特集

「ブラック部活動が企業戦士を生む」学生時代の根性論がもたらす日本のいびつな働き方

教育学者・内田良氏が明かす、生徒と教員を縛り付ける部活動の「評価」

2017年11月21日 15時31分 JST | 更新 2017年11月21日 15時32分 JST
Rio Hamada / Huffpost Japan

毎日残業。土日や夏・冬休み返上は当たり前。その上残業代はほとんど出ない。なんて『ブラック』な環境なのかーー。

それが学校、中でも部活動の場で日常的に起きている光景だ。

日々練習や試合に明け暮れる生徒と、それを指導する教員。「活動時間が長い」「休みがない」。そんな悲鳴さえ聞こえてくるが、あまりに習慣化し過ぎて、"長時間活動"はなかなか改善しない。

自主的なはずなのに、生徒や教員を縛り付けている部活動。その実態を著書『ブラック部活動』につづった名古屋大院准教授の内田良氏は、「ブラックな部活動が企業戦士を生む」「部活動をやってこそ一人前という文化がある」と指摘する。

部活動の現場で今何が起きているのか、内田氏に話を聞いた。

Rio Hamada / Huffpost Japan

■「部活動が内申に響く」は都市伝説?

ーー著書の中で「自主的だから加熱する」と指摘されていますが、今までそのような指摘はなかったように思います。

そうなんですよね。部活動の根本が自主的なものです。だから「自主的なのになぜ強制するのか」という問いが立ちやすい。

今の教員や会社員の働き方改革では、やりがい搾取という議論がありますよね。「好きでやってるからいいでしょう」と言うけれど、実際は搾取されている。好きだからよいという考えに疑問を投げかけるのが大切だと思います。

やはり部活動が加熱してきた背景に、部活動が「評価」と関係してきたという点が大きいと思います。

評価とはつまり、入試に使われるということです。直接スポーツ推薦を狙っていない生徒でも、なんとなく部活は大事だという感覚があるわけです。

ーー入試や進学への評価という点でみんな気になってしまっている?

そうですね。ネット上では「部活動を辞めると内申や入試に響きますか」という投稿をよく見ます。

生徒だけではなくて、保護者も同じような質問をしているんですよ。もちろんスポーツ推薦を目指していれば別ですが、私は部活が内申に響くというのは都市伝説だと思っています。

通常は入試において、部活動の比重はすごく小さい。まず当日のテストがあって、それとは別に調査書や内申書があります。

内申書は、通知表に書かれているようなことが記載されていて、その中で部活動は本当にごく一部の小さなことです。決して入試の合否を大きく左右するものではないですよね。

でもみんな、部活やめたら内申に響くと思ってしまう。部活動はだいぶ過大評価されていると思いますね。

AC Photo

ーー影響が大きくないのに、なぜ気にするようになってしまったのでしょうか。何かきっかけがあるのでしょうか

スポーツ推薦で部活動が影響するのはもちろんありますし、当然影響はゼロではないです。

それから例えば、当日のテストの点数が他の生徒と同じで、さらに通知表に書いてある9教科の成績も同じだった場合に、最後に部活動が影響する可能性はありますよね。

なぜここまで過大評価されているのか。その理由の一つとして、これは仮説なんですが、先生もそれに依存していたのではないかと思います。

つまり、先生にとって部活動が入試に影響するという考えは、部活動で生徒をコントロールできるので損ではないわけです。

先生は明言しないと思いますが、何となくそういう空気を漂わせていただろうし、それを否定することはない。

「入試に関係ないから部活動に入らなくてもいいよ」と言えばいいものを、「何となくこの先の人生に関係あるぞ」という雰囲気で生徒たちをつなぎ止めていた側面はあると思います。

ーー例えば就職の面接で部活動について聞かれることがあります。学校以外の場でも評価の対象になっているのでしょうか

これは根深い問題です。私が色々な先生から話を聞いている限りでは、高校を卒業した生徒が就職活動をする時に、部活動はかなり影響するのではないかと思います。

大学生は部活動をしている人が少ないので影響力はだいぶ弱まりますが、高卒の場合はたくさんの子供がしてますから、就活の際に尋ねられることが多いですね。

ですから、部活動の改革は学校の中だけでは難しくて、社会全体で改革していていかないといけない。

部活動の就活への影響を弱めていかないと、生徒が部活動に縛られることになる。生徒の本業は学業というところをちゃんと考えて欲しいと思います。

Rio Hamada / Huffpost Japan

■「部活動を持ってこそ一人前」プレッシャーにおびえる教員たち

ーー教員は部活動で評価されるのでしょうか

今回『ブラック部活動』では、あまり評価のことを深く掘り下げませんでした。私が得意なのは、エビデンス・数字を使うことなんですが、評価は、本当に"空気"だから分からないんですよね。

あまり踏み込めないところがあるのですが、私が聞く限り、かなり"空気"のレベルで部活動が先生の評価にも影響している。

もちろん生徒も、部活動をしっかりやれば入試でよい評価されるのではと感じているように、先生もそういう所におびえている。

つまり、部活動への取り組み方が、その中学校・高校の教員として評価されてるのではないかと感じるわけですね。

これは暗黙に言われていることですが、「部活動人事」という言葉もあります。つまり、部活動でいい成績を収めた先生は、それによって人事が決まっていくことがあるのではないかと言われています。当然ながら「部活動人事」と表立って言うことはないです。

先生たちは教科によって採用されていて、部活動によって採用されているわけでは決して無いですから。

そんなことはないはずなんですが、実際は、例えば強豪校の吹奏楽の先生が異動になったら、後任に有名な吹奏楽の先生が来るということがある。当然ながらある程度部活動を意識した人事が回ってるわけです。

ですから、先生たちも部活動によって評価されるのではないかと強く感じています。

特に、活躍した部活動や生徒の垂れ幕を下ろしたりすると、今年は数が多い少ないというような話になりますよね。

先生たちは自分が顧問を務める部活動がトロフィーを持って来れないと、失敗したと思うわけです。見える形で評価されてしまいます。それが好きな人はいいけれども、授業で頑張りたい先生とっては結構きついですよね。

ーー目に見える形でプレッシャーを与えられてしまいますね

そもそも、大学などで部活動の指導方法を1回も学ばずに教員になり、自分の専門でないことで評価されるのはきついと思います。

ーー教員にとって、部活動は時間外労働で給料もほとんど出ないという現状があります。本当はやりたくなくても、生徒のことを考えたら声を上げづらいのではないでしょうか

例えばある調査では、「部活動は完全に学校の外部の人にやってもらいたいですか」という質問に、約半数がイエスと答えています。

部活自体を持たなくてもいいと思っている先生も、半分ぐらいいるのではないでしょうか。

しかし、部活動を持ってこそ一人前の教師という文化が学校にあります。もしやりたくないという声を上げるものなら、「なんで教師になったの」と言われてしまう。

そうするとなかなかやりたくないと言う声を上げられない。

最近では、Twitterやインターネットといった匿名の世界で自分の気持ちを訴えることができ、さらにそれが連帯を生み出すことができます。そういった意味では、職員室はできないことが今できているのかなと思います。

ーー部活対策プロジェクト(※1)という動きが出てきていますよね

そうですね。こういう風に先生たちの声が表に出てくるようになったのも、Twitterが大きな理由です。先生たちが職員室で声を上げられないからこそ、ネットでこれだけ盛り上がっているというふうに理解すべきです。

(※1 20〜30代の若手の教員を中心に、2015年12月に発足。生徒や教員が抱える部活動の問題点などをインターネット上で共有し、署名活動などを行っている)

PhotoAC

■「ブラック部活動がブラック企業戦士を生む」

ーー著書の中で「ブラック部活動がブラック企業戦士の予備軍を生む」と指摘されています。加熱した部活動の文化が、企業の長時間労働にもつながっていると考えますか

実際に多くの企業で、これだけの長時間労働を許しています。むしろ、長時間働くことや残業をすることこそ素晴らしいという評価・考えは、ひたすら練習をすれば強くなるという部活動の根性論とかなり重なります。

会社でもたくさん仕事して、残業すれば「熱心だ」と言われる。これ自体を変えていかないといけない。

「仕事もプライベートも大切にしている」と評価される仕組みをこれから作っていくべきだと思いますね。

Rio Hamada / Huffpost Japan