリアしてほしいというポイントは。

それは難しいですね...。実の親だって千差万別じゃないですか。うーん...、そうだな、やっぱり「愛」でしょうね。

––愛ですか。そこを社会できちんと共有できれば、里親をやってみようという人も増える気がするんですが。

児童相談所の人の話を聞くと、わりとささいなことで里親になるのをやめるケースもあるようです。民間にフォスタリング機関を担ってもらうのはいいのですが、やはり最終的な機能や責任は児相が持たないといけないと思います。国や都道府県などが責任を負ったうえで、民間と連携する。

––大きな道筋をつけられた際にも、省内をまとめるのは大変だったと思います。これから必要なところにきちんと予算を付けていけるんでしょうか。

やっていけるかどうかじゃなくて、やらないといけない。そのために、私たち政治家もちゃんとウォッチをしていかないといけないと思ってます。

satoko yasuda/Huffpost Japan

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